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「だぁー。疲れたーー」
三、四限が終わり、ようやく昼休みとなった。
売店で昼食を買ってきた俺は、自分の机になだれ込んだ。
なんで運動部の脳筋どもは、昼飯ごときにあんなに必死なんだ?
アイツら、まるで人肉を求めるゾンビみたいだぞ。
でも、俺に気づいた奴らはどんどん譲ってくれたんだよなぁ。
やっぱり目か? 目なのか? 目つきが悪いのか? それとも、今まで広まった噂が原因?
「あら、陰浦さん。今日もお弁当じゃないのですね? このところ売店のパンばかりですけど……」
俺の体の心配をしているのか、優等生が最近の俺の昼飯事情を尋ねてくる。
優等生は、体力測定のときにペアだった友達と、それぞれの小さな弁当を机に並べて一緒に食べていた。
「まぁな、最近は弁当を作るのがめんどくさかったからな……」
パンの袋を開けて気だるげに食べていると、優等生は箸でつかんでいた卵焼きを弁当に落とす。
「え? 今、なんと言いましたか? 陰浦さん」
最近、俺としては珍しすぎる早起きをしているため、朝食を作っている時間がなく、ここ数日は売店のパンで済ませていた。
ただ、そろそろ金がなくなってきたし、前日の夜に弁当を作った方がいいかもな。
「めんどくさかった」
「その前……なにがですか?」
「だから、弁当を作るのがだよ」
「え……?」
今度は優等生の正面に座っている友達も、満面の笑みで食べようとしていた唐揚げを弁当のご飯の上に落とす。
二人揃ってアホ面を俺に向けてくる。
「なんだよ、俺が弁当を作ることが、そんなに変か?」
「「はい」」
「えー、即答かよ……。今どき自分で弁当を用意するなんて、別に珍しいことでもないだろ? それに、いつも冷凍食品が多めだし、大したことじゃないだろ」
「それでもですよ。え、ちなみに、普段からお料理もされるのですか?」
「まぁ、母さんがいないときとか、休みの日は簡単な物は作るけど?」
「「……」」
優等生とその友達が顔を見合わせ、友達の方が俺に向き直る。
「か、陰浦くん。私と結婚してください!」
「あ、瑞希ちゃんズルい! 陰浦さん、私と結婚してください!!」
突然の女子二人からの求婚。
教室の空気が一瞬止まったような感じがした。
「はぁ? 急にどうした?」
「だって、勉強できますし……」
「スポーツもすごいし……」
「お料理が出来るってことは……」
「他の家事もできるってことだよね……?」
優等生と友達が交互に喋り出す。
「まぁな」
「「優・良・物・件!!」」
顔を見合わせ、声も合わせ、二人してとんでもなく失礼なことを抜かす。
「おい、お前ら失礼だぞ。それに、今はそういうめんどくさいのはいらねぇーよ」
「ま、まさか、陰浦さん、彼女さんがいらっしゃるのですか?」
「いや、いないけど?」
「それでは、私たちが陰浦さんの彼女候補ですね」
「ワー、コウエイデスゥー」
俺は感激のあまり、胸が震えた。
「わー、ものすごく興味なさそうですねー」
俺の棒読みに、優等生が苦笑いを浮かべる。
「うぇーい。帰ったぞー」
そこに、上機嫌な陸斗が帰ってきた。
「? 三人ともどうしたんだ?」
「私たち、陰浦さんに結婚を申し込んだのですけど、フラれてしまいました……」
「フラれちゃった……」
女子二人は、あからさまな泣きまねをして被害者面をする。
「なーにぃー? お前、なにをやってんだ!? なんてもったいないことを……美少女二人がお前に言い寄ることだけでも奇跡なのに」
突然大声を上げた陸斗が俺に詰め寄ってくる。
「いやいや、あんな冗談を本気にするわけがないだろ」
「そうなのか? そもそも、なんでそんな話になったんだ?」
「陰浦さんが運動も勉強もできて、その上、お料理もできるという話になりまして……」
優等生の説明に陸斗が納得した。
「あぁ、そのことね。ほんとコイツって、妙に女子力高ぇからな。俺なんて料理なんか一度もしたことねぇぞ」
「本当だよ。運動も勉強も家事もできない私はミジンコ以下だよぉ」
陸斗と優等生の友達が、自分を極端に卑下する。
「なぁ、二人とも、なにを考えているかわかんねぇやつより、俺にしな――」
「「ごめんなさい」」
自信満々な陸斗が女子二人を口説くが、二人が食い気味に断った。
「なんでっ!?」
陸斗が机に手をついて叫ぶ。教室内にくすくすと笑いが起きた。
断られた陸斗は、本気でわからないという顔で問い返す。
「俺ってスポーツもできるし、それに自分で言うのもなんだけど、結構イケメンじゃん? なのになんで?」
「本当に自分で言うなよ……」
「「え、でも……」」
女子二人は揃って、続ける。
「陰浦さんはスポーツも勉強も、しかも家事もできますし……」
「クッ……」
「それに、陰浦くんは目つきが悪いかもだけど、普通にカッコいいと思うよ? スポーツと容姿を除いても……陰浦くんの方がスペック高くない?」
「グ、グハッ……」
容赦のない比較に、陸斗は机に突っ伏した。
「あ、でも、私は陰浦くんの彼女候補からは辞退するよ」
「え、なぜですか? 瑞希ちゃん。こんなにいい物件なのに……」
コイツ、本当に失礼だな。
「だって私、恋愛対象は男の子じゃなくて、女の子だもん」
「「「えっ?」」」
優等生の友達の突然のカミングアウトに、俺たち三人は目を丸くする。
「瑞希ちゃん、そうだったの!?」
「うん。まぁ、もっと言うと、両方いける口なんだよね……」
「それってバイセクシャルってこと?」
陸斗が遠慮なく直球で聞いた。
「あ、ごめん、紛らわしかったね。正確には、恋愛対象は同性の女の子で合っているんだけど、BL……男の子同士の恋愛ものも好きなの!」
「そ、そうだったの?」
「うん。こんなことを言ったら嫌われるかもって言わなかったんだけど……実は、私、美緑ちゃんのことが好きなんだ」
「へ……?」
今度こそ優等生がフリーズした。
「あ、でも安心して、私は美緑ちゃんが幸せなら、それでいいの。だから、美緑ちゃんを幸せにしてあげてね」
「いや、なんでそうなる? 付き合っているわけでもないし」
「まぁ、私と美緑ちゃんが付き合って、陰浦くんと岡田くんが『突き合って』くれた方が、私にとって一番幸せなんだけどね」
優等生の友達が悍ましいことを言ってくる。
「マジでやめてくれ」
「お、俺は……べ、別に……構わない、けど?」
優等生の友達の冗談に乗っかった陸斗が、ちらちらと俺に視線を送る。
「おい、マジでやめろ。気持ち悪い」
「そんなことを言うなよ」
陸斗が恥じらいながら続けた。
「……な、なぁ、今日、俺ん家……来ないか? 今夜、俺たちの友情を深めよう……ゼ!」
陸斗が調子に乗って親指を立ててどや顔を決めた。
その瞬間、優等生の友達とクラスの腐女子たちが一斉に鼻血を吹き出す。
直後、俺に殴られた陸斗も、鼻血を吹き出した。
結果、陸斗とクラスの女子の三割が保健室送りとなった。
……このクラス腐女子多過ぎだろ。
そしてこれが原因で、俺が女子にも手を挙げるクソ野郎という、あらぬ噂が学校中に広まっていった。




