表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺に青春は向いていない  作者: 真面堂 九世
第6章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/57

5

 改札を抜け、駅から学校までの道を二人で歩く。

 時刻はまだ七時半過ぎ。通学路に学生の姿は無く、あるのは通勤中のサラリーマンやOLたちが、ときたますれ違うだけだ。

 俺がこんなに早い時間から、自主的に登校するなんて初めてだ。


「さっきはごめんな」

「本当ですよ! びっくりしすぎて、心臓が止まるかと思いましたよ!!」


 優等生は胸元を押さえてジト目で睨んでくる。


「ごめんって」

「次から言ってくださいね。自分で取るので……」

「え? あぁ、ゴミのこと? あれは嘘だぞ?」

「え?」

「「……」」

「「え?」」


 お互い、相手がなにを言っているのかわからず、顔を見合わせる。


「ま、まさか、ほ……本当に私に、キ、キキキキスをしようとしていた、ということですか……?」


 優等生はまた顔を赤らめて、上目遣いでチラチラ俺を伺う。


「あぁ」

「――」


 優等生は俺に背を向け、両頬に手を当てて声にならない声で悲鳴を上げる。


「いや、わかっていると思うが、本当にキスをしようとしていたわけじゃないぞ」

「へ?」


 頬に手を当てたまま顔だけ振り向いた。


「い、いやまぁ? そのようなことは、わかっていましたよ?」


 バレバレな知ったかぶりを無視して、俺は話を続ける。


「さっき電車に、昨日もいた気持ちの悪い男……長いな。じゃあもう、電車男で……」

「で、電車男ですか……?」

「そう、電車男がいたろ?」

「はい」


 優等生は急に神妙な面持ちとなり、俺の話を聞く。


「アイツに俺と付き合っているって勘違いをさせて、諦めてもらうためにやったんだよ」

「なるほど、てっきり、からかわれているのかと……」


 優等生は恥ずかしがりながらも、納得した。


「だけど、俺なんかで悪いな。こういう役は、そっちに釣り合うイケメンがやればよかったんだが、あの場には俺しかいなかったから……」

「そういうことなのですね。でも……」


 優等生が一瞬、にやけると、今度は下を向いて恥じらうふりをした。


「私は、か……陰浦さんでしたら……キス……しても、いいですよ……?」

「……」

「なーん――えっ?」


 「冗談でした」とごまかされる前に、優等生に近寄り、もう一度優等生の頬に手を当てる。


「そうか。じゃあ遠慮なく……」


 もう一度、俺は自分の唇を優等生の艶やかな唇に近づける。

 通勤途中の人たちがチラチラとこちらを見ていた。

 さっきの電車の中とは違うが、同じ公衆の面前の、それも人通りも車通りも多い歩道で、朝っぱらっから、男女の高校生二人がキスをしようとしているのだから当然だ。


「え? ええええ!!」


 他人の視線を気にしている余裕のない優等生がおろおろしだした。


「あの! ちょっ――」


 俺は構わず顔を近づける。

 お互いの唇は、あとわずかというところまで迫る。

 今にも唇が触れそうなところで顔を離すと、優等生はさっきと同じように目を強く瞑っていた。


「痛っ……!」


 意外と満更でもない優等生の額を指ではじくと、優等生は両手で額を抑えた。


「冗談だよ。俺をからかうには十年早い」

「……もう! 陰浦さん、嫌いです!!」


 額を抑えながら、ぐぬぬと悔しがる優等生は、スタスタと足早に学校へ向かって行った。

 その背中を見ながら、思わず笑ってしまった。



 ◇ ◇ ◇



「陰浦くん!! 起きて! 陰浦くん!!」


 とある日の三限目の現代文の授業中。

 C組の副担任で、現代文を担当している桜庭 小春は、いつも通り授業を行っていた。


 明もまた、机に突っ伏して熟睡していた。

 教卓から小春が声を張り上げるが、明は微動だにしなかった。

 そして、それもまた日常だった。


 ほぼ毎時間繰り返されるため、クラスメイトたちは完全に慣れてしまっていた。

 他の教師たちはとっくに諦めたが、まだ新任の小春だけは、今日もめげずに明を起こそうと奮闘していた。


「陰浦さん、起きてください。桜庭先生が怒っておられますよ」


 美緑もまた、無駄だとわかっていながらも寝ている明へ呼びかける。

 美緑が声をかけても、明は全く起きない。

 そろそろ我慢の限界が来た小春が、明の席まで移動し、無理やり起こしにかかった。


「いいなぁー、俺も先生に起こされたい」

「俺は夏葉さんに優しく起こされたい」

「できれば俺は先生のヒールで踏んで起こされたい」

「「「お前、天才か!?」」」


 他の男子生徒たちは、小春と美緑の美女二人に起こされている明に、やはり嫉妬の視線を向け、ある男子生徒の発言に他の男子たちが賛同した。

 そんな馬鹿な男子たちを気にも留めずに、小春は明を起こすことに尽力する。


「陰浦くん!! 起きなさい!」


 机を叩き、机を揺らし、肩を叩き、肩を揺する。

 あらゆる手を尽くすが、明は全く起きる気配がない。


「しょうがないなぁー。はるちゃん」

「先生と呼びなさいって言っているでしょ。岡田くん」


 今まで見守っていた陸斗が満を持して口を開く。


「この私目が、明を起こせるとっておきの秘技を教えて進ぜよう……」


 陸斗が仰々しく片手を胸元に、もう片方を腰に当て、頭を下げた。


「起こせるの?」

「えぇ、そりゃあもう……効果てきめんです」

「そう、じゃあ教えてくれる?」

「その代わり、明が起きた暁には、私の成績を上げていただきたく……」


 陸斗が成績アップの交換条件を引き合いに出し、小春に対してゴマをする。


「考えておきます」

「よっしゃあ!」


 陸斗がガッツポーズをした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ