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俺に青春は向いていない  作者: 真面堂 九世
第6章

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ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ。


 俺は猛烈な不快感に襲われ、目を覚ます。

 普段セットしないスマホのアラームが、部屋中に大音量で鳴り響いていた。


「クソッ、うっせーなぁ。誰だよ、アラームセットしたのは……」


 ……俺か。

 スマホをベッドから離れた場所に置いておいたため、二度寝が許されず、仕方がなくベッドから立ち上がった。

 ベッドから離れた勉強机兼ゲーミングデスクに向かい、今も鳴り響いているアラームを止めた。


「はぁ……ねみぃ」


 制服に着替えてスマホとバッグを持ち、寝ぼけ眼を擦りながらリビングへ向かった。


「あら明、おはよう。今日は早いじゃない。天変地異でも起こるのかしら」


 食卓で食後のコーヒーを堪能している母さんが、俺に失礼なことを言ってくる。


「まぁ、ちょっとな。用事があるんだ」

「あら、そうなの?」


 俺も席につき、母さんが作ってくれていた朝食を食べ始める。


「ん? ゴリラ(姉貴)は?」

「もう、旦那さんの所に帰ったわよ」

「やっとか……。世界が平和になったな」


 ようやくゴリラが飼育員のもとに帰った。


「そう言ってあげないの。あの子なりに思うところがあったのよ。きっと、たぶん……。それで、今日、お弁当はどうするの?」

「あー、今日は作ってる暇ないから、学食か購買でパンでも買うわ」

「あらそう」


 陰浦家では昔から、「自分のことは自分でやる」がルールだ。

 高校生になってからは小遣いも廃止され、交通費や昼飯代も全部自腹。

 だから俺はバイトをしている。


「ごちそうさま」

「お粗末様」


 食器を食器洗浄機に入れながら思う。

 食洗機、マジで神だ。


「んじゃ、行ってくるわ」

「気を付けてね」


 扉を開けると、朝日が玄関内に差し込んだ。


「あー、眩しい、眠い、ダルイ、めんどくさい……。はぁ……もう一回寝たい……」


 家の前で泣き言を吐き、最寄り駅まで歩いて向かう。



 ◇ ◇ ◇



「……」


 午前七時十八分。電車内。

 美緑はいつもの車両、いつもの座席に座っていた。


 今、彼女はとてつもなく不快な思いをしている。

 それは、体調が悪いわけでも、気分が沈んでいるわけでもない。


 原因は、昨日話しかけてきた気味の悪い男が、またジッと美緑を見つめているからだ。

 平静を装うため、美緑は目を合わせず、スマホをただただいじり続けていた。


(違う車両に乗るべきでした……。学校近くの駅まで、まだ十五分もある……)


 そう後悔しているうちに、男が立ち上がり、美緑に向かって歩く。


(ひっ……)


 反射的に肩が跳ね、体が硬直する。

 男は昨日と同じように、ねっとりとした笑みを浮かべながらゆっくり近づく。


「や、やぁ、美緑ちゃん」

「……」


 近づいた気味の悪い男は美緑に話しかけた。


「あ、あのさ、今日こそ、ご、ごごはんに――」


 そこに、「プシューッ」とドアの開く音が会話を断ち切った。

 電車がいつの間にか駅に到着していた。


「!」


 硬直していた体がほんの少し緩み、そのドアを見ると、ホームから人が次々と乗り込んでくる中、普段この時間帯に絶対に乗車しない人物がいた。


「よう、おはよう」

「陰浦さん……?」


 見慣れた顔が視界に入った瞬間、美緑の胸が一気に軽くなった。



 ◇ ◇ ◇



 電車のドアが開き、目の前の人間に続いて俺も乗車する。

 乗車すると、その先には、不安と怯えの混じった顔をした優等生が座っていた。


「よう、おはよう」

「陰浦さん……? お、おはようございます」


 優等生が怯えている理由はすぐにわかった。

 昨日見かけたあの気色の悪い男が、優等生へ手を伸ばそうとしていた。

 気色の悪い男と目が合った。


「ひぃぃ……」


 気色の悪い男は怯えたように後ずさった。

 ……この目つきも、たまには役に立つもんだな。ちょっと複雑だけど……。

 俺は優等生と気色の悪い男の間に入り、いつもの席に腰を下ろす。


「ど、どうしたのですか? 陰浦さん。今日はずいぶんと早いですね」


 優等生の顔から不安が消え、安堵が滲む。

 やっぱり、昨日の嫌な感じは当たったみたいだ。


「まぁな。今日はたまたま早く目が覚めてしまったからな」

「そうなのですね。ふふっ、たまたま、なのですね」


 俺のついた嘘はすぐにバレたらしい。

 気色の悪い男は、いつの間にか別の席に移動し、俺を睨んでいる。


「はぁ……それにしても今日は憂鬱だな」


 俺は雰囲気を変えるため、苦手な話題作りをした。


「どうしてですか?」

「ほら、今日は体育があるだろ?」

「あ! 確かに……」

「「はぁ……」」

「うふふふ」


 俺と優等生が同時にため息を吐き、互いの顔を見合わせて笑いあう。

 ようやく、いつもの優等生に戻った。ほんの少し前までの怯えた顔が嘘みたいだ。


 だが、いまだに気色の悪い男は俺を睨み続けていた。

 優等生に近づけなかった苛立ちと、歪んだ執着の視線。


 はぁ……やっぱり諦めないか……。

 仕方ない、優等生には申し訳ないがちょっとだけ我慢してもらおう。

 本当はこんな役、俺じゃないほうがよかったんだが……。


「なぁ」

「どうしました?」

「ちょっと、我慢しててくれ」

「えっ?」


 驚く優等生を横目に、俺はゆっくり顔を近づけた。


「か、陰浦さん!? え、ちょっ、な、なにを?」


 お互いの吐息が触れそうな距離。

 手で優等生の頬に軽く触れると、優等生は反射的に目をつむり、頬を染めた。

 気色の悪い男から見れば、朝っぱらから電車内という公衆の面前で、俺と優等生はキスをしようとしているように見えるだろう。

 周囲の乗客からも視線を感じる。

 だが、優等生の艶やかな唇の直前で顔を止める。


「よし、いいぞ」

「……へ?」


 優等生から間の抜けた声が漏れる。


「悪い、まつ毛にゴミがついていた」

「……ゴミ?」


 優等生は数秒間、ぽかんとしていた。

 顔にゴミがついていたことよりも、キスされるかもしれないと思ってしまったことに気づき、優等生が茹蛸のように顔を真っ赤にした。


「も、もぉ~~っ!」


 我に返った優等生が頬を膨らませ、俺をポコポコと叩いてくる。


「悪かったって。ほら、もう着いたから、行こう」


 優等生の手首を軽く引く。

 電車を降りる直前、気色の悪い男のいた場所を見ると、もうその姿はなかった。

 これで諦めてくれればいいが……まだ様子見だな。

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