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俺に青春は向いていない  作者: 真面堂 九世
第6章

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 教室の空気は、どこか落ち着きがなく、ざわざわとした緊張が漂っていた。


「おーい、それじゃあ、中間テストの結果を返してくぞー」


 今日は、二年になって約一ヶ月半、最初の中間テストの返却日だ。

 担任が一人ずつ呼んでいき、俺たちは各テストの点数と合計点数、そして学年順位が書かれた紙を担任から受け取った。


「お前ら、結果はどうだったか?」


 担任と副担任は、生徒たちの表情を見回しながら反応をうかがった。


「だぁー、クソー! また全教科赤点だよぉぉ!」


 俺の目の前のバカが盛大に悔しがっていた。

 俺は、机に乗せた顎に伝わる冷たさを感じながら、テスト結果に悶絶している陸斗の椅子の背もたれを、意味もなくボーっと眺めていた。


「陰浦さん」


 ニマニマした優等生が俺に話しかけてきた。


「なに?」


 今度は左頬に冷たさを感じながら、優等生を見る。


「テスト、どうでした?」

「別に、いつも通り普通だったけど?」

「はっはーん。さては、ダメダメだったのですかぁ?」


 なんだコイツ?

 おそらく自分は良い結果だったのか、したり顔になっている。


「授業中、ずぅっと寝ているからですよ。そんなんじゃ、将来困りますよ?」

「ソウダナー」

「しょうがないですねー。私が教えて差し上げますから、まずは点数表を見せてください」


 調子に乗っている優等生がお節介を焼いてくる。


「別にいいよ。なんとかなる」

「安心してください、笑いませんし誰にも言いふらすこともしませんから。あ、これですね」


 机にしまったはずの俺の点数表を見つけられ、スッと抜き取られた。


「えーっと……。現代文、九十点、古典も九十点。わぁ、すごい。国語が得意科目なのですね」

「いいから返せ」

「嫌です」


 片手を伸ばして紙を奪い返そうとするが、スルリとかわされる。

 チッ……。運動音痴の癖に……なかなかやるな。


「次は数学ですね。数Ⅱ……九十点、数Bも九十点……え? 英語……九十点。化学……九十点。物理も九十……。日本史、きゅう、じゅう…」


 優等生の顔が、だんだん青ざめていく。


「……合計点数……七百二十点!! ……順位…………六位!?」


 思わず大きい声を出してしまった優等生へ、クラスメイトたちからの注目が集まると、優等生は「す、すみません」と小さくなる。


「なん……ですって……。どうして……? 毎日、毎時間寝ている陰浦さんが、こんな高得点を……。不良に見えて実は陰浦さんこそ優等生なんじゃないですか」

「おい、失礼だな。俺は不良じゃないぞ? ただ睡眠を重要視している超健全で、大真面目で、純粋無垢な優良生徒だぞ」

「誰が優良生徒だって? 夏葉さんも驚いただろ? 明ってば、ずっと寝ているくせに成績優秀なんだよ」


 俺と優等生の会話に、陸斗が加わってきた。


「ずりぃーよなぁ。ちゃんと授業を受けている俺が全教科赤点で、毎回寝ている明がこんな高得点を取れるなんて……」

「本当ですよ。私も普段お家で必死に勉強していますのに……。私の苦労がバカみたいです」


 寝てばかりの――というより寝てしかいない――俺の意外な成績と、自分たちの努力を勝手に比べ、二人が落ち込みだす。


「なに言ってんだ? 陸斗。教師たちは重要な箇所は色を変えて、ホワイトボードに書き出すだろ? それを覚えるだけで赤点程度回避できる」

「確かに……」


 前の席のバカに向かってみんながやっている普通の勉強法を教える。


「それに、中間にしろ、期末にしろ、テスト内容なんて人間の教師が作ってんだ。教師たちによって、それぞれ問題出題の癖ってものがあるから、それさえ分かっていれば、さらに覚えるものを絞れるんだよ」

「なるほど……」


 本当の優等生に、特殊なことはやっていない俺の勉強法を話す。


「だから、普段から勉強しているそっちと違って、模試とか受験なんかでは、俺は優等生ほど問題を解けないと思うぞ」

「「ホヘェー」」


 二人揃ってアホ面を晒す。

 なんだコイツら?


「でも、やっぱり陰浦さんって頭いいですよね?」

「は? 話聞いてたのか? なんでそうなる?」

「いやいや、夏葉さん。コイツはずる賢くて、狡猾で、卑怯なだけだ」

「それほとんど同じ意味ですよ。多少のニュアンスは違いますけど……」

「まぁ、そういうことだ」

「認めちゃうんですね……」


 優等生が苦笑いを浮かべた。


「とにかく、陸斗、お前は期末に向けてまじめに勉強しろ。でないと補習や追試地獄で、また部活に出られなくなるぞ?」

「……」


 陸斗は、これから待ち受けている絶望に全身の力が抜け、自分の机に倒れて動かなくなってしまった。


「ほーい、いいかー? 一応、この階のホールにも、お前たち全員の順位を張り出しているから、知りたい奴は確認して帰れよー。それとな、今回の結果でダメだったヤツ、次は期末があるから、それに向けて頑張れよー。もし、期末で赤点取ったら、平均点を超えるまで追試するからなぁ」


 少なくない生徒たちがあからさまに落ち込む。


「それじゃあ、かいさーん。気を付けて帰れよー」


 担任が解散を告げると、ある男子生徒がこちらに向かって一目散に走ってきた。


「陰浦氏ー! どうしよう!? 全教科一桁だったよぉー」


 その男子生徒は、最近話すようになった厨二メガネだった。

 もともと不安定だったキャラを忘れて、俺に泣きついてきた。


「陰浦氏は何点だっ――」


 俺の机の上にある点数表を見つけた厨二メガネが、目を見開き絶句する。


「なん……だと……」

「アハハ……。やはり酒井さんも驚きますよね」

「こんの裏切り者ぉー!!」


 厨二メガネは床に両手をつき、這いつくばって床に向かって吠えた。


「おーい、そこの三人」

「「「「……」」」」


 ホワイトボードを綺麗にし終わった担任が、教卓からこちらに向かって声をかけてきた。


「どうした、こばっちゃん?」


 代表して陸斗が返事をする。


「お前なぁ、小林先生と呼べよ」

「イテッ」

「どうしたのだ? コバティよ」

「へぇー。この担任、小林って名前なんだ」

「陰浦さん……。相変わらずですね……」


 生徒たちにすっかり浸透してしまった「こばっちゃん」呼びに、諦念交じりに担任が近づいて陸斗を小突き、その光景を見てもあだ名で呼ぶ厨二メガネ。

 そして、担任の名前を忘れてしまっていた俺に優等生が呆れる。


「もういいや。酒井、夏葉と陰浦。今日も部活は無いから帰っていいぞ。そういえば、柴野はどこだ? もう帰ったのか?」


 担任が柴野という生徒を探し、教室を見渡す。

 っていうか柴野って誰だっけ? と俺が担任の視線に合わせて柴野なる人物を探していると、優等生から、またしても呆れた視線が送られてくる。


「いねぇな、もう帰ったのか? お前ら、一応アイツに伝えておいてくれ」

「わかりました。じゃあ私が連絡しますね」


 あぁ、なるほど、柴野ってやつは同じ生物部のギャルか……。

 生物部の顔合わせの時に連絡先を交換していたため、優等生が俺たちの代わりにメッセを送る。


「それじゃあな。気を付けて帰れよ」

「はい。さようなら」

「りょー」

「フンッ、言われずとも……」

「……」


 俺たちは立ち去ろうとする担任に、優等生がいつも通り丁寧に返し、反対に陸斗がテキトーに、厨二メガネがカッコつけ、俺は無言で見送る。


「んじゃ、俺は部活に行ってくるわ」

「フッ、ボクは使命があるので、これで…………」


 勢い良く立ち上がる陸斗と、これまた無駄にカッコつけて贅肉を揺らしながら厨二メガネは去っていった。


「私は帰りますけど、陰浦さんはどういたしますか?」

「特に用事もないから俺は帰る」

「では、一緒に帰りましょうか」

「あぁ」


 すっかり一緒に帰るのが恒例になったせいで、案の定「付き合ってるんじゃね?」という噂が広がっていた。

 ……まぁ否定するのも面倒だから放ってある。

 俺はともかく、優等生も意外と気にしていないらしいので、たまにこうして時間が合えば二人で帰っている。

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