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「ん冗談はさておき、こちらはいかがですかぁ?」
今度はちゃんとした、硬さの違う枕を渡してきた。
一応両手で枕の感触を確かめる。
「あ! よかったら、そちらのベッドで寝心地を試してみてはいかがでしょうか?」
「いいんですか?」
「はい、ぜひ。枕は寝てみないとわからないですから……」
「それじゃあ……」
近くのベッドに腰を下ろし、そのまま横になる。
「ちょっと、んお頭、失礼しますねぇ~」
俺が少し頭を浮かせると、店員がその下に枕を差し込んだ。
「!!」
差し込まれた枕は今まで使っていたものより硬く、頭をしっかりと支えてくれて想像以上に寝やすかった。
「男性は肩幅がありますので、普段お使いの柔らかい枕で横向きに寝ると、高さが合わないことが多々あり、首を痛める可能性があります。もちろん、人によって異なりますが……。お客様の場合は体格が良さそうなので、こちらのように少し硬くて高めの枕が合っているかと」
今までのふざけ切った接客と打って変わって、まじめに解説してくれた。
「確かに、朝起きたら、たまに首が痛かったな」
「それにこちら、真ん中は仰向け、両サイドは横向き寝に対応しております。寝返りも打ちやすく、今、とっても人気の商品となっております」
おぉ、マジか! 今どき、こんな機能的な枕があるのか。
家からほとんど出ないから知らなかった。
「どうですか? 陰浦さん。良さそうですか?」
「あぁ、めっちゃいい。ほら、寝てみ? 結構いいぞ」
「えぇ! 私ですか?」
「あ! 女性もしくは小柄の方向けのもありますよ。さっ、どうぞどうぞ」
俺が立ち上がると、店員が優等生の背中を押してベッドに寝かせた。
「あっ、寝心地いいですねー。でも、私、この前いろいろと寝具を買い替えたばかりなので……」
「あら、それは残念ですぅ」
優等生も立ち上がり、枕を店員に返すと店員は少しだけ残念そうな表情をするが、すぐに切り替える。
「んもう一つ、おすすめの商品がありますので、試されますかぁ?」
「はい、お願いします」
店員がもう一度、横になるよう手で示し、俺は指示通り横になる。
「お客様もどうぞどうぞ」
「え、いや、私は……」
「そう言わずに、今後の参考にでもしてください」
「はぁ……? わかりました」
店員が再度優等生の背中を押し、俺の隣へ無理やり寝かせる。
心なしか、隣の優等生が緊張している気がする。
「んでは、こちらがおすすめの枕となります。もう一度、ちょぉっと、んお頭を失礼しますよぉ」
「?」
「なんだか、少し柔らかいですね」
同じベッドで横になっている俺と優等生は、差し込まれた枕に違和感を覚える。
「いかがですか?」
「さっきの枕と違って柔らかすぎるような……。それに、寝心地も微妙かも」
「んー、まぁこちらの枕は、寝心地というよりぃ、なんというかぁー。ウフフ、そのぉー、お互いの愛を確かめるときのぉ……」
煮え切らない店員の様子が気になり、俺と優等生が枕を確認すると、いつの間にかさっきの「YES」と「NO」のプリントされた枕があった。
「アッレー? まさか、今夜はお楽しみですかぁ? お熱いですねぇ、本当に羨ましい」
ほんっとコイツは……。ガチでめんどくせー……。
「ですから違いますって!!」「だから違うって……」
「もー、別に否定しなくってもいいんですよぉ? あ、もし、本当に結婚もお付き合いもされていらっしゃらないのでしたら、これを機にどうです? お似合いですよ?」
パンっと両手を叩き、「いいことを思いついた!」という風に、また、わけのわからないことを言い出す。
本当になにを言ってんだ……。
「なぁ、やっぱり別の店に行こう」
「そ、そうですね」
店員の余計なお節介に萎えた俺たちは、この店から去ろうとする。
「待ってください。どこに行かれるつもりですか?」
「もう別の店に行くんで……」
店員が食い下がって、俺たちを引き留めようとしてくる。
「なぜですか? 枕が気に入らなかったのですか? まだ、いろいろ種類がありますのでもうちょっとご覧になられてはいかがですか?」
「いや、枕が問題ではなく、正直に言うと、あなたの接客がクソ面倒なので……」
俺が正直な感想を店員に告げると、店員がピタッと固まる。
そして。
「ううっ……ひどいですぅぅ!」
まさかの号泣。
「だってしょうがないじゃないですかぁ……。私だって、こんな枕営業なんてしたくないですよ!!」
いや、言い方よ。
確かに枕営業だけども。
「私も、顔がよかったら、アナウンサーになりたかった……。アナウンサーになって、面白い芸人さんや、イケメンアイドルと、業務を超えた関係になりたかったのに」
いや、結局枕売ってんじゃねーか!
「……」
現に、優等生も苦笑いを浮かべて引いてるし……。
「なにより、この年になると、あなたたちみたいな若者の青春でピュアな恋が、もう眩しくてしょうがないんですよぉ……。ちょっとくらいいいじゃないですかぁ。四十過ぎてから、恋愛ドラマとか恋愛漫画にドハマりしちゃって、いくら課金したかわかりません……」
俺たちには全く関係のない店員自身のどうでもいい事情まで話されて、正直、知ったこっちゃない……。
「わかります、その気持ち!」
まさかの優等生が共感を示した。
「私も恋愛ものの物語を読むと、自分もそのような恋愛をしてみたいと思ってしまいます」
「ですよねぇ!!」
「ありきたりですが、私が身の危険さらされたとき、颯爽と助けに来てくれる、王子様みたいな男性が現れたら、私、絶対に好きになってしまいます」
「そうですよねぇ!? 絶対にそんな王子様みたいな人なんて、いないってわかっていても、憧れてしまいますよねぇ?」
「はい!」
「……」
「いいじゃないですか。陰浦さん。もう少し、見ていきましょうよ」
優等生と女性店員はすっかり意気投合し、気がつけば優等生が店員の味方に回っていた。
「そうですよ。商品に関しては他の店舗に負けない自信がありますので、ぜひ見ていかれてくださいよぉ」
「はぁ……。わかりました。それじゃあ、最初に試した硬めの枕をください」
「あ、こちらですねぇ。んお買い上げありがとうございまぁす」
レジで精算を済ませ、出入り口で深々と頭を下げる店員。
「ありがとうございました。またお越しくださいませ」
「どうも」
「こちらこそ、ありがとうございました」
俺と優等生が店員へ頭を下げた。
「あ! もし将来、お二人が結婚されたときは、質のいいダブルベッドも揃えておりますので、んぜひ、当店でお買い上げくださいませ」
「そもそも付き合っていません!」
「……本当にしつこいな、あんた……」




