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俺に青春は向いていない  作者: 真面堂 九世
第5章

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35/61

6

「……悪い。完全に寝てた」

「い、いえ、……大丈夫です」


 いつの間にか映画も終わり、館内は明るくなって、すっかり他の客はいなくなっていた。


「いや、本当にごめん」

「本当に大丈夫ですよ」


 なにやら優等生の顔が若干赤く染まっているが、本当に怒ってはいないらしい。


「寝ておいてなんだが、あの映画はどうだった?」

「あ、そ、そうですね……。感動しました。お、思わず少し泣いちゃいました」

「? そうか……」


 なんだか、優等生は歯切れの悪い感想を述べた。


「そ、それより、陰浦さんはどこか行きたいお店は無いのですか? 見たい物とか、欲しい物とか。午前中は私に付き合っていただきましたので、今度は陰浦さんの番です」


 映画館から出たところで、心当たりを探る。


「うーん……今のところ、欲しい物なんて特には……あ」


 ふと、自分の悩みを思い出した。

 同時に、その悩みを解決できそうな店も頭に浮かんだ。


「なにか思い浮かびましたか?」

「まぁな。でも、選ぶのに結構時間がかかりそうだから、今度一人で来た時にでも行くよ」

「今からでもいいですよ? 私は全然時間ありますし、それに、陰浦さんの欲しい物……私、気になります」

「いいのか? たぶん、つまらないと思うけど?」

「はい。今度は私が陰浦さんのお買い物にお付き合いさせてください」


 そこまで言われると断れない。


「じゃあ、付き合ってくれ」

「はい」


 今度は俺が優等生を連れてショッピングモールを移動し、目的の店にたどり着いた。


「ここは……インテリアショップ、ですか?」

「あぁ、そうだ」


 俺たちが来たのは、家具や雑貨、その他もろもろの商品を取り扱うインテリアショップだった。


「なにが欲しいのですか?」

「ちょっと、寝具をな……」

「え、し、寝具!?」


 優等生は胸の前でわたわたと手を振る。


「か、陰浦さん、それは、まだちょっと早い気が……」

「は? なにが早いんだ?」

「い、いや、なんでもないです……」


 さっきの映画の影響か、優等生が妙な勘違いをして顔を赤らめた。


「今、俺が使っている枕がちょっと合わなくてな。そろそろ買い替えたくて……」

「そ、そういうことでしたか」


 寝具の枕コーナーに着いた俺は、陳列されている枕を手に取り、大きさや弾力を確かめる。


「んー……」

「どのような枕を探しているのですか?」

「いらっしゃせー。んなにかお探しですかぁー?」


 俺が枕選びで悩んでいると、優等生と女性店員の声が重なった。

 顔を上げると、バインダーを小脇に抱えたテンション高めの四十代くらいの女性が笑顔で立っていた。


「えーっと、ちょっと、今の枕が合わなくて」

「んなぁーるほどぉ。ん新しい枕をお探し、っと……。メモメモ」


 店員は軽快な音を鳴らしてペンを走らせる。

 ……ん?


「……まぁ、そんな感じです」

「ご夫婦お二人の枕をお探し、ということでよろしいですね。ベッドのサイズは? ダブル? ワイドダブル? それともクイーン? あっ、まさかのキングサイズですか? キングサイズですと……さぞかし夜も激しいのでしょうねぇ……ウフフフ」


 店員は夫婦と決めつけ、ベッドのサイズを想像し、さらには夜が激しいとまで妄想してくる。


「ち、違います!」「ちげぇよ」

「……あっ! んなぁーるほどぉ、失礼いたしましたぁー」


 俺と優等生が揃って否定すると、店員はなにかを察するが、それは間違いなく勘違いだ。


「それでお客様。ん今はどのような枕をお使いで?」

「今か……えーっと……」

「うんうんうんうんうん」

「い、今使っている枕は確か、柔らかく――」

「うんうんうんうんうん」

「え、えーっと、ホテルで使われているやつみたいにふかふかの枕で――」

「うんうんうんうんうんうん」


 ……いや、相槌うるせぇな。


「んー……。んなぁーるほどぉ。羽毛、ウレタン、ウール、綿……といった素材が使われている枕ですねぇ……」


 相槌がやかましい店員はなにやら考えたあと、陳列されている枕をいくつか取ってきた。


「こういった枕でしょうか?」


 差し出された枕を手に取り、優等生と一緒に感触を確かめる。


「そうですね。こんな感じの――」

「うんうんうんうんうんうん。普段の寝方はどのような感じですかぁ? んー、仰向けぇ? それとも横ぉ? あ、もしかして逆の逆の、そのまた逆のうつ伏せぇ?」

「……えっと、横っす――」

「んんんんんんんー」


 ついに「う」さえ聞こえないほど、被せるようにうなずいてくる店員に、正直もう嫌気がさしてきた。


「なら、んこれなんていかがでしょうかぁ?」


 店員が二つの枕を持ってきて、俺たちに一つずつ渡してきた。


「「……」」


 渡してきた枕は表に「YES」、裏に「NO」とプリントされていた。

 ……うん。

 なんとなくこんなことをしてくると思っていたが、まさか本当にしてくるとはな。

 この店でこんな物を取り扱っているとは……。


「だから違いますって!!」「だから違うって……」

「ウフフフ。んでもぉ、その割に息がぴったりじゃないですかぁ~。ほんっと、妬けるなぁ。もう……もう……、もう…………はぁ……羨ましい……」


 ……この人、なに言ってんだ?

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