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俺たちはゴリラと別れ、映画館に来ていた。
映画館には虫のようにうじゃうじゃと、女子高生たちやカップルたちが群れていた。
あー、帰りたい……。
「凄い人だかりですね」
「あぁ、そうだな……」
優等生に聞こえないように、「うんざりするほどな……」と呟く。
「もうそろそろ私たちが見る映画の上映時間みたいですよ」
「それなら、行くか」
「はい!」
よほど見たかったのか、優等生の目は輝き、小さく跳ねるように歩み出した。
俺たちの持っているチケットに書かれた座席番号を確認しながら席を探していると、たどり着いた座席は、ゆったりとしたカップルシートだった。
「? どうやら、違うシアタールームに来てしまったみたいだな……。戻るか」
「そ、そうですね」
シアタールームから出てチケットを確認するが、表示は合っている。
「……」
再び中に入り、チケットと同じ席へ移動すると、そこはやはりカップルシートだった。
「……えーっと、あ、合っているみたいですね」
「だな」
「そ、そうですね」
「んじゃ、俺は外で待っているから見ていていいぞ。じゃあな」
「ま、待ってください! せっかくお姉ちゃんたちに頂いたので二人で見ましょう? わ、私は気にしませんので……」
優等生は頬を染め俺の服の裾を掴み、精一杯強がっている。
「……そうだな、せっかくだから見るか。このコーヒーとポップコーンももったいないしな」
そう言い訳をしつつ、二人でカップルシートに少し距離を開けてくつろぐ。
「……」
「……」
映画が始まるまでの広告が流れている間も、他のいちゃつくカップルたちとは違い、俺たちの座席では長い沈黙が流れていた。
広告も終わり、ようやく映画が始まった。
どうやらこの映画は、難病を抱えている女子高校生と、その女子を甲斐甲斐しく世話をする男子高校生との恋愛もので、こういう設定はよくある。
こういう映画は、今風にアレンジしたり、人気のイケメンや美少女を使ったりと、定期的に作られる。
昔、一番上の姉貴がこういうのを観ていたような気がする。
「陰浦さん、眠っていていいですよ」
「いや、眠っていたことがゴリラにバレでもしたら、殺されるからやめておくよ」
想像しただけでも身の毛がよだつ。
「アハハ。でも、遠慮しないでください。眠たくなったら、眠っていいですからね。終わったら起こしますので……」
「あぁ、ありがとう」
優等生に許可をもらったとはいえ、さすがにこの状況で寝るわけにはいかない。
眠らないようにさっき買ったポップコーンやコーヒーを口に運び、なんとか眠気をごまかして映画を観る。
◇ ◇ ◇
明と美緑は一緒にカップルシートで恋愛映画を観ていた。
物語は終盤。
ヒロインの女子高生の病気が悪化し、難易度の高い大手術が行われることになった。
(病気になることは嫌だけれど……でも、あんなふうに大切にされるのは、きっと……すごく幸せなんだろうな……)
美緑もやはり今どきの女子高生らしく、この手の恋物語に胸を高鳴らせた。
そして、手術当日。
病室で二人きりになったヒロインと主人公が、キスをするシーンが流れた。
(き、キス……。私もいつか……)
気付けば、視線が隣の明へ、そしてその唇へと吸い寄せられていた。
当の明は必死に眠気と戦い、舟を漕いでいた。
(ふふっ。私のために必死に起きようとしてくれて嬉しいけれど、なにより、眠気と戦っている陰浦さん……。なんだか、可愛い……)
美緑は微笑みながら、再び映画に視線を戻す。
映画では、お互いの気持ちを確かめ合った。
二人は、肩を寄せて互いの頭をもたれかからせた瞬間――美緑の肩にも、なにかがのしかかった。
(……え?)
隣を見ると、明が眠気との戦いに敗れ、首の力が抜けて美緑の肩に頭を預けていた。
映画の中の二人と同じ体勢。
偶然とはいえ、心臓は暴れるように高鳴った。
肩に伝わる頭の重みと、かすかな寝息さえも、夢の中の出来事のように感じられた。
その後の映画の内容は、ほとんど入って来なかった。




