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「あ、見てください、陰浦さん。これ、可愛いですよ。それに、すごくいい香りがします」
「そうだな」
「こっちも……あ、あれも……」
「そうだな」
俺たちは優等生の姉を探しながら、いろんな店で商品を物色していた。
ショッピングモールにある、男性が入りにくい可愛い系の雑貨屋で、優等生が楽しそうにはしゃいでいた。
だが、俺の素っ気ない返事に、優等生が肩を落とす。
「……すみません。私ばかりはしゃいでしまって……。楽しくないですよね……?」
「あ、悪い悪い。別に楽しくないわけじゃないんだ。ただ、こういう店に滅多に入らないから、ちょっと新鮮でな。色んな物を眺めていたんだ」
それに、キラキラしたものを眺めている子供みたいに楽しそうな優等生を見ているだけで、退屈はしなかった。
「あ、なるほど、そういうことだったのですね。んー……。一通り回りましたし、一度先程の場所に戻りましょうか」
「そうだな」
さっきいたベンチに向かい、しばらく休んでいると。
「あー美緑! やっと見つけたぁ!!」
甲高い声とともに、二階の廊下から美女が身を乗り出して手を振っていた。
「お、お姉ちゃん!?」
その美女を見て優等生が純粋に驚き、優等生の姉らしき女性がエスカレーターを降り、こちらへ走ってきた。
姉は優等生とは違った整った顔立ちで、走り寄ってくる姿からは、妹とは似ても似つかない自由奔放な性格が滲み出ている。
なんとなく迷子になるのも納得する。
肩よりちょっと長いくらいの、セミロングってやつだっけ? 茶髪にピンクっぽいインナーカラー。
耳には大ぶりのピアスが揺れていた。
黒の七分丈ほどのパンツに、大きめの黒いシャツ。
全身を黒でまとめているのは俺と同じなのに、不思議と姉はモデルみたいにこなれて見える。
「もう、どこに行っていたの? 美緑。本当にあなたってば、目を離した隙にすぐに迷子になるんだからぁ」
「それはこっちのセリフ!! いつも迷子になるのはお姉ちゃんの方でしょ!」
優等生は、学校でのいつもの様子とは違って、声を上げて自分の姉に反論し、姉妹喧嘩が始まる。
「まぁまぁ、二人とも、喧嘩はそのくらいにして、お昼ご飯でも食べに行かない?」
そこに、姉がやってきた方向から、もう一人女性が現れた。
できれば二度と顔を見たくないくらい見慣れた顔だった。
ソイツは、今日この場所に俺を連れてきた元凶である、俺のゴリラだった。
「そうですね。なにを食べますか?」
「んー、なんでもいいんじゃない? とりあえずフードコートに行こっか」
「「はい」」
優等生姉妹が揃ってうなずき、四人でフードコートに移動した。
結局、有名ハンバーガーチェーン店のハンバーガーを食べることになった。
「んで、なんで優等生の姉貴と一緒にいたんだ?」
「なんでって、あの子……華帆が困っていたからよ」
隣に座っているゴリラに尋ねると、ゴリラはハンバーガーを頬張りながら答える。
「かほ? 知り合いか?」
「いや、初対面よ。妹が迷子って言っていたから一緒に探していたの。妹の名前を聞いた時はまさかとは思っていたけど、やっぱりあの子のことだったのね」
「へぇ」
俺とゴリラが話している対面では、優等生姉妹もこれまでのいきさつを話していた。
「ところで美緑。さっきまでと服装が違うじゃない。それになんで化粧も――ムグッ!」
優等生が顔を真っ赤に染めて、姉が持っているハンバーガーを無理やり口に突っ込んだ。
「……ゴホッ、ケホッケホッ…………。なにすんのよ! 美緑。死ぬかと思ったじゃない!!」
「ご、ごめん。つい……」
優等生が慌てて水とティッシュを姉に差し出す。
「大丈夫? 華帆」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます。ところで、そちらの子が、弟の明くんですか?」
「あぁ、忘れてたわ。そう、コレが私の愚弟の明」
「初めまして。私は美緑の姉の夏葉 華帆です。妹がお世話になっております」
「あ、はい。どーも。初めまして……。陰浦 明です」
姉の丁寧な挨拶に、俺も精一杯丁寧に返す。
「……」
「……えーっと、自分の顔になんかついてますか?」
姉が俺を値踏みするように見てくる。
「ふーん、なるほどね。あ、沙織さん。ちょっといいですか?」
「なに?」
ゴリラと優等生の姉が、俺たちに聞こえないよう小声で話し始めた。
「…………しませんか?」
「……いいわね。そうしましょう」
「「?」」
俺は訝しみ、優等生は首をかしげた。
「美緑。これ、あげる」
「え、なに? ありがとう」
優等生が姉からなにかを受け取り、確認する。
「映画のチケット? あ、これ、女子高生の間で人気の恋愛映画だね。え、貰っていいの?」
「いいわよ。さっき福引で当たったの。私たちは見ないからあげる。はい、明くんにも……」
姉から俺にも同じものを手渡してくる。
……福引なんてやっていたか? まぁいいや。
「いや、俺は別に……」
興味もない恋愛映画を観たところで時間の無駄だと断ろうとした瞬間――。
「…………」
横から冷たい視線が突き刺さった。
……これは、逆らったら命が危ない奴だ。
ちょっと、マジでやめてくんねーかな、それ……。
「ありがとうございます。いただきます」
差し出されたチケットを仕方なく受け取る。
「どうせだったら、今から二人で見てきたら?」
「そうね。明、二人で見てきなさい。あ、私は色々見た後、華帆を送って帰るから、アンタたちは電車で帰ってね」
ゴリラたちが下手な小芝居で勝手なことを言い出す。
「美緑。じゃあ私たちは行くけど……頑張ってね」
「な、なに言ってるの、お姉ちゃん!」
「明、もし映画館で寝たら……承知しないからね?」
だから、それやめろって……。
昼飯を食い終えたゴリラたちは席を立ち、また、ショッピングに戻って行った。




