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「あ、岳くん、こぼしていますよ」
「はむはむ、あひぃあほう。おねーひゃん」
俺の隣で岳がお好み焼きをボロボロとこぼし、優等生が慌ててティッシュで拭く。
岳は口いっぱいに頬張ったまま、もごもごと礼を言う。
「母親じゃん」
ギャルが、岳の面倒を見てくれている優等生を見て呟く。
「ほら、口元も汚れてるぞ」
「ありがとう。にーたん」
俺がバッグから取り出したウェットティッシュで岳の口元を拭くと、岳は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
俺が頭を撫でると、岳は目を細めてさらに嬉しそうに笑った。
「父親じゃん」
今度は厨二メガネが呟く。
「にーたん、たべさせてー」
岳が俺の顔を見上げてねだってくる。
「自分で食えるだろ」
「たーべーさーせーてー」
「いいじゃないですか、食べさせてあげても」
駄々をこねる岳に優等生が加勢する。
「もう幼稚園生だろ? 自分で食いな」
「いーやー」
「わかりました、岳くん。私が食べさせてあげます」
「……うん」
「「……」」
優等生に食べさせてもらっているものの、岳はどこか不満そうな顔をしている。
「はぁ……。ほら岳、俺の分のお好み焼きもあげるから元気出せ」
「えっ、いーの? やったー! にーたんだいすきー」
俺の分のお好み焼きを岳の皿に分け与えると、さっきまでの不機嫌が吹き飛び、嬉しそうに優等生の差し出すお好み焼きを頬張った。
「ほら、また口元が汚れているぞ」
「はむはむ。ありがとー、にーたん」
「「……」」
「陰浦さんってなんだかんだ面倒見がいいですよね。いい旦那さんになりそうですね」
「そうか? 普通だろ、このくらい。ありがとな。岳の世話まで手伝ってもらって。そっちこそ、いい奥さんになるんじゃないか?」
「え、えへへへ」
優等生が満更でもなさそうに照れる。
「「……いや、もう夫婦じゃん!!」」
ギャルと厨二メガネのツッコミが店内に響いた。
「わぁ! びっくりした……」
「なんだよ、急に大声出して?」
「てっきり付き合っているものと思っていたけど、アンタら、やっぱり結婚してんでしょ? 三人を見てるとマジで夫婦とその子供に見えてくる」
岳を挟んだ俺と優等生は、一瞬顔を見合わせ、優等生が顔を真っ赤に染めた。
「け、結婚なんてしていません! それに、岳くんは私たちの子でもありません!」
ギャルにあらぬ疑いを向けられた優等生が慌てて否定した。
「裏切者裏切者裏切者裏切者裏切者裏切者裏切者裏切者裏切者裏切者裏切者裏切者裏切者裏切者……」
厨二メガネは、俺を睨みながらお好み焼きを口に入れる箸が止まらない。
「そういう真莉愛ちゃんは、お付き合いされている方はいらっしゃらないんですか?」
頬を若干染めた優等生が、話を切り替えるようにギャルに質問する。
「えー、アタシぃ? アタシは今いないよぉ、こんまえ別れちゃったぁー」
「え、あ、ごめんなさい…」
「いいよいいよ。なんかぁ、元カレの束縛がちょっときもくてぇ、あたしの方からフッたんだから、気にしなくていいよ」
謝罪する優等生に、まったく気にしていない様子のギャルが手を振って笑う。
「そうなのですね。では……酒井さんは、彼女さんはいらっしゃらないのですか?」
「おい、やめとけって、聞いてやるなよ」
「そうだよぉ、可哀そうだからやめてやった方がぁ……」
俺を呪うくらいなんだ。そんな厨二メガネに彼女がいるわけがない。
「いるが、なにか?」
「「「……え?」」」
「はむはむ。おいしー」
厨二メガネの発言を聞いた俺、優等生、ギャルの三人は、一瞬、凍り付いたように動きを止めた。
岳だけは美味しそうに俺の分のお好み焼きを食べている。
「え、ちょっと待って、今なんて言ったぁ?」
「おいしー」
ギャルの問いかけを厨二メガネの代わりに岳が答える。
「うんそうだねぇー。おいしーねぇー。でもねぇ、岳くんじゃなくてねぇ……おい、そこのデブ、お前だよ」
ギャルは岳には笑顔を向ける一方で、厨二メガネを睨みつけてなじった。
「な、なんだよ。ボクに彼女がいて悪いか!?」
ギャルが彼女を見たさに、厨二メガネを問い詰める。
「え、どんな人? 写真ある? 見せて見せて」
「フッ、仕方がないなぁ、独り身ども……。では、刮目してみよ! 我が伴侶を!!」
大仰に宣言すると、厨二メガネは制服の内ポケットからスマホを取り出し、俺たちの前に突き出した。
「……えーっと、これは……?」
「……」
画面を覗き込んだ瞬間、優等生は言葉に詰まり、ギャルは本気でドン引きした。
厨二メガネが見せてきた画面には、二次元の少女が映っていた。
アニメのキャラクターというより、バーチャル配信者のアバターなのだろう。
画面の中で体を揺らし、目や口を動かしている。
「えーっと、それはなんだ?」
俺が尋ねると、厨二メガネがメガネをクイっと押し上げて答える。
「この娘はマリィたん。まだ駆け出しの配信者だが、僕はマリィたんが配信を始めた当初から見ているんだ。そして、ボクのコメントもよく読んでくれるんだ」
厨二メガネは得意げに続ける。
「コレってボクに気があるってことで……つまり! 付き合っている!! いや、むしろ結婚しているってことで間違いない!!」
「「……」」
「……」
俺と優等生、そしてギャルは沈黙するしかなかった。
あまりにも痛々しくて、誰もツッコむ気力が湧かなかった。
「ごちそうさまでした!!」
いつの間にか、俺のお好み焼きも完食していた岳が笑顔で両手を合わせ、行儀よく感謝を告げる。
「おいしかったか、岳?」
「うん!! おいしかったぁ!!」
「そうかそうか。おいしかったか」
俺の問いに岳は満面の笑みを浮かべて跳ね上がり、それを聞いた店主も嬉しそうに頬を綻ばせた。
「他のみんなも食ったみたいだし帰るか。おっちゃん、今日もおいしかった。また来るわ」
担任が立ち上がり、会計を済ませる。
「おう、また来いよ。お前たちも、いつでも来ていいからな。沙織もな」
「うん、また来るね。おじさん」
最初の印象とは違い、店主は子や孫に向けるような優しい笑顔で俺たちを見送ってくれた。
それぞれ礼を告げて店を出ると、その場で解散することになった。




