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店内は外見のボロさとは裏腹に、綺麗とまではいかないものの、意外なほど整理されていた。
木を基調にした店で、鉄板のついたテーブルや椅子などが整然と並んでおり、店内の端々には観葉植物が飾られている。
もしかして、ここはお好み焼き屋なのか?
「へぇー、意外と……。まぁ、汚いのは変わりないけどぉ」
「汚くて悪かったな」
ギャルの感想に、厨房の奥から出てきた初老の男性が皮肉を返す。
白髪交じりの角刈りに、古びた前掛け姿。
顔に刻まれた深い皺と鋭い目つきが、昔ながらの職人らしい風格を漂わせていた。
「おっちゃん、久しぶり」
「久しぶりだな、大樹。それにお前たちも」
店主は懐かしそうに担任と先輩たち三人を見た。
「おじさーん! ひっさしぶりー、覚えてる?」
「? ……! おぉ、お前はもしかして、沙織か?」
ゴリラが珍しく上機嫌に手を振ると、店主が目を見開いた。
「そう! 沙織。おじさんは元気にしてた?」
ゴリラもここの常連だったのか……。
こんなにテンションの上がっているゴリラを久しぶりに見た気がする。
「あぁ、この通り。ところで大樹、そいつらは新入生か?」
店主が俺たち二年の顔をじっと見回した。
「いや、コイツらは二年の問題児たちだ」
「なにぃ? また、問題児たちのお守りをしているのか?」
「まぁな、今回の奴らはなかなかに癖が強くてな」
本人たちを目の前に好き勝手言ってくれる。
「それに、この陰浦は沙織の弟みたいでな……」
担任が俺の肩に手を置き、まるで厄介者のように扱ってくる。
「本当か!? 沙織の弟か……。それは、大変そうだな……」
「そうなんだよ、この中で言ったらコイツが特に苦労しそうなんだよ」
店主が同情すると、担任もこれからの苦労を想像したのか、ぐったりした表情を見せた。
どういう意味だ。俺はただ平穏に暮らしたいだけだ。
「ところで、その子は?」
「この子? 私の息子」
ゴリラは岳の頭に手を置いて紹介する。
「もう子供までいるのか!? はぁ……時間が経つのが早いなぁ」
店主がしみじみとうなずいていると、岳がゴリラを見上げた。
「ママぁ、おなかすいたー」
「そうね。お腹すいたね」
「おぉ、悪い悪い。さぁ、座ってくれ。俺の作るお好み焼きは格別だぞ」
店主に促され、全員席に着いた。
それぞれ注文を済ませると、店主は各テーブルを回りながら、絶妙な焼き加減でお好み焼きを仕上げていく。
俺たちは、鉄板の上で湯気を立てるお好み焼きに箸を伸ばした。
「先輩、姉貴と話さないんですか?」
「あ、あぁ……。話しかけるタイミングがな……」
ゴリラの様子をうかがいながら、不良先輩は緊張してお好み焼きを口に運んでいる。
ゴリラは店主や担任と昔話に花を咲かせていた。
しょうがないな。
「姉貴、ちょっといいか?」
「なによ、明? せっかく話が盛り上がっていたのに」
「悪い。この先輩がな、姉貴に話があるんだと」
「そうなの?」
ゴリラが不良先輩に視線を向けると、不良先輩は余計に緊張した。
「あ、あの!」
憧れの人からの視線を受けて、不良先輩はようやく言葉を絞り出す。
「沙織さん。五年前、学校の先輩に目をつけられて、締め上げられそうになっていたアタシを助けていただいたときのこと、覚えていますか? 赤城 紅葉って言います」
「五年前……うーん……」
「姉貴、確か大学一年の頃じゃないか? 一番荒れてたあの時期だろ」
俺がそう言うと、ゴリラも思い出したみたいだ。
「あぁ、あのときね。……ってことは、紅葉ちゃんは中学一年生? ……あ、思い出した! 不良もどきに囲まれていたあの子?」
「はい、そうです。先輩に気に食わないって言われて……。あの! あのときはありがとうございました!」
不良先輩がゴリラに向かって頭を下げた。
「えー、別にいいよ。私もあのときはちょっとむしゃくしゃしていたし、ちょうど憂さ晴らしができたから、ウィンウィンってことでいいじゃん」
「憂さ晴らしに年下相手をボコるなよ……」
「はぁ? 一人を六人で囲むような連中に、人権なんてあるわけないでしょ。それを言うなら、あんただって格下の五人を潰してたじゃない」
「いや、あれはしょうがなかったんだよ……。それに、正確には同級生四人と、あと一人は大人だ」
「お二人とも……。一人で複数人を相手にできること自体、まずすごいですよ」
優等生が半ば引き気味に口を挟む。
「それにしても、あのときの中学生がこんなに大きくなったんだぁ」
「はい! 沙織さんに憧れて、少しは強くなったんです」
「いい心がけよ。女は舐められやすいから、強くなることはいいことよ」
「ありがとうございます!」
いつの時代の話だよ……。
不良先輩は嬉しそうに頬を染める。
「沙織さんは結婚されているんですよね」
「え、うん。まぁね」
不良先輩は顔をこわばらせ、窺うような目でゴリラに尋ねる。
「そ、その……旦那さんと喧嘩されて今は別居中って……」
「明……アンタ、バラしたわね?」
一瞬、ゴリラの眼光に、明確な殺意が宿った。だが、すぐにため息を吐いて不良先輩に向き直った。
あっぶねー。死ぬところだった。
「まぁいいわ。紅葉ちゃん、聞いてくれる?」
「はい、アタシでよければ」
「うちの旦那がね、私が楽しみに取っておいたケーキを勝手に食べたのよ。ありえなくない?」
「はい! ありえないです」
「そのくせ――」
ゴリラ夫婦のくだらない痴話喧嘩をネタに、ゴリラと不良先輩はすっかり意気投合した。




