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「さて、お前ら。なにを食いたい?」
俺たちは約束通り、担任のおごりで昼飯を食いに行くことになった。
下駄箱で靴を履き替え、校門まで歩いていた。
「「焼肉!」」
厨二メガネと熱血先輩(兄)。
「パフェ」
ギャル。
「なんでもいい」
「皆さんにお任せします」
不良先輩と優等生。
「ごはん、いらない……。ねたい……」
「俺も。帰って寝たい」
猫先輩と俺。の順に担任のリクエストに次々と答えた。
結局、出たのは「焼肉」と「パフェ」だけ。デザートは置いといて、昼飯は実質、焼肉一択だ。
「うんうん。よし、じゃあ、俺の行きつけの店に連れて行ってやろう」
担任を先頭に校門を出て、歩いていると。
ドンッと、突然俺の横腹に鈍い衝撃が走った。
「おぅっふ……なんだ?」
視線を落とすと、小さな男の子が俺に抱きつくようにしがみついていた。
「にーたん!!」
男の子が俺を見上げ元気よく叫ぶ。
「岳!? どうしてここに……?」
「え? 陰浦さん、弟さんがいらっしゃったのですか?」
男の子の正体に俺が驚愕すると、優等生は別のことで驚く。
はしゃぐたびに髪がふわふわと跳ねていた。
にこにこと笑う顔を見ると、見ているだけで こっちまで元気になりそうだ。
泥だらけのスニーカーと、少しよれたTシャツが、今日も全力で遊んできたのがわかる。
「いや、違――」
「岳! 走っちゃダメって言ったでしょ!!」
そこに、この子……岳の母親が、同じ脇道から駆けてきた。
「ママ、にーたん!」
岳は嬉しそうに母親に振り返り、俺を指さした。
「あれ? 明じゃない。今帰るところ?」
「なんだ、やっぱり姉貴か」
現れたのは、俺の二番目の姉貴だ。
「あぶねーだろ、岳の手を放しちゃ……」
「しょうがないでしょ。アンタを見るなり、いきなり私の手を振り払って、走って飛び出していったんだから……」
満面の笑みでしがみついてくる小さな腕。
この子はゴリラの子……つまり甥っ子だ。
「姉貴ということは陰浦さんのお姉さんですか? この子は甥っ子さん?」
「まぁな」
「よぉ、陰浦」
俺とゴリラが、担任へ振り向く。
「あ、悪い、姉の方だ」
「あぁ! だいちゃん!!」
「久しぶりだな、陰浦姉」
卒業式以来の再会に、空気が一気に懐かしい色を帯びる。
「え? だいちゃん、まだダル高校の教師やってたんだぁ。え、でも、任期的には……」
「それはなぁ……お前たちが思っている以上に、俺が優秀というわけだ」
「ふーん、そっ。それで、こんな大人数でどこに行くの?」
担任の自慢を含んだ返答を軽く流したゴリラは、俺へと視線を向ける。
「俺たちが先生の仕事を仕方なく手伝ってやったから、昼飯をおごってくれるんだよ」
「え、マジ?」
パッと表情を明るくする。
「じゃあ、あたしたちも行くー」
「おい待て、なんでそうなる?」
「え、ダメなの?」
「だめ……なの?」
姉貴がわざとらしく首をかしげると、その子供である岳も真似をする。
「ウッ……」
「どうしましょう陰浦さん。岳くんがすっごく可愛いです」
「え、待って。最カワなんですけどぉ」
岳のあまりの可愛さに、担任がたじろぎ、優等生は俺の肩を興奮気味に何度もたたき、ギャルがいろんな角度からスマホを構えて連写する。
「わかったよ。じゃあ行くぞ」
「やったー、ラッキー」
「やったー♪」
こうして、ゴリラと岳が加わり、担任の行きつけらしい場所に向かうことになった。
ゴリラは久々に再会した担任と昔話に花を咲かせ、楽しげな岳は俺と手を繋いで店まで歩いた。
* * *
「おっちゃん、やってるー?」
暖簾をくぐり、店の中に入っていく担任に続き、ゴリラ、熱血先輩(兄)、猫先輩、不良先輩の順になにも言わずに入っていく。
しかし、俺たち一年は躊躇していた。
窓は油や埃で白く曇り、店には蔦が絡んで全体的に薄暗い。
看板は錆び付き、文字もほとんど読めない。
店の引き戸は建付けが悪く、開けるにもコツがいりそうだ。
それを担任がいとも簡単に開けていた。
扉を開けるだけでもものすごくうるさい音がした。
ある意味では防犯になるな……。
「……な、なんだか老舗って感じですね……」
「いや、お化け屋敷でしょ、ここ」
「ボロいな」
「ボロボロー♪」
初めて来た優等生が精一杯気を使い、ギャルと俺、岳が率直な感想を口に出した。
「いや待て、この扉……異世界につながってるのかもしれん!」
「それは無いですね」
「ねーよ」
「絶対ない」
「なーい」
「……」
厨二メガネがやはり厨二なこと言うが、俺たちが厨二メガネには酷な現実を突き付ける。
俺たちもボロボロの店に入った。




