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やはり、四人で仕事をすると点検も早く終わり、ついでの作業もあまり時間をかけずに済んだ。
仕事を終えた俺たち四人は長机に座り、休憩がてら、それぞれ好きなことをしていた。
「へぇー、アンタのおねぇーさんって結構友達いるんだね。見た目が少し怖いから、てっきりヤンキーなのかと思ったんだけど……」
ギャルが見ていたアルバムの写真には、ゴリラが友達と楽しそうに笑っている姿や、下級生らしき女子生徒たちに憧れられている姿、さらには体育館の壇上で堂々とスピーチをしている姿を捉えたものまで、様々な写真が収められていた。
どうやらゴリラは、俺の知らないところで、随分と充実した高校生活を送っていたらしい。
長年弟をやってきたが、こんな姿を見たのは初めてだ。
……案外、ちゃんと青春してたんだな。
「俺も知らなかったよ。家でのゴリラはただの傍若無人な暴君だからな」
早々に家を出て行ってくれて助かった。
「なぁ、沙織さんって、今、なにをしているんだ?」
不良先輩が少し期待を込めた声で尋ねてくる。
「ゴリラは大学在学中に結婚して、子供が生まれて……。そんで、今は旦那と喧嘩中みたいで、実家であるうちに子供と一緒に出戻り中です」
「そうなのか……」
ゴリラは大学生のうちに結婚・出産という、少し変わった学生生活を送り、幸せそうに新しい家庭を築いていった。
だが、サバサバしていて言いたいことを我慢できないタイプで沸点が低く、旦那と度々喧嘩をしているみたいだ。
今回は相当な大喧嘩だったらしく、子供と一緒に家出をして、実家に帰ってきた。
「あ、おねぇーちゃん。ここにもいたぁ」
「ふむ、このセリフもいいな。今度使ってみるか……」
俺と不良先輩がゴリラの話を共有している中、ギャルは自分の姉の写っている写真を引き続き探している。
厨二メガネは常に持ち歩いているラノベを読みながら、カッコいいセリフを見つけてはすぐにスマホのメモに書き写していく。
「そんなに旦那さんと仲が悪いのか?」
不良先輩は不安そうにゴリラ夫婦の仲を心配する。
「いえ、あれですよ。喧嘩するほど仲がいいってやつです。母さん曰く、二人だけの時はめちゃくちゃ仲がいいらしいです」
「……そうか。よかった」
不良先輩が胸を撫でおろすと、ガラッと資料室のドアが開かれる。
「おーい、終わったかー? ……ってサボってんじゃねーよ」
入ってきたのは体育倉庫組の担任、熱血先輩(兄)、猫先輩と優等生の四人だった。
「先生、どうやら終わっているみたいですよ」
優等生が長机の上の点検用紙を発見し、担任が内容を確認する。
「……確かに終わっているな」
「ちょっとぉー、決めつけはよくないでしょー? こばっちゃん」
「そうだぞ、早とちりは良くないぞ? コバティよ」
ギャルと厨二メガネが担任を責める。
「いや、仕事が終わったら生物室に再集合って言っただろ? まぁいいや。それで、なにを見ていたんだ?」
「アルバムぅー。アタシのおねぇーちゃんを探していたの」
ギャルは卒アルを自分の顔まで持ち上げ、担任に見せる。
「あぁそうか、そういえばここに保管してあったな。なんだお前、姉がいたのか?」
「うん。あ、それと、陰浦のおねぇーちゃんもアタシのおねぇーちゃんと同級生だったらしい。ほら、これが私のおねぇーちゃんで、陰浦のおねぇーちゃんはこの人」
アルバムをめくり二人の姉をそれぞれ指さす。
「おぉ! そうだったのか。にしても、紫野は姉とあんま似てねーな」
「そうなの! せっかくかわいいのにアタシのおねぇーちゃん、まじめっていうかぁ、暗いっていうかぁ、もったいないんだよねぇ」
言ってしまえばギャルの姉は委員長タイプだ。
そして、担任は俺を見たあと、アルバムに写っているゴリラへと視線を移した。
「それに、まさかお前が《《あの》》陰浦の弟だったとはな……」
担任の声がわずかに低くなった気がした。
「あの」って……。やっぱり、なにか問題を起こしていたか。
「ゴリラのやつ、なんかやらかしたんですか?」
「んー、いろいろとな。思い出すだけで胃が痛くなる……」
当時の苦労がありありと蘇ったのか、担任の笑みはどこか虚ろだった。
「先輩後輩関係なく、問題児たちを締め上げて、教師たちにも遠慮なく噛みつきまくってな……。実質、この学校を牛耳っていたようなもんだった」
さすがというか、なにやってんだというか、相変わらず破天荒なゴリラだな。
「そのくせ、人気もあったから生徒会長にもなって、ブラック校則を撤廃したり、体育祭や文化祭、修学旅行まで改革したり……いろんなことがあったんだよ」
担任が盛大なため息を吐き出した。
「……本当に、凄いお姉さんですね」
「俺も知らなかったよ。マジでなにやってんだ?」
優等生が引き気味にゴリラを称え、俺はドン引きした。
「まぁ、でも、結果的に生徒全員が楽しんで学校を卒業していってくれたから……教師である俺としては、良かったよ……」
いつの間にか窓際に移動していた担任が、両手をポケットに突っ込み、外の遠い景色を眺めて急にカッコつけ始めた。
「「「「「「「……」」」」」」」
良いことを言ったのかもしれないが、最後にカッコつけたせいで、すべて台無しだった。
「さっ、ご飯行こぉー」
ギャルが立ち上がると、それにつられるように全員が資料室を後にした。
担任だけが、ポツンと窓際に取り残されていた。




