2
「これ、なんに使うんだよ……」
俺たちがやって来たこの資料室には、段ボール箱が置かれているスチールラックと本棚が所狭しと並んでいた。
本棚には学校史やアルバム、赤本などが数多く並び、片隅では学校の模型やパソコンが埃をかぶっている。
資料室というより、ちょっとした倉庫だ。
他の教室より少し広いから、大変そうだ。
俺たちは担任から渡された用紙に従い、ゼッケンやタスキの数を確認していく。
だが、中には水鉄砲、叩かれても痛くないチャンバラ用の剣、紙風船、子供用三輪車など、高校教育では絶対に使わないような物まで、なぜか大量に保管されていた。
「あーメンドクセー。お前ら、早く終わらせろよ」
俺と厨二メガネとギャルの三人は、担任に押し付けられた仕事を渋々こなしている一方、不良先輩は部屋の中央のパイプ椅子にふんぞり返り、長机に脚を乗せ、頭の後ろで手を組んでサボっていた。
仕事自体は結構簡単で、四人も人数はいらないのだが、こうも堂々とサボられてはこっちの気が滅入ってしまう。
「せんぱいも~、手伝って下さいよぉ~」
「そ、そうだそう——」
「あ゛?」
「ヒィ……テツダッテクダサイオネガイシマス」
ギャルと厨二メガネが不良先輩に手伝いを頼むが、不良先輩の一睨みで厨二メガネが怯み上がる。
「いいか? 三年のアタシが働くわけねーだろ。後輩が雑用をすんのは当たり前だろ」
不良先輩がゴミクソパワハラ上司みたいなことを言ってくる。
こういうやつに限って、まったく仕事が出来ないんだよなぁ。
そう個人的な偏見を口には出さず、俺は黙々と仕事をこなす。
こういうのは言わぬが花だ。
「あー! 卒アルはっけーん!」
ギャルが突然大声を出した。
「おいぃ! なにお前までサボってるんだよ!」
「うっさい! ちょっと疲れたからきゅーけー。あ、アンタたちはやっていていいからねぇー。さーて、おねぇーちゃんはどこかなぁ?」
ギャルは不良先輩が座っている対角線の席に座り、休憩と称して持ってきた卒アルを、ページをゆっくりめくりながら自分の姉を探し始める。
「これだから頭の軽いビッチどもは……」
厨二メガネはサボり続ける女子二人への毒を吐き、汗をかきながら仕事を続ける。
俺も仕事の続きをしに奥の方から攻めていく。
「え、この人って……。ねぇ、陰浦」
「んー、なんだー?」
自分の姉を探していたギャルは、棚の向こうにいる俺に向かって声を少し張る。
「アンタって、おねぇーさんいるの?」
「あぁ、いるけど?」
「じゃあ、この人ってアンタのおねぇーさん?」
ギャルのもとへ近寄る。
指差すのはある女子生徒の写真だ。
覗き込むと、不良先輩も気になったのか身を乗り出し――ゴツン、と互いの頭がぶつかった。
「イテッ……すみません」
「いや、アタシのほうこそ悪かったな」
今度こそ写真を見ると、見覚えのあるやつがいた。
茶髪でポニーテールの目つきの悪い女子が写真に写っていた。
「あー、これは完全に姉貴だな。名前も同じだし……」
どうやらギャルは、六年前の姉貴の代の卒アルを引っ張り出したようだ。
昔から、ゴリラは写真に写ることを嫌っていた。
だから卒アルのために強制的に撮られるのを嫌がりすぎて、カメラを睨みつけるような顔をして写っていた。
メンチ切ってんじゃねーよ、カメラマンがかわいそうだろ。
「え、お前って沙織さんの弟なの——イッテェ」
「イッ……」
写真の女子生徒が俺の姉貴だと知り、不良先輩は驚いたように、唐突に身を乗り出してきたところで、また俺と頭がぶつかった。
「すまん」
「いえ、大丈夫です」
俺は頭を押さえながら不良先輩を見る。
「姉貴のことを知っているんですか?」
「まぁな、昔、沙織さんに助けられたことがあるんだよ……」
「へぇー、そうなんですか」
不良先輩がそのときの光景を勝手に思い出し、微笑みながら思い出に耽る。
「な、なぁ?」
不良先輩が頬を染めて尋ねてくる。
「なんですか?」
「お前の姉さん、沙織さんに、その……合わせてくれねーか?」
不良先輩が急にモジモジしだした。
見た目のわりに意外とかわいらしい一面を持っているみたいだ。
俺はなんとも思わなかったが、厨二メガネは興奮していた。
「年上の、男勝りなポニテヤンキーは、やっぱりツンデレ属性だよな。それに、スタイルも良いし……うん、有りだな」
なんてアホなことを呟いている。
「お礼を言いたいんだ。……アタシは昔いじ――」
「いいですよ」
不良先輩が過去回想に入ろうとするが、興味がないため、話を遮って了承する。
「え?」
「いいですけど、あまり期待しないでくださいね。姉貴は、基本的に過去を振り返らないタイプの人間なんで、先輩のことを覚えているかわかりませんよ?」
なぜだか、ゴリラに過度な憧れを抱いている不良先輩に、一応忠告する。
「あぁ、それでもいい。アタシはただ、礼を言いたいだけなんだ」
「わかりました。ただ条件があります」
「わかった。なんでもするから言ってくれ」
「……ん?」
不良先輩の「なんでも」という言葉に、厨二メガネが過剰に反応しだした。
「今、なんでもするって言った?」
厨二メガネは両手で空を揉むしぐさをしながら、不良先輩に近づく。
「ぐへへヘ……それじゃあなにをしてもらおうかなぁ」
不良先輩が目を吊り上げ、厨二メガネを睨み、嫌悪感を露わにする。
「近寄るな! デブ!!」
ドゴッ!!
不良先輩が厨二メガネの丸々太った腹を蹴り飛ばす。
「ぶひぃ……! ありがとうございますっ!!」
厨二メガネが床に転がりながら礼を言う。
……コイツ、本当にアホだな。
「キモッ」
転がっている肉団子をギャルが冷たい目で見下す。
「先輩、そんなアホはほっといていいですから、俺が言う条件を飲んでもらいますよ」
「な、なんだ……? まさかお前まで変なことを言うんじゃないだろうな?」
不良先輩が警戒心を高める。
この人までなにを言っているんだ。
「バカなことを言っていないで仕事をしてください。それが条件です」
「そんなことでいいのか?」
「はい。むしろ、うちの姉貴なら人に仕事を押し付けずに、みんなと一緒に手を動かしますよ」
「うっ……悪かった、手伝う。ほら、お前もやるぞ!」
「えー、まだ見たかったのにぃ」
ゴリラのことを引き合いに出すと、不良先輩は素直に言うことを聞き、ギャルと共に仕事を始めてくれた。




