1
「よし、揃ったな」
土曜日の朝九時。
土曜日でも、運動部は朝から活気に満ちていた。
サッカー部と野球部は専用グラウンドで大声を張り上げ、陸上部はホイッスルに合わせて掛け声を響かせる。
別方向からはテニス部の「パコーン」という小気味いい音。体育館からのボールの弾む音と歓声が聞こえてくる。
どの運動部からも、いかにも青春してますと言わんばかりの活気のあるものを聞けば聞くほど、反対に俺は憔悴していってしまう。
はぁ……。帰りたい……。
文化部も、活動のある部は静かに活動していた。
そして、非活動的な部である生物部が、珍しく生物教室に集まった。
担任によって生物部に入らされた俺たちが嫌々集まり、陸上部の熱血先輩(兄)と優等生以外が不機嫌な表情をしていた。
「小林先生! 今日はなにをしましょうか!? ゴミ拾いですか!? それとも荷運びですか!? 特に用事がなければ部活に行きたいのですが!!」
「うるせーよ、太陽。お前は元気過ぎんだよ。ちょっとは落ち着け。……それはそうと、お前たちはそんなに嫌そうな顔をするな。俺だって嫌だよ、仕事なんて……」
やかましい熱血先輩(兄)を静め、嫌な顔をする他の部員を見て泣き言を漏らす。
「で、なにをさせられんだよ。オッサン?」
「オッサン言うな」
前回の顔合わせのときと同じように制服を着崩した不良先輩が、誰よりも不機嫌に頬杖をつく。
「今日はちょっと手伝ってほしいことがあるんだ」
「なに、するの?」
猫先輩も前回同様、俺の膝の上に座って俺に頭を撫でさせ、気持ちよさそうに表情を緩ませながら質問する。
そして優等生と厨二メガネが羨ましそうに俺を見る。
「お前らもわかっていると思うが、再来月の六月に体育祭がある」
マジかよ……。体育祭なんてなくなればいいのに……。
俺は憂鬱な気分を紛らわせるように、猫先輩の頭をより一層撫でた。
「ちょっと早いが、体育祭で使う道具の点検をしないといけないんだが、これが割と多いし色んな所にあってめんどくさいから、お前らも手伝ってくれ」
「えー、なんでアタシたちがそんなことやんないといけないわけぇ? それってぇ、教師の仕事なんでしょー? アタシたち関係ないじゃん」
ギャルはスマホから目も離さず、全員の気持ちを代弁した。
「そうなんだが、教頭のバァさんがなぁ、俺に今日やれって命令してきたんだよ。さすがに一人じゃ無理。お願いだから手伝ってくれ」
担任が軽い頭を下げる。
「オッサンより若い教師がいんだろ。そいつにやらせろよ」
「それがなぁー赤城。若いやつに頼めばパワハラだのなんだの厄介だから、俺にお鉢が回ってきたんだよ。……結局、俺はいつまで経っても中間管理職ってことだ……」
「知らねぇよ。アタシに愚痴んな」
担任が不良先輩に愚痴をこぼす。
「でも、体育祭で使う道具の点検なんて、生徒たちの安全を守るという一番大事な仕事じゃないですか。つまり、小林先生だからこそ、このような責任重大な仕事を任されたのではないですか?」
「夏葉……。お前ってやつは、いいやつだな」
優等生が教師という職業に悲観している担任を励ます。
「まぁ……超敏腕教師の俺でもちょぉぉっと大変だから、手伝ってくれ」
急に担任が調子に乗り出す。
「おい優等生、おだて過ぎたんじゃねーか?」
「そういうつもりではなかったのですが……」
「てことで、体育倉庫と資料室にもろもろの道具があるから、この点検用紙を持って二手に分かれてチェックしてくれ。それと掃除も頼まれているから掃除もよろしく」
「わかりました! 小林先生!!」
「「「「「……」」」」」
「アハハ……」
元気よく了承する熱血先輩(兄)をよそに、押し付けられた仕事を無言で拒否する他の五人に優等生が苦笑する。
「……なんだよ。この部活に入るとき言っただろ? 仕事を手伝ってもらうって」
「「「「「……」」」」」
「…………わぁーった、わぁーったよ。昼飯おごってやるから手伝ってくれ、頼む!」
全く動こうとしない俺たちにしびれを切らした担任が、金のない学生としては嬉しい条件を出す。
「お! マジか! ティーチャー小林よ……。それなら焼肉に行こう」
「うっわ、さすがデブ」
「なんだとぉ!?」
「アタシ昼間っから脂っこいものは無理ー。それなら映えるカフェに行きたいなぁ」
厨二メガネが図々しく、ギャルがギャルらしい場所をそれぞれ提案する。
「そうだな! 俺も焼肉がいいな!!」
「アホか! この程度で連れていくか! 行くなら体育祭か文化祭の時だろ」
「フッ、言ったな? ティーチャー小林……長いな。コバティよ……」
熱血先輩(兄)も厨二メガネの提案に乗ると担任が拒否するが、担任の言葉に厨二メガネがニヤリ口を歪めた。
「体育祭、文化祭、球技大会後の打ち上げは焼肉に決定だぁぁぁ‼」
「勝手に決めるな!」
普段は大人しく厨二をこじらせている厨二メガネが奇声を発し、担任が抗議する。
「え、それならいいかもぉ」
「あ、いいですね。クラスの皆さんと更に親睦を深められますね」
しかし、ギャルと優等生が厨二メガネに便乗した。
「待て待て、クラス全員とは言っていないぞ……。それに、俺は安月給なんだぞ!?」
「え、でしたら、一部の生徒だけ連れて行かれるのですか? それは不公平な気が……」
「うぅ……」
「先生って、大事な仕事を任される『超敏腕教師w』なんですよね? だったら給料はそこそこいいはずですよね?」
「うぅ……」
嫌がる担任に、優等生と俺が追撃をする。
「はぁ……わかったよ、考えとく。その代わり、今日はちゃんと働いてもらうからな。ほら、行くぞ」
観念した担任が二組に分け、俺たちはそれぞれ、グラウンド近くにある体育倉庫と、校舎の片隅にある資料室に向かった。




