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俺に青春は向いていない  作者: 真面堂 九世
第3章

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9

「やっと見つけたぞ!! ここにいたのか、陰浦くん!!」


 入り口の方から、スポーツウェアを着た男子がズンズンと足音を響かせながら迫ってきた。


「!? ……え?」


 俺は本気で目を疑う。眼科に行った方がいいのだろうか?

 それとも、頭がおかしくなったのか……なら脳外科か?

 夢……それとも体を動かし過ぎたせいで見た幻覚……それなら、精神科?

 まさかとは思うが現実? いや、それはない……あるはずがない。あってはならない。絶対にだ!!


 もう一度声の主を見ると、俺の後ろにいるはずの筋肉先輩が前から現れた。

 ……?

 ダメだ。頭の頭痛が激しく痛く、激痛が走り駆け巡ってきた……。

 あれ? ついに、日本語もおかしくなって来た。明らかなキャパオーバーだ。


「陰浦くん!?」

「な、なんですか?」

「いや、陸上部の見学に誘おうと思ってな! 君を探していたんだ!!」

「? 陸上部……?」


 どういうことだ? バスケ部の……それもキャプテンじゃないのか? えっ、まさか、陸上部との兼部? そんなことがあり得るのか……?

 ! そういえば、この前、この人、生物部でも見たことがあるような……。

 まさか三つの部活を兼部? 化け物かよ!?

 先輩を見たまま固まっていると、1on1を見ていた陸斗、海藤、優等生の三人がやってきた気配をかろうじて感じた。

 頭をフル回転させても状況整理が追い付かない。そんな俺の前にさらに追い打ちをかけられる。


「おや、太陽じゃないか!?」

「おや、光じゃないか!?」


 前後から、同じ声で、違う名前を呼ぶ声が聞こえた。確認すると同じ顔の先輩二人が俺を挟むように立っていた。


「「!!」」


 俺と優等生が驚いていると、陸斗が簡潔に説明する。


「なんだ、二人は知らなかったのか? 太陽先輩と光先輩は双子なんだよ。太陽先輩が兄で、光先輩が弟」

「「!!」」


 同じ顔をした先輩が二人いるわけを陸斗に聞いた俺と優等生がもう一度驚く。

 確かに顔も性格も体格も全部似ているが、俺はどうしても違う所が気になってしまう。


「……」


 たいよう先輩とひかる先輩……?


「どうかしましたか? 陰浦さん」

「なぁ、あの人たちの苗字ってなんだったっけ?」

「えーっと、『熱尾』のはずです」

「あつ、お……。たいよう、ひかる……?」


 熱尾 太陽と光……。

 熱尾 太陽光……。

 なんてことだ。単体だけでも暑苦しいのに、双子……。

 それに加えて『太陽』と『光』…、名前まで……。しかも二人が組み合わさったら『太陽光』だと?

 二人が揃ったら二倍どころか何十倍も暑苦しいな。近くにいるだけで熱中症になりそうだ。


「ところで陰浦くん! どうして体育館にいたんだい!?」

「あぁ、それなら、バスケ部入部を賭けて俺と勝負をしていたところなんだ!」


 熱血先輩(兄)から俺への質問を、代わりに熱血先輩(弟)が答える。


「さすが双子だな!! 実は俺も見学にかこつけて勝負をするつもりだったんだ! まさか光に先を越されるとはな」

「「アッハッハッハッハー」」


 俺が目の前にいることも忘れ、ろくでもない企みをあっさり明かした。


「だが、俺の方が負けてしまったんだがな」

「本当か!? それは俄然燃えてきたぞ! 陰浦くん!!」


 まずい……。


「今から、俺とも四百メートル勝負をしようじゃないか!!」


 これは本当にまずい……。

 仕方ない、俺の最終奥義を使うしかない。


「……すみません、先輩方。実は自分、春休み中に事故に遭って、足を痛めたんです」

「「「「「!!」」」」」


 幼なじみの二人、優等生、そして熱血先輩(兄弟)までが同時に目を見開いた。


「さっきのバスケで悪化したみたいで……。日常生活には支障はないんですが、もう、あまり激しい運動が出来なくなったんです」

「「本当かい?」」


 おぉ、さすが双子。息がぴったりだ。


「いや、俺はなんも知らないです。真凛、知ってたか?」


 熱血先輩(兄弟)の問いに、戸惑う陸斗と海藤が視線を交わす。

 「私も初耳……」と海藤が首を横に振る。

 俺は痛みに耐える素振りをしながら、表情に微かな後悔をにじませる。


「コイツらには心配をかけたくなくて、黙ってたんです。それに、動物を助けようとしたとはいえ、自分の不注意でケガしただけですから……自業自得です」

「「そうだったのか……。すまない、そんなこととは知らずに……」」


 すっかりしおらしくなった熱血先輩(兄弟)をよそに、幼なじみの海藤が胡乱(うろん)な目を向けてきた。


「でも、体力測定のときは普通に暴れていたんでしょ?」

「「「確かに!」」」


 海藤の鋭い指摘に、双子と陸斗が声と顔を合わせた。


「暴れてはいないですけど……確かに、足を痛めていたようには見えませんでしたね」


 優等生まで余計な口を挟んできた。

 チッ、余計なことを……。


「あぁ、実はあの体力測定の直後に足のケガが再発してしまって。病院に行ったら、『今後は激しい運動は控えろ』って……」

「え……じゃあ、それって、俺のせいなのか……?」

「……」


 俺はなにも言わず、静かに目を伏せた。

 その沈黙を見た瞬間、陸斗の顔から一気に血の気が引いていく。


「……」

「「「「……」」」」


 俺の無言の肯定によって、場の空気が一瞬で通夜のように重くなった。


「「陰浦くん……」」


 熱血先輩(兄弟)もすっかりトーンダウン。

 俺は内心ほくそ笑んだ。


「き、気にしないでください……っ、痛っ……! あ、あの、すみません。また痛みが出てきたので、これで失礼してもいいですか?」


 俺は左膝を押さえ、大げさにならない程度に右足へと重心を預けた。


「「あぁ、悪かったな、無理をさせてしまって」」

「陸斗、肩を貸してくれ。どうやら、一人で歩けそうにない」

「お、おう。わかった」

「私も……」


 陸斗と海藤が慌てて駆け寄り、俺を支えて体育館の出口へ。

 優等生は二人分の荷物を持ち、後ろからついてきた。



 * * *



 俺たちは体育館を後にし、校舎の下駄箱についた。俺が止まったことで肩を貸してくれている陸斗と海藤の足も止まる。


「どうしたのですか? 陰浦さん。保健室はこの先ですよ?」

「そうだぞ、あ、もしかして痛かったか? すまん、ゆっくり歩くか?」

「ねー、本当に大丈夫? 明」


 三人とも本気で心配してくれる。


「……そろそろ大丈夫かな」

「「「?」」」


 心配してくれている三人が、俺の発言で不思議そうな顔をする。


「ありがとな、支えてくれて」


 俺は陸斗と海藤から離れ、二人へ礼を告げた。


「え、どういうことですか?」

「は? どういうことだ?」

「明、アンタ足は? あんなに痛そうだったよね?」


 自分の脚で歩く俺に、三人が唖然とした。


「え、嘘だけど?」

「「「はぁーー!?」」」


 普段丁寧な口調で話す優等生も、陸斗と海藤につられて盛大に驚く。


「うるせーな」

「うるさいじゃないでしょ! 私たちがどんだけ心配したと思ってんの!?」

「そうだぞ明。体力測定のとき、マジで申し訳ないことをしたなって本気で思ったんだぞ!?」

「いてっ、痛いって。悪かったって海藤。てか、陸斗、お前はマジで反省しろよ」

「「もういい! 部活行く!!」」


 俺をボコボコにした二人は、怒って体育館へ戻って行ってしまった。


「イテテテ。ったく、あの二人、手加減ってものを知らねーのかよ……」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。ありがとう」


 眉を顰めた優等生が差し伸べてくれる手を取って立ち上がる。


「でも、岡田さんと真凛ちゃんの言う通り、あのような嘘はダメですよ」

「でもなぁ、ああしないと、また面倒ごとに巻き込まれていたんだよ」

「それでもです!」


 優等生は腰に手を当て、きつく睨んでくる。


「私も本当に心配したんですから」


 優等生には悪いけど、面倒ごとを避けられるなら、どんな嘘でも吐く。

 約束はできない。

 ただ、ちょっとは申し訳ない、かな?

 制服のほこりや汚れを払いながら、優等生に問いかける。


「俺はこのまま帰るけど、どうする?」

「今日はお友達と帰る約束をしていますので……」

「そうか。でもよかったのか? さっきまで俺と先輩の勝負を見ていたけど……」


 だとしたらさらに申し訳ないことを……いや、勝手についてきたのはコイツだしな。


「はい、お友達も少し用事があったみたいで、それまで時間がありましたので、陰浦さんに同行したんです」

「そうか」

「はい、それでは、もうそろそろ時間なので行きますね」

「あぁ、じゃあな」


 俺は下駄箱で靴を履き替えに、優等生は友達との待ち合わせ場所へ向かった。


「あ!」


 優等生が突然声を上げ、小走りで駆け寄ってくる。


「どうした?」

「一つ、言い忘れたことがありまして……」

「なんだ?」


 言いにくいのか、ほんの少しだけ頬を赤く染めて俺の耳に顔を寄せてくる。


「あの、今日の陰浦さん……」


 一瞬言葉を切り、視線を逸らした。


「……いつも以上に、カッコよかった……ですよ」

「!」

「うふふ。それでは、また明日」


 はにかんだ優等生は、さっきより顔を赤らめて足早にどこかへ行ってしまった。

 耳打ちされた耳を無意識に押さえた。


「慣れてねぇなら、やらなきゃいいのに……」


 静けさに紛れて、俺は誰もいない下駄箱で笑みを漏らした。

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