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「真凜、どうかした?」
「あ、秋穂せんぱーい。相変わらずカッコいいですね」
男子バスケ部を見ていた真凛に近づいてきたのは、紅野 秋穂。
男子部員ではなく女子部員だった。
紺色のTシャツに黒のハーフパンツから、程よく筋肉がついた長い手足。
真凛と同じショートカットなのだが、スポーツにはあまり相応しくない片目を覆う前髪。
前髪に隠れていない目は目じりが上がり、クールという印象を与える。
目鼻立ちが整った顔立ちで、そこらの男子よりイケメンだ。
なにより、前髪に隠れている目元には泣きぼくろが覗いているため、よりカッコよく映り、同性の女子生徒からひっきりなしに告白されている。
「うん、ありがとう。そういう真凛はいつにも増して可愛いね」
秋穂が真凛の頬にそっと触れた。
「もー、そういう所ですよ。私まで惚れさせる気ですか?」
そんな秋穂に真凛は頬を膨らませる。
「ごめん。そういうつもりじゃなかったんだけど。ところで、あの子とは知り合い?」
真凛の視線の先にいる明を見て、秋穂が尋ねた。
「あ、はい。名前は陰浦 明。私の幼なじみなんですよ」
「てことは、岡田くん……とも?」
陸斗の名前を口にしただけで頬を赤らめたが、その秋穂の様子に真凛は気づかない。
「はい、私たち三人は生まれた時からの幼なじみなんですよ」
「へぇ、そうなんだ……」
秋穂は自分の知らない、陸斗の過去を知っている真凛のことを少し羨んだ。
周囲の部員たちも「幼なじみなんだー」と明と陸斗に視線を向けた。
「おーい、りくぅー」
「! ……」
明にバッシュを投げ、美緑と一緒にコートの外に出た陸斗を真凛が呼ぶ。
陸斗の名前が呼ばれた瞬間、秋穂は思わず前髪を整え、バレーウェアの裾を直した。
「こんにちは。真凛ちゃん」
「ヤッホー、美緑ちゃん」
呼ばれた陸斗についてきた美緑と真凛が、互いに笑顔で手を振る。
「なんだよ、真凛。今から面白いことが始まるってのに……」
「なんだよとはなによ。その面白いことが気になって、アンタを呼んだんじゃない」
「お! 紅野先輩。相変わらずカッコいいですね」
「……うん。ありがとう……」
真凛のときとは違い、陸斗に全く同じことを言われた秋穂は、無意識的にボールを抱えている腕に力が入った。
「それで、なにが始まるの?」
「あぁ、ひかる先輩との一対一だよ」
「なんで急にそんなことになったの?」
「えーっとなぁ……いろいろあって明が体力測定の時にやらかしてああなった」
「へぇー、そうなんだ~」
「? ……あ、もしかして、岡田くんと小林先生を土下座させた二年生って、もしかしてあの子?」
陸斗の説明になっていない説明を、幼なじみ効果で真凛はすぐに納得したが、秋穂は理解するまで数秒かかった。
「結構尾ひれがついてますけど……。そうです、アイツです」
明と陸斗にとっては、不名誉な噂を耳にしていた秋穂が口に出すと、陸斗が苦笑を浮かべた。
「明らしいと言えばらしいね……。けど、どーせアンタがまた明を怒らせたんでしょ?」
「あ、アレは仕方がなかったんだよ……」
「いえ、あのときは完全に岡田さんが悪いと思います」
言い訳をしようとする陸斗を遮って、美緑が陸斗の所業を告発する。
「ほら、やっぱりアンタが悪いんじゃない。でも、それがなんでバスケ部のキャプテンと1on1をすることになるの?」
真凛の問いを、代わりに秋穂が答える。
「たぶんだけど、さっきの噂と一緒に流れてきたんだけど、体力測定での全記録がウチの学校で一番を記録したって聞いたけど、それじゃないかな?」
「え、本当?」
「……結構尾ひれがついているけど……まぁ、そゆこと。それで目を付けたひかる先輩が明に勝負を挑んだってわけだ」
信じられないという表情で真凛に見られた陸斗は、現状についての補足を付け足す。
「あの、無気力、無表情、無関心、無感情、無慈悲のあの明が体力測定なんかに全力を出すなんて……」
「え……君たちの幼なじみって、ターミネーターかなにかなの?」
あまりにもひどい言われように、秋穂が思わずツッコむ。
「おっ! 始まるみたいだぞ」
四人は今まさに始まろうとしている、明対バスケ部部長の勝負を黙って見守る。
◇ ◇ ◇
「お待たせしました。先輩」
「準備はいいかい!?」
センターラインで俺の準備を待っていた筋肉先輩は、真っ白な歯を見せてくる。
「はい」
他のバスケ部員たちが気を利かせてコートから離れ、残っているのは俺と筋肉先輩の二人だけ。
「それで、先攻はどっちがする!?」
「どっちでもいいですよ。なんなら、じゃんけんで決めますか?」
「わかった。それじゃあ……じゃんけん――」
負けた……。一瞬で終わらせたかったんだけどな。しゃーない。




