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「それじゃあ、早速やろうか!」
「は? なにをですか?」
「そりゃもちろん、1on1をだよ!!」
ボールを脇に抱えて自信に満ちた顔で、そんなことを言ってきた。
「いや、聞いていないですけど……? 見学だけでいいんじゃないんですか?」
「確かに見学しに来ないかとは言ったが、見学だけとは言っていないぞ!?」
この筋肉先輩、脳筋っぽいのに屁理屈を抜かしやがる。
「い――」
「おい、明。ひかる先輩と勝負しないと一生絡まれるぞ。いいからやっとけ」
断ろうとすると、陸斗に耳打ちで悍ましいことを言われる。
「マジかよ……。はぁ……わかりました」
「よし! 決まりだな!!」
筋肉先輩は嬉しそうに白い歯を見せて、無邪気な笑顔を向けてくる。
見たくない、この笑顔……。こんなむさ苦しい筋肉だるまの笑顔なんて見たくない。
「はい。ただ、自分が挑まれた側なんで、条件を呑んでもらいますよ?」
「わかった。いいだろう」
筋肉先輩が快く承諾した。
「それじゃあ、フルコートでお願いします」
「おや? どうしてフルコートなんだい?」
筋肉先輩は、そのガタイに似合わないきょとんと首を傾げる仕草をした。
「それだと、大した条件じゃないと思うけど? むしろ、君の方がきついんじゃないかい?」
「自分にはブランクがあるので、少し、体を慣らしたいんです」
「なるほど」
「それと、これで自分が勝ったら諦めてください。二度と自分を部活に誘わないと約束してください」
「わかった。だが、そんなものでいいのか?」
先輩は、考えていたものより大したことのない条件に、拍子抜けした表情をする。
「はい」
「お、おい、明。もっとハンデを貰っとけよ。ひかる先輩はウチのエースでキャプテンだぞ? さすがに勝てないだろ」
「そうだぞ!? スカウトして、その上勝負を吹っかけておいてなんだが、ブランクのある君では勝てないだろ。なんでも言ってくれたまえ!」
陸斗と筋肉先輩が説得してくる。
まぁ、そう言ってくれるのを想定して、俺は軽い条件を言ったんだがな。
このバカたちには、一生わからないだろう。
「確かにそうですね。それじゃあ、三本先取でいいですか?」
「いいぞ! ……それだけか? もっと条件を付けなくていいのか?」
余裕をぶっこいている熱血先輩に対して、徐々にルールを狭めていく。
「……じゃあ、自分が一回でもゴールに入れたら自分の勝ちでいいですか?」
「んー……まぁ、いいだろう! その代わり、本気でディフェンスするぞ!?」
さすがに厳しいと見たのか、手を抜かないことを宣言するが、俺としてはなんの問題もない。
「はい、構いません。最後に一つだけ」
「なんだい!?」
「さっきも言いましたが、自分は体を慣らしたいので、自分がセンターラインを越えるまで、ディフェンスは禁止でお願いします」
俺が最後の条件を筋肉先輩に提示する。
「それだったら、今から時間をあげるから、慣らしていいぞ?」
「いえ、余計な体力を使いたくないので、大丈夫です」
人の良さが伝わってくるほど、純粋でバ……心優しい先輩が、ありがた迷惑な提案をしてくるが、俺は丁重に断る。
「そうか。わかった」
手筈は整った。これで、俺の勝ちが確定した。
「それじゃあ始めようかぁ!!」
筋肉先輩は、やる気に満ち溢れた目で俺の肩に手を置いた。
「あ、その前に、陸斗、バッシュを貸してくれ。さすがにスリッパではやれないし、体育用のシューズを取りに行くのはだるいから」
「えーマジかよ。せっかく履いたのに……脱ぐのめんどくせーんだよ」
陸斗は渋々バッシュを脱ぎ、投げ渡してくる。
「サンキュー」
バッシュを履いて、ブレザーを脱ぎ、シャツの袖とスラックスを捲った。
部活の準備をしていた他の部員たちは手を止め、1on1が始まろうとしている俺たちに注目する。
◇ ◇ ◇
バレー部が使用中のコートでは、男子部員たちが美緑に見とれている一方、女子たちは、なにかが行われようとしている隣のコートを見ながら、軽くストレッチをしていた。
「あっれー、明じゃん。なんでいんのー?」
ネット越しに明を見つけたバレー部のとある女子部員は、独り言には少し大きな声で、誰もいない場所に疑問を漏らした。
その女子部員の名前は、海藤 真凛。
スポーティなショートカット。
加工や化粧が必要ないほどに長いまつ毛と大きな目。
健康的な肌の色をした活発な印象のスポーツ女子。
水色のTシャツに黒のハーフパンツのバレーウェアを着ており、瑞々しい肢体を露わにしている。
まだ二年生だが、三年生に劣らない実力を示し、次期キャプテンとして部員たちから信頼されている。
そして、裏表のない天真爛漫さと、男女問わず距離が近いため、誰からも好かれている。
真凛の声に、他のバレー部員の視線が一斉に明に集まった。
普段、体育館では見かけない明の姿に、数人が「誰?」と小声でささやく。




