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俺に青春は向いていない  作者: 真面堂 九世
第3章

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6

「それじゃあ、早速やろうか!」

「は? なにをですか?」

「そりゃもちろん、1on1をだよ!!」


 ボールを脇に抱えて自信に満ちた顔で、そんなことを言ってきた。


「いや、聞いていないですけど……? 見学だけでいいんじゃないんですか?」

「確かに見学しに来ないかとは言ったが、見学だけとは言っていないぞ!?」


 この筋肉先輩、脳筋っぽいのに屁理屈を抜かしやがる。


「い――」

「おい、明。ひかる先輩と勝負しないと一生絡まれるぞ。いいからやっとけ」


 断ろうとすると、陸斗に耳打ちで悍ましいことを言われる。


「マジかよ……。はぁ……わかりました」

「よし! 決まりだな!!」


 筋肉先輩は嬉しそうに白い歯を見せて、無邪気な笑顔を向けてくる。

 見たくない、この笑顔……。こんなむさ苦しい筋肉だるまの笑顔なんて見たくない。


「はい。ただ、自分が挑まれた側なんで、条件を呑んでもらいますよ?」

「わかった。いいだろう」


 筋肉先輩が快く承諾した。


「それじゃあ、フルコートでお願いします」

「おや? どうしてフルコートなんだい?」


 筋肉先輩は、そのガタイに似合わないきょとんと首を傾げる仕草をした。


「それだと、大した条件じゃないと思うけど? むしろ、君の方がきついんじゃないかい?」

「自分にはブランクがあるので、少し、体を慣らしたいんです」

「なるほど」

「それと、これで自分が勝ったら諦めてください。二度と自分を部活に誘わないと約束してください」

「わかった。だが、そんなものでいいのか?」


 先輩は、考えていたものより大したことのない条件に、拍子抜けした表情をする。


「はい」

「お、おい、明。もっとハンデを貰っとけよ。ひかる先輩はウチのエースでキャプテンだぞ? さすがに勝てないだろ」

「そうだぞ!? スカウトして、その上勝負を吹っかけておいてなんだが、ブランクのある君では勝てないだろ。なんでも言ってくれたまえ!」


 陸斗と筋肉先輩が説得してくる。

 まぁ、そう言ってくれるのを想定して、俺は軽い条件を言ったんだがな。

 このバカたちには、一生わからないだろう。


「確かにそうですね。それじゃあ、三本先取でいいですか?」

「いいぞ! ……それだけか? もっと条件を付けなくていいのか?」


 余裕をぶっこいている熱血先輩に対して、徐々にルールを狭めていく。


「……じゃあ、自分が一回でもゴールに入れたら自分の勝ちでいいですか?」

「んー……まぁ、いいだろう! その代わり、本気でディフェンスするぞ!?」


 さすがに厳しいと見たのか、手を抜かないことを宣言するが、俺としてはなんの問題もない。


「はい、構いません。最後に一つだけ」

「なんだい!?」

「さっきも言いましたが、自分は体を慣らしたいので、自分がセンターラインを越えるまで、ディフェンスは禁止でお願いします」


 俺が最後の条件を筋肉先輩に提示する。


「それだったら、今から時間をあげるから、慣らしていいぞ?」

「いえ、余計な体力を使いたくないので、大丈夫です」


 人の良さが伝わってくるほど、純粋でバ……心優しい先輩が、ありがた迷惑な提案をしてくるが、俺は丁重に断る。


「そうか。わかった」


 手筈は整った。これで、俺の勝ちが確定した。


「それじゃあ始めようかぁ!!」


 筋肉先輩は、やる気に満ち溢れた目で俺の肩に手を置いた。


「あ、その前に、陸斗、バッシュを貸してくれ。さすがにスリッパではやれないし、体育用のシューズを取りに行くのはだるいから」

「えーマジかよ。せっかく履いたのに……脱ぐのめんどくせーんだよ」


 陸斗は渋々バッシュを脱ぎ、投げ渡してくる。


「サンキュー」


 バッシュを履いて、ブレザーを脱ぎ、シャツの袖とスラックスを捲った。

 部活の準備をしていた他の部員たちは手を止め、1on1が始まろうとしている俺たちに注目する。



 ◇ ◇ ◇



 バレー部が使用中のコートでは、男子部員たちが美緑に見とれている一方、女子たちは、なにかが行われようとしている隣のコートを見ながら、軽くストレッチをしていた。


「あっれー、明じゃん。なんでいんのー?」


 ネット越しに明を見つけたバレー部のとある女子部員は、独り言には少し大きな声で、誰もいない場所に疑問を漏らした。


 その女子部員の名前は、海藤 真凛(かいどう まりん)

 スポーティなショートカット。

 加工や化粧が必要ないほどに長いまつ毛と大きな目。

 健康的な肌の色をした活発な印象のスポーツ女子。

 水色のTシャツに黒のハーフパンツのバレーウェアを着ており、瑞々しい肢体を露わにしている。

 まだ二年生だが、三年生に劣らない実力を示し、次期キャプテンとして部員たちから信頼されている。

 そして、裏表のない天真爛漫(てんしんらんまん)さと、男女問わず距離が近いため、誰からも好かれている。


 真凛の声に、他のバレー部員の視線が一斉に明に集まった。

 普段、体育館では見かけない明の姿に、数人が「誰?」と小声でささやく。

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