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俺に青春は向いていない  作者: 真面堂 九世
第3章

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18/55

5

「たっだいまー」


 よりによって、今、一番この場所に来てほしくないやつが、売店から上機嫌に帰ってきた。


「ん? どうしたんだ、みんな? って、ひかる先輩じゃないですかー。どうしたんですか?」

「おぉ、岡田くんか! いやなに、噂の陰浦 明くんを探しに来たのだが、どうやらこの浦島くんと間違ったみたいなんだ! いやー申し訳ないことをした」


 陸斗が、俺と筋肉先輩を交互に見た。

 俺は、なんとか話を合わせてくれと陸斗に目配せをするが、陸斗は意地の悪い笑みを浮かべた。

 まずい、やっぱり駄目だったか。クソッ、どうにかして逃げないとな。

 筋肉先輩の意識が、陸斗に向いている今がチャンスだと思い、気づかれずに立ち去ろうとするが。


「なにを言っているんですか先輩。そいつが陰浦 明ですよ」


 案の定、陸斗が俺の嘘をばらした。

 その瞬間、筋肉先輩は背後を通ろうとした俺の腕をノールックで掴んできた。


「!?」

「なんだ、やっぱり君が陰浦くんだったんじゃないか!! どうして嘘をついたんだい!? 嘘は良くないよ!」


 俺の腕を掴んだ手の握力が増す。

 ギシッと骨がきしむような音がした気がした。

 イッテー。この人、相当握力が強い……折れるっ。


「まぁまぁ、ひかる先輩、落ち着いてください。今日は明に話があって来たんですよね?」

「おぉ! そうだった、そうだった!」


 「悪かった」と言って手を離した俺の腕には、くっきりと手の跡が残っていた。

 ……ホラー映画かよ。


「どうだい? 陰浦 明くん! バスケ部に——」

「嫌です」

「ハハハッ! そうだな! 急に言われても困るよな! じゃあ、まず、見学からでもどうだい!? 一度見学してくれたら絶対に入りたくなるよ! 俺たちは本気で取り組んでいるからね」


 ……やっぱり、既視感がある。


「やめときます。勉強に集中したいので……。自分、頭が悪いので、毎日授業について行くだけで精一杯なんですよ。必死で先生の話を聞いていても足りないから、放課後も勉強しないといけないんですよ」

「「ブフッ‼」」


 陸斗が思わず吹き出し、それに隠れて優等生も小さく吹き出す。


「確かに勉学は大事だな! だが! 一日、んーそうだなぁ、今日の放課後、少しだけでも時間をくれないかい? それでダメだったら諦める!」

「はぁ……。わかりました。今日だけですよ」

「あぁ! ありがとう!! では、また放課後に!!」


 ここでバッサリ断ってもいいのだが、こういう人は断っても毎日来るタイプの人間だ。めんどくさいが、今日行けば諦めてくれるのなら、先に終わらせてしまおう。

 筋肉先輩は、「やったぞ!」とガッツポーズして、ご機嫌で教室を出ていった。

 俺は自分の席に戻り、今度は違う理由で倒れるように机に体を預けた。


「相変わらず息をするように嘘をつくよな、お前って。思わず吹き出してしまったじゃねーか」

「本当ですよ。それに誰ですか? 山浦って……」


 陸斗と優等生が揃って呆れる。


「吹き出すなよきたねーな」

「きたっ……」

「俺はあくまで自己防衛のために嘘をついただけだ。誰も傷ついてねーだろ?」


 落ち込んでいる優等生のことなんて気にも留めず、放課後のことを考えただけで、机に突っ伏したくなる。


「ま、頑張れよ。俺としては、お前とまたバスケをできるなら嬉しいんだけどな」

「勘弁してくれ」


 喉を通らない昼飯をなんとか完食した。

 放課後に向け、五、六時限目で体力を温存させるために、俺は自分の机に体を預ける。



 ◇ ◇ ◇



 放課後、体育館前。

 開いている大扉から見つからないように中を覗く。

 でかい体育館をバスケ部とバレー部で半分ずつ使っており、ボールが飛び出していかないように巨大な防球ネットで真ん中を区切っていた。


 まだ部員は全員集まっておらず、一年生は練習の準備。二、三年生はシュート練習や1on1をしていた。

 体育館の中は、床を踏むバッシュのキュッという音と、ドンッ、ドンッとボールが弾む音が混じり合っていた。

 熱気を帯びた空気とともに、運動部特有のむわっとした汗臭さが漂ってくる。

 はぁ……ついここまで来てしまったけど、やっぱり帰ろうかなぁ。めんどくさい……。


「入らないのですか?」

「……。なんでここにいるんだ? ウチの学校のアイドル?」


 体育館の中を覗く俺の肩から、整った顔を出す優等生に対して、嫌味を含めて問い返す。


「え、駄目ですか?」

「いや、ダメってことはないが、見学だけだから面白くないと思うぞ?」

「まぁまぁ、いいじゃないですか。さ、入りましょ」


 優等生に背中を押されて、二人で体育館に入ってしまった。

 急に体育館に美少女が現れたことで、バスケ部とバレー部の男子部員たちの視線が一斉にこちらに集まる。

 「誰だよあの子……」「ヤベッ、夏葉さんじゃね?」「めっちゃ可愛いな」と小声が飛び交い、男子たちはボールを持ったまま、優等生に見とれていた。


「よぉ、明。ようやく来たか。あ、夏葉さんも来たんだ」

「はい、なんだか気になってしまって」


 座ってストレッチをしながら一年生と話していた、黒のTシャツと白のパンツのバスケウェアの陸斗に見つかった。


「やぁ! 待っていたよ!!」


 そして、シュート練習をしていた上下真っ赤のバスケウェアの筋肉先輩にも見つかった。

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