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夕食後、リビングの三人掛けのソファでくつろぐ俺とゴリラは、テーブルを挟んだ先のテレビを見ていた。
正確には、ソファの端で座っている俺の腿の上に、ゴリラが足を投げ出してくつろいでいた。
「アンタ、女のこと、なんにもわかっていないようだから教えたげる」
「いいよ別に、キョーミないし」
「ダメ、聞きなさい」
断ると、酒を飲みながらあたりめを食いちぎるゴリラが足で攻撃してくる。
「アンタ、こういう風に、気軽に女の子に触ったり、頭を撫でたりしたらダメよ?」
テレビ画面の中で、笑顔の人気俳優が女性ファンの頭を撫でていた。
歓声、悲鳴、涙、ハグ。
女性ファンの感情は大忙しだ。
対して、その光景に腹を立てているゴリラは、足で俺を攻撃してくる。
痛い……。
「でもあれだろ? 『ただしイケメンに限る』っていうやつだろ?」
「はぁ……アンタ、やっぱり女の気持ちをなんにもわかっちゃいないわねぇ」
普段から人の気持ちを踏みにじる暴君なゴリラに、呆れられてしまった。
「いい? これが許されるのは、女の子が本気で好きな相手か、コレみたいにファンの頭を撫でるイケメン俳優やイケメンアイドルだけよ。しかも相手がファンだから成立しているの。どんなにイケメンでも、ファンじゃない子にやったら本気で気持ちが悪いからね」
「へぇー」
「逆に言えば、頭を許した子って言うのは、結構脈ありよ。ま、アンタには一生縁がないでしょうけどね」
「ソーダナ」
テキトーに終わらせようとするが、話はまだ続く。
「あぁ、それとね、女の子は大抵、髪をセットしているものだから、気軽に触っちゃダメなの。わかる?」
「へぇー」
「それを知らずに、あんのナルシストども……。チッ、思い出したら腹が立ってきた。明! アルコールが強いものを一本持ってきなさい!」
昔、相当嫌なことがあったのだろう。触らぬ死神に祟りなしだな。
そう思い、口答えせずに冷蔵庫からキンキンに冷えたストゼロを持ってくる。
□ □ □
俺の回想を聞き終えた優等生は苦笑いを浮かべた。
「アハハ……。まぁ、極端すぎるかもですが、お姉さんの言ったことは、大体合っていますね」
「だろ? だからやんない」
断られた優等生はぷくっと頬を膨らませてぼやく。
「えー、ケチー」
「お、着いたな。それじゃあな」
「次こそは撫でてもらいますからねー」
電車がタイミングよく俺の降りる駅に着いた。
聞こえないふりを決め込み、俺は逃げるように電車を降りた。
◇ ◇ ◇
「今日はここまでよ。宿題、忘れないでね」
四限の終了のチャイムが鳴り、クラスメイトたちは一斉に肩の力を抜いてだらけ始めた。
昼飯の準備をするやつもいれば、一部の運動部たちは売店へ向かって勢いよく走り出した。
「あー、ねみぃー」
俺がこの学校において、なによりも信頼している机に体を預けていると、隣の席の優等生から呆れられる。
「なにをおっしゃっているのですか。朝のホームルームから今までずっと寝ていたじゃないですか……」
「まだまだ寝足りない……」
いまだ襲ってくる眠気に抗いつつ目を擦る。
「昨日は夜更かしでもしたのですか?」
「いや、いつも通――」
俺もバッグから弁当を取り出して、昼飯を食べようとすると――。
「なぁ! 君!! このクラスに『陰浦』という名の男子生徒はいるかい!?」
俺を含めた教室にいるクラスメイトたちは、バカでかい声に反応して声の主を見た。
すると、教室の扉付近で背の高い男子生徒が、教室から出ようとしていた女子に尋ねていた。
「陰浦」という名前を聞いたクラスメイトたちは、もれなく俺を見る。
みんなの視線を辿ったその男子生徒は、俺を見つけるや否や、ずんずんと近づいてきた。
俺の目の前にやってきた男子生徒は、どうやら三年生のようだ。
スポーツ刈りに焼けた肌。そこに真っ白な歯を見せる笑顔。
身長は百八十五センチくらいで、半袖から生えている腕は、目に見えてわかるくらいの筋肉質だ。たぶん運動部にでも入っているのだろう。
あれ? なんかデジャブ……?
「君が陰浦 明くんかい!?」
近くで聞くと余計うるさいな。
……それにしてもこの人、なんか見覚えがあるような気がする。
「いえ、違います。自分の名前は山浦です。同じ『浦』だからみんな聞き間違えたんじゃないですか? ウチのクラスに『陰浦』なる生徒はいません」
クラス全員が「いやいやいや」と目で突っ込む中、俺だけは平然とお茶を飲んでいた。
「ほう! なるほど! 浦島くんだったか!!」
うん、違うね。
「それはすまなかった! ではな!!」
俺のでまかせに気づかない筋肉先輩は、踵を返して俺の前から離れようとした瞬間――。




