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「うふふ。そうなのですね」
「そうそう。結構、話合うじゃん」
俺の前では、ギャルと優等生が楽しそうに話し、すっかり打ち解けていた。
一方、俺と厨二メガネは物理的にも心情的にも距離が開いたままだ。
俺の後を歩いている厨二メガネは、ブツブツ言ってはなんらかのポーズを構える。
それを繰り返して、時折、寂しそうな視線を俺に送る。
はぁ……。しょうがねーなー。
「なぁ」
「ひ、ひゃい!」
声が裏返った厨二メガネは身構えて防御態勢に入った。
その拍子に、ポケットからスマホが転がり落ち、俺の足元まで転がってきた。
「安心しろよ、なにもしないから」
足元に転がってきたスマホを拾うと、女性キャラクターがプリントされたスマホケースを付けていた。
ん? これは……。
スマホを持ち、俺が近づくごとにポーズを何度も変える厨二メガネにスマホを返す。
「ごめん、驚かせたみたいで。ほら、スマホ」
「あ、あああああありがとな」
「なぁ、コレって、今期のアニメのヒロインだよな?」
「『授業中に教室で偶然目があっただけなのに、放課後、学年一の美少女に「ねぇ、私の彼氏になってくれない? 練習だから」って言われて始まった偽装恋人ごっこが始まった。いつの間にか本気になってきてる気がするけど、実はその子と以前からの知り合いで婚約者だったと突然知らされる。しかもそのせいで美形先輩、美人教師、地味系後輩まで巻き込んだ恋愛戦争が始りそうな予感しかしない件』を知っているのか!?」
厨二メガネが一息で、アニメのタイトルを噛まずに早口で言い切った。
「長ぇな。そんなタイトルだったのか? てかもうそれあらすじじゃん」
正式名称を聞くと、余計におもんなさそうに感じるな。
「まさかこんなところに同志がいたとは……」
やはり、俺がアニメを見ているのが意外だったのか、目を輝かせてジリジリと近寄ってくる。
「ま、まぁな。中学の頃の友達の影響でな……」
記憶の奥に押し込めていた光景が、ノイズ交じりに脳裏をよぎる。
「そうなのか。ところでお主」
「お主……?」
「お主の推しのヒロインはどの娘なのだ?」
「いや、別にそういうのはいないな」
「なにを恥ずかしがっておるぅー。我らの仲ではないかぁー」
仲もなにもまだ話し始めて一分も経っていないけど。
「あー、じゃあ、強いて言うなら、ちょっとメインから外れるけど、幼馴染のやつかな?」
「ほーーう。みーちゃん派かー。へぇー、ほぉー、なるほどなるほどぉ」
「あちゃー、そうきたかー」と、自分のデコをペシッと叩いたかと思いきや、今度はニヤニヤと俺を値踏みしてくる。
「そんなに変わった答えか?」
「いーやぁー? なんでもないですぞぉー? プフフフ…」
ムカついた俺は、歩くスピードを速めた。
「待ちたまえよ陰浦氏ー」
* * *
駅に到着し、帰る方向の違うギャルと厨二メガネとは別れ、俺と優等生は昨日と同じ座席に座った。
「陰浦さんがお二人と仲良くなられて本当に良かったです」
「クセの強い二人だったがな」
「た、確かにそうでしたけど、陰浦さんも結構クセ強いですよ」
「だろうな、まぁ、自覚はしてる」
今まで家族にも友人にも言われてきたから自覚する他ない。
「それにしても、あの……えーっと、……ギャルと厨二メガネは相性が悪そうだな」
やはり人の名前が覚えられない俺に、優等生がため息をついて呆れる。
「……やっぱり、お二人の名前を覚えていなかったのですね?」
「いや、まだ会って数日しか経ってないし、あいつらとは今日初めて話したから仕方なくね?」
「それでは、お話しすることが初めてではない、私の名前は覚えていますよね? ……まさかとは思いますけど、忘れているなんてことはないですよね?」
隣に座っている優等生に胡乱な目で見られる。
「もちろん覚えているよ。あれだろ? あのー、……あ、あ、愛沢 桜だろ?」
「……どなたですかその方? 一文字も合っていないじゃないですか。夏葉 美緑ですよ」
「あぁ、そうだったっけ? ごめん、夏葉」
「えー、美緑って呼んでいただけないのですかー?」
小首をかしげ、わざとらしく上目遣い。
「また、付き合っているって誤解されるぞ?」
「いいじゃないですか。なんでしたら、本当にお付き合いしてみますか? 私、陰浦さんのこと……結構……好きですよ?」
またコイツは変なことを言ってくる。俺でなきゃ落ちちゃうだろうな。
「やめてくれ、そんなことをしたら、ファンたちに殺される。そういうことは、本気で俺のことを好きになってから言ってくれ」
「えー、女の子の私に告白させる気ですか?」
「今の時代、そういうの関係ないと思うぞ。それに、少なくとも今の俺は、誰かを好きになることは絶対にないからな」
「ふふっ、なんですかそれ。でも、今日、黄倉先輩に求められたときは、まんざらでもない感じでしたけど?」
三年生との顔合わせで、終始猫先輩に頭を撫でろと催促されていた。
「あー、あれな。なんだかあの先輩が、昔ウチで飼っていた猫に雰囲気がそっくりなんだよ」
「猫ちゃん、ですか?」
優等生が不思議そうに首をかしげる。
「あぁ、うちの猫も、よく膝の上に乗ってきて撫でろと催促してきたからな。それに、なんとなく、撫でた感じも似ていたな」
猫先輩を撫でていると、昔飼っていた猫を思い出す。
茶トラで、首元から腹にかけて白い毛並みをしていた。
少し小柄で人懐っこい猫だった。
撫でると、気持ちよさそうに目を細めて、膝の上で丸まって寝ている猫と一緒に俺もまどろんでいた。
あの頃が懐かしい……。
今思えばあの頃が、一番穏やかな時間だったかもしれない。
「……なにやってんの?」
少し感傷に浸っていると、優等生がかしげていた首を、俺の方に倒し、頭を差し出してきた。
「私の頭も撫でてみてください」
「……は?」
「撫でてください」
なにを言っているんだコイツは?
「いや、女子って、気安く頭を触られたくないんだろ?」
「え? それはどなたが言ったのですか?」
「俺の姉貴だよ」
過去に姉貴から聞かされた話を優等生に話す。




