1
「えーっと、まぁ、しゃーねーな。じゃあ、お前ら四人とも、うちの生物部に入っていいぞ」
体力測定が終わった放課後、昨日の始業式に集められた四人が呼ばれ、それぞれの記録用紙を眺めて担任が気だるげに言う。
「んー、だけどなぁー。陰浦、お前の記録なんだが、体育館での競技は平均より少し上くらいだが、グラウンドでやったのは飛び抜けているからなぁ……むしろ学校一レベルで……」
担任が俺の記録用紙を取り出した。
「やっぱり、運動部に入ったほうがいいんじゃねーか?」
「マジで嫌です!」
担任に運動部を勧められるが、きっぱりと断る。
「……わかったよ。俺は嫌がる生徒には無理強いはしないからな」
担任が記録用紙をトントンと教卓で整え、話を切り替えた。
「これから生物部の三年生と顔合わせをするから、生物室に集合してくれ。俺は一旦職員室に行くから先に行っててくれ」
担任が教室を出て行くのを確認した俺たち四人は、自分たちの荷物を持ち、教室棟の隣にある特別棟の生物室へ向かった。
生物室に着き、優等生を筆頭に扉を開けて中に入る。教室には男子一人、女子二人の三年生がいた。
「おや!? 君たちか! 生物部の新しい仲間というのは! ようこそ!! 歓迎するよ! 俺は熱尾 太陽! よろしくな!!」
あ、この人、苦手だ。
スポーツ刈りに焼けた肌。そこに真っ白な歯を見せる笑顔。
身長は百八十五センチくらいで、半袖から生えている腕は、目に見えてわかるくらいの筋肉質だ。たぶん運動部にでも入っているのだろう。
俺みたいな陰キャは、こういう、「ザ、熱血」とは相性が悪すぎるんだよなあ……。
俺が一番避けたいタイプ。
ただでさえ強制的に入れられたし、初っ端から熱血で脳筋臭全開の部員。
やめようかな? この部活。
「「「「……」」」」
「なんだなんだ!? 元気がないぞぉ?」
「うっせーぞ、この脳筋バカ」
「バカとはなんだバカとは!! 赤城 紅葉くん!」
「脳筋は否定しねーのかよ。てか、フルネームでアタシの名前を呼ぶな!」
熱血先輩と、口の悪いもう一人の先輩が言い争う。
いかにも問題児というような感じの先輩女子だ。にしても目つきが悪いな。
雑に結んだポニーテール。
鋭い目つきで熱血先輩を睨む。
腰には灰色のカーディガンを結び、シャツの袖を腕まくりしている。
シャツのボタンを胸元まで外し着崩しているせいで、谷間が見えていた。
オタクメガネは少し背伸びしたり、顔の角度を変えたりして、どうにかして気づかれずに胸を覗こうと鼻息を荒くしている。
「フースー、フースー……」
バレバレだぞ、メガネくん。
机に伏せて寝ていたもう一人の小柄な先輩が、パッと起き上がった。
その先輩は、俺たち新入部員をくりっとした大きな目でジーっと見てくる。
座っていた椅子から飛び降り、パタパタとスリッパを鳴らして、小動物のように小走りで近づいてくる。
近づいてきた先輩は、ギャルの目の前で立ち止まり、もう一度顔をジーっと見上げる。
「……」
「え、なになに?」
見定め終わった先輩は、ギャルの手を取り、自分の頭に乗せて吟味し始めた。
「……」
「え、本当になんなの? ……イタッ!?」
より戸惑うギャルをよそに、ブカブカの制服姿の先輩は頭に乗せたギャルの手をペシッと叩き、猫のように「シャーッ」と威嚇した。
次は優等生の目の前に移動した。
「なんだか緊張しますね」
先輩は、少しワクワクしている優等生の手を取り、頭に乗せた。
すると、今度はなにかがよかったのか表情が和らいだ。
「なにかわからないですけど、合格ですか?」
和らいだ表情はすぐに元に戻り、また猫のように威嚇した。
「痛い。……なにが駄目だったのでしょうか?」
優等生の疑問に答えず、隣にいるオタクメガネの前に移動する。
「フッ……。次はボクの番ですか……。まぁ? 選ばれし者のボクが選ばれて当然ですけど……」
ほんのり汗をかいたオタクメガネが、わけのわからない厨二っぽい発言をし、女子にさわれると思い込んで手を浮かせて待っていた。
「え……?」
女子二人と違って、オタクメガネはフイッと素通りされてしまった。
浮かせていた手だけが、むなしく宙に残った。
「……」
「……?」
オタクメガネを素通りしたちっこい先輩は俺の前まで来て、数秒間見つめ合う。
すると——。
「……なでて」
「え? あ、はい……」
上目づかいで猫のように頭を差し出され、俺は自分でもわからず、なぜか先輩の頭を撫でてしまった。
頭を撫でると、先輩の表情が気持ちよさそうに綻ぶ。
癖ッ毛のショートカットで、モフモフした髪を撫でていると、なんだか昔飼っていた猫を思い出す。
「すまん遅くなった。お、珍しいな。黄倉が初対面のやつに懐くなんて。って、そんなことより紹介するからお前ら座れ」




