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俺に青春は向いていない  作者: 真面堂 九世
第2章

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13/55

5

「よーい……」


ピッ!!


 ガヤガヤとしていた空気が、一瞬で張り詰めた。


「フゥ……。……フッ!」


 一投目。

 トントンと軽くボールをドリブルさせ、円からはみ出ないように二、三歩助走をつけてボールを投げた。

 投げたボールは山なりの軌道を描き落下した。


「おーい、明ー。五十メートルしか届いてねーぞー。アハハハ。それだと、俺に勝つどころか女子の記録にすら負けんじゃねーのか? あーあ、これは、陰浦 明くんはバスケ部に入部かなぁー。アーハッハッハ!」


 陸斗が俺をおちょくりながらボールを俺へ投げ返す。


「本当か? 陰浦。サボるなよ? ……って、おいおい、先生を睨むなよ。おれ、泣いちゃうぞ?」


 担任を一瞥すると、目尻に水分を含ませて泣き言を言うが、今の俺に、構ってられる余裕はない。

 チッ……さっきといい、今といい、本当にムカつくな……。

 苛立ちをぶつけるように、ボールを地面へと突く。

 ダンッ、ダンッ、と、明らかに先程までとは違う暴力的な音が激しく鳴り響いた。

 陸斗以外の連中が、俺がキレていると察して怯え始める。

 自分でも珍しいくらい、結構頭にきていることを自覚する。


 そんな中、体育館からぞろぞろと三年たちが出てきた。

 三年たちの話し声に気づいた陸斗は、振り向いてバスケ部の先輩を見つけた。


「お! せんぱーい。もう終わったんですかー?」


 陸斗は俺に背中を晒し、先輩に向かって大きく手を振る。

 俺の準備が出来たことを、担任に目で合図する


「よーい……」


ピッ!!


 担任がホイッスルを吹く。


「先生」

「なんだ?」


 ボールを投げる前に、担任にある質問を投げかける。


「これで自分が本気出したら、運動部に入らなくていいんですよね?」

「んー、まぁ、そうだな」

「わかりました……」


 担任に最終確認兼、言質を取り、投げる準備をする。

 さっきと同じように、数回ドリブルをして二、三歩助走をつけて投げる。


「フゥーー……。……死ねぇ!!」


 二投目。

 違ったのは、ボールに込めたありったけの力と、殺意だけだ。

 届け、俺の想い。

 腕を振り切った瞬間、風を裂く音が耳を打った。まるで砲弾が射出されたように、ボールは一直線に突き進んでいく。

 スピードも落ちる気配がない。


「おぉ、スゲーな! まるでレーザービームだな……」


 担任が驚く。

 しかし、ボールが一直線に進む進行方向は、陸斗の後頭部。


「おい! やべーぞ! 岡田避けろ!!」


 それに気づいた担任は、陸斗に避けるように叫ぶが、もう遅い。


「へ? えっ!? ぶへぇっ……」

「おかだぁぁぁーーーー!」


 変な声と共に吹き飛んだ陸斗は、転がって仰向けに倒れた。

 陸斗のもとまで駆け寄った担任は、陸斗の頬を軽く叩いて生存確認をした。


「おい、大丈夫か? 岡田ー。おーい……」

「……」


 返事がない。


「クソッ、ダメか……」


 担任は目を閉じて悔しそうに顔をしかめる。


「大丈夫ですよ、先生。コイツは頑丈ですから。それに、コイツはもう起きてますよ」


 陸斗の丈夫さを知っている俺は、自分で投げたボールを取って、陸斗の下手な演技を見破る。


「……」


 どうやら陸斗は、このまま狸寝入りを決め込むつもりみたいだ。


「はぁ……。おい陸斗! 向こうで三年の女子の着替えを覗けるらしいぞ!!」

「「なにぃ! どこだそこ!?」」


 勢いよく起き上がった陸斗と担任が、声を揃えて必死にあたりを見回した。


「アホだろコイツら……」

「……いや、違うぞ? 俺は教師として、覗きに行く生徒たちがいたら、注意をしに行くためにだな…………本当だぞ?」

「おい! 明、どこだよ!! 覗ける場所って!?」


 言い訳がましい担任と、覗きに行く気満々の陸斗。

 やっぱりアホだなコイツら。


「それより、先生。俺の記録はコイツの倒れていたこの七十三メートルでいいですよね? それと、運動部に入部って話もなしって事でいいですよね」

「いや、それは……」


 俺の問いに、担任が少し渋る。


「そうだぞ、ノーカンだぞ。ノーカン、ノーカン」


 陸斗が必死に同調する。


「先生? 本来、陸斗がいなければ、もっと記録は伸びていたはずです。それに、『これで自分が本気を出したら』って言ったはずなんですけど……」

「うぐっ……」


 言質を取られていた担任が、悔しそうに呻く。


「へぇ、ノーカンかぁ……。じゃあ、陸斗、それに先生。今度は二人で俺の測定係やってくださいね? 今度は、さっき以上に本気で投げてくるんで…………今度こそ息の根を止めてやる……」


 ボールを持ち、投球位置に戻りながら、もう一度殺意を纏い直す。


「わ、悪かった陰浦。で、でも、俺は必要ねーんじゃねーか?」

「え、ちょっ、先生? 俺がまたアレを食らえと 今度はマジで死ぬ……」

「……で?」


 焦る担任と陸斗へ、振り向く。


「もうやらなくていいです。いや、やめてください。お願いします。」

「調子に乗ってすみませんでした明様。これ以上食らったらアンパンマンみたく頭とボールが入れ替わっちゃうから、マジでやめてください。お願いします」


 俺の問いかけに、いまだにビビる担任と陸斗は、俺に向って深く頭を下げた。

 俺は、憂さ晴らしを含めた脅しをすることによって、今度こそ殺意を引っ込めることが出来た。


 だが、この光景を見ていた同級生や、測定が終わって体育館から出てきていた三年生、教師たちからは、「クラスメイトに故意にボールをぶつけて、頭を下げさせる危険人物」として認識されてしまった。

 そして、今、学校に不在の一年生にまで、尾ひれ付いて噂が伝わるのも、時間の問題だった。

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