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「よーい……」
ピッ!!
ガヤガヤとしていた空気が、一瞬で張り詰めた。
「フゥ……。……フッ!」
一投目。
トントンと軽くボールをドリブルさせ、円からはみ出ないように二、三歩助走をつけてボールを投げた。
投げたボールは山なりの軌道を描き落下した。
「おーい、明ー。五十メートルしか届いてねーぞー。アハハハ。それだと、俺に勝つどころか女子の記録にすら負けんじゃねーのか? あーあ、これは、陰浦 明くんはバスケ部に入部かなぁー。アーハッハッハ!」
陸斗が俺をおちょくりながらボールを俺へ投げ返す。
「本当か? 陰浦。サボるなよ? ……って、おいおい、先生を睨むなよ。おれ、泣いちゃうぞ?」
担任を一瞥すると、目尻に水分を含ませて泣き言を言うが、今の俺に、構ってられる余裕はない。
チッ……さっきといい、今といい、本当にムカつくな……。
苛立ちをぶつけるように、ボールを地面へと突く。
ダンッ、ダンッ、と、明らかに先程までとは違う暴力的な音が激しく鳴り響いた。
陸斗以外の連中が、俺がキレていると察して怯え始める。
自分でも珍しいくらい、結構頭にきていることを自覚する。
そんな中、体育館からぞろぞろと三年たちが出てきた。
三年たちの話し声に気づいた陸斗は、振り向いてバスケ部の先輩を見つけた。
「お! せんぱーい。もう終わったんですかー?」
陸斗は俺に背中を晒し、先輩に向かって大きく手を振る。
俺の準備が出来たことを、担任に目で合図する
「よーい……」
ピッ!!
担任がホイッスルを吹く。
「先生」
「なんだ?」
ボールを投げる前に、担任にある質問を投げかける。
「これで自分が本気出したら、運動部に入らなくていいんですよね?」
「んー、まぁ、そうだな」
「わかりました……」
担任に最終確認兼、言質を取り、投げる準備をする。
さっきと同じように、数回ドリブルをして二、三歩助走をつけて投げる。
「フゥーー……。……死ねぇ!!」
二投目。
違ったのは、ボールに込めたありったけの力と、殺意だけだ。
届け、俺の想い。
腕を振り切った瞬間、風を裂く音が耳を打った。まるで砲弾が射出されたように、ボールは一直線に突き進んでいく。
スピードも落ちる気配がない。
「おぉ、スゲーな! まるでレーザービームだな……」
担任が驚く。
しかし、ボールが一直線に進む進行方向は、陸斗の後頭部。
「おい! やべーぞ! 岡田避けろ!!」
それに気づいた担任は、陸斗に避けるように叫ぶが、もう遅い。
「へ? えっ!? ぶへぇっ……」
「おかだぁぁぁーーーー!」
変な声と共に吹き飛んだ陸斗は、転がって仰向けに倒れた。
陸斗のもとまで駆け寄った担任は、陸斗の頬を軽く叩いて生存確認をした。
「おい、大丈夫か? 岡田ー。おーい……」
「……」
返事がない。
「クソッ、ダメか……」
担任は目を閉じて悔しそうに顔をしかめる。
「大丈夫ですよ、先生。コイツは頑丈ですから。それに、コイツはもう起きてますよ」
陸斗の丈夫さを知っている俺は、自分で投げたボールを取って、陸斗の下手な演技を見破る。
「……」
どうやら陸斗は、このまま狸寝入りを決め込むつもりみたいだ。
「はぁ……。おい陸斗! 向こうで三年の女子の着替えを覗けるらしいぞ!!」
「「なにぃ! どこだそこ!?」」
勢いよく起き上がった陸斗と担任が、声を揃えて必死にあたりを見回した。
「アホだろコイツら……」
「……いや、違うぞ? 俺は教師として、覗きに行く生徒たちがいたら、注意をしに行くためにだな…………本当だぞ?」
「おい! 明、どこだよ!! 覗ける場所って!?」
言い訳がましい担任と、覗きに行く気満々の陸斗。
やっぱりアホだなコイツら。
「それより、先生。俺の記録はコイツの倒れていたこの七十三メートルでいいですよね? それと、運動部に入部って話もなしって事でいいですよね」
「いや、それは……」
俺の問いに、担任が少し渋る。
「そうだぞ、ノーカンだぞ。ノーカン、ノーカン」
陸斗が必死に同調する。
「先生? 本来、陸斗がいなければ、もっと記録は伸びていたはずです。それに、『これで自分が本気を出したら』って言ったはずなんですけど……」
「うぐっ……」
言質を取られていた担任が、悔しそうに呻く。
「へぇ、ノーカンかぁ……。じゃあ、陸斗、それに先生。今度は二人で俺の測定係やってくださいね? 今度は、さっき以上に本気で投げてくるんで…………今度こそ息の根を止めてやる……」
ボールを持ち、投球位置に戻りながら、もう一度殺意を纏い直す。
「わ、悪かった陰浦。で、でも、俺は必要ねーんじゃねーか?」
「え、ちょっ、先生? 俺がまたアレを食らえと 今度はマジで死ぬ……」
「……で?」
焦る担任と陸斗へ、振り向く。
「もうやらなくていいです。いや、やめてください。お願いします。」
「調子に乗ってすみませんでした明様。これ以上食らったらアンパンマンみたく頭とボールが入れ替わっちゃうから、マジでやめてください。お願いします」
俺の問いかけに、いまだにビビる担任と陸斗は、俺に向って深く頭を下げた。
俺は、憂さ晴らしを含めた脅しをすることによって、今度こそ殺意を引っ込めることが出来た。
だが、この光景を見ていた同級生や、測定が終わって体育館から出てきていた三年生、教師たちからは、「クラスメイトに故意にボールをぶつけて、頭を下げさせる危険人物」として認識されてしまった。
そして、今、学校に不在の一年生にまで、尾ひれ付いて噂が伝わるのも、時間の問題だった。




