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「はぁ……。憂鬱です……」
ようやく体力測定もハンドボール投げを残すのみとなり、クラスメイトたちは担任が吹くホイッスルの合図でボールを投げていく。
出番となった優等生は長いため息をつき、気分を落とす。
「大丈夫、美緑ちゃん。私なんて二メートルだよ。美緑ちゃんならできるよ」
「そうでしょうか?」
優等生のペアの女子が必死に元気づけるが、それでも気分は晴れない。
「こういう時は、どうでもいいや、って思ってやれば気になんなくなるぞ」
「わかりました……やってみます」
優等生は小さく息を吐き、「どうでもいい……どうでもいい……」と自分に言い聞かせながら投球位置へ向かった。
担任からボールを受け取ると、一度深呼吸をする。
何度も体を揺らしてタイミングを図ったのち、ようやく、両手で持ったボールを投げる。
「………………えい!」
あ、これは駄目かも……。
投げる瞬間に、目をつむっていた優等生は、自分が投げたボールを探してキョロキョロするが見当たらない。
「……マイナス一メートル」
「ま、マイナス!?」
記録を聞いた優等生は後ろを振り向き、転がっているボールを恨みがましく見る。
「はいかわいいー」
「かわっ」
「可愛すぎる」
その光景を見ていたファンたちが、各々感想を述べた。
優等生は自分が落としたボールを拾ってもう一度投げる準備をする。
今度こそ遠くへ飛ばそうと、大きく振りかぶり二投目を投げる。
「えいっ!!」
ボールは一投目とは違って、青空に吸い込まれるように高く舞い上がり、頭上に輝く太陽と重なる。
そして――。
ドスンッ。
「イタイッ!」
今度は優等生の狙い通り行くかと思われたが、真上に飛んだボールはそのまま落下し、自分の頭に直撃してしまった。
優等生は頭を両手で押さえて、その場にしゃがみこんだ。
「はい、ばかわいいー」
「ばかわっ」
「ばかわいすぎるっ」
「「「チッ…」」」
よりデレデレする男子たちに、女子たちが揃って舌打ちする。
「……えーっと……ゼロ」
「ゼ……ロ……」
担任が遠慮がちに告げた記録を聞いて、優等生は絶望の表情を浮かべながら戻ってきた。
投げ終わった生徒は、次の生徒が投げるボール拾い兼、測定係をしなければならない。
だが、とある男子が半ば無理やりその役を引き受けた。
「アハハハハ。物理的にも記録的にも頭が痛いな。どんまいどんまい」
「……岡田さん、嫌いです」
「え、なんで?」
陸斗が何気にうまいことを言うと、デリカシーのない発言に怒った優等生は、そっぽを向いて陸斗と顔を合わせなくなった。
そういうことを平気で言うから、みんなに「残念イケメン」だなんて言われるんだよ。
「えー、なんでだろ? ま、いいや、次、俺行ってこよーっと」
本物のバカは切り替えが早く、軽快な足取りで投球位置に向かった。
「どうしましょう。岡田さんに対する陰浦さんの気持ちが、少しわかってきました」
「だろ? あのバカと付き合っていると、それこそ頭が痛くなってくる」
「……もしかして、陰浦さんも私をバカにしてますか?」
「してないしてない。それより、あのバカが投げるみたいだ、見ようぜ」
話を逸らしたが、優等生にしばらくジト目で見られた。
「よーし、これも最高記録をたたき出すぞー」
陸斗は肩をぐるぐる回して投げる準備をする。
陸斗はこれまで、全種目を全力でこなしてきた。
さすがというべきだろうが、よく疲れないものだ。
「よっこらせっ!!」
爺臭い掛け声とともに、陸斗が勢いよくボールを投げ飛ばした。
「おぉ! 飛んだ飛んだ。見たか明? 記録更新したんじゃねーか?」
「六十九メートルでーす」
「スゲーな岡田。三学年でお前が一番スゲーんじゃないか?」
「……」
測定係が大声で叫んだ記録を聞いた担任は、はしゃぐ陸斗を手放しで褒める。
俺は変わらず無関心に記録用紙へ結果を書き込む。
二投目は一投目より飛ばせず、陸斗は悔しがっていたが、それでも一投目で高記録を出していたため、あまり気にしていない。
「岡田さんって本当にすごいですね」
「そうだな。昔っからあいつは運動『だけ』は他のやつらより飛び抜けていたからな」
「そうなのですか。まるで、物語の主人公みたいですね」
「バカだけどな……」
いつの間にか、最後に残ったのは俺だけだった。
重い腰を上げる。
「はぁ……めんどくせーけど、俺も行ってくるわ。これ持っててくれ」
「はい、頑張ってください」
優等生に俺たちの記録用紙を預かってもらい、俺もため息を吐きながら渋々ハンドボール投げに向かった。
「お! 明が投げるのか。さすがのお前でも俺の記録は越えられねーだろー。俺は、この辺まで投げたんだぞー」
「……」
投げ終わった陸斗は測定係になり、自分が投げた記録地点より少し先で俺が投げるのを待った。




