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「お!」
嫉妬や軽蔑の視線がある程度落ち着いたころ、岡田 陸斗が突然なにかを発見し、どこかに走って行ってしまった。
「岡田さんは、どちらに行かれたのでしょうか?」
「さぁな、それより、そろそろ俺も行ってくるわ」
「はい。頑張ってください」
明は美緑の応援を背に、重い足取りで五十メートル走のスタート地点へ向かった。
明がダラダラ歩いている中、両手を合わせ、その中に何かを隠した陸斗が上機嫌に戻ってきた。
「たっだいまぁ。あれ、明は?」
「おかえりなさい。陰浦さんは今から走るそうです」
「あー、遅かったか」
「岡田さんはなにを持っているのですか?」
「ンフフフフ。見ての、お・た・の・し・み♡」
不思議に思った美緑に問われる陸斗は意地の悪い笑みを浮かべた。
「はぁ……?」
「?」
はぐらかしたと思えば、すぐに明が待機している場所へ向かった。
その楽しげな後ろ姿を見た美緑と仲村 瑞希は、顔を見合わせて首を傾げた。
◇ ◇ ◇
「あーーーダリィーーーーーーー」
とうとう俺の出番が回ってきた。
本当にめんどくさい……。なんでこんなことになったんだっけ? もう、いっそ手を抜いて適当な運動部に入るかなぁ……。すぐにパックレればいいことだしな。
そんないつも以上にネガティブな考えを巡らせながらスタート地点につく。
「位置について……」
担任がスタートの準備を促し、俺たち四人が位置につくと、背後から陸斗に呼ばれた。
「アーキラ!!」
振り向くと、両手でなにかを持った陸斗がそこにいた。
それを見た瞬間、猛烈に嫌な予感を覚えた。
「よーい……」
ピッ!!
陸斗は担任が吹くホイッスルに合わせて、両手で包んでいたものを解放する。
ソレは、陽光をまとい、優雅に宙を舞った。
そして、なぜか俺に向かってくる。
その向かってくるソレを見た瞬間、俺は反射的にソレとは逆方向へ疾走した。というより逃走。
走る。風だけを感じながらひたすら走る。ソレに追いつかれまいと、ひたすら走った。
担任や他の生徒がなにかを言っているが耳に入ってこない。
すると突然、防球ネットが視界に入り、慌てて急ブレーキをかけて止まった。
後ろを振り返ると、ソレはいつの間にかいなくなっていた。
ゴールもとっくに通り過ぎ、倍くらいの距離を走ってしまったらしい。
他の三人は、今次々とゴールしていた。
ゴール地点まで戻り、タイムを計っていた同級生に俺の記録を聞いて、憎き相方のもとまで戻る。
「よぉ! 明。やればできるじゃねーか。アハハハハ」
「おい、それがお前の最後の遺言か? 覚悟しろ、ぶっ殺してやる」
さっきの嫌がらせがなかったかのように、上から目線で能天気な陸斗に対し、俺は拳を強く握り、睨む。
「お、おい、ま、待てよ。いいじゃねーか。どうせ手を抜いたら運動部に入らされるんだろ? お前が嫌がってたから手伝っただけだろ。だから殴るのはやめてください。お願いいたします」
「そうですよ、陰浦さん。ここでやったら駄目です。先生方が見てます」
優等生の言う通り、数人の教師たちに見られている。
「それに、せめて人気のないところでやってください。あ、あと顔は駄目ですよ。体です、体」
優等生には止められるかと思ったが、意外にも俺に協力的だった。
「え? ちょっと……夏葉さん? 何気にひどい。やめてくれよ。コイツは本当にやりかねないから……」
「え、でも、今のは完全に岡田さんが悪いと思いますし……」
「うっ……。夏葉さんに言われたらぐうの音も出ない……」
いや、誰の目から見てもこのゴミクズが悪いだろ。
「悪かった。明。すまん……」
「頭が高ぇ」
「はい! 申し訳ありませんでしたぁ!! ところで、明様の記録は、何秒であらせられましたでしょうか?」
俺がここに帰ってくる間、殺意が漏れ出てたみたいで、記録係の同級生がおびえ切って、しどろもどろに記録を教えてくれた。
「はぁーー……。六,〇二……」
わざとらしく頭を下げる陸斗に向けた殺意を、長いため息とともに飲み込む。
「おいおいマジかよ。なに、俺の記録抜いてんだよ。俺がすごくないみたいじゃねーかよ! クソッ、俺のモテモテ計画が台無しだ……」
「小学生かよ……」
「アハハ……。それにしても、陰浦さんって虫が苦手だったのですね。少し意外でした」
さっき陸斗がやったいたずらは、俺がこの世で一番嫌いな虫をけしかけてきた。
「あぁ、やつらだけはマジで無理。キモ過ぎる。だから、俺が大の虫嫌いなことを知っておいて、あんなことをやってくるコイツはマジでたちが悪い」
俺は虫と陸斗に対して本気で嫌悪感を示し、陸斗の頭を優しく小突く。
「アハハハ……」
「イッテェ……」
優等生が苦笑いし、陸斗が頭を抱えて転げ回っているのを横目に、俺は次の競技へと足を向けた。




