2
ゴール地点で息を整えていた優等生のペアの女子は、陸斗や他の二人からだいぶ遅れて戻ってきた。
「お疲れ様です。瑞希ちゃん」
「ハァ、ハァ……。う、ん……。ありがとう。美緑、ちゃん」
優等生のペアは、いまだに整わない息で絶え絶えにお礼を告げる。
「お疲れ。仲村さん」
「あ、岡田くん……。ありがとう。相変わらず、速いね。ハァ、ハァ……」
「でしょー。もっと褒めて褒めてー。コイツは俺のこと全く褒めてくんないから、うれしいよー」
俺の頭を叩きながら、女子に褒められたことにデレデレしだす。普通にキモイ……。
「アハハハ……。あ、私そろそろ行ってきますね」
「あぁ、頑張れ」
「お、頑張ってな夏葉さん」
「頑張って、美緑ちゃん」
「はい……」
トボトボと歩いて向かう優等生に俺、陸斗、優等生のペアの順に激励を飛ばす。
その瞬間だった。
【我らが~!! 女神さまに~!! エールを送る~!! フレッ、フレッ、女神様ッ!】
スタート地点に立った優等生を見て、生徒たちがぞろぞろとコース沿いに整列し、突然、大音量で応援し始めた。
小学生の頃にやらされた応援そのものだ。
洗練された演舞、息の合った応援歌で優等生を応援している。
下手な応援団よりすごいんじゃないか?
俺はてっきり、ファンクラブのやつらはひっそりとファンをやっているのかと思ったが、まさかここまでレベルが高いとは思わなかった。
え、なに? 今日って体育祭かなんかだっけ?
「ん? あれは……」
ファンクラブたちに対して素直に感心していると、集団のセンターに見覚えのある生徒を見つけた。
それは、いつの間にかいなくなった陸斗だった。
なにやってんだあいつ……。しかもあいつだけ異様に上手い。それに陸斗が指揮をとっているように見える。
スタートの合図が鳴り、優等生たちが一斉に走り出す。
ファンたちの声援はさらにヒートアップし、それに伴って背中も大きくのけぞる。
優等生は、他の三人より遅れながらも一生懸命走っている。
一位のやつも陸斗に負けないくらいの速さだが、全生徒の視線は別の一点に集中していた。
揺れていた。
……そう、揺れていたのだ。
規則正しく、力強く、存在を主張する二つの山。優等生の可愛さではなく、誰もがその物理現象に釘付けとなっていた。
走りながらちらちらと優等生を見ていた二人の男子生徒は、優等生の荒ぶる山を目撃した瞬間、速度を落とし中腰の不自然なフォームで走り出す。
【フレッ、フレッ——】
そして、背中が折れそうなくらい後ろに反っていたファンたちも、やがて背中を丸めていき、終いには中腰になっていった。
優等生が走り終えると、陸斗を含めたファンたちは、中腰のまま蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。
アホばっかりだなと見ていると、自分の体を両手で隠す女子たちの冷たい視線がファンたちを突き刺す。
それなりに大きい女子たちからは、心の底からの軽蔑の視線。
小さい、もしくは絶壁の女子たちからは、男たちのとある「センサー」と、なによりその大きい「もの」に対して殺意のこもった視線。
目に見えない女の争い……恐ろしい。
「いやー、楽しかったー」
「お前、優等生のファンクラブに入っていたのか?」
中腰のまま戻ってきた陸斗に対して疑問を投げかけると、スッと姿勢を戻し、否定する。
「ん? いや、違うけど? 楽しそうだったからに決まってんじゃん」
「それにしても他のやつらと息が合っていたな」
「だって、元々消極的だったファンクラブを、俺が焚きつけて教え込んだからな」
だからあの応援だったのか……。そういえば、小学校の時、陸斗は応援団長だったな。
「アホだな……」
そんな馬鹿を横目に、優等生がフラフラとした足取りで戻ってきた。
「おかえりー」
「おかえり、美緑ちゃん」
「……ハァ、ハァ…………。はい、ただ、いまです。岡田さん……瑞希ちゃん…………あっ!!」
優等生の足がもつれ、前のめりに倒れそうになった。
俺に向かって倒れそうな優等生へ、とっさに右手を伸ばして受け止めた。
「大丈夫か?」
優等生を受け止めた……。
……はずだった。
「あ、はい。ありがとうございま……すっ!?」
俺に受け止められた優等生が自分の状況を確認した瞬間、驚愕を露わにした。
俺の右の二の腕には片方の「もの」がずっしりと乗り、もう片方の「もの」には俺の手が深く沈む……。
そう、掴んでしまっていたのだ。
柔らかい……重い……。
なんて考えてる場合じゃない。
「あいつ、なんてウラヤマけしからんことを……」
「ヨシ、アイツ、コロソウ。…………んー、でも、ちょっと怖いからやめとこうかなぁー」
「いいなぁ」
「ハァ、ハァ、ん? なんだろうこの気持ち……。もしかしてこれがNTR……いや、BSSというやつか? ハァ、ハァ……。ちょっと興奮する」
散らばったファンどもから、嫉妬の嵐が巻き起こり、中には、自分でも気づいていなかった性癖を開花させた奴もいた。
なんだよBSSって……。
「こ、これが噂のラッキースケベ……」
優等生は、俺の腕にもたれたまま、我を忘れて変なことを呟いた。
なに言ってんだコイツ?
これ以上の面倒ごとはごめんだ。
「なぁ、おい、大丈夫か?」
「あ! はい、すみません……。ありがとうございます」
もう一度声をかけると、優等生は我に返ってサッと離れたが、恥ずかしそうに自分の体を抱きしめる。
ちょっと待て、それだと俺が痴漢したみたいになるじゃねーか……。
今度は、俺が女子たちから白い目で見られ始めた。
はぁ……勘弁してくれ。




