第28話 【番外編】根来賢斗の華麗なる日常2(前編)
「賢斗、受験勉強のほうは大丈夫なんだろうな」
夕食の時間、じいちゃんが言った。俺は、口の中の牛フィレ肉のポワレをゆっくりと味わって飲み込んでから、答える。
「うん、一応やってるよ。大丈夫かどうかはわかんないけど」
冬休みが明ければ、受験は目前。俺は、魔法の勉強ができる日本でも数少ない大学の一つを志望校に掲げ、受験勉強も最後の追い込みにかかっていた。
「やっぱりお前にはほかの大学のほうが向いてるんじゃ……」
「だーめなんだって! 魔法の勉強できるのは関東じゃあそこだけなんだから」
せっかく大学に行くのなら、絶対に魔法の勉強がしたい。これだけは譲れない。
「しかし……」
じいちゃんはまだ何か言いかけていたが、母さんがそれを遮った。
「無駄だってお父さん。この子が頑固なのはお父さん似なんだから。今さら何言っても聞かないよ」
げ。俺ってそんなにじいちゃんに似てる? じいちゃんの方が俺の百倍頑固だと思うんだけど。
すると、父さんが言う。
「まあ、やりたいようにやらせてあげましょうよ。賢斗が魔法の勉強をもっとやってみたいと思えたのなら、それはいいことですから」
おー! ありがとう父さん! 俺は両親のフォローに心の中でこっそり感謝する。
「ったく……」
じいちゃんは、不満げな様子ながらもひとまず引き下がった。
そういえば、アナ高へ行きたいって言った時もじいちゃんには反対されたけど、結局じいちゃんの方が折れてくれた。もしかして俺、気付かないうちにじいちゃんより頑固なヤツになってる? ……いやいや、俺の進路のことだし、俺が決めたいのは普通だよね? いやでも、進路以外のことでも心当たりが……。俺はこの前、寮長五人で久しぶりに男子会をすることになって、俺と浩成が買い出し係になった時のことを思い出した。俺が、『校内の購買じゃ売ってないチョコミント味のカップラーメンが食べたい!』って言い張って、浩成が『購買にもある醤油味のほうが絶対美味いだろ……』とドン引きしつつも、歩いて十五分のコンビニまでわざわざついてきてくれたことがあったのだ。
うわあ……気を付けよ。
俺はひとりで反省しつつ、またポワレを口に運んだ。
*
その夜、自室で勉強をしていると小腹が減ってきたので、部屋着の上からコートを羽織って、部屋を出た。
「坊っちゃん、どちらへ?」
エレベーターを降りたところで、執事の安藤さんに呼び止められる。
「あ、ちょっとそこのコンビニへ夜食買いに行ってきます」
「でしたら何かお作りいたしましょうか」
「ああ、いいですいいです! 勉強の気分転換にちょっと散歩もしたいので、お構いなく!」
それに、今はチョコミント味カップラーメンの刺激を味わいたい気分!
「そうですか。お気をつけていってらっしゃいませ」
「行ってきます!」
俺はそう言って、家を出た。
コンビニでは、無事にチョコミント味カップラーメンをゲットできた。あとは帰るだけ。そのはずだった。
「あれ〜? 御曹司くんじゃん!」
「げ……」
背後から天敵の声がして、俺はギクリとした。
「西園寺……」
西園寺準之助。茶道の家元の子で、なにかと俺に絡んできたり、百合子ちゃんにセクハラまがいの絡み方をしてくる嫌なヤツだ。
「なにやってんの〜?」
西園寺がそう言って近づいてくる。
「別に。コンビニ行って今から帰るだけ」
「え、御曹司くんコンビニとか行くんだ!」
「悪いかよ」
「はは、別に悪かないけど」
そう言う西園寺は、ランニングでもしていたのか、派手な赤いウインドブレーカーを羽織っていた。
「てかさ、御曹司くんが百合子ちゃんと婚約したって話、嘘だったんだね」
西園寺が言う。
「誰から聞いたの?」
「百合子ちゃん。『西園寺さんが馴れ馴れしく近寄ってくるのが不快だからそういうことにしたんです! だから賢斗さんにはこれ以上迷惑かけないで下さい! 私にももう関わらないで下さい!』って」
「ふふふ」
俺は思わず微笑んだ。百合子ちゃんがそうなったのは、俺と関わった悪影響かもしれない。けど、百合子ちゃんは今までが良い子すぎたと思うので、自分の思うがままに行動できるようになったのはむしろ良いことだと思う。そういうことにしとこう。
「そこまで言われちゃ、仕方ないよね〜」
「そこまで言われる前に迷惑だって気付けよこのセクハラ野郎」
俺はこれ以上西園寺と話したくもなかったので、そう悪態をついて、立ち去ろうとした。
「えー、そんな冷たいこと言わずにさあ〜」
まだ絡んでくんのかよ……。俺が呆れて言い返そうとしたその時。西園寺の背後から、覆面を被った男二人が近づいてくるのが見えた。
「おい! 西園寺っ!」
俺は、咄嗟に西園寺に呼びかけた。
「うおっ⁉︎」
西園寺が男二人に後ろから羽交い締めにされる。俺が男たちに手を伸ばそうとしたその瞬間、その手を後ろから来た別の何者かに掴まれた。
「は⁉︎ は⁉︎」
俺は腕を振り回して抵抗した。揉み合った拍子に、俺のコートのボタンが千切れて、地面に転がる。クソッ、こうなったらしょうがない!
「いってえ!」
俺はフラッシュで、腕を掴んでくる男を感電させた。男が叫び、手が離れる。ほんとは、怒られるから人前では使いたくなかったけど!
「西園寺!」
西園寺は、黒いワゴン車へ連れ込まれようとしていた。マズイ、早く止めないと!
「うっ……」
突然、後ろから、布のような物を鼻と口の辺りに当てられた。遠のく意識の中、俺はコートのボタンを蹴飛ばした。次の瞬間、目の前が真っ暗になった。




