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    “普通”ができない俺たちは今日も(後編)

「マジで校長なにやってんだ……」

優(ゆう)が呆れた声で言う。前から思ってたけど、うちの校長、優しいし、こんなドラゴンを出せるなんて魔法の技術もかなりあるんだろうけど、結構天然なんだよな。


「あ! 遊佐(ゆさ)先生!」

駿太郎(しゅんたろう)が叫んだ。こちらに向かって遊佐先生が走ってくる。

「みんなは危ないから教室から出ないでね! 夏目(なつめ)先生よろしく!」

遊佐先生が緊迫感のある声で言う。

「はい! 遊佐先生もお気をつけて!」


 夏目先生が言うと、遊佐先生は軽く頷いて、ドラゴンの方へと向き直り、ゆっくりと近づいていった。

 先生が、手に持っていた竹刀(しない)を、右斜(なな)め下に向かって振る。ボオッと、炎が燃え上がり、瞬(またた)く間に竹刀を包み込んだ。

 ドラゴンが先生に気付く。鋭い爪の生えた前脚が、先生に襲いかかった。

 先生は、ドラゴンの脚に向かって炎の竹刀を振るった。竹刀が当たったところから、炎が勢いよくドラゴンの全身に燃え広がる。

「グオオオオ!」

 ドラゴンが苦しむように声を上げた。ドラゴンが身をよじると、長い尻尾が先生の背後に迫る。


「先生後ろっ!」

俺は思わず叫んだ。

「峰岸(みねぎし)!」

遊佐先生が叫ぶ。

 すんでのところで、尻尾の動きが止まった。


「お待たせしました~」

峰岸先生がにこっと笑って言った。ドラゴンの尻尾は、巨大な氷の中に包まれて凍っていた。箒(ほうき)で飛んできた峰岸先生が尻尾と遊佐先生の間に入り、素早く凍らせたのだ。


「もっと早く来てよ」

遊佐先生が峰岸先生を軽く睨む。

「ごめんごめん、こっから一番遠い教室で授業してたから」

峰岸先生は余裕ありげに微笑んで言うと、遊佐先生の燃える竹刀を指さした。

「てかそれいいね!」

「でしょ?」

遊佐先生がにやりと笑う。

「アイツは私がトドメ刺すから。峰岸はバックアップ頼んだ」

「了解!」

峰岸先生が頷(うなず)くのを見て、遊佐先生はもう一度竹刀を構え直す。


「ゴオオオオ!」

ドラゴンが咆哮(ほうこう)をあげた。バリンッ、と尻尾が氷を突き破る。

「そうはさせるか!」

峰岸先生が両手を伸ばす。地面から鋭く尖った氷の山が何本も突き出してきて、ドラゴンの足や翼に貫通した。ドラゴンは苦しむように呻(うめ)き声を上げるが、串刺し状態で身動きが取れないようだ。


「ナイス、峰岸」

遊佐先生が不敵な笑みを浮かべて、燃えたぎる竹刀を高く掲(かか)げると、勢いよく地面に向かって振り下ろした。

 竹刀から発せられた炎の波が、ドラゴンを包み込んだ。


   *


「えー、ということで、皆さんには大変ご迷惑をおかけしました。逃走したドラゴンとデニヤランは全て回収いたしました。協力してくださった遊佐先生、峰岸先生、そして夏目先生と一年B組の皆さん、ありがとうございました」

校長先生がそう言って頭を下げる。訓練が訓練ではなくなってしまったものの、遊佐先生と峰岸先生の活躍により事態が収束したあとは、予定通り体育館に移動して、校長先生の話を聞くことになったのだ。


「いつも同じ訓練ばかりじゃ緊張感もないし、みんなを驚かせようと思って、孫の好きな絵本から魔法でドラゴンを出してみたんですが……制御ができなくなり……申し訳ありませんでした」

校長先生が落ち込んだ様子で、もう一度ぺこりと頭を下げる。

「ですが、皆さんが落ち着いて行動できたことに関しては、大変良かったです。今後もこのように、慌てず騒がず、冷静な判断を心がけてください。これはもちろん魔法動物による被害の場合だけではなく、地震や火災の場合も……」


「はあ〜、やっぱ避難訓練さえも普通にできないんだな〜。魔法学校って」

俺は、一Bの列の最後尾で校長先生の話を聞きながら、呟いた。転校生の俺は、出席番号が一番最後なのだ。ひとつ前に並んでいる和倉(わくら)くんが、くすっと笑って振り返る。

「ふふ、面白いでしょ。魔法学校って」

「ふふ、まあね〜」


 小声でそう話す俺たちの後方の壁際では、先生たちもひそひそと会議中だ。

「ほんっとに、校長は……」

遊佐先生が呆れたように額(ひたい)に手を当てると、神戸(かんべ)先生も同意する。

「ほんと、校長はこういううっかりが多すぎなんじゃないですか?」

「まあまあ、校長先生もわざとじゃないですし、反省もされてますし……」

そう夏目先生がやんわりとフォローするが、遊佐先生が言う。

「それはそうですけど、私たちも生徒さんを預かってる立場ですし、責任というものがあるじゃないですか」

 すると、仁科(にしな)先生も話し合いに参戦する。

「そうですよ。それに、校長先生のうっかりに生徒たちが巻き込まれるのは、これが初めてじゃないんですよ? うちのクラスの海貝(うみかい)くんと、遊佐先生のクラスの生徒四人は、以前、校長先生の魔法で本の中に入ってしまったこともありましたし」

 あー、あれはたしかにビビったな……。


 峰岸先生が言う。

「まあ、僕はうっかりミスに関して人にあまり言えないところもあるんですけど……。とりあえず、校長先生が積極的にいろいろやってくださるのはありがたいですけど、今後は訓練用の魔法動物の準備や管理は、校長先生にお任せしないほうがいいかもしれませんね」

うんうん、と先生たちが頷く。


 校長先生、また怒られるんだろうな。まあこんだけのことをやらかしてしまったら、仕方ないか。俺はちょっとだけ校長先生に同情しつつ、先生の長〜い話にあくびを噛み殺したのだった。

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