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    Dive to the sky!!(後編)

 俺は咄嗟(とっさ)に、膝から崩れ落ちた優の華奢(きゃしゃ)な体を支えた。

「わーちょっと待って! おぶってくから! 乗って!」

俺は慌てて背中を向けてしゃがむ。

「ごめんね……」

優が弱々しくそう言って、俺の背中に乗ろうとした時。


「うわあ!」

叫び声が聞こえた。声がした方を見て、俺も思わず声を上げた。

「え⁉︎」

 駿太郎の体が、ふわふわと浮き上がっていたのだ。


「ああーっ!」

また声がした。そちらを見ると、土井くんもぷかぷかと宙をさまよっている。すると今度は俺の目の前で、諸星くんの体が浮き上がった。

「うわうわうわうわ!」

諸星くんが叫ぶ。全員この事態に驚いている様子だった。自分の意思で飛んでいるわけではなさそうだ。


「え⁉︎ え⁉︎ もしかして、優⁉︎」

 みんなのふわふわとした浮遊の仕方には、見覚えがあった。優のグラビティで重力をゼロにした時、物体はこんなふうに浮かぶ。

「うぅ……」

 俺が振り返ると、優は苦しそうにうめき声を上げながら、床にうずくまっていた。

 なんだ⁉︎ なんらかの理由で、優のグラビティが暴走してる⁉︎


 教室を見回したが、ミヤビは忘れ物を取って、とっくに教室を出て行ってしまったらしい。教室には、浮かんでいる三人と優のほかには俺しかいない。俺がなんとかしないと! 浮かんでいるみんなはもちろん、これが優の魔力によって起こっていることであれば、優のことも心配だ。魔力の消耗の恐ろしさは、俺も文化祭の時に身をもって体験したのでよく分かっている。


 俺は順番に、浮遊する三人に手のひらを向けていった。

「わっ」

「いてっ」

「ぐはっ」

 三人が順番に床に叩きつけられた。キャンセルが上手く効いたみたいだ。


「サンキュー……。けど、できればもうちょいそっと下ろして……」

「ごめんごめん! けど、やり方わかんなくて……」

腰の辺りをさすりながら言う諸星くんに、俺は謝った。高さはそこまでなかったので、たぶん怪我はないはずだ。


 すると、土井くんが目を見開いて俺の後ろを指さした。

「あっ! 鮫島(さめじま)っ!」

俺は、土井くんの指さすほうを振り返って、思わず叫んだ。

「優っ!」


 今度は、優自身の体がふわふわと浮き上がっていた。そして、その体は、開け放していた窓から、今にも外に出て行こうとしている。

 マズい! ここは三階だ。もしもグラビティの暴走で突然重力が大きくなったり、暴走が止まって重力が元に戻ったりすれば、優の体は地面に叩きつけられてしまうだろう。同じ理由で、俺が優に対してキャンセルを使うこともできない。さっきの三人とは高さが違うのだ。


 助けないと! そう思った時、ためらいはなかった。俺は、手に持っていた(ほうき)(またが)り、窓枠を蹴って飛び出した。

「優!」

 どんどん高いところへ飛んでいく優に向かって、手を伸ばす。幸い、箒は言うことをきいてくれた。もう少し、もう少し高く飛べれば手が届く……!


 その時、俺の上を浮かぶ優の体が、急降下してきた。

「優っ!」

俺は落ちてきた優の体を、無我夢中で抱きとめた。

「優! 大丈夫⁉︎」

「零治……。飛べたね」

優が力なく微笑んだ。

「ほんとだ! ……けど、ちょっとヤバいかも……」

「え」


 グラビティの暴走が収まったらしい今、優と俺、二人分の体重を俺の飛行魔法だけで浮かせている状態だ。そんなの、練習でもやったことない!


「ああああーっ!」

「わー!」

 俺と優は、絶叫しながら真っ(さか)さまに地面へと落ちていった。

 ヤバい、死んだ……。


「お」

 諦めかけたその時、突如急降下が止まった。そして俺たちの体は、なぜかゆったりとした動きで地面に降り立った。

「あはは、びっくりした〜」

優がくすくすと笑う。

「ね、ちょっと待って?」

 俺はさっきからビミョーに感じていた違和感が気になって、優の顔に向かって手のひらをかざした。

 すると、優の身長が少しだけ伸びて、顔つきが変わったかと思うと、あっという間に和倉(わくら)くんの姿になった。


「えへへへ、バレた」

部活に行ったはずだった和倉くんは、照れたように笑う。

「え⁉︎ どういうこと⁉︎」

「ふふ、まあ後で説明するから。とりあえず教室もどろ」

和倉くんが言う。俺は三階の一Bの教室を見上げた。本物の優(・・・・)が、ニヤッと笑って窓から俺を見下ろしていた。


   *


「というわけで、『友達のピンチで才能開花⁉︎ 火事場の馬鹿力大作戦!』は半分成功、半分失敗に終わりました〜!」

和倉くんの後ろに乗せてもらって教室に戻ると、土井くんが大きな声で言った。みんなが、「わ〜」と拍手する。

「……え?」

 俺はわけが分からず、思わずきょとんとする。すると、優が口を開いた。


「諸星が言ってただろ。ここぞって時が来たら、火事場の馬鹿力で飛べるんじゃないかって。だから俺たちでその『ここぞって時』を用意してみたんだけど」

「マジか……」

 そういうことか……。納得しかけたが、あることに気が付く。


「いや、でも待って? それ言ってたの、ついさっきだよね? いつの間に作戦立てたの?」

「ついさっきだよ」

駿太郎が言った。土井くんが説明してくれる。

「ついさっき、発案者から提案を受けて、俺たちはそれに乗ったってわけ」

「発案者?」


 すると、教室の扉がガラリと開いた。

「俺が発案者でーす」

「え、ミヤビ⁉︎ 帰ったんじゃなかったの⁉︎」

ニヤッと笑って教室に入ってきたミヤビに、俺はびっくりして言った。ミヤビは(うなず)く。

「うん。忘れ物取ったらすぐ寮へ帰るつもりやったんやけどさ、ちょうど『ここぞって時が来たら飛べる』って話が聞こえてきて。それでみんなに提案してみたんよ。テレパシーで」

「なるほど……。どうりで俺には聞こえなかったわけだ」

「ま、あくまで俺がやったのは最初の提案とテレパシーを使った連絡係。具体的な作戦は、優が考えてくれたんよ」

 ミヤビが、優の肩にぽんと手を置く。優が今回の計画の全貌を教えてくれた。


「まずは和倉が先に帰るふりをして、零治が掃除に集中してる隙に俺と入れ替わる。和倉は変身魔法得意だし、演劇部だから演技も上手かっただろ?」

「確かに……。マジで調子悪そうに見えた……」

俺が言うと、和倉くんが、「えへへ、よかった〜」と照れたようにはにかんだ。優が続ける。

「で、本物の俺は教卓の下に隠れて、四人の重力を全部操作してたってわけ。万が一零治が飛ぶのに失敗した時のフォローにも備えてた」

「なるほど、だから俺だけグラビティの暴走に巻き込まれなかったし、さっきは墜落せずに済んだのか!」

「そういうこと〜」

ミヤビがニヤッと笑って言う。


「零治に飛べるようになってほしかったからとはいえ、だまして悪かったな。ごめん」

優が謝った。

「いや、むしろ俺のためにこんな壮大な仕掛けしてくれてありがたいけど! 実際、今までで一番飛べたし!」

「うんうん! マジで、鮫島を乗っけるまでは良いセンいってたよな!」

「二人乗りはまあ、これから練習すればいいしな」

土井くんと諸星くんも言う。ミヤビがにやにやと笑って、優の顔を覗き込んだ。


「それに、よかったやん優。零治はニセモノと見分けついたみたいやで? 友情やなあ~」

「いや、別にそれは、今は、関係ないだろ……」

優は照れ隠しのように、少し(うつむ)いてもごもごと喋った。


   *


 三日後。再び飛行魔法実習の授業。みんなのおかげでコツを掴んだ俺は、メキメキと上達をみせ……なんて、そう上手い話はなく。


「はい、じゃあ高度上げま〜す」

「はい」

「もっと上げれるよ〜。大丈夫大丈夫!」

「う……。はい……」

 浦野先生に励まされながら、今日も俺は低いところでの基礎練に(いそ)しんでいた。


「うん、前回よりは高く飛べてるし、バランスも安定してるね。いい感じですよ〜」

ためらいながら少しだけ高度を上げた俺に、浦野先生が言った。

「あざっす!」

 目を見張るような大成長こそなかったものの、少しはあの作戦の効果が出ているみたいだ。たしかに、あんなに高く飛んだのは初めて経験する感覚だったし、あのとき自分は飛べたんだっていう自信にもなったと思う。あとは、みんなも焦らなくていいって言ってくれてたし、ちょっとずつ頑張っていくしかなさそうだ。


「頑張れー零治!」

ちょうど俺の頭上を箒で通りかかった駿太郎が叫ぶ。

「サンキュー!」

俺は飛び去る背中に大声で返事をしたあと、勇気を振り絞って、もう少しだけ高度を上げてみたのだった。

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