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27.最初は目玉焼きに決まった

宜しくお願いいたします

 迷宮に潜り始め、依頼が終わって数日経った頃、ロアは街の外にいた。

 ユアンが合流してからロアは頻繁にどちらかもしくは二人を連れて街の外の森に来ていた。


 街から緑のある森までは結構離れているので、日帰りにすると殆ど森に居る時間は無い。

 特に冬になるこの時期は森の範囲も狭くなるので、更に移動に時間がかかる。

 馬や兎でも借りれば良いのだが、寒さが厳しくなると体調を崩しやすくなるので基本貸し出しも止まるので、個人で所有しているので無ければ使えない。


「そんなに足りないのですか?」

「うっかり遠慮なく使ってしまって。管理が及ばず恥ずかしい限りです」

「そういえば、魔法ばかりで戦闘されていましたもんね」


 カードに表記はされないが、得意な戦闘スタイルはギルドからの指名依頼の判断の指標になる為に、登録時の記入が義務付けられている。そのスタイルによって、剣士だとか魔法師だとか、罠士だとかと呼ばれることもあるし、二つ名を付けられる時の参考にされる事もある。

 ロアはそれに錬金術師として登録してあるのに、戦闘が魔法ばかりだったと思い出して納得するユアンだった。


 砂漠と違い森の中は雪が残っている。この冬で積もった雪を踏み分け、木を目印にその根元の雪を描き分けて、下で眠っていた草や芽を採取していく。時に木の枝や、冬毛に覆われた木の芽も摘む。更には冬の間だけ色を変える樹木の皮や、樹液なんかも採取していた。

 もちろん合間に襲って来る獣や魔獣なんかの素材も。


 大きな木の根元にしゃがみ込み、張り出した枝葉の為かうっすらとしか積もっていない場所を軽く掘って土と根、その下で眠っていた虫を採取しながら話していたロアたちを、少し離れた場所で索敵していたキリシェがふと振り返って手招いた。


「そろそろだと思ったが、ちょうど見つけた」

「何ですか?」


 近づいたロアたちが、キリシェが指さす方を見ると花色の色とりどりな掌サイズの多尾兎が、幾つもの卵を転がしていた。


「雪花兎」

「お、ロアさんは知ってたか」


 ニコリと笑ったキリシェが、卵を指さす。


「この時期に繁殖するんだが、ああして転がしているの以外、巣に残ってるのは孵化出来なかったやつだ。とっても攻撃されない。どころか掃除してくれると、運が良ければ尻尾の一つをくれる。幸運のお守りとして高く売れるし、卵も美味い。生じゃ食えないがな。腹を下す」

「ええ、生ですと内部で繁殖している菌が人体には合いませんから。鳥類には影響しませんが」


 へぇっとロアの付け足した情報に感心した声をあげたキリシェは、ではさっさと採りに行きましょうと歩き出したユアンをとめた。


「まだもう少し待て」


 続こうとしたロアも足を止め、不思議そうに首を傾げた。


「もう少し一か所に集って、卵番が決まれば、掃除の為に兎たちが巣まで案内してくれる」

「そういえば何故、ああして集まるのでしょう?」


 ロアがキリシェに尋ねるが、分からんと首を横に振られた。

 

「冬に餌の無い鳥に、空けた巣を掃除してもらう為かもしれませんね」


 既に鳥が頭を突っ込んでいる巣を見ながら零したユアンの意見に、なるほどと二人で頷く。

 花兎は小さい身体に見合わない戦闘力を持っていて、成体に手を出そうとする者は自然界にはいない。守って居る卵は更に、親の警戒が密で手を出さない。今も転がしている兎の傍には、もう一体の兎が付き添って周囲を警戒している。

 耳がコチラに向いているのが何匹かいるので、すでにロアたちも見つかっているのだろう。


 雪花兎は他の季節はどこに居るのか知れないが、雪がもっとも降る季節にだけこうして姿を見せる花兎だ。

 今日、ユアンを誘ったロアにどうしても一緒についていくと言ったキリシェはきっとコレを見越していたのだろう。

 ポーチから籠を三つ取り出して、其々に渡した事からもうかがえた。


「目玉焼きも良いが、蒸し卵も美味いんだよな」

「混ぜ焼き卵は?」

「それも美味いが、半熟に出来ないのが惜しいよなぁ」


 どう食べるか盛り上がるキリシェとロアに、ユアンが首を傾げる。


「解毒剤を飲めば別に半熟でも良いのでは?」

「それだっ!」


 叫んで指さしたキリシェと、なるほどと褒める視線を向けるロア。照れたように視線を下げるユアンの頭を優しくロアは撫でた。

 そうしている内に兎は一所に集り終えて、卵に雪を被せ始めた。


「さて、そろそろ良いな」


 キリシェが兎の集まりに足を踏み出し、ロアたちも続く。

 見れば距離を置いたところで、膝をつき敵意が無い事を示す動作をしたのでソレに倣う。と、鼻先で会話をしていた兎から一匹が出て来て、キリシェの前で止まる。


 籠をキリシェが雪の上に置いてしめせば、鼻先でふんふんと嗅ぎ何を持って判断したのか納得したように背中を向けてどこかへ向かって跳ね始めた。


 ブモプゥと幾つかの鳴き声が集められた卵の方からする。

 すると先導する兎が、一声鳴き返した。


「お、今年は年長が先導か」

「何かあるんですか?」

「年のいった兎だと、各巣を把握していて、一匹で沢山の巣の場所を教えてくれるんだ。まぁ、卵の採取の条件がきびいけどな」

「年若い兎だと?」

「都度集まりのとこ戻って、それぞれの兎について行かなきゃいけないから、一日で良くて三つの巣を巡れるか、って感じだな」


 感心してその話を聞いている内に、鳥の入っていない巣へと案内された。


 残された卵を籠へ回収したのち、汚れた木の枝や枯葉を掻きだした後、雪を床に敷き詰めるように鳴らして置く。

 これが卵を貰う作法だそうだ。

 最後に案内して来た兎が中を確かめて跳ねまわり、合格したのか一つ鳴いてまた先導し始めた。


「コレは兎の力では難しいでしょうね」

「人が入らなかったら巣を放棄して、隣に掘ってある巣を雪から掘り出して、雪を押し込むみたいだがどうやら元から使ってる巣の方が大事? 好き? なのか、移っても一冬に数度、元の巣を綺麗にしようとする姿が見れるらしい」

「へぇ……なるほど」


 ロアは属性魔力が、この時期まで卵を抱えた為か、卵が幾つか残された巣の方に多く蓄えられているのが見えて、なるほどとうなずく。

 きっと子供成長に、この魔力が必要なのだろう。

 そして籠の卵を見下ろせば、孵化しないものの現在も周囲の魔力を吸収している様子が見える。


 きっと孵化する卵は最も魔力を吸収出来たものなのだろう。孵化するのが一つの巣につき二つ以上ある事もあるらしいので、ある一定以上吸収できる事が孵化の条件かもしれない、と考えつつロアは次の巣でも採取を続けていった。


 三つの籠がいっぱいになった後は、鳥が卵を食べ、巣の外に巣材を掻きだしただけの巣に、小さい身体で雪を詰めている兎の手伝いを申し出た。

 言葉は伝わらないものの意志は伝わったらしく、夕方になるころまでには全ての巣をまわり終えた、らしい。案内の兎が卵の所に戻って来たから。


「では、ありがとうございました」


 丁寧に頭を下げて、卵の所で預かって貰っていた籠を持ち上げたロアたちを複数の兎が鳴いて止める。

 顔を上げれば、何本かの尻尾が目の前に転がされていた。


「良いのですか?」


 問いかければ、案内兎が軽く顎を上げて持っていけ、とばかりの仕草を見せた。

 感謝して受取り、籠の上に置いて、もう一度頭を下げてから、三人はその場を後にした。


「コレ、こんなに沢山どうしましょう?」

「戻ったら魔道具師と、術具師のとこ案内するよ。高く売れるぜ」


 そんな会話をしながら三人は、日中の陽ざしにすっかりと砂漠に戻った場所を踏み越え古都へと帰っていった。

ありがとうございました。

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