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26.注目のパーティーが結成された

宜しくお願いいたします。

 宿の食堂で三人はそれぞれ注文して、昼食を摂った。

 気づけば二人の視線がロアの食事の所作に見惚れ向いている。それは二人だけでなく、周囲の視線もそうだった。

 ゆっくりとすすめられる食事は、ゆったりと言い換えが出来そうな空間を作り出し、こんな冒険者ばかりの食堂をどっかのレストランにでも変えてしまったような雰囲気を醸し出す。

 冒険者になる貴族は一定数居る。しかし大抵は周囲に馴染もうとするのな何なのか、もっと所作が雑になっていく。貫禄がでるともいえるだろうか。

 それなのに、ロアは一貫して変わらないでいた。故に、周囲の視線をやたらと引くことになっていた。


 その視線に気づいたロアが顔を上げる。

 食事中でも被ったローブで表情すら見えない。それなのに仕草だけでそれだけの雰囲気で周囲を染めてしまえる存在感に、ユアンもキリシェも知らず感嘆のため息を零した。


 表情が見えないからか、唯一見える口元がやけに視線をひきつけ、中にはゴクリと唾を飲む者すら出て来る。そんな危うさが、ユアンに周囲に対して警戒させる要因にもなっている。


「どうしました?」

「いえ」

「なんでもねぇぜ」


 首を横に振る二人に首を傾げつつ、ロアはまた一口パンをちぎって食べた。

 ロアの仕草に促されて食事を再開しつつも、再び視線を吸い付けられつつユアンがそういえば、と口にした。

 ロアの意識が向けられた雰囲気に満足しながら、ユアンは続けた。


「あの男、もしかしたら半年しない内に追いかけて来ると思います」

「あの男?」

「……――。」


 嫌そうにポツリと告げた声が周囲の喧騒に紛れて消え聞き取れなかったロアは首を傾げた。

 それに更に顔を顰めて、ユアンはもう一度その名前を告げた。


「影狐」


 一瞬、それが誰をさすのか思い当たらずキョトリとしたロアは、しかし直ぐに思い出して動きを止めた。

 明らかに驚きをあらわにしたロアに、ユアンは不満そうに唇を尖らせてスープを啜った。


 キリシェは珍しいロアの反応に、思わず手を止めた。


 ロアは感情のままに笑みを変える。けれどもやはりどこかいつも一定の基準があり、そこを超えての行動は無い。

 それに気づかされるロアの反応に驚いたのだ。

 どこかで聞き覚えのある名前な気もするが思い出せないので、素直に知っている相手に聞いた。


「誰、そいつ」

「ロア様の元護衛」


 そっけなく答えたユアンにロアは苦笑を向けた。


「護衛じゃ無いんですけどね。それに、ユアン君。同業者になった事ですし、私の事はロアと呼び捨てで良いんですよ?」

「……ではご主人様で」

「それはちょっと」


 困惑した表情を向けるロアに、ユアンは少し不満気に唇を突き出した。

 それからはなはだ不本意だという気持ちを込めて、一瞬キリシェへ視線を投げつつも渋々と妥協を口にした。


「ロアさん、で」

「はい」


 こくりとにこやかに頷かれてユアンは不承不承という気持ちを隠さず頷いて了承を返す。それを少し困った笑みで、しかし酷く甘やかな瞳で受け入れられて、心を満足感が満たし不満を押し流した。

 どこまでも許容されるこの場所がどれほど心地いいか。

 飢えていただけに、久しぶりに与えられたその感覚が堪らない。僅かに頬を染めて顔を俯ける様子に、ロアはそっと微笑む。


「ロアさんは、この小僧に甘いな」

「小僧じゃありません」


 素早く突き出された肘を脇腹の前で軽々と掌で受け止めつつ、キリシェは呆れたようにユアンを見下ろした。


「調子に乗っちまいますよ?」

「大丈夫です。ユアン君は分かってますから。ね?」

「……はい」


 コクリと頷く姿にまた一つ笑みを向ける。

 

 それにユアンは密かに冷や汗を滲ませた。

 しようとは思っていなかった。けれどうっかり求め過ぎて加減を間違えれば、捨てられると匂わせられたのだ。

 絶対にそれは犯せない失敗だ。


(引き留められて残しておいた職員の籍を早く抜いて、なんとかロアさんの家臣か従者にして貰わないと)


 捨てられない確信を欲するユアンは密かにそう決意した。


 そんなユアンの心の動きなど知らない二人は、早々に今日の行動の話へと移っていた。


「じゃあ、ロアさんは今日明日休みなのか?」

「はい。流石に少し休もうかと。寒さも厳しいですし」

「分かった。じゃあ、俺も休むかな」

「ユアン君はどうしますか?」

「そうですね。この辺りの調査と余裕があれば迷宮の分布でも見てきます」

「分かりました」


 キリシェがだったら自分が案内しようかと提案して、お願いしますと僅かに頭を下げるユアンたちを微笑ましそうにみながら、ロアは一定の速度で食事を続けていた。


 食後の水を飲みながら夜に合流すると約束をして別れ、部屋に戻ったロアは直ぐに着替えてベッドに倒れ込んだ。


 僅かに咳き込むように浅い呼吸を繰り返し、込み上げる吐き気を飲み込む。ココで吐いては体力が回復しないことを学んでいた。

 真っ青な顔で何とか上掛けの中に潜り込み、魔力の回復に努める。

 

 カタカタと全身が震えるのは寒いからでは無く、機能不全からだ。喘ぐようにして昼過ぎまで回復に努め、震えなくなる程度まで持ち直すと、身体を起こし真っ白な一枚布で出来た服に着替え、胡坐をかく。

 そして瞑想に努めて更なる回復に努めた。


 夜に合流する頃にはようやく全体量の半分ほどの魔力を回復させて、ロアは平然とした顔で二人に合流する。

 柔らかな笑みを浮かべるロアに普段と変わりは無く見え、不調に気づく事の無い二人は今日あった事をそれぞれ報告するように話してまた解散した。


 翌日も昼過ぎまで回復に努めたロアは、午後は薬を作って過ごし、回復させた魔力を擦り減らして過ごした。


 そうして数日街を巡って魔力を使い切り、倒れかけては回復し、足りなくなった薬を補い、その素材探しに迷宮や周囲を歩き、と過ごしているうちに本格的な冬になった。冬季の後半に入る位がこの国の寒さが最も厳しくなる。


 砂漠を覆うように夜降る雪はよくよく積もるが、同時に風は涼しいが日中の陽ざしは厳しく夕方には溶けて切ってしまうほどだ。陽によっては風で涼をとりつつも、歩くだけで汗ばむ日もある。


 寒暖差がえぐい程に激しくて、体温調節の慣れていない者では体調を崩す者が多い。

 もっともこの地域ではこの気候で良かったと言うべきか、この気候故に生体機械が広まったと言うべきか。

 冬でも寒さを気にせずに動けるのはとても大事な事らしかった。また日中はからりと湿度が無いのも機械には向いている気候であるらしい。


 迷宮を歩きながら、最近の気候について話していて、そういう話題になった。


「やっぱ暑さよりも寒さの方が辛いからな。まぁ、暑さも過ぎれば接続部分が火傷して酷いんだが、そっちは上に羽織るものでどうとでも対処できるからな」

「確かに耐寒よりも耐暑機能付きの物の方が多いですよね」


 ロアは雑貨屋や装具屋などに並んでいた商品を思い出しつつ頷いた。


 そうして話しながらも目の前に飛び出して来た銀色に光る蜻蛉を、空気の弾で上から地面に叩きつけ、それをユアンが大振りのナイフで斬り捨てる。


「ユアン君が居ると楽ですね」

「ありがとうございます」


 頬を染める様子は、実際にはついていないながら獣人の犬族のような尻尾が見える気がした。


 途中開けた場所で休憩しながら、ロアは周囲を改めて見る。


 行動人数が三人なったので中級迷宮にやって来たのだ。コチラに来て初めての中級。


(やはりここでも足りないですね)


 いざとなればココに紐づいて、次の存在が根付くまで安定を肩代わりするのも視野に入れているが、どうにも拠点にするのにいい場所が見当たらない。


 視線の先では鉄や鋼で出来た花が揺れている。朝に花開き、夕方になると萎むのに、触れてみれば金属なのだから不思議だ。

 ちなみに摘んでも持ち帰れない。迷宮を出ると消えてしまうのだ。


「依頼の品はあと二十階以降で出て来る素材ばかりですね」


 赤い地面に敷いたシートを畳みつつ、休憩を終わらせながら確認する。

 依頼表を持っているユアンが、回収した物と確認して頷いた。


「上の階から、歯車3,紫銅2,赤鋼6,銀光粘液12,青の銀水晶2、ですね」

 

「どうする、一気に行くか? 俺達ならいけると思うが」

「今日は十五階まで行って帰りましょうか。納品は二週間の猶予がありますから、他の階も見たいですしのんびり潜りましょう」

「ああ、分かった」

「分かりました」


 今冬はと、先日パーティを組んだのでそう言った。

 ロアが居る内は一緒に行動したいとキリシェが頼み込んだのだ。追いかけてきたユアンの存在に刺激されたらしい。


 それじゃあのんびり行こうか、と頷いて予定通りの攻略をした後、明日も潜る約束をしてその日は解散した。

ありがとうございました。

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