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23.お掃除の時間です

宜しくお願いいたします。

「これで十五」

(……ここは外れですか。もういらっしゃらないですね)


 壊れかけの社を見下ろして、ロアはため息を零した。

 そしてポーチから地図を取り出し、折りたたんで小さく現地点を出し、ソコに印を書き入れる。


 それが終わってから、空の住処になってしまった社へと手をさし向ける。

 足元を基点に魔法陣が展開し、ソコから外側の陣が抜け出て社を囲う。

 

 かつて居た者の残滓を抽出し、固定する。

 そうして最後に浄化をかけて、留まれなかった者が万が一にも残していた想念が無いように綺麗にしておく。


 作業を終えて、一息ついてから街の一方へと視線を向ければ、この街の神殿がある。

 主たる存在が御座しない、虚しい建物を。


(近いうちにもう一度行かないと。あの方の機嫌の良い日はありますかね)


 キリシェは案内の期間が過ぎても、ロアを気に掛けてなるべく一緒に行動してくれている。

 最近は一人暮らしだから、どうせならこの街に滞在中は自分の家に来たら、とまで言ってくれている。

 両親が作ったと言う、自動湯沸かし器付きのお風呂やシャワーがあるというのだから、素晴らしい。少し提案に乗ってしまおうか、悩み中だった。


(それにしても多いですね)


 ようやく魔法陣が消え、手の中に納まった中に色を内包する球を見下ろす。

 信仰されていた者の残りかす。本当にチリ程だが、こう言ったものが沢山残っているこの街は結構危うい。

 神と呼ばれる者たちがいる事を知っているのに、信仰を向けなくなればこうやって捨て置いてしまうのは、この間までいた王都とは違った感性だ。

 あちらでは例え信者が減り、結果社を取り壊す時には面倒な手順を持って、きちんと街から解放する。

 街の中に残しておくことの危険性と、飽和状態と言われる街の状況を少しでも緩和し、新たな者を迎え入れる余白を用意する必要性を知っているからだ。恐らく、幾代か前の王にでも、近しい薬師が教えたのだろう。

 それでもなお、あの王都はほぼ飽和状態だったが。


 ポーチにソレをおさめ、ロアはため息を零す。


 それから立ったまま意識を地面の下へとむけ、絹の躾け糸よりも細いこまやかさでこの近辺の探りを入れる。


(空き過ぎて、迎え入れられないほど不安定とは予想以上です。いえ、異常だと言う方がいいでしょうか)


 殆どが機械神へと信仰を変えてしまっている、古都。


 しかし古都と称されるだけに、その呼び名自体が古都の神を讃えるものだとどれ程が知っているのだろうか。

 おかげで解放される事も無く、しかし迎え入れる儀式をしない為に移ることもまた出来なかったらしい。アチラで古代に迎え入れられた時儀式によって守護の契約を交わした為、きちんとその契約の更新をしないとコチラに移れない。


 彼らは力そのものであるがゆえに、好きに力を使えない。鑑賞には一定の規則があり、規則に縛られる事でその中で自由を許されている。


 例え忘れ置かれたとしても、己の名を誇り呼んでくれる住民たちへ、手を伸ばしていたかの方の力は随分と疲弊していた。本人は気にしていないようだったが。


 移動が出来ぬまま、あの場所で支援を続けるならそのうち消え去るだけだ。

 約定を守り通し、そして擦り切れ消える。


 己の行いはただの手助けに過ぎない。


 次の場所へと向かいながら、ロアはため息をまた一つ零す。


 この街の基礎が消え去れば、信仰があっても旨味の無くなった機械神はこの地を離れる可能性が高い。

 先日行った神殿で聞いた話では、この地に神の信託が降りた事は無い。いらっしゃった分け身は、昼寝をしていて下界に興味は無いようだった。

 ロアを見て僅かに目を開けたが、それだけだ。恐らく先達を蔑ろにした者たちへ、僅かばかりの嫌悪すらも感じているのだろう。


 他の神たちも残滓を残し、既に居ない。


 他の皆が見放した古都を、それでも最古参のかの方のみが、例え過去の土地に忘れられていても慈しみをもって見守っている。


 現状を教えたとて見えない、感じられない者たちを変える事は難しいだろう。

 それでもかの方は、もし出来るならこの中へ移りたいと零したのだ。


 古都の中で人の営みはまるで問題無いように思える。

 まさか足元から崩れようとしているとは思いもよらないのだろう。


 この国を覆う最上級迷宮の主からの影響を、この地の主が防いでいなければあっという間にこの地も砂に呑まれるだろう。

 既に張り巡らされた脈はか細く、届かない信仰により酷く乱れている。


 最も簡単な解決策は、ロアがこの地に身を捧げる事だ。

 しかし相手の思いは土地に向いている為に、対等には遠く、擦り切れ使い潰される装置に成り果てるだろうが。

 

 僅かに覚える恐怖は、ロアが神たちとは遠く矮小な存在だからだろう。


 実際この地の神はそれを慈しみを持って受け入れている。


 ガラリと遺跡の一つを覗き込み、ロアはため息を零す。

 乱れに乱れた力は、澱みを産む。


 それに呼ばれ更に集まる力が溜まり、こうしてかつての記憶を元に何某かを生み出し始める。


(この地の者たちの自業自得。それでもこうして守って居るのですね)

 

 細い流れがそれが外界に湧出するのを留めているのを見て、ため息を零し流れに意識を向け手を伸ばし、引き受ける旨を伝えて澱みの中に足を進める。


 遺跡を乗り越え危なっかしい足取りで、一階層下へと瓦礫を伝い降り立つ。


「出来れば機械系以外だと助かるのですが」


 思わずそう呟きながらポーチから幾つかの薬瓶を取り出しつつ、ロアは澱みの中に踏み出す。

 周囲に人が居れば、歩いている最中に急にロアが消えたように見えただろう。

 集まり過ぎた力が異界を作り始めている中に踏み入りながら、ロアは後幾つこういった物がこの地にあるのだろう、とため息を零した。

 

ありがとうございました。

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