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22.誰かがやらないといけない仕事

宜しくお願いいたします。

 この国は砂漠が殆どだからか、獣人の中でも短毛種が多い。朝晩の寒暖差に耐え切れ、更に夏冬の厳しい気温に耐えられるからだろう。

 次に多いのが鱗を持つ陸上種族だ。


 古都はどちらかと言えば鱗を持つ種族の方が多い。ギルドに来ても大半がその種族だ。

 もっともそれが蜥蜴族か、蛇族か、竜族かはたまた別の種族かは一目で見分けがつく者は少ないが。大抵が僅かに鱗を残す程度で完全な人型を取っているからだ。

 それは色々と理由があるのだが、もっともな理由としてフェロモンを抑えるかららしい。


 だが抑えたとしても漏れる季節というのがある。


「それが冬の中頃の始めなんですね」

「まぁ、種の保存として籠る事が推奨される季節だからな。俺には分かんねぇが、結構頭ぶっ飛ぶ匂いらしい」


 ギルドの打ち合わせスペースで机に座って話していたロアは、発情して求婚相手に飛びつき、真っ赤な顔をして反応した相手に殴り飛ばされて建物の外へと飛んでいった女性が頬を擦りながらふらつきつつ戻って来るのを微笑みながら見ていた。

 そのまま殴った後に顔を抑えて蹲った女性の元に戻り、目の前に同じようにしゃがみ込んで必死に口説き始めている。

 しばらくして職員に外でやれと二人して追い出されいたが、別に彼女たちが特別なのではなく、今朝ギルドに来てから短い時間で既に三組目だったりする。


 それに今日は随分賑やかですねと零したロアにキリシェが説明していた。


「そして依頼が滞る、と」

「まぁ、この時季の為にギルドも依頼前倒しで押し付けたり受注数減らしたりして備えてるから大丈夫っちゃぁ大丈夫なんだが」


 依頼の掛けられている掲示板を見れば、ここ数日でかなりの量が溜まり始めている。


「なので解消しようと」

「だからってこれは無い。ロアさんが受けるのは反対」

「ただの雑用ですよ?」

「この街で育ってないからそう言えるんだよ。廃油の処理作業は、汚いキツイ臭いのなんの」


 今日はお互いに自由行動、と決めていたのにギルドで顔を会わせたのは偶然だ。

 キリシェはその偶然に感謝していた。知らずにロアが、自分が今奪い取った依頼を受けていたらと思うと何か耐えられない気がした。


「ですが、街の維持には必要ですよね?」

「確かに必要だが、緊急じゃない。頼むから、止めてくれ」


 ロアの視線が依頼に向いているのを遠ざけて隠す。ギルドの職員もキリシェの説得に密かに頷いていた。

 本来この依頼は、怪我などで長期療養中、もしくは魔機交換に時間がかかっていて片足が暫くなくて、他に受けられない冒険者が受ける事を想定して上げられているものだった。


 数度の攻防で諦めたロアは、再び依頼が貼りだされた前で考え始める。


「ロアさんはどんなのが良いんだ?」

「出来れば、街中を巡れるのが良いです。まだ色々と場所を把握出来ていないので」

「この届け物とかは?」


 キリシェに勧められたのだし、とロアはそれを受け取った。

 それにホッと複数人が息を吐いた。


「しかしお届け物でしたら、配達ギルドが本来請け負うのでは?」

「この街の配達ギルドの収納袋が壊れたらしくて、大きいものの配達が滞ってるんです。なので一時的に、配達ギルドで請け負えない物を各ギルドで補助しているんです。なのでこの依頼も、収納系空間魔法付与をされた入れ物を持つ人限定の依頼の為に、中々受けて貰えなくて。報酬は届けた物の数量で決まります」


 受付の男性が丁寧に教えてくれた。

 チラリとロアのポーチへと視線を向けた。


「各、依頼先で内容物と預かり証といった手続きがありご面倒をおかけしますが、よろしくお願いしますね」

「はい。承りました」

「早速ですが、冒険者ギルドから鍛冶ギルドへの配達をお願いします」

「ああ、その前に」

「はい?」


 直ぐに頷くと思ったロアが止めたのに、腰を上げかけた職員が止まる。

 ロアは柔らかい表情のままポーチから一枚の折りたたまれた紙を取り出した。


 カウンターに広げてみればそれは観光向けの簡易の地図だった。


「この街の地図をこれしか持っていなくて、もう少し詳しい地図、若しくは各ギルドの位置などを教えて頂けますか? この後の依頼がより潤滑に進むと思うので」

「ああ、良いですよ」


 職員は軽く請け負い、観光対象では無い各ギルドや目印になる建物の位置、省略されている地元民にはよく利用される水路や近道などの線を書き足していく。


「あと、コチラは貧民街になるので近づかないようにしてください」

「分かりました」

 

 ロアは少しだけ興味深そうに示されたエリアを見つめてから、何事も無かったかのように紙を折りたたんでしまった。


「では、奥にご案内します」

「はい」

「ロアさん、気を付けてな」

「はい。ありがとうございます」


 職員に付き従って奥へ向かうロアを、これまで傍に立っていたキリシェが少し心配そうに送り出した。

 礼を告げてロアが奥に消えるのを見送って、キリシェは自分も何か依頼を受けようと踵を返した。




 その日の夕方、時間的に最後の届け物をして宿に向かうロアは、既に薄暗い道を歩きながら今日辿った道を思い返していた。


(東が酷い。貧民街があると言われた地区の方がまだ残ってる。北と西はマシ。南も東よりはマシだけれど……楔が見当たらない。やっぱり廃油拠点巡りの方がまだ見つけやすかったと思うけど)


 生体機械を持つ人が日々出す廃油は、街の各所にその廃棄場所がある。

 その回収、清掃を定期的にしないと、固まって使えなくなる。しかも街の各所隅々にまであるので、巡れば街を隅々まで巡るのと変わりない事になる。

 寧ろロアはそれを目当てにしていたのだが、周囲の強固な反対にあってしまった。


「道具無くても、僕なら魔法あるのに」


 思わず零してしまうのは、何も出来ないと祖母に罵られていた小さい頃の反発心を思い出したからか。

 僅かに湧きあがった何かを頭を振って散らして、空を見上げる。


(外に出てから、いや、人のいる場所に来てから、かな? 誰かと関わると直ぐに乱れる。駄目だなぁ……。あ、違う。駄目ですね)


 砕けた調子で関わって来るキリシェの影響か、それともここには連れて行きたい、と強く思う対象が居ないからか気が抜けているのをロアは自覚していた。

 うっかり素が出れば、自分について来てくれる人なんて見つからない、と散々言われて知っている。

 故に常に気を付けて装わなければいけないのだ。

 少なくとも一人、いや最低でも三人は自分について来てくれるモノが出来るまで。


 一応ここではキリシェがそうだと伝えて逃げているが、彼女をココに置いていくならどうやってこの街から出ていくか。ソコも問題だった。

 既に先の街で、交渉相手を置いて来るという行動をしている話が届いたのか、監視がかなり厳しくなっている。

 一人で街を離れたら即効で捕まるだろう。


「ロアさん」


 呼びかけられて思考を切り、視線を向けると宿の前にキリシェが居た。

 ほっとしたように笑う顔が眩しくて目を細める。皮膚の下は半分以上が機械だというが、それでも元の顔をそのままに作られた表情は幼いながらも綺麗だった。


「遅いから心配した。ギルドへの報告は?」

「遅くなりましたので、明日にしようかと」

「そっか、伝えとく」

「では一緒に行きましょうか」

「いいよ。俺だけで」

「遅い時間に女性を一人で歩かせるのは不用心ですから」


 そういうとキリシェの頬が薄暗い中でも分かる程に染まる。

 この街に来て直ぐならそれでも、と断るキリシェと問答になったが、この辺り折れないロアを知っているのでキリシェは直ぐに横に立って歩き出した。


「明日も受けるのか?」

「いえ、明日は今日見つけた興味深い場所を幾つか回ってみようと」

「どんなとこ?」

「社や遺跡ですね。小さいのが沢山あって驚きました」

「ああ、観光対象になってないの含めると結構あるな。貧民街だと遺跡に住んでる奴らもいるからな。綺麗に建物残ってるとこもあるし」

「それは是非」

「行っちゃダメだからな」

「……」

「ダメだから、ロアさん」

「あ、ギルドもうつきますね」

「ロアさん!!」


 縋って来るキリシェをかわして、ロアはギルドへと足を向ける。

 何とか回り込もうとして、それほど身体能力の高く無いロアにどうしてか躱され続けたままキリシェは必死にロアを説得しようと躍起になった。


「心配しなくて大丈夫です。分かってますから」


 ついにギルドに入ると言う時にロアが微笑んでそう言うと、キリシェは安堵の息を零して頷いた。


「そっか。分かってくれればいいんだ」


 そう笑顔でロアの背後についてギルドへと入って行った。

ありがとうございました。

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