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21.頼りになるが故に限度を持って

宜しくお願いいたします。

 古都はこの国の観光の目玉でもある都市でもある。

 古、と言うだけあって、年の内外に遺跡も数多く残っている。中には遺跡が迷宮になった場所もある。


「今は殆どの迷宮を地下型、地上型関係無く総称してダンジョンって呼んでるけどさ、古都では古代文明にならって地下型はダンジョン、地上型はラビリンスって呼び分けてる人も多いよ」


 そう笑って説明してくれるキリシェは、向かいの席で美味しそうに肉を食べている。

 しかしその目が一瞬、店員が他の席に運ぶパフェを追ったのを見て、ロアはタイミングを見て注文をして手を差し出して促した。

 キリシェの話しは現地の地元民ならでは話から、魔機に関する専門的な話から、それに使われる魔術師の話までと多岐に渡り、非常に興味深く面白かった。


 また随分と古都で有名な自分物らしく、道行く人に声を掛けられては手を振っている。

 あんな場所で行き倒れていた人には思えなかった。


「にしてもロアさんの魔法すげぇのな。魔機付けてる身体に浄化かけられる人って初めて見た」

「まぁ、潤滑油も大抵は一緒に還元してしまいますからね」

「ほんと助かったよ」


 ニコニコとココまでの数日の道中ですっかりロアに馴染んだキリシェは、慕っているというのを隠さずに全身で表現してロアに懐いていた。

 若いと言ってもそこまで若いわけでは無いだろうに、子供の様に慕って来る姿にロアは微笑んだ。

 呼び方も結局本人の希望でさん付けになって落ち着いた。


「それにしても、魔機械の身体を持つ方が多いと聞いていたので、上級の方も多いかと思っていたのですが、案外少ないようですね」

「ああ、大抵は首都にいるしな。それにこの国で魔機の身体もつ奴はランクの審査が厳しくなってんだよな。金遣い荒いとまず落ちる。整備に使う金の管理も審査項目に入ってるんだ」

「ではあなたはとても優秀なんですね」

「俺は親のおかげってのもあるけどな。まぁ今回はちょっと目算狂ったけど。ギルドもそこは考慮してくれてさ、先に言えば貸してくれたって言ってたけど、ギルドに借りるとなぁ……」


 ロアの言葉に顔を曇らせてキリシェは笑って答えた。

 先ほどギルドで納品・換金などをして来た時に何か言われたのだろう。

 

「ああ、それとコレ。助けて貰った分と食料代」

「はい。確かに」


 遠慮することなく金色のコイン数枚を受け取ったロアは、直ぐにソコから一枚を返した。


「こちらまでの護衛料です」

「……、受け取ったら明日からバイバイか?」

「いえ、宜しければ色々と案内していただければ嬉しいです。そうですね、これだけで何日雇えますか?」


 受け取ったコインを全て示して見れば悩まし気にキリシェは腕を組んで首を傾げた。


「俺のランクもあって、これだと通常は数時間だな」

「では、明日のその時間分だけ」

「いや、待ってくれ。この金はいらねぇ。代わりに俺があんたを案内()()()()()()分として、これだけ追加出払う。俺に一週間付き合ってくれ」


 そう言ってキリシェは黒色のコインを数枚並べた。


「これは貰い過ぎかと」

「いや、ロアさんに付き合ってもらうにはこれでも安い位だ。ただたまに俺に浄化でもかけてくれりゃぁいい。腕の間の汚れまで綺麗にしてくれるからな。おかげで関節が楽だ」


 カカッと笑う顔を見返して、しばし考えたロアは少し悩んでから頷いた。

 そうして契約はなった。悟られないように内心でそっと安堵のため息を零してロアはキリシェに彼女が望む、慈愛に満ちた笑みを向けた。


「よろしくお願いします、キリシェさん」

「ああ、よろしくな。ロアさん」


 予想にたがわず頬を染めて嬉しそうに無邪気な笑みを浮かべるキリシェに一つ頷き、互いに食べ終わっているのを確認してロアは立ち上がる。


「とりあえず、宿の紹介からお願いしても良いでしょうか?」

「ああ、飯が上手くて部屋が綺麗なとこ紹介するぜ」

「あまり高いと困っちゃいますが」

「ソコまでじゃない。商人向きの穴場なとこだ」

「冒険者の私が利用しても?」

「ロアさんなら問題ない。というより本当に冒険者か、カード見た今でも信じらんねぇ」

「冒険者には別に身分も立場も関係無いでしょう」

「いや、そうじゃなくて、暴力的な雰囲気っていうかなんて言うか、こうのほほんとしてるから」

「もしかして貶されてますか?」

「まさか!! え、違うから。本当に違うから」


 二人は軽快に言葉を交わしつつ店を後にした。

 二人がいなくなった後の店では、有名なキリシェと一緒に居たあの貴族の子息らしき男は誰だ、と推測し合う声が長い間飛び交っていた。




 古都の城壁内をそこそこ巡って数日、城壁外の遺跡の一つにロアは来ていた。


「これは……珍しいですね」

「そうか? 城壁内の他の遺跡とさほど違わねぇと思うけど」

「いえ、そうでは無くて……。何でも無いです」


 ロアは魔力を込めた瞳で周辺を見、見えるものを追って背後の丘の向こうにある古都へと視線を向けた。

 それからキリシェの説明を聞きつつ、ゴロゴロと積み重なって散っている装飾の痕跡の残る石を踏み越えて奥へと向かう。

 かつてはココまでも街の中だったのは、こうして遺跡が残っているのが証拠だろう。


 その中でもここは城壁外にあって比較的綺麗に残っている。他の場所は、獣たちや戦闘などで土台が残っている程度の場所が殆どだ。

 それでも背の高いものは大抵が倒されている。


(これがこっちの柱、これがあっちの台、この装飾があっちのと繋がって)


 落ちているもの形跡から元の形を頭の中で組み立てていく。

 僅かに周囲と違う魔力がこの場所に滞留している。そのおかげでここにあまり魔物や魔獣が発生する事が無く、また獣も近づかないのだろう。


 ロアは視覚では見えない魔力線を見る。足元に敷き詰められた石の更に下に緻密に刻まれたものが、廃棄されたのちも残り、辛うじて機能しているものを。


「古都が今の規模に落ち着いたのは、五万三千年ほど前でしたっけ」

「たしかそん位だったはず。街の北で魔法教えてるエルフが当時から生きてるから、話し聞きに行ってみるか?」

「それも面白そうですね。っとココが中心、ですね」

「ん? ロアさん、建物の中心はもっとあっちのはずだぜ」

「ああ、いえ、建物のでは無くて、土地の、です」

「庭含めてか。でもよく庭の範囲分かるな。もう建物の跡以外は砂漠と同化してるだろ」

「いえ、ほら、僅かですが地面の質が違うでしょう。明らかに人の手が入り整えられてます」

「……う~ん??? 言われてみれば? や、わっかんねぇ」

「慣れれば見分けられますよ」

「ロアさん、本当は学者だろ。じゃなきゃ分かんねぇよ。そっちの方がしっくりくるし」

「ただの冒険者ですよ」

「詐欺だぁ」


 この辺りは魔獣の発生が少ない、とはいえ皆無では無い。故に、ケラケラと笑いながら会話を続けつつもキリシェは周囲の警戒を怠らない。

 ロアは殆ど任せて地面に膝をつき、フードの前に指をかけて更に深く被る。

 本来ならここに祭壇があった筈だ。もしくは奉祀台だろうか。

 

「ロアさん?」

「ちょっと、調べたいので」

「ん、了解」


 キリシェはそれで会話を切り、周囲の警戒へと意識を傾けて会話を切った。


 ロアは薄く積もった雪を払いのけ、見つけた中心に指先でふれつつ瞼を下ろし、そっと意識を地下へと向ける。そこに流れる流れの主へと。古都を辺りを司っているのに、随分とはなれた場所に主体を置いているモノへと。


 暫くそうしていたロアは、徐に指を離すと静かな動作で立ちあがった。


 ロアが動いたのに気づいたキリシェが声を掛けると、終わった事を告げて古都へ戻ろうと声を掛けた。


「何か分かったのか?」

「え?」

「ちょっと難しい顔してる」

「珍しいものが見れたので」


 柔らかい笑みを浮かべて返事をしたロアは普段通りに見える。しかしやはり少しだけ憂いをその頬にのせているのに、キリシェは気づかなかった。


(さて、どうしましょうね)


 そこまで長く居るつもりは無いのだけれど、と内心でため息を零してロアは少しだけ重くなった足取りを気づかせることなく、古都へと向かった。

ありがとうございました。

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