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19.撤退は速度が大事と習った

宜しくお願いいたします。

 王都に戻ったロアは、素早く宿を引き上げ、宿に向かう途中で購入した適当な品物で顔見知りになった人に挨拶をし、ギルドにも顔を出した。


「えっ!?」

「ええ、少し急なのですが、用事が出来まして」

「お一人でですか?」

「はい」

「あの、来週まで」


 ユアンが必死に引き留めようとするのを、少し困ったと伝わる笑みで黙殺した。ついでミトへの依頼を出せない事を謝れば、別にいい、と首を横に振る。

 そしてどうしても待ってもらえないのか、と縋る言葉を呑み込んだユアンの頬にそっと触れる。そこは以前ユアンが種族の特徴を出してしまった場所。


「また、いずれ来ますから」

「はい」


 しょんもりと肩を落とす。ココがカウンターだと言う事を考慮すれば、かなり落ち込んでいるのだろう。感情が抑制させてこうなのだから。

 了承しながらもジッと雨に濡れた小動物のような目で見上げて来るのを、ゆたりと見返してその奥にくゆる熱に存分に燃料を注いでから手を離した。視線がカウンターで切れるまで指先を追うのを確認して目を細める。そしていつもの微笑みを浮かべた。


「では」

「あの次はどちらへ」

「南に。届け物があるので」

「……お気をつけて」

「ユアン君も元気で」


 そう言ってギルドを出たロアは、旧神殿にも出向き子供たちにお菓子を届け、祈り暇を告げてから夕方になる前に王都を南門から出た。


(時間との勝負ですね)


 初心者迷宮程度なら自分でも対処できるから大丈夫だが、上級の迷宮になると外への干渉が広くなる。そこへ触れないように南へと向かわなければならない。

 気配を消して、ロアは南の山の向こう、岩ばかりの岩石砂漠の中のオアシスにある国を目指して足を踏み出した。


 次の町からは時に乗り合い馬車なども使い、基本森など人から離れた場所を選んで進み三十日ほど、ようやく国境を越えたロアは緑豊かな国境沿いの街で一息吐いていた。

 中級迷宮に一度囚われかけるなどもしたが無事にココまでこれた、と肩の力を抜く。


 自分を求める相手に国境は関係無いが、それでも管理の関係で国境で分けている者も多い。というよりも無意識に人が、管理の区分けに国境を置く事が多い。

 管理者によって環境や生態系も変わるからかも知れないが。


 ここも超えるのが険しい山が国境とされ、それを挟んで砦が置かれていた。


 もっとも山を迂回する道が整備されていて、両国の共同管理になっているので行き来は頻繁にあるらしい。

 これから向かう先は雪が深い。そして雪解け水のある春だけは緑が地面を覆うが、直ぐに尽き、また雪が降るまではひび割れた大地が出来上がるらしい。


 関所やギルドの受付、酒場などで数度見されつつロアは何とか情報を仕入れて、宿屋に腰を落ち着けた。

 疲れたようにベッドに腰掛け、僅かに震える指先を握り込む。

 中々、慣れない。ミトにどれだけ頼っていたのか、別れてからより強く実感していた。

 いつからか、一人部屋で「大丈夫」と小さく繰り返すのが癖のようになっている。


 暫くして落ち着くと腰を上げ、ポーチを探った。


「さて、どうしましょう」


 ギルドで仕入れた地図を開いたロアは、ため息を零して思わずと口にしていた。


 ココからこの国の首都に行くには南へ真っすぐ岩石砂漠を突っ切れば良いが、この砂漠自体が恐らく南へ直進する街道沿いの最上級迷宮の影響だろう。首都自体は影響範囲の端にあるが、ココからだと逆サイドだ。

 気配は隠しているものの、気付かれない、というのは希望的観測過ぎる。


(問題はこの迷宮が、同族と契約しているかいないか、だけれど)


 ロアはジッと地図を見下ろして、頭を悩ませる。


 同族と繋がっていて欲しいと言うのが希望的に過ぎると知っている。祖母と一緒に暮らしていた時に、同族が亡くなったという連絡は幾つもあったが、()()()()という連絡は一つも無かった。

 ロアは未だ薬師の条件を満たしていない為、子をもうけられず、子を受け入れる事も出来ない。ロアの産みの父母は薬師と慣れなかったと聞く。ロアは産まれてこの方、祖母以外の薬師に会った事が無い。未だ数人は居ると聞いているが。

 ロアの血縁上の弟妹甥姪は数多くいるだろうが、会った事も無く、居ると言う確証は無い。ただ、祖母の子どもは数十人いるから確実に居るだろう事は確かだ。

 その中で現在まで薬師の可能性を持てたのがロアだけ、というのが薬師の少なさを物語る。

 祖母もロアが成人を迎える頃から子をつくらなくなってしまったので、これ以上増えるかの可能性は更に低い。血が薄まると発言の確率は低くなるという。

 薬師というのは既に滅びかけの種族だ。


 その割に役目は重い。

 

 故に常に危険にさらされている。同時に暗黙の規則に守られる立場でもある。現状、なりかけのロアはそれに辛うじて引っかかる、という程度だが。

 だから被害も少ない。


 ここに来るまでも初心者迷宮には幾つか潜って来た。あの程度なら偽装が剥がれる事は無いからだ。

 しかし初級迷宮に入って来ると、中級に近くまで成長していると違和感を感じて伺って来る者が出て来る。敏いものだと手を出してくる。まあ、内見として利用も出来るが、現状上級以下は該当物件が無いと、ロアは見ていた。もっとも現状上級にはとうてい潜れないが。


(私自身に戦う術があれば、もっと違うのでしょうが。戦闘へのセンスは殆ど無いですからね)


 運動、と言わないのは僅かなプライドだ。少なくとも奉納舞は踏める。それも祖母たち曰く及第点といったところらしいが。目は良いらしいが、身体が全くついていかないのだ。


(ここで少し待ってみるのも)


 というのも、一人は追いかけて来ると半ば確信している。幾人か軽くかけていたが、候補にもならない相手だったので、そちらは数合わせ程度だ。

 繰り返し重ねた暗示。恐らく与えられなくなって、飢餓に耐え切れず追いかけて来てくれる筈だ。祖母たち曰くそうなるらしい。

 そこで護衛として契約すれば良い。


(あの子一人では、不安ですが)


 契約を無理矢理破棄出来る相手に立ち向かうには、あの様子では場数が足りないだろう。祖母の従者でさえ、幾人も作り直される被害を度々出していた。

 最低ラインで欲しい相手は捨てて来てしまった。


 この状況ではその子を第一に、と妥当な案を考えるが、どこか引っかかるものがあって、ロアは地図を見下ろしつつ違うものを見る。

 浮かんだものを頭を振って散らし、手早く地図を纏めると寝る支度を始めた。


 翌日には、防寒の装備をお店の人や居合わせた冒険者などに聞いては相手を狼狽えさせつつも整え、更に次の日には街を後にした。


 足を向けるのは首都では無く、砂漠を一度迂回し古都を目指す。


 この街の周囲にも迷宮は多いが、ソチラの方が多い。しかも中級中位までのが大半だ。ココの様に少し空離れた所に上級の迷宮があるわけでは無い。


 ならばソチラで護衛を探す方が、自分にとっても都合がいい。中継ぎ程度の相手でも居れば今は充分だ。そして首都を目指し、目当ての相手の情報が無いか探る事に決めた。


 生憎向かう馬車が半月先まで無いという事なので、徒歩で向かう事にした。この街に長く滞在

するのは危険だったし、何よりざっと街を巡ってみたが候補足りうる者がいなかったので。


 山裾を辿って向かうのは、色々と採取をしつつだからだ。祖母の家では見なかった種類も多く、楽しみながら足を進めていれば、ちらほらと雪が降り始める時季になり始めた。

 最初の一片(ひとひら)を頬に受け、空を見上げ白い破片が降る様に見惚れる。外で降る雪を見るは初めてだった。

 はっと白い吐息を零して、見上げたまま何かを祈るように目を閉じたロアは、暫くそのまま立ち尽くしていた。


 雪が降ったからと町へと立ち寄る事も無く森の中を進み、凍る枝の影で寝ては、触れただけで心臓が止まりそうな冷たさの小川で身を清める。

 なるべく人の集まる場所に近寄らずに古都へと向かうその道中、枯れて見える木立の間の獣道を行くロアは、薄い雪を積もらせ野垂れている影に近づいた。


「大丈夫ですか?」


 微かにある魔力反応が生きている事を示していた。意識があるかは分からないが。

 屈んだ時に零れた柔らかな茶色の髪を耳に掛けながら声を掛けた。

 

ありがとうございました。

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