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18.常にいっぱいいっぱい

宜しくお願いいたします。

 ()は神を信じている。いや、その存在を知っている。

 というよりも結構気軽に神は人に干渉してくる。

 特殊な迷宮であったり、龍や古竜であったり、種族スキルであったり、称号であったり、信託であったり、と数えればきりがない。

 数千年前にはあまりに神の気にさわったからと、大陸の半分を占有し暴威をふるっていた帝国が一夜にして消えた、というのは良くあげられる話だ。

 実際、神に気に入られた神子という存在がおり、彼らの託す信託はこの世界の脅威から結構人を守ってくれる。もっとも信託があっても退けられない事も良くあることだが。

 神はこの世の須らくを平等に思っている事は、獣や魔物にも神の寵愛の証である加護を持つ者がいる事からも確かである。


 この辺りは常識だ。


 しかしロアがミトに語る事はミトの常識には無かった。


「つまりさっきのは土地神みたいなもんって事か?」

「はい。神では無いですけれど」

「で、薬師ってのはその神様専用の薬を作る職業って事か」

「いえ、違います。神に通ずる薬など作り出せる訳がないでしょう」


 というような会話が何度か遣り取りされる程度には、理解したつもりの事と伝えたい事がすれ違い、互いに納得のいく説明がつかなかった。元より常識が違うのだ。互いに理解したくてもそう易々と理解出来るものでは無く、互いに理解したと誤解して納得して会話が成り立っている部分も多くある。

 それに気づかないまま、ロアは普段よりも早口で言葉を紡ぐ。

 

「私について来てくれるようであれば、ああいった存在に会うようになります。時に対応を誤れば命の危険すらあります。あの方たちには鼻を擦る程度の動作でも、時に山を一つ消し飛ばしてしまう力加減の誤りがありますから」


 普段なら水から上がると同時に乾かす身体もそのままに、足元の小石に水が滴り影が広がっていく。

 姿も直ぐに偽装するのに忘れて、決断を迫り握りしめる掌には汗が滲んでいた。


 ロアにとって()()とのやりとりは、そこそこ慣れたものだった。相手にしなければならない時もあったし、対価と等価のみで成り立つという事を経験から学んでいた。


 しかし対人でのやりとりをして、祖母の傍にいた者たちのようについて来て貰うようにするにはどうすればいいのか分からなかった。

 

 外を知っている者たちは誰一人、ロアに外の事を知識として以外教えなかったから。

 

 微笑みを浮かべて話しながら、ローブに隠した拳が小刻みに震える。


(駄目だ)


 暗い感情が浮かぶ。平静に常に静かな地下湖水の水面のように保っている筈の感情にさざ波が立っているのを自覚している。

 

(逃げたい)


 押し殺し、圧し潰し、なんとかやってきたが、祖母に縛られない誰かが居る、自分に繋げたい相手がいる、そういうのに慣れていなくて、全てが怖かった。

 切られるのも潰されるのも血を啜られるのも神経を一本一本抜かれるのも嫌いだが、そういった怖さから目を逸らし受け入れて流す事には慣れている。

 でも何が怖いのか分からない怖さに、今すぐこの場から逃げたいと、そう思ってしまった。


 目の前では理解しきれない、何かに苛立つ表情を浮かべているミトが居る。


 奥歯で口の内側を噛み、何とか踏みとどまるのは既に迷宮に踏み入っているから。

 この場所に居るのは既に知られている。せめてミトで無くとも、誰かが傍に居るようにならないと、一人のこの身では連れ去られかねない。そしてその地に繋がれてしまうだろう。そうすると色々と不都合がある。


 既にあった接触では、ミトが()()候補だからそれが確定するまでは、と退けている。

 暗黙の規則がなければ既に自分はこの地にはいなかった筈だ。

 それだけは自分が薬師という種族で良かったと思えた。


「それで」


 まだミトは納得していない表情をしている。

 

(ああ、やはり暗示をかけておけば良かった)


 なぜ止めてしまったのか。だが傍にただ居てくれるのでは無く、自らの意思で居て欲しいと、彼の持つ本来の力を発揮する阻害に自らが成りたくは無いと、思ってしまったのだ。

 契約期間後半に入る頃からミトの持つ、押し込められた才能を引き出すきっかけを探り始める程度にはそう思っている。


 だからこの時点で、自分の眼をまっすぐ見てくれている絶好の機会だというのに、己の眼に魔力をのせる事も出来ない。


「あなたはど――」

 

 焦燥に背中を押される形で、問いかけが止んだ隙に意向を聞こうとして言葉が切れた。


 目を丸く瞠り見つめる先には己を押しのけたミトの身体を突き刺す地面から生えた二本の牙。

 河原の小石を押しのけて地面からガラガラと現れたのは、幾対もの足を持つ昆虫型の魔物だ。


 呆然と見上げたロアは次の瞬間、自らの失態に気付いた。

 慌てて姿を偽装し、ローブを目深にかぶる。


 するとミトを牙から振り落とした魔物が、急に目標を見失ったように周囲を見回した。

 相手は視覚がある相手では無い。


 ついでロアはポーチから対象の種族が嫌いな臭いを封じ込めた瓶を取り出して、近くの岩の上に置き蓋を開ける。

 その間、物音一つ立てない。


 周囲を探り、目標物が無かったので打ち捨てられたミトに齧りつこうとしていた魔物は、臭いに不快だと身をよじらせるとミトを捨て置き、一目散に森へと逃げそのまま地中へと潜っていった。


 暫く息を潜め、それからロアはミトへと駆け寄った。


「すみません。僕が、……っ、すみません」


 顔をくしゃりと歪め、ロアはポーチから魔法水薬を取り出してミトにかける。


 毒を持った牙で身体の真ん中を突かれたミトは、ロアが対処をしている途中から意識が無かった。


 普段の彼ならばこんな事にはならなかっただろうが、タイミングと相手が悪かった。

 少なくともギルドで現在はこの地域で確認されていない魔物で警戒が地中へは向いていなかった事やロアとの話に夢中になっていた事、そして立ち位置が少し遠かった事だ。

 ロアを助ける為に武器を抜く動作を挟む余裕が無かった。

 

 そしてその魔物が、ミトの装備を貫けるほどに凶悪な相手であった事もまた、不運だった。

 もっともその最たる原因をミトは理解していないだろうが。


 ロアはポーチから敷物を取り出し、ミトを引きずって乗せ、解毒と回復の処置とついでに幾つかの薬を服用させて、その傍らに約束していた報酬の火竜の素材と更に金銭、そして機械龍の外皮を一つ置いた。


(やっぱり、ダメだ)


 ロアは唇を噛みしめて、普段浮かべている笑みを消してミトを見下ろした。


 その目から落ちる事の無い潤みが満ち、強く瞼を瞑った。胸元をギュッと握る手が震える。

 ミトを手に入れると言う事はいずれこれ以上を求める事になると実感して、隣に居て欲しい気持ちを圧し潰した。


「これまで、ありがとうございました」


 届かないと知りつつ、そう呟き、強固な結界を張り、ミトの姿を周囲から隠した。


 空を見上げてこれから数日は晴れである事と、その状態から早くて十数分、遅くて明日には目が覚める事を確認して、冷える事が無いように追加の術式を結界内に展開し、毛皮を取り出しかける。

 浄化もかけたミトは既に血の香りも無く綺麗になっている。服も修復で直る所は直した。姿隠しだけでは心配で獣避けの香も幾種か撒き、魔物避けの術も散らばせる。

 最後に状態の確認にそろりと傍に戻った。


「いつか」


 再会を希望する言葉を口にしかけて飲み込み、ロアは立ち上がり、感謝と手向けの礼を向けてから背中を向ける。


 そして一度だけ振り向いてから、その場を立ち去った。





 ミトが目を覚ました時、空には既に星が瞬き、幾つかの月が輝いていた。


「あ゛?」


 やけにスッキリとした目覚めにノソリと起き上がり、腕を伸ばしゴキゴキと身体を鳴らす。


 そして足を組もうとして膝に触れたものを見下ろして目を瞠った。

 幾つも置かれた素材と明らかに金の入った小袋。

 倒れる前の事が瞬時に思い起こされ、周囲を見て何となく状況を察してビキリとその額に青筋を立てた。


「アイツッ!!」


 立ち上がろうとして、直ぐに倒れてからの時間を考えれば既に遅いと気付き、報酬他をポーチにしまった。


「逃げられると思うなよ」


 ポツリと零したミトは、足早に結界を出る。

 ミトが出ると結界や周囲に散らばった術式はあっさいと崩れ消え去った。

 残ったのは香の香りだけ。それも数日すれば消えるだろう。


 全てを見ていた川は、常と変わらずさらさらと涼やかに流れていた。

サイコロ、二枠仲間にしない、四枠仲間になる、にして振ったら見事に仲間にしないを引いて、今後の進行を急遽変更することに。。。もう一人も今回はなりたくないそう。


ありがとうございました。

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