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13.同種素材は途中から捨てている

宜しくお願いいたします

 帰って来たミトが部屋に一言告げてくるようになったのは、あの傷ついて帰って来た日からだ。

 返事をしてシャワーも浴びて来た様子のミトを部屋に迎え入れる。その視線が上下に動きロアに異常は無いかを確かめるのに困ったような微笑みを返した。


「風邪ひきますよ?」

「こんぐらいで引くかよ」


 そう言いつつも注意すればまだ水気の多い髪をタオルで拭う。ロアは温めた温風を送って乾かした。水魔法で乾燥させても良いが、複合魔法の方が調整しやすかった。


 促してベッドに腰掛けさせたミトと窓の縁に座り向かい合い、明日の予定と希望を告げると顔を顰められた。


「三月たつ前に一度は行っておきたくて」

「中級、ね。どこだ?」

「紅月の庭です」

「あそこか」


 紅い月が常に照らされた、外部非干渉型の迷宮だ。大抵の迷宮は昼と夜があり、外と連動しているが、中には無いものもある。

 今回ロアの行きたいと言った迷宮は、無いタイプのものだった。


「時間感覚の調整の仕方って分かるか?」

「恐らく?」


 中で昼夜が無いために時間感覚を失い、知らず無理をして倒れその間に魔物に殺される冒険者も多い。


「目的は?」

「月属性の素材を手に入れたくて。でも先日の橙月の満月は雨で見えなかったので」

「紫月じゃダメなのか?」


 チラリと窓を見る。方向が違い見えないが、空には今日か明日には満月になる月が見えている筈だ。


「同属性でも系統が違うので」


 困ったように笑む姿に更に眉が寄る。

 

「ダメ、ですか?」

「別に。お前の好きにすればいい」

「ではよろしくお願いします」


 直ぐにニコリと笑う様に更に苛立ちが募る。

 別に守る事に不安は無い。そうでは無く、帰って来る前にギルドでユアンから向けられた視線がやけに頭に残っていた。

 どこか優越感に満ちた、そして満腹の獣のようでいて、与えられたものを更に希求するような飢餓を含んだ瞳、更には僅かな嫉妬。


 気になる。

 だからと言って自分から問いかけるのも何となく嫌で、むっつりと黙り込み視線で何かあったのかと問いかける。


「ミト?」


 ミトは答える言葉が浮かばず、ただ手の甲でその頬を軽く叩くと、部屋を出る。背中を追いかけて来る就寝の挨拶に軽く手を振って、結局自分が何を聞きたかったのかも分からずに。




 早朝、まだ少し眠気を湛えた目元に色気を湛えたロアが、女将に心配へ手を振って外へ出ると頭上に影がさした。

 見上げると巨大な船底が見える。鳥の羽ばたきよりも微かにキィィィという音が聞こえる。


「今日も朝から飛空艇は元気ですねぇ」

「生き物じゃねぇって」

「知ってますよ」

「あれ、定期便じゃないですね。初めて見るやつです。船底にギルドのマークも、紋章も無いですし……」

「旗だけで印上げてんならどっかのクランの船だろ」

「クラン?」

「冒険者か傭兵かは分からんがな、団体作って資金集めて買うんだよ」

「ミトは個人で持ってますか?」

「あんな管理が面倒なもんいらねぇよ」

「そうですか」


 興味無い、と道を先に行く背中を追いかけて振り返ったロアの視線の先、空気嚢と船尾を繋ぐ鎖に大きな旗が揺れ、ソコには未だ弱い朝陽の光を撥ねて光る銀地に杖を背後に背負う黄色の狐が蒼の雪結晶を抱く紋章が見えた。

 

 ギルドで掲示板を見て、特に良いのが無かったのでそのまま予定通りの迷宮へと向かう。


 赤水晶で造られた精緻な門に赤い木板に豪奢な彫りが施され赤水晶で装飾された重そうな扉、そしてそこへ続く十数歩分のポーチは門と同じ赤水晶を込めた白石で作られていた。

 見た目は綺麗だが、赤水晶は常に軽い毒の瘴気を放つので耐性が無いと微妙に肌がピリピリする。

 もっともこの程度なら安価な耐性魔道具で対応できるため、依頼が出ればくる冒険者は多い。中には耐性獲得のために、ここで野営する者もいる。

 二人は既に耐性を得ているので、気にすることも無かった。


 ロアは少し離れた場所からじっくりと迷宮の入口を眺めていた。


(やはり、拠点には上級以上でないといけなさそうですね)


 未だ品定めをする前の餞別基準を探している段階だ。現在巡った初級以下の迷宮は最下層まで行ってもどこも軒並み該当しなかった。

 想定はしていたが、中々に厳しいと現実にため息を零したくなる気持ちを抱えて、ロアはもういいのか聞いて来るミトを促して迷宮へと足を向けた。


 入ってすぐは何処かの屋敷のエントランスような場所に出る。直ぐ横に二階に上がる階段が見えるが、昇る事は出来ない。透明な壁に阻まれるからだ。

 正面の扉の前に転移の魔法陣がある。それを超えて先の扉を開けると、下り階段があるので下りる。下りきると荒れた野原とソレを照らす針金のように細い紅い月が見えた。細い割にその明るさは強い。影は月のある方向とは逆に伸びているが、迷宮仕様のあかりだろう。


「少し寂しいですが、綺麗な景色ですね」

「気味悪ぃだろ」

「もしかしてお化けとかコワイんですか?」

「お化けってなぁ。そういや、あれってレイスとは違うのか?」

「さぁどうなんでしょう?」


 呆れた視線に緩い笑みで返して、簡単な加護系の魔法を二人に施し警戒心無く踏み出すロアの横を歩きながら、踏み固められた道を行く。

 途中で降りかえれば豪奢な屋敷が見えただろう。ソコから出て来たのだから。


 暫く進むと定期的に揺れる周囲の背の高い枯れた草と違う動きで揺れる草が見える。

 観察力の無い冒険者ならよほど注意しなければ気づかない程度のものだ。


 二人がその草から三歩程の距離に近づいた途端、草が大きなしなりを上げて振られる。その葉は艶が無いものの鋭くとがり、当たれば切れると分かる。

 ミトは見もせずにソレを切り落とし、更に根元付近でもう一度振る。切られた草は少し残った茎を揺らした後沈黙した。

 ロアは落ちた葉を良い素材が手に入ったとポーチにしまい、ついでに先端を失った草の根元を軽く土魔法で柔らかく出来ないか試して、抜き取った。


「それ引っこ抜けんのな」

「試したら出来ました」


 ロアと迷宮に潜るミトは毎回のように、驚けばいいのか呆れれば良いのか、という状況だ。

 わざわざ倒した魔物の根元を持って帰ろうと思う奴がいるだろうか。

 それにこの草は現在の所、何の素材にもならない。自分よりも素材関連の本を読んだり、各迷宮の特徴を職員に尋ねたりしているロアが知らない筈は無いだろう。

 この迷宮で素材になるのはどこの迷宮にも大抵いるスライムと、道端で急に飛び跳ねて襲ってくる石と、虫、低い確率で草の先にある穂などだ。

 恐らくこの迷宮に潜る前にも、下調べはしている筈だと確信していた。


「で、欲しい素材は?」

「二十八階です」

「じゃ、次の転移陣が起動出来たら跳ぶぞ」

「はい」


 迷宮の転移陣にも色々あり、この迷宮の転移陣は気まぐれだ。既に攻略しているミトだけなら光るが、ロアも乗ると鎮まってしまう。

 こういう場合、目的の階まで自力で潜るか、はたまた幾つかの階層を攻略して迷宮が認めると二人で乗っても起動するようになる。

 

「これって私も戦わないと認められない可能性ありますよね?」

「この階層の敵、全部狩るとかやってみたらどうだ?」

「植物系は動いてくれないから、面倒なんですよね」


 出来ないと言わないロアに、幾分か楽し気にミトがそうかとまた向かって来た草を切り飛ばす。


「必要量集ったら魔法で燃やし尽くすとかが一番楽でしょうか?」

「熱いから止めろ」


 まるで気負う事無く道を進み、時折飛んで来る虫や草を倒して次の階へと向かった。


 階段を下りきって振り返れば、一階層と同じ屋敷の同じ扉から出て来る。ただし、扉の脇にある柱の石が回数を示すように増えていた。


「これ深くなるごとに増えるんですか?」

「いや、十階以降になると柱の色が変わる」


 興味深そうに柱に触れてロアは少し観察してから、先に数段の玄関ポーチを下りてまつミトを追いかけた。

 目の前には先ほどとほぼ同じ風景。月は先ほどと逆に若干陰っただけのほぼ丸だ。

 特に気にする事無く、先ほどよりも頻度をました襲撃を退けつつ先に進む。

 そうして三階層に来た時、この迷宮では初めての宝箱を見つけた。


 開けるより先に宝箱の解析をして、その魔力を写し取ったロアは白い薬液を周囲に撒く。

 周囲に浮かぶ幾つかの矢印の中で一番大きなものが目の前のモノを指すのに一つ頷いた。

 

「成功ですね。どちらが開けます?」

「お前で良いだろ」

「では、遠慮なく」


 幾度も迷宮に潜っている内に、見つけた時は交互に開けるようになっていた。最初の一つだけどちらが開けるかを確認すれば、あとは確かめる必要も無い。

 最もあると分かっていても全てを回収するかは別だが。

 この階層でも比較的道から近い物だけ回収して、次の階へと向かった。


 五階層は月明かりの下、遠間に僅かに雪が見えた。下に行く毎に緩やかに吹いている風が涼しさを増していく。

 

「二十階層辺りでは景色はどうなってますか?」

「あー、緑が枯葉の間からちょろちょろ出てる」

「最終の五十階層では?」

「あの辺りになると暑い。あと近場に湖やら遠くに山やら森が増えてて、かなり視界が違う」


 そんな会話をしつつ階層終わりにあった魔法陣に二人で乗ると今度は起動した。


「じゃ、三十層行って上がるで良いよな?」

「はい」


 頷いたロアを確認してから、ミトは転移陣に向かう階層を伝えた。

ありがとうございました

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