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11.初級デビュー

宜しくお願いいたします

 王都周囲の初心者迷宮の殆どを攻略して、数日。

 ギルドに久しぶりに二人揃って出向いていた。


「初級迷宮から罠が出るんですよね?」

「ああ。つっても十層以上ので、ソコからって感じだが」


 本日向かう予定の迷宮の依頼が無いのを確認し、自分たちに強い視線を向けて来る職員に軽く手を振ってギルドを後にした。

 一般人よりもガタイの大きい人が多い冒険者の中で、ガタイはソコまででは無いが背の高い二人は頭一つ上にあり、容姿が整っている事とそれぞれに持つ独特の雰囲気によって視線を集めながら道を歩いていく。


「楽しそうだな?」

「そうですか? いえ、罠があるなら材料採取が捗りますから」

「は? 迷宮の罠は持ち帰れねぇぞ」

「大丈夫です」


 教えている筈なのに何故かミトの方が教えられる事も結構ある。


 王都の門を出た脇から出ている迷宮巡り場所の停留所に向かう。だいたい二つから三つ、あとは近くの村を通して巡る馬車が、順路別に区分けされている。

 早朝には少し遅い時間なだけあり、少し空いた馬車に乗って暫くその迷宮に着いた。


「カラクリ洞窟ですか」

「ああ、岩が回転した後ろに通路があったり、決まった順路を決まった回数進むと次の路が出たりする」

「初級初回なので一階から巡っても良いですか?」

「好きにしろ」


 王都の周囲の迷宮の殆どを既に攻略しているミトがそう教えた。これまでの迷宮では、中には最初から転移して最下層のみを攻略した迷宮もある。


 この迷宮の地図は販売されていない。というのも同じ人が何度入っても、入る度に道が変わるタイプの迷宮だからだ。

 中には同じ人なら同じ道が出る迷宮もあり、そちらはパターン研究が現在もされて幾つか決まった順路が出ると解明された所もある。

 

「初級からは洞窟や森の他にも城や街や遺跡みたいな構造の所が増えて来る。まぁ大抵は初心者と同じ洞窟や森だがな。塔や山、環境型の構造が出て来るのは中級からだ。上級以上になると訳わかんねぇとこに出る」

「わけが分からない?」

「水で出来た廊下とか、木の中を流れる階段とか、前に歩くと後ろに進むとか、何か足元が全くねぇのに宙を歩けるようなとことかな」

「流れる階段?」

「見りゃ分かる」

「行けますか?」

「当分はやめとけ」

「分かりました」


 そんな気楽な会話をしながら順番を待ち中に入る。中は土に上下左右を固められた洞窟だった。明かりは無いが、何故か視界がきいていた。


 入口の魔法陣は無視して進もうとしたロアの足が止まった。

 先が行き止まりなのだ。


 振り向くと魔法陣を通り越した所でミトが立ち止まっていた。てててと小走りで戻ると、足元を指さす。

 地面に微かな窪みで矢印があり、その先を辿ると足首の位置に他の岩と違う赤い石がくっついている。


「これ押せば良いんですか?」

「ああ、入り口だけは毎度変わんねぇ」

「じゃあ」


 しゃがみ込みじっくりと観察してから徐にロアが指先をあて、一度ミトをチラリと見てから押し込むと、見た目よりも軽くカコリと音を立てて押し込まれた。

 上の方でガゴンと音がしてロアが首だけで上を向いたのを待っていたかのように、その足元が開きやけに滑る傾斜へと変わった。


「へ?」

「転がると下、結構硬いから痛いと思うぞ」

「それ、落ちる前に言って欲しかったです」


 言いながらも何とか転がらずにしゃがんだ姿勢から尻を斜面につけ、ローブのフードを片手で抑えながら滑り落ちていく。

 

(慌てねぇんだもんな)


 若干期待していたミトは期待外れだったと軽く肩を竦め、立ったまま速度を調整しつつ一階層へと滑り落ちて行った。因みにどんなに止まろうとしても、ココでは滑る。ちょっと位置を離して押しても、確実に足元に傾斜が出来る。


 十層で昼休憩をしてから、十一層へ降りた二人はそこで暫く足を止める。


「罠ってどうやって見つけてますか?」

「……勘?」

「なるほど」


 そう言いながらスタスタと歩き出したロアは、数歩でピタリと足を止める。周囲を見回してポツリと呟いた。


「ワイヤーと仕掛け針だけかな?」


 ポーチから上の階層で手に入れた虫型魔獣の殻を数歩前へ投げる。すると左手のどこからか槍が飛んで来た。

 反対の壁に突き刺さった槍を試しに抜こうとしたロアは、それが既に迷宮壁の一部として固着しているのを確認して頷いた。


「取れねぇって」

「そうですね。コレは無理です」


 そう言ったロアは投げた殻の上にまた一つ投げる。するとまた槍が飛んで来て先に壁にくっついた槍に当たって落ちる。コレもまた直ぐに固まって床から動かせなくなった。その後、ミトに飛んで来る槍を掴んでもらったが、コチラは動きが止まった途端魔物を倒した時と同じように揺らいで消えた。


「なるほど」


 頷いたロアは殻を回収すると手に持った槍が投げられた方へ行き、そこから殻をまた先ほどの場所へ投げた。瞬時壁が開き槍を射出した穴が閉じ切る前に殻を挟み込む。

 ギャリと音がして閉まるのがゆっくりになった穴を一度確認して、殻を砕いて閉まる時間を確認すると、新たな殻を二つ取り出し同じ動作をして穴へと躊躇う事無く腕を突っ込んだロアは、手早く探って腕を引き抜き、罅の入った殻を外す。

 するとそこには穴など無かったという壁に戻った。


「何やってんだ?」

「素材採取です」


 そういって見せられた手には巻き付くようにして糸と、仕掛けの一部らしい曲線を描く釣り針のような金具がついていた。


「再度配置されるまでは仕掛けも動かないですよ。ほら」


 そう言って仕掛けを留めた為に罅の入った殻を、既に置かれた殻の上に投げ落とす。

 仕掛けの音はするが、今度は槍が飛んで来ることは無かった。


「迷宮産のこの糸は色々な仕掛けを作るのに重宝するんです。下手な素材の物よりも耐久も伸縮もすばらしんです」

 

 言いながらみょ~んと糸を引っ張って見せる。ついでに鍵も迷宮の不壊属性をある程度引き継ぐのか、形状の直しは少し面倒だが滅多に壊れなくて便利なのだと説明を続ける。


「……馴れてんな」

「初級迷宮に潜るのは初めてですよ。君に嘘は一度も言った事はありません」


 懐疑的な視線を向けて来るミトに微笑み返して、ロアは先に行きましょうと促した。

 

「桜火竜を仕留めた罠も、そうして回収した罠でとったのか」

「そうですよ」


 隠す事無く頷くロアを見下ろしながら、ミトはまた目を細めた。

 嘘は無いのは確かだろう。聞かなければ答えない、もしくははぐらかすだけで。

 火竜を倒す罠とは気になるが、説明されて分かるとも思えない。これまで何度も見ている通常の籠罠ですら原理を説明されても、理解には遠かったのだから。


「ココまで階段の位置はフロアの真反対にあって、交互に下ってる感じですが、一直線に行きますか?」

「任せる」

「分かりました」


 コクリと頷いたロアは迷うことなく目の前で左右に分かれている道を右へ向かう。

 初級という事もあり一層が狭いからか、足取りを書き留める事も無く二人とも進む。


「ミトはマッピングしないんですね」

「面倒だろ。大抵は勘で進んでりゃいける。出来なけりゃ諦める。一応脱出用スクロールは持ってるしな」

「流石です」


 ニコリと見上げて笑う顔を横目に、どっちが、と内心で呟く。

 初心者迷宮を幾つか共に潜って気づいたが、ロアは記憶力が良いらしい。特に書き留める事も無く自分の位置の把握と、来た順路の記憶をしている。更には大体の一層の広さすら把握しているようだった。


「それもスキルか?」

「何がですか?」


 不思議そうに返したロアに、ミトは肩を竦め何でもないと返した。


 暫く進むと、ロアはあそこの罠回収しますと指をさす。

 今度は少し手間取るとの事で、回収する為にか幾度か先ほどのような試行を繰り返している間、近づいて来る敵をミトはロアの観察から視線を外さずに片づけていく。

 楽しそうに罠を解析し、素材を回収する様子に眉間に皺を寄せる。


 どこにあるかはこの位の迷宮なら勘で分かる。もし踏んだとしても、何か飛んで来るなら弾くか止めれば良いし、穴なら飛び越えれば済む、と無視して今まで攻略して来た故に、こんな風に構造を解析するなどした事が無い。

 ただやっている事が凄いとは何となく分かる。しかし感じるのは面倒そうという感想のみ。


「初級も一人で潜りますか?」


 まるでミトの心情を読んだように視線も向けずに問いかけられて、舌打ちをする。


「駄目だ」

「わかりました」


 やはり反抗することなく頷くのに頷き返し、また新しく向かって来た敵へと視線を投げる。面倒なので紐を仕込んだナイフを投げて仕留め、紐を引くことでナイフの回収もすませる。


 敵の強さは深く潜れば上がる。上なら大丈夫だろう。初級なら深層でも大丈夫そうだと分かるが、集中し過ぎる傾向の見えるロアに、一人では潜らせられないと感じる。

 物量で潰される可能性はゼロではない。


(あと一月)


 戻って来たナイフを軽く拭いてしまいながら、行きましょうと歩き出すロアの横に並ぶ。

 倒したものは近場に落ちたのだけ適当にポーチにしまってある。普段なら拾うのも面倒と放置するていどのものだ。持ち出せ無いものは例えしまってあっても、迷宮を出れば消えている。

 ただし何を入れて、何が無くなっているかを把握していないと、ポーチの中がゴミだらけになるが。

 通常なら素材以外が消えるまで待って回収する。それでも時折整理すると、いつ拾ったのか分からない素材が出てくることがよくある。

 ポーチの整理をしようとしたら、家から突っ込んでいたゴミが溢れた何て言うのは上級の収納魔法付与や空間魔法の掛かったポーチを持っている奴の笑い話によくある。


 一応、戻る度にその日、回収したものを確認するミトはそう言った事は経験した事が無い。

 自分の数倍は素材を逐一回収しているロアはどうかとチラリと見るが、


(こいつなら、すべて把握してるだろ)


と考えもせずに確信して前を向く。

 今日も陽が落ちる前に攻略できそうだと、普段のミトからしてはのんびりと迷宮の床を踏みつけた。

ありがとうございました。

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