尖兵グリードⅢ
11-3.尖兵グリード
横たわる死体。流れる血の河。
地獄の中心から轟く叫びと共に、力が爆発した。
「ッ!!」
突如何乗にも膨れ上がった六代の念動力が、千々石を壁に叩きつける。
「千々石さん!」
本能。
桜香がとっさに放った風が千々石の小さな体を横にはじき出す。間一髪、千々石が叩きつけられたコンクリート壁に無数の針が突き刺さる。
「・・・助かったのですよ」
反撃せんと立ち上がる千々石。しかし、その時既に六代の欲望は、新たな標的を捉えていた。
「きれーなさくら・・・・ホオオオオォォォォォォッ!『欲針』ゥゥッ!!」
脊髄反射。
空を飛ばない舞空術者が宙を舞う。
コントロールの覚束ない烈風に身を任せて空飛ぶ桜香の真下は、次の瞬間余すところなく針地獄。
ガガガッと床を、壁を削る漆黒の針の触手は、空舞う風使いを串刺しにせんと直角に折れ真っ直ぐ襲い掛かる。
「ハアッ!」
飛ぶのが苦手など関係ない。
脳のシナプスから集中力を搾り取り、広げた桜色の翼を右、左、右。死線をかわす。
「キエアアアアアアアアッ!!」
顔を狂喜に歪め、よだれを撒き散らし、六代は幻想力場を欲望の針に変え、何度も、何度も襲う。
「クソッ!」
犬飼の放った弾丸は触手に阻まれる。
「愛上さん!」
千々石が繰り出す黒い魔神の手も、六代の幻想力場に弾かれ消える。
念動力者は、自分を上回る力の念動力の前には、無力。
もがく。千々石は自分を救った少女を救おうともがき、奮うが、その手は届かない。
「逃げろ!さくちゃん!」
ヘタな飛行が幸いしたか。桜香の不規則な動きがうまい具合に針を避ける。が、1メートル、50センチ、3センチとかわすうち、次第に追い詰められていく。
限界を感じた桜香、賭けに出る。
(ここ!)
広がる黒針の海に見つけた一筋の光明。見逃さない。桜香は力のベクトルをその一点に向けた。
「ハアアアアアッ!!」
それは反撃でなく、逃走。桜香は眼下の一点、犬飼達のいる階段の方へ風を纏って急降下。
下はコンクリート壁。成功してもただでは済まない。だが桜香はためらいなく生きる望みに賭け、墜ちる。
刹那。六代、ニヤリと。
「いただきまああああああああすッ!」
黒の触手針が、一気に消滅したかと思うと、落下地点に像を結ぶは、無数の針を牙にした大きな口。
ハッとした桜香、桜吹雪の出力を止めるも、その身は自由落下。
パックリ開く、闇の口へ―—。
「桜香アアアアアアアァァァァァッ!!」
墜ちる桜香より速く。針の牙が突き刺さるより速く。千々石の念動力より、速く。
色彩の筋と化して飛ぶ塊が、桜香の体をすくい、決して離さず、二人の体が地を転がる。
六代の突き立てた牙が、空しく宙を掻いた。
「だれだ」
不意に力が弱まった。
気を削がれた六代が、血走った目で二人を見る。
少女を救った、少年は名乗る。
「探索部隊39番小隊、並木平秀」
—次章に続く―




