戦場バレットⅠ
静岡清水雄
伊藤水平党幹部。独力で編み出した覆水術と組織に伝わる体術・技術を合わせた活水刀の切れ味は党首伊右衛門に次ぐ。
六代針
『両界調停者』という組織に所属するVVV級想能力者。
自らの「欲望」を引き金にした能力を使う。
10-1.戦場バレットⅠ
潮が引いていくようだった。
あれだけ猛攻を続けていた謎の覆水術軍団が文字通り引き潮のように飛沫を上げて退却を始めた。
「・・・逃げ始めたぞ」
「どうなってるんだ?」
黒い隊服の駆逐隊に混じって戦うオリーブ色の二人。
平秀と鎌瀬は疲れ切っていた。
時間にして15分くらいだろうか。しかしこんなに全力を出した15分もそうない。
アドレナリンを出し尽くしてともすれば気が遠くなりそうな意識に活を入れ、二人は辺りを見渡す。
「全員退却したか」
「そうみたいだ・・・<岩ヲモ砕く>」
『終詞』を唱え想能力の出力を止めると、平秀はその場にへたりこんだ。
「・・・やってらんねえ」
「フッ、情けないな」
「お前だって汗ダラダラじゃねーか」
「馬鹿、俺様は炎の使い手。この炎天下だと汗も出るだろ」
そういう鎌瀬も立ってるのがやっとの様子。
「近くに自販機はあるか?」
「この状況で飲み物買う気かよ・・・育ちがいい奴は余裕が違うね」
軽口を叩くが平秀も喉がカラカラだ。
「無線が繋がらない。何かあったのかも」
「忙しくて出られないというのは?」
「そろそろ避難なら一段落ついてるだろ、それにこの急な退却はなんかヤバい感じが——」
「ヒラシューか!」
突然声がした。振り返ると世鬼征介が隊員数十人を引き連れ会場側へ向かっているところだった。
「お前、何故ここにいる?避難誘導任務はどうした?」
「巻き込まれたんだよ」
平秀は適当に嘘をつきつつ、物々しい征介の部隊を眺める。
「何かあったのか?」
「市民に敵襲だ」
手短に告げると征介は進行方向に足を向ける。
「手が空いたならついてこい。命の保証はできないがな。急ぐ必要がある。行きながら話すぞ」
そう言って征介は部隊を率いて駆け出した。
二人は顔を見合わせ肩をすくめると走って彼らを追いかけた。
「・・・で、状況は?」
「正体不明の武装集団が市民に発砲、急襲。死傷者多数。現在千々石司令の指揮のもと研究棟エリアで交戦中らしい」
微塵もスピードを緩めることなく、征介は簡潔に説明した。
「うちの隊長たちは?」
「生死不明。避難指揮のレトリバー部隊にもかなり犠牲が出た。無事を祈ることだ」
平秀の脳裏に一抹の不安がよぎる。が、それを自分で打ち消した。
「あの連中がその程度でやられるタマかよ」
「いい心がけだ。無駄なことは考えるな、前だけ見てろ。・・・来るぞッ!」
視界が開けた。
普段静かで落ち着いた東城学府研究棟エリアは爆風硝煙立ち込める戦場になっていた。
敵の武装勢力と思われる影も見える。
「・・・・奴らに一片たりとも情けをかけるな。慈悲を持たぬ敵だ。殺せ。味方の為に、正義のために殺せ。情けをかければ、その情けが我らを殺す。忘れるな。総員解詞唱和!戦闘態勢!」
征介の手に雷が弾ける。敵の銃口がこちらに向けられる。
「突入ッ!!」
銃口が一斉に火を噴いた。
味方の『障壁術師』が即座に攻撃を防ぐ間隙を縫って、征介の雷槍が敵陣を貫く。
「<犬モ駆ケレバ>・・・!」
解詞を唱えると同時、平秀の体は銃弾より速く加速する。
でたらめに強く足を蹴りだすと敵の斜め頭上に飛び出した。
少し飛びすぎ、そう感じた平秀は空中で能力出力を下げると側面のビルの壁を蹴って反転。突撃。
「うおりゃああッ!」
彗星のような飛び蹴りが金属の防護靴を弾頭に敵の側頭部を粉砕する。
勢い余ってつんのめりそうになるがこらえて踏ん張り、少し足を蹴り出す。
強烈な薙ぎ蹴りが足をへし折り、次いで放つ拳が急所をしたたかに捉える。
この間数秒。敵は何が起こったのかすら分からない。
混乱すらさせる暇を与えず思い切り前方に加速。さらに深く切り込もうとした瞬間だった。
「うおあッ!?」
痛恨のミス。えぐれた足元につまづき転倒。
元より不安定で危なっかしい能力だったが、間が悪かった。
「死ねええ!」
我に返った敵の一人が銃を平秀に向ける。
殺される——!
必死で立ち上がろうとした、その時。
「ヒャッハアアアアアッ!!」
無数の弾丸の嵐がその敵を撃ち抜いた。
「おいおい素人か?」
チェストアーマーだけの軽装。頭にはバンダナ。サングラスをかけ、髭をたくわえた筋骨隆々の大男が脇から飛び出してきた。
明らかに据え置き用の巨大な機関銃を肩から構えている。
「・・・っと援軍か。坊主、立てるか?」
—Ⅱに続く―




