刹那サムライブレードⅤ
8-5.刹那サムライブレードⅤ
「押さないで下さい!隊員の指示に従い、慌てず騒がず避難して下さい!」
激戦の反対サイド。
こちらは見えない敵との戦い。ドッグス隊員たちはともすれば心を支配しようとする恐怖とパニックから市民を守り、誘導する。
桜香と犬飼も人ごみにもまれて奮闘していた。
「同じペースで進んでください!押すと危険です!ほらそこっ!走らないで!」
「・・・やれやれ、面倒なことになりやがった」
最も動乱を望んでいたはず(?)の犬飼はため息をつく。
「こりゃ明日は筋肉痛だ」
「隊長!そっち側のサボらないでください!」
長い髪を汗で濡らし必死の誘導を続ける桜香の声には悲痛さすら混じっていた。
「私も何が何だか・・・とにかく、今はこの人の波を早く安全に避難させましょう!」
ああ、わかってると返事をした犬飼は炎天の空を見上げる。
南中した太陽は夏の熱と光をもって地を焦がしていく。
「暑くなってきやがったな・・・さくちゃん」
思い出したかのように犬飼は言う。
「救護隊への連絡の準備しとけ。この暑さ、人混み、パニック。これじゃあ・・・」
言いかけたその時、群衆からどよめきと助けを求める叫びが上がる。
熱中症で、誰かが倒れたのか。
「・・・言ったそばからこれだ。俺が運び出すからさくちゃんは救護隊連絡よろしく」
肩をすくめて、犬飼は群衆に分け入る。
見ると少女が苦しそうに顔を歪めて地面に倒れていた。
「保護する!誘導通り静かに進め!」
立ち止まりまごまごとする野次馬に一喝すると、少女の肩を揺さぶった。
「おい、話せるか?名前は?」
「あ・・・あやの」
「アヤノちゃんか、いい名前だ。・・・体温上がってんな。とりあえず運んでやるからな」
犬飼は少女の小さな体を背負うと雑踏から抜け出し、少し離れたところに寝せてあげた。
「救護隊の者です!患者は?」
「こいつだ。診てやってくれ」
救護隊員を示す赤十字の腕章の男がやってきた。犬飼は手当てを任せて後ろに下がる。
「・・・熱中症で間違いなさそうですね。飲めるかい?」
隊員が水を差しだすと少女はこくりこくりと飲む。
その間に隊員は冷温シートをパキリと割って少女の首や脇を手際よく冷やしにかかる。
「お父さんお母さんはどこ行ったんだい?」
後ろで見ていた犬飼が尋ねる。
「わかんない、わかんないよお・・・ママも、パパも、先に行っちゃったのかなあ」
「・・・クソみてえな親だな」
少女に聞こえないように、噛み潰すように呟く。
「口で正義正義ぬかしてこんなあぶねーイベントに子供連れてって挙句放置か・・・『善良な市民様』はのんきなこった」
「・・・どうします?呼び戻しますか?」
「そうもいかねえだろうよ。後で呼び出しててめーらでそのクズ親たっぷり絞ってやんな・・・いつもそうだ」
犬飼は苦しむ少女を見下ろし静かに言った。
「奴らはいつも顧みない。マスコミに踊らされ、量産された大義を掲げてアホなことやっては、守るべき身近なものすら守れない。世話ねえや」
「そこの一団!止まりなさい!」
ニ、三十メートルほど先から怒鳴り声が聞こえた。
見ると避難経路を間違えて進んだのか、十数人が列からはみ出している。
「まーた馬鹿が出てきた。この分じゃ避難完了までまだかかりそうだな」
再びため息をつく犬飼。今度はあちらの助けにでも入るかとそちらを見る。
「列に戻りなさい!」
はみ出した一団を導こうと、隊員の一人が近づく。
その時だった。
何の変哲も無い老若男女、その一団が一斉に前に手を伸ばす。
次の瞬間。
彼らの手に、黒々と光る物体――銃器が、突如として出現した。
(瞬間転送!?)
犬飼の脳裏に刹那によぎる衝撃。混乱。そして予感。
「伏せろオオオオッ!!」
反射的に犬飼は絶叫した。
彼らの機銃が火を噴き、何百もの鉛の弾丸が、無防備な市民に襲い掛かった。
―次章に続く―




