刹那サムライブレードⅡ
8-2.刹那サムライブレードⅡ
「2分前だ」
爆発の数分前、伊右衛門は会場から少し離れた建物の屋上に居た。
その後ろには生死を誓った伊藤水平党党員四十名。
誰も彼も幕末からタイムスリップしてきたかのような姿。揃いの鉢巻を締め、手には銃、または腰に「刀のようなモノ」を差す。
革命の志士然とした彼らが信頼の視線をその背に送る男、伊藤伊右衛門。
志士たちを束ねるこの革命家は、険しい表情で眼下の集会会場を見ていた。
「戦闘態勢に入りながら聞け。まもなく真蔵の算段で奴らの本陣に火の手が上がる。いいか、決して市民に手を出すな。一人でも傷つけてしまえば我らは一切の支持を失う」
少し長めの鉢巻を締め、伊右衛門は檄を飛ばす。
「市民の中には潜在的に今の体制に不満を持つ者は多いはずだ。そこに火をつけることこそ今日の戦の本丸だ。ゆめゆめ忘れるな。宇治!狭山!」
「はっ!」
「それぞれ半数を率い、宇治は右翼、狭山は左翼より敵の本陣を急襲せよ。真っ向勝負で攻め倒し、犬どもの鼻っ柱をへし折ってやれ」
「御意!」
「静岡、八女」
「ここに」
「二人は私の共をせよ・・・狙うは首相雨宮のみ」
「命を賭してお守りいたします」
「・・・敵は少なく見積もり千人。が、数ではない。我らには苛烈な修行と、強烈なパルスで己の魂を削りに削った末に得た能力がある。忌まわしき女神も我らを見つけることは出来ない。奴らは今日神に選ばれたのは自分たちだけではないことを知ることになる」
伊右衛門は「解詞」を呟く。言葉の鍵で封じられた魂の刃が鞘から抜き放たれ、この世に形を成す。
水の波紋が、彼の足元から静かに放たれる。
「この水は、我らの血。我らは水の血族。水は変幻自在なれど、我らの心は一つだ。水は誰にも断ち切ることは出来ない。そして、我らの魂を注いだこの水は・・・全てを切り裂く」
その時、地響きとともに警備隊本部から黒煙が上がる。
「総員解詞唱和。我に続け!!」
足元の水が激しく波打つ。号令をかけると同時に、この水の志士達は風より速い波に乗り、真っ直ぐドッグス警備隊本営に進撃した。
あっという間に本営が眼前に迫る。駆ける伊右衛門の雄叫びに続き、鬨の声が沸き起こる。
伊右衛門は刃無き刀を抜き放ち、叫ぶ。
「斬り結べ、『活水刀・ムラサメ』ッ!!」
――――
混乱していた。
恐慌していたといってもいい。全く予想外の攻撃だ。ただでさえ厳重な警備の、その心臓を突かれたのだ。
立ち込める煙の中、第7中隊世鬼征介は動揺する同僚に一喝したが、自身もこの急転直下の展開についていこうと必死に目を見開いていた。
「千々石司令はどうした!」
「ご無事です!司令本部は爆発を免れたようで」
「怪我人は?」
「分かりません!かなりの人員が負傷したかと」
「後回しだ、今すぐにでも戦闘態勢を――」
「敵襲だァ!」
誰かが叫ぶ。見れば黒煙の彼方から、数十人の敵が猛スピードで近づいてくる。
「征介くん!!」
セブンスブラック総司令官、千々石千羽が駆け寄る。
「迎撃指揮を任せます。私は首相と市民の守備を!頼みましたよ!」
「了解だ。今はあなたの力が守りの要だ。こちらは任せてくれ。・・・《迎撃態勢!バリケード用意!!》」
《バリケード用意!》
全守備隊員に無線が飛ぶ。バリケード担当の想能力者数名が指定の配置につく。
《解詞唱和、展開!》
すると本営を取り囲むように大地が隆起し、巨大な土の防壁が出現した。
《全戦闘員解詞唱和!》
征介の手に紫電が舞う。キャッツは真っ直ぐバリケード目がけて突っ込んでくる。
《銃撃隊、放て!》
バリケードの上にせり上げられた射手達が一斉に弾丸を放つ。
が、その刹那。
侍の風体の敵兵たちは、竜騎士よろしくバリケードの遥か上空、守備隊の真上へ舞い上がった。
「飛んだ!?」
大量の水飛沫が隊員たちに降り注ぎ、視界が煙る。
その中央、一際高く飛んだ長い鉢巻をはためかせる男、反乱軍の首領と思しきその男が何かをキラリと煌めかせた瞬間。
轟ッ!という音がしたかと思うと巨大な土の防壁は、白い閃光に一刀両断。
一瞬、征介とその男の眼が合う。
「何者だ!」
水の刃の陰から現れたその男は、こう言った。
「伊藤伊右衛門、日本国の洗濯に参った」
―Ⅲに続く―




