10回目 第1話 最後の人生
十回目の人生が始まった。
はい、いつもの五歳です。
……。
…………。
十回目。
とうとう、十回目だ。
これが最後。
もう、次はない。
十連続だから一回おまけとかないかな?
ないよな…
今回、日本代表A代表に選ばれなければ、人類滅亡。
……。
…………。
いや、重いわ!!
何で俺一人に人類の命運が懸かってるんだよ!
世界中の人間が何十億人もいるんだから、もう少し分担してくれませんかね!?
というか、何でサッカー日本代表なんだよ!
もっとこう、突如襲来した宇宙人と戦うとか、隕石から地球を救うとか試練らしいものがあるだろ!
いや、じゃあそっちの方でお願いね、と言われても困るのでやめておこう。
……。
…………。
駄目だ。
考えれば考えるほど、意味が分からなくなる。
クソ神様。
お前、本当に何がしたいんだよ。
……まあ、今さら考えても仕方がないか。
九回も人生をやり直して、ようやくここまで来たんだ。
もう、文句を言っている時間すら惜しい。
……いや、文句くらい言わせろよ。
それくらいの権利はあるだろ。
◇
さて。
今回の方針は、もう決まっている。
九回目の人生を再現する。
いや、正確には、九回目をさらに改良する。
九回目の俺は、横浜マリナーズの主力として活躍し、アテネオリンピックでは決勝トーナメントに進出した。
日本代表A代表の候補にも名前が挙がった。
つまり、代表に選ばれてもおかしくない実力には到達していたのだ。
あの怪我さえなければ。
……。
…………。
いや。
それは、まだ分からない。
怪我をしなかったとしても、絶対に選ばれたとは言い切れない。
中邑俊輔。
小田伸二。
あの世代には、優秀な攻撃的ミッドフィルダーが大勢いる。
だからこそ、今回は九回目を上回る必要がある。
誰が見ても、代表に呼ぶべきだと思える選手になる。
……よし。
目標は決まった。
あとは、やるだけだ。
俺は、ノートを開いた。
そこには、九回分の人生で積み重ねた記録がある。
練習方法。
身体づくり。
怪我の予防。
試合での経験。
失敗したこと。
成功したこと。
そして、九回目に起きたあの怪我の記録も。
……今度こそ、やってやるぞ。
◇
練習は、これまで以上に計画的に進めた。
五歳の身体には、五歳に合った練習がある。
十歳の身体には、十歳に合った練習がある。
成長期に無理をすれば、後々まで影響が残る。
それは、三回目の人生で嫌というほど学んだ。
だから、焦らない。
無理に負荷を増やさない。
必要な技術を、必要な時期に身につける。
……とはいえ。
精神年齢二百歳超えの俺が、五歳児向けの練習をしているわけだ。
なかなかシュールな光景である。
ボールを転がす。
止める。
蹴る。
また止める。
……。
…………。
地味だなあ。
いや、分かってる。
基礎が大事なのは、誰よりも分かってるんだ。
何しろ、九回も人生をやり直しているからな。
でもさ。
もうちょっとこう、派手な練習がしたくなるときもあるんだよ。
……まあ、やらないけど。
ここで手を抜いたら、九回分の経験が泣く。
俺は、黙々とボールを蹴り続けた。
◇
小学校に入ってからも、順調だった。
周囲の子供たちと比べれば、技術も判断力も身体も明らかに上だった。
当然だ。
こっちは、何百年もサッカーをやっているんだから。
とにかく、練習は順調だった。
以前の人生で苦労したことも、今回は最初から対策できる。
身体の使い方。
ボールを受ける位置。
相手との距離。
周囲を見るタイミング。
すべて、過去の経験が生きていた。
そして、今回は得点力も意識していた。
パスだけではない。
自分でゴールを狙う。
相手がシュートを警戒すれば、味方へパスを出す。
パスを警戒すれば、自分で打つ。
九回目で身につけた攻撃の形を、もっと早い段階から磨いていった。
その結果。
小学生年代では、全国から選抜された選手が集まるトレーニングキャンプにも参加した。
……おお。
これは、本当にいけるんじゃないか?
いや、油断するな。
まだ小学生だ。
日本代表どころか、プロにもなっていない。
……でも、ちょっとくらい喜んでもいいよな?
何しろ、人生最後の挑戦なんだから。
◇
中学生になりいつもの横浜マリナーズのジュニアユースに入った。
もちろん、これまでの人生でも何度も通った道だ。
もう何回目なのか分からないレベルだ。
練習場も、コーチも、チームメイトも見慣れた顔ばかり。
この人生ではこいつに何の話をした、どんな経験を一緒にしたか、何てもうわからなくなっている。
もう考えるのも嫌なので気にせず発言するようになっている。
天才選手の発言はよくわからない、とか都合の良い解釈をしてくれるので助かっている。
不思議ちゃん扱いともいえるがそんなことはどうでもよろしい。
さて、今回の俺は、これまで以上に完成度が高かった。
パスの精度。
周囲の状況把握。
相手の動きの予測。
そして、得点力。
どれも、同年代では高い水準にあった。
もちろん、身体能力だけなら俺より優れた選手もいる。
足の速いやつ。
身体の強いやつ。
ジャンプ力のあるやつ。
だが、サッカーは身体能力だけで決まる競技じゃない。
どこに動けばいいか。
いつパスを出せばいいか。
相手が何を狙っているか。
それを理解していれば、身体能力の差はある程度補える。
そして、その部分こそが俺の最大の武器だった。
試合では、自然と俺を中心に攻撃が組み立てられるようになった。
味方が走る。
俺がパスを出す。
相手がパスコースを消しに来る。
今度は自分でシュートを打つ。
そうして、得点とアシストを積み重ねた。
監督からの評価も高かった。
チームメイトからも頼られるようになった。
そして、俺は背番号十番を任された。
……十番。
いい響きだな。
チームの中心。
攻撃の司令塔。
サッカー少年なら、一度は憧れる番号だ。
……まあ、俺はサッカー少年というには、ちょっと年齢を重ねすぎているけど。
いや、見た目は中学生だからセーフだ。
たぶん。
◇
中学二年生。
俺たち横浜マリナーズのジュニアユースは、全国大会への出場を決めた。
今回のチームは、なかなか強かった。
前線には足の速い石河がいる。
中盤には運動量の豊富な田井中がいる。
守備陣も安定している。
そして、俺が攻撃を組み立てる。
……うん。
悪くない。
いや、かなりいい。
全国大会でも、俺たちは順調に勝ち進んだ。
初戦。
相手は守備を固めてきた。
俺へのマークも厳しい。
だが、無理に突破する必要はない。
相手が俺に集中するなら、ほかの選手を使えばいい。
俺は、わざと中央へ動いて相手を引きつけた。
その瞬間、右サイドにスペースが生まれる。
そこへ、正確なパスを通した。
味方が走り込む。
クロス。
ゴール!
……よし!
こういう形だ。
自分が目立つ必要はない。
チームが勝てばいい。
もちろん、チャンスがあれば自分でも決めるけどな!
その後も、俺たちは勝ち続けた。
相手の守備が厳しければ、パスで崩す。
スペースがあれば、自分で持ち込む。
試合の流れが悪ければ、無理に攻めずにボールを落ち着かせる。
何度も人生を繰り返してきた経験が、こういう場面で生きていた。
そして、準決勝。
相手は、全国でも有名な強豪クラブだった。
個々の能力も高い。
簡単には崩せない。
前半は、互いに決定機を作れないまま時間が過ぎた。
……強いな。
さすが全国大会の準決勝だ。
だが、焦る必要はない。
相手も、ずっと同じ強度で守れるわけじゃない。
必ず、どこかに隙ができる。
後半。
相手の中盤の選手が、ほんの少しだけ前へ出てきた。
……そこだ。
俺は、一度右を見た。
相手が、そちらへ身体を向ける。
その瞬間、左のスペースへ走り込む味方へパスを通した。
相手の守備が崩れる。
味方がシュート。
ゴール!
……よし!
その一点を守り切り、俺たちは決勝へ進んだ。
◇
全国大会、決勝。
スタジアムには、多くの観客が集まっていた。
相手は、ここまで圧倒的な攻撃力で勝ち上がってきたチームだ。
簡単には勝てないだろう。
だが、不思議と緊張はなかった。
……いや。
正確には、少しは緊張していた。
でも、それ以上に楽しみだった。
全国大会の決勝。
しかも、最後の人生で迎える大一番だ。
ここで結果を残せば、これまでにない最高のスタートになる。
……よし。
やってやろうじゃないか。
試合が始まった。
相手は、予想どおり強かった。
前線の選手は速い。
中盤のプレスも厳しい。
何度か危ない場面もあった。
だが、俺たちも負けていない。
ボールを奪えば、素早く攻撃へ切り替える。
俺が中央で受け、味方へパスを出す。
相手の守備が動く。
その隙に、別の選手が走り込む。
そうして、少しずつチャンスを作った。
前半終了間際。
俺は、ペナルティーエリアの少し手前でボールを受けた。
相手のディフェンダーが寄せてくる。
右には味方がいる。
左にも、パスコースがある。
……さて。
どうする?
相手の視線が、右へ動いた。
俺がパスを出すと思ったのだろう。
……残念。
今回は、そっちじゃない。
俺は、ボールを少しだけ前へ運んだ。
相手が反応する。
その瞬間、シュート!
ボールは、ゴールの隅へ飛んでいった。
……入れ!
ネットが揺れた。
ゴール!
……よっしゃあ!!
俺は、思わず叫んだ。
仲間たちが駆け寄ってくる。
ベンチも、大騒ぎだ。
全国大会の決勝で、先制点。
しかも、自分のゴールだ。
……いやあ。
気持ちいいなあ!
何百年サッカーをやっていても、こういう瞬間は最高だ。
◇
後半。
相手は、さらに攻勢を強めてきた。
何度も危ない場面を作られた。
だが、守備陣が必死に耐える。
俺も中盤の底で守備に参加した。
相手のパスコースを消す。
ボールを奪う。
そして、攻撃へつなげる。
……よし。
このまま、守り切る。
だが、相手も簡単には諦めない。
試合終了間際。
相手が、最後の攻撃を仕掛けてきた。
右サイドからクロスが上がる。
中央には、相手のフォワード。
……まずい!
ヘディングシュート!
ボールが、ゴールへ向かう。
……入るな!
キーパーが、横っ飛びで手を伸ばした。
指先が、わずかにボールへ触れる。
ボールは、ゴールポストをかすめて外へ出た。
……助かった!
いや、今のは本当に危なかった。
心臓に悪すぎるだろ!
その後のコーナーキックも、何とかしのいだ。
そして。
試合終了の笛が鳴った。
……。
…………。
勝った。
勝ったぞ!
全国大会、優勝だ!!
仲間たちが抱き合う。
ベンチからも選手たちが飛び出してきた。
俺も、思い切り叫んだ。
……やった。
本当に、やったんだ。
これまでの人生でも、いろいろな大会に出てきた。
勝った試合も、負けた試合も、数え切れないほどある。
それでも。
今回の優勝は、特別だった。
何しろ、最後の人生だ。
失敗できない人生で、最高の結果を残せた。
……よし。
この調子だ。
このまま、もっと上へ行ってやる。
◇
そして、表彰式。
優勝トロフィーを受け取り、仲間たちと喜びを分かち合った。
……いやあ。
優勝って、いいもんだな。
何度経験しても、やっぱり嬉しい。
そして、個人賞の発表が始まった。
大会得点王。
優秀選手。
そして、最優秀選手。
……え?
俺?
名前を呼ばれた瞬間、少し驚いた。
いや、もちろん、それなりに活躍した自覚はある。
得点も取った。
アシストもした。
チームの攻撃を組み立てた。
でも、まさかMVPまで取れるとは思っていなかった。
……。
…………。
おお。
これは、なかなか凄いことじゃないか?
中学二年生で全国大会優勝。
しかも、大会MVP。
これまでの人生で、ここまで順調なスタートはなかった。
俺は、表彰台でトロフィーを受け取った。
観客席から、拍手が聞こえる。
仲間たちも、笑顔で手を振っていた。
……嬉しいな。
素直に、嬉しい。
九回目までは、いつも何かが足りなかった。
プロになれなかった。
一部に上がれなかった。
オリンピックで試合に出られなかった。
世界の強豪に勝てなかった。
代表に届く前に、怪我をした。
そのたびに、俺は五歳からやり直してきた。
でも、今回は違う。
最初から、これまでで一番いい。
技術も。
判断力も。
身体づくりも。
そして、結果も。
すべてが、過去最高だ。
……よし。
今度こそ、いける。
そう思った。
いや、思うだけじゃない。
俺は、確信していた。
九回分の人生は、無駄じゃなかった。
そのすべてが、今の俺につながっている。
残された人生は、あと一回。
でも、もう怖くない。
このまま成長していけば、きっと日本代表に届く。
……待ってろよ、クソ神様。
今度こそ、俺の勝ちだ。
俺は、手にしたMVPのトロフィーを、もう一度見つめた。
その輝きが、これからの未来を約束してくれているように思えた。
ほかにもサッカー小説を投稿しています。
この小説とはかなり読み味が違う作品ですが、よろしければご一読ください。
この街に、プロサッカークラブを。
~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~
https://ncode.syosetu.com/n2172mu/




