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10回ループするまでにサッカー日本代表にならないと人類滅亡ってそりゃないよ  作者: いとやん


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9回目

 九回目の人生が始まった。


 はい、いつもの五歳です。


 ……。


 …………。


 あと二回。


 今回を含めて、残された人生は二回しかない。


 いや、分かっていたことなんだけどさ。


 実際に九回目が始まってみると、なかなかのプレッシャーだ。


 今回失敗したらあと一回しかない。


 そして、失敗したら人類滅亡だ。


 普通、一人の人間が背負うものじゃない。


 改めて考えると無理ゲーもいいところだ。

 

 ほんと何考えてるんだよあのクソ神様。

 

 このまま何時間もクソ神様に対して文句を言っていてもいいが、

 俺も精神年齢上200歳を超えるいい大人だ、この辺にしておいてやる。


 さて。


 八回目では、ついにオリンピックのピッチに立つことができた。


 世界の強豪相手にも、自分のパスが通用する場面はあった。


 だが、日本はグループリーグ敗退。


 俺自身も、試合の流れを変えるほどの活躍はできなかった。


 それでも、収穫は大きかった。


 何しろ、実際に世界の選手たちと戦ったのだ。


 何が通用して、何が足りないのか。


 それを、身体で理解することができた。


 そして、もう一つ。


 俺には、はっきりとした課題があった。


 得点力だ。


 パスは武器になった。


 試合を組み立てることもできる。


 だが、世界の強豪相手に勝つには、それだけでは足りない。


 自分でもゴールを奪える選手になる必要がある。


 ……よし。


 今回こそ、日本代表A代表だ。


 いや、今回で決めないと本当にまずい。


 十回目まで引っ張るなんて、冗談じゃないぞ。

 

 最終回とかプレッシャーがやばいことになるだろ!


 クソ神様。


 そろそろ俺にも、ハッピーエンドを用意してくれませんかね?


 ……まあ、期待するだけ無駄か。


     ◇


 今回の練習は、これまでの積み重ねを土台にした。


 基礎技術。


 身体づくり。


 状況把握。


 予測と判断。


 相手との駆け引き。


 そして、パス。


 ここまでは、八回目と同じだ。


 新しく重点を置いたのは、シュートとゴール前への飛び出しだった。


 これまでの俺は、どちらかといえば味方を生かす選手だった。


 パスを出す。


 チャンスを作る。


 味方が決めてくれれば、それでいい。


 もちろん、それ自体は悪いことじゃない。


 だが、相手からすれば、俺のパスコースを消せばいい。


 八回目のオリンピックでは、そうやって苦しめられた。


 だったら、自分でもゴールを狙えばいい。


 シュートを警戒させれば、パスコースも生まれる。


 パスを警戒させれば、今度はシュートを打てる。


 ……うん。


 言葉にすると、ものすごく当たり前だな。


 何で今まで、そこまで徹底してこなかったんだろう。


 ……いや、待て。


 俺は、これまで何百年もサッカーをやっているんだぞ。


 今さらこんなことに気づくのか?

 

 いや違うぞ、もちろん今までもシュート練習はしていた。

 

 パスという通用する武器が出てきたから、それを活かすためにシュートを鍛えるんだ。


 ……そういうことにしておこう。


 とにかく、練習だ。


 シュートの精度を上げる。


 ペナルティーエリア付近での動きを磨く。


 味方にパスを出した後も、止まらずにゴール前へ入っていく。


 もちろん、これまで積み重ねた身体づくりも怠らない。


 三回目の人生で、怪我によってサッカーを失った経験がある。


 あんな思いは、二度としたくない。


 だから、身体の状態には細心の注意を払った。


 無理はしない。


 疲労をため込まない。


 練習の質を落とさず、回復にも時間を使う。


 何しろ、俺には九回分の経験がある。


 ……いや、正確にはまだ九回目の途中だけど。


 細かいことはいいんだよ。


     ◇


 育成年代は、順調だった。


 横浜マリナーズのジュニアユース、ユースと進み、中心選手として活躍した。


 年代別日本代表にも選ばれた。


 今回は、パスだけではない。


 自分でもゴールを奪う。


 相手がパスを警戒して下がれば、シュートを打つ。


 シュートを警戒して前に出てくれば、裏へパスを通す。


 攻撃の選択肢が増えたことで、以前よりも相手の守備を崩せるようになっていた。


 そして、十七歳。


 なんと今回は高校卒業を待たず一年先に横浜マリナーズのトップチームと契約することができた。

 

 世間でも高校生リーガーとして注目を集めている。


 ……よし。


 ここまでは予定よりも順調だ、幸先がいいぞ。


 ここからが本番だ。


 プロ入りは、もう目標ではない。


 日本代表A代表。


 そこに届かなければ、何の意味もない。


     ◇


 プロになってからも、順調に成長した。


 もちろん、いきなりすべてが上手くいったわけではない。


 だが、プロの試合で何が必要なのかは、もう十分に理解している。


 寄せの速さ。


 身体の強さ。


 判断する時間の短さ。


 どれも、過去の人生で何度も経験してきた。


 そして、今回は得点にも絡める。


 パスを出して終わりではない。


 そのまま前へ走り、リターンパスを受けてシュート。


 相手がパスを警戒していれば、自分で持ち込む。


 得点とアシスト。


 両方で結果を残せるようになった。


 気がつけば、横浜マリナーズの中心選手として扱われていた。


 ……おお。


 これは、なかなかいい感じじゃないか?


 八回目よりも、確実に成長している。


 しかも、今回は自分でもゴールを決められる。


 やっぱり、得点って気持ちいいな!


 味方に決めてもらうのも嬉しいけど、自分で決めるのはまた別だ。


 ……まあ、当たり前か。

 

 そして、二十歳。

 日韓ワールドカップだ。

 今まではほとんど関係なかったけど、今の俺の活躍ならもしかしてサプライズ選出もあるかもしれない。

 

 久しぶりにドキドキする。

 

 が、選ばれませんでしたー。

 

 くそが、物は試しで選んでみようとは思わないのか!?

 お試しキャンペーン今なら人類滅亡からの救済付きだぞ!!

 

 まぁいい。


 そして、二年後。


 俺は、再びオリンピック代表に選ばれた。


 舞台は、二〇〇四年のアテネ。


 ……またアテネか。


 オリンピックにたいして、また、と言えるとは俺も贅沢になったものだ。


 七回目は、ベンチ。


 八回目は、先発したもののグループリーグ敗退。


 そして、九回目。


 今度こそ、もっと上へ行ってやる。

 

 A代表にアピールするのだ。


     ◇


 アテネオリンピック。


 今回も、オーバーエイジ枠には小田伸二が選ばれていた。


 七回目では、あの人に出番を奪われた。


 八回目では、一緒にピッチに立った。


 そして今回も、俺と小田さんが攻撃の中心を担うことになった。


 ……いやあ。


 人生って不思議だな。


 同じ大会に三回も参加していると、何だか常連客みたいな気分になってくる。


 「いつもの席でお願いします」


 ……いや、オリンピックに指定席なんてないけどな。


 さて。


 小田さんのプレーは、相変わらず凄かった。


 ボールが足元に吸い付くような技術。


 相手の逆を取る身体の使い方。


 そして、誰も予想しないようなパス。


 ……本当に、この人は何なんだろう。


 俺が何回も人生をやり直して身につけた技術を、一回の人生で普通にやっている。


 いや、普通ではないんだろうけど。


 それでも、今回は俺だって負けていない。


 小田さんが相手を引きつける。


 その隙に、俺が空いたスペースへ走る。


 俺がボールを持てば、小田さんが次のパスコースを作る。


 互いの動きを理解し、連係する。


 ……楽しい。


 この人と一緒にサッカーをするのは、本当に楽しい。

 

 この人のパスは相手に届かせるだけじゃなくて、トラップしやすいパスを出してくれるんだよ。

 エンジェルパスとはこのことか。

 

 よーし、やろうぜ小田さん!


 そして、試合が始まった。


     ◇


 初戦。


 相手の寄せは、相変わらず速かった。


 身体も強い。


 ちょっとした接触でも、簡単には自由にさせてもらえない。


 ……ああ。


 知ってる、知ってる。


 八回目で嫌というほど経験したからな。


 だが、今回は違う。


 俺は、ボールを受ける前から周囲を確認していた。


 相手の位置。


 味方の動き。


 空いているスペース。


 そして、次に自分が動く場所。


 ボールが来る。


 相手が寄せてくる。


 俺はワンタッチで小田さんへパスを出し、そのまま前へ走った。


 小田さんが、相手を一人引きつける。


 次の瞬間。


 俺の足元へ、絶妙なリターンパスが届いた。


 ……よし!


 そのままペナルティーエリアへ侵入。


 相手のディフェンダーが寄せてくる。


 以前の俺なら、ここで味方を探していただろう。


 だが、今回は違う。


 シュート!


 ボールは、ゴールの隅へ吸い込まれた。


 ……入った。


 入ったぞ!


 オリンピックで、俺がゴールを決めた!


 思わず両手を突き上げた。


 仲間たちが駆け寄ってくる。


 小田さんも笑顔で肩を叩いてくれた。


 ……いやあ。


 長かったなあ。


 人生九回目にして、ようやく世界の舞台でゴールだ。


 ……って、喜んでいる場合じゃない。


 まだ試合は終わっていない。


 その後も、日本は苦しい時間帯を耐えながら戦った。

 

 俺も攻撃よりも守備に力を注いだ。

 

 試合の流れを読み、パスカット。

 

 時には体を張って相手を止める。

 

 今までの練習が守備にも生きている。


 そして相手の攻撃をしのぎ、少ないチャンスを生かす。


 試合終了。


 日本は、勝利を収めた。


 ……勝った。


 八回目では勝てなかった相手に、今回は勝てた。


 もちろん、俺一人の力じゃない。


 小田さんも、ほかの仲間たちも、素晴らしいプレーをしていた。


 それでも。


 自分の成長が、結果につながった。


 それが、何より嬉しかった。


     ◇


 その後も、日本は厳しい試合を戦った。


 俺も小田さんも、相手から厳しいマークを受けた。


 簡単にはボールを持たせてもらえない。


 それでも、二人で動きながらパスコースを作り、チャンスを生み出した。


 俺がシュートを狙えば、相手の守備が寄ってくる。


 その隙に、小田さんへパスを出す。


 小田さんが相手を引きつければ、今度は俺がゴール前へ飛び出す。


 そうして、日本は勝ち点を積み重ねた。


 そして。


 ついに、グループリーグ突破が決まった。


 ……。


 …………。


 やった。


 やったぞ!


 日本が、決勝トーナメントに進出した!


 七回目も、八回目も、届かなかった場所だ。


 それが、今回は違う。


 俺たちは、世界の舞台で結果を残した。


 ……いやあ。


 人生を繰り返すって、本当に凄いな。


 まあ、普通の人間には絶対におすすめできないけど。


 何しろ、失敗したら五歳からやり直しだからな!


 決勝トーナメントでは、世界の強豪と対戦した。


 相手の技術も、身体能力も、これまで以上だった。


 俺たちも必死に戦った。


 チャンスも作った。


 だが、最後は力の差を見せつけられ、敗退した。


 ……悔しい。


 でも、八回目とは違う。


 今回は、世界の強豪相手に勝つことができた。


 グループリーグも突破した。


 俺自身も、得点とアシストで結果を残した。


 確実に、前へ進んでいる。


     ◇


 オリンピックが終わると、俺への評価は大きく変わった。


 新聞や雑誌でも、名前を取り上げられるようになった。


 横浜マリナーズでも、中心選手として活躍を続けた。


 得点も取る。


 アシストもする。


 試合の流れを作る。


 ……うん。


 今の俺なら、日本代表A代表に選ばれてもおかしくない。


 そう思えるだけの実力がついていた。


 ただし。


 圧倒的かと言われれば、そうではない。


 中邑俊輔。


 小田伸二。


 ほかにも、海外で活躍する選手たちがいる。


 あの人たちと比べて、俺が明確に上だと言い切れるか?


 ……正直、そこまでは言えない。


 小田さんとは、オリンピックで一緒にプレーした。


 だからこそ、よく分かる。


 あの人の技術は、本当に凄い。


 俺だって、何百年もサッカーをやってきた。


 それでも、簡単には追い越せない。


 ……いや、何百年もやってるのに追い越せないって、どういうことだよ!


 もう少し、年長者を敬ってくれてもよくない!?


 ……まあ、見た目は俺の方が年下なんだけど。


 それでも、今の俺には自信があった。


 代表に選ばれるだけの実力はある。


 あとは、監督の考え方やチームの事情もあるだろう。


 実際、代表スタッフが試合を視察に来ることも増えていた。


 スポーツ紙には、次のアジアカップを見据えたA代表の予想メンバーに、俺の名前も挙がるようになっていた。


 ……ついに。


 ついに、ここまで来た。


 最初の人生では、プロになることすらできなかった。


 それが今では、日本代表の候補として名前が挙がっている。


 あと少し。


 本当に、あと少しだ。


     ◇


 二十五歳になった。


 横浜マリナーズでは、変わらず主力としてプレーしていた。


 その日も、いつものように公式戦に出場していた。


 前半。


 中盤でボールを受ける。


 相手の守備が、少し前へ出てきた。


 ……よし。


 ここでターンすれば、前にスペースがある。


 俺は、ボールを受けながら身体を回した。


 その瞬間。


 横から、相手選手が飛び込んできた。


 ……え?


 避ける間もなかった。


 相手の身体が、俺の脚にぶつかる。


 足が地面に残ったまま、膝が不自然な方向へ曲がった。


 嫌な感触がした。


 ……あ。


 これは。


 まずい。


 次の瞬間、ブチっという鈍い音と共に膝に激痛が走った。


 俺は、その場に倒れ込んだ。


 ……痛い。


 痛い、痛い、痛い!


 くそっ!


 何だよ、今の!


 相手の選手が、慌てて近づいてくる。


 審判が笛を吹く。


 仲間たちも駆け寄ってきた。


 だが、俺には周囲の声がほとんど聞こえなかった。


 膝が。


 膝が、動かない。


 ……嘘だろ。


 嘘だと言ってくれ。


 俺は、三回目の人生を思い出していた。


 あのときも、膝を壊した。


 サッカーを続けられなくなった。


 だから、必死に勉強した。


 怪我をしない身体づくりを覚えた。


 疲労の管理も、栄養も、リハビリも。


 全部、学んできた。


 それなのに。


 また、膝なのかよ。


     ◇


 診断結果は、膝の靱帯損傷。


 長期間の離脱が必要だった。


 ……。


 …………。


 何でだよ。


 何で、今なんだよ。


 ようやく、A代表に手が届くところまで来たのに。


 ようやく、ここまで来たのに。


 相手のプレーは危険なものだった。


 俺に責任はない。


 周囲の人間は、そう言ってくれた。


 医師も、避けるのは難しい接触だったと説明してくれた。


 ……分かってる。


 頭では、分かってるんだ。


 でも。


 あのとき、半歩だけ違う場所でボールを受けていれば。


 相手が飛び込んでくることを、もう少し早く予測できていれば。


 ワンタッチでパスを出していれば。


 ……避けられたんじゃないか?


 そう考えてしまう。


 何度も。


 何度も。


 試合映像を見返した。


 相手が動き出す瞬間。


 俺が身体を回す瞬間。


 接触する直前。


 映像を止める。


 巻き戻す。


 もう一度見る。


 ……くそ。


 ここだ。


 ここで、先にボールを離していれば。


 いや、そもそも、あの位置で受けなければ。


 ……。


 …………。


 分かっている。


 結果を知っているから、そう言えるだけだ。


 あの瞬間の俺に、すべてを予測することなんてできなかった。


 それでも。


 悔しかった。


 自分に責任がないからこそ、余計に悔しかった。


     ◇


 リハビリは、長かった。


 だが、俺には三回目の人生で学んだ知識がある。


 焦って無理をすれば、かえって復帰が遅れる。


 それは、誰よりも理解していた。


 だから、医師やトレーナーと相談しながら、一つずつ回復を目指した。


 歩く。


 走る。


 ボールを蹴る。


 少しずつ、できることを増やしていく。


 ……ああ。


 この感じ、知ってるな。


 三回目の人生では、結局サッカーを続けられなかった。


 でも、今回は違う。


 必ず戻ってやる。


 そして、俺は再びピッチに立った。


 ……戻ってきた。


 サッカーができる。


 それだけで、涙が出そうになった。


 だが、現実は甘くなかった。


 長い離脱の間に、試合勘は鈍っていた。


 以前なら自然にできていたプレーが、わずかに遅れる。


 身体も、思うようには動かない。


 もちろん、少しずつ取り戻していった。


 それでも、以前の状態に戻るまでには時間がかかった。


 そして、その間にも、時間は進んでいく。


 代表には、新しい選手が呼ばれていた。


 ほかの選手たちが結果を残していた。


 俺の名前は、いつの間にか代表候補の記事から消えていた。


 ……そりゃ、そうだよな。


 サッカーの世界は、待ってくれない。


 誰かが怪我をすれば、別の誰かにチャンスが回る。


 その選手が活躍すれば、今度はそちらが評価される。


 当たり前のことだ。


 俺だって、過去の人生でそうやってチャンスをつかんできた。


 だから、文句なんて言えない。


 ……でもさ。


 もう少しだけ、待ってくれてもよかったんじゃないか?


 そんなことを、考えてしまう自分がいた。


     ◇


 その後も、俺はプレーを続けた。


 一部の舞台に戻り、再び試合に出られるようになった。


 だが、日本代表A代表から声がかかることはなかった。


 三十歳。


 九回目の人生も、終わりが近づいていた。


 ……。


 …………。


 悔しいな。


 本当に、悔しい。


 八回目までは、実力が足りなかった。


 だから、次はもっと上手くなればいいと思えた。


 でも、今回は違う。


 俺には、代表に選ばれてもおかしくない実力があった。


 そう、今でも思っている。


 ただし、絶対に選ばれたかと聞かれれば、分からない。


 中邑さんも、小田さんもいた。


 ほかにも、優秀な選手は大勢いた。


 怪我がなくても、選ばれなかったかもしれない。


 でも。


 選ばれたかもしれない。


 その可能性を、自分の力で確かめることすらできなかった。


 それが、一番悔しかった。


 俺は、ノートを開いた。


 これまでの人生で積み重ねてきた記録。


 練習内容。


 身体の成長。


 怪我の予防。


 試合での経験。


 失敗したこと。


 成功したこと。


 すべてが、そこに残っている。


 ……九回分か。


 我ながら、よくやったと思う。


 最初は、ただサッカーが好きなだけの子供だった。


 プロにもなれなかった。


 それが、二部でプレーするようになった。


 一部の主力になった。


 オリンピックに出た。


 そして今回は、決勝トーナメントまで進んだ。


 A代表候補として、名前も挙がった。


 ……あと少しだった。


 本当に、あと少しだったんだ。


 俺は、九回目の人生で得た経験を、もう一度整理した。


 何歳で、何を鍛えるべきか。


 どの時期に、どれだけ負荷をかけるべきか。


 どうすれば、技術と身体能力を効率よく伸ばせるか。


 どんなプレーが、世界の強豪にも通用したのか。


 そして、あの怪我。


 試合の日付。


 相手の動き。


 接触する直前の状況。


 すべて、記録した。


 ……次は、避ける。


 絶対に、同じ怪我はしない。


 そして、今度こそ。


 日本代表A代表に選ばれてやる。


     ◇


 【ノートの最終記録】


 挑戦回数:九回目


 最終到達点:一部クラブの主力。アテネ五輪決勝トーナメント進出。A代表候補として評価されるも未選出。


 プロ入り:達成。


 日本代表A代表:未達成。


 主な敗因:二十五歳時の試合中の接触による膝の靱帯損傷。長期離脱によって代表入りの機会を失った。


 今回の成果:パスに加えて得点力も向上。A代表に選ばれてもおかしくない実力に到達。五輪では小田伸二とともに日本の攻撃を牽引。


 次回の方針:これまでの成長過程を再現し、怪我を避ける。代表選考を突破できるよう、さらに完成度を高める。


 残り挑戦回数:一回。


 ……。


 …………。


 一回。


 残された人生は、あと一回だけ。


 次に失敗すれば、人類滅亡。


 ……いやあ。


 さすがに、笑えないな。


 ここまで九回。


 何度も失敗してきた。


 何度も悔しい思いをしてきた。


 それでも、少しずつ前へ進んできた。


 だから、今の俺には自信がある。


 九回目の成長を、もう一度再現できれば。


 あの怪我さえ避けられれば。


 今度こそ、A代表に届くはずだ。


 ……いや。


 届かせてみせる。


 もう、次はないんだから。


 そう考えているうちに、視界が白く染まり始めた。


 次は、十回目。


 最後の人生。


 ……待ってろよ、クソ神様。


 今度こそ、日本代表になってやる。


 そして、こんなふざけたゲームを終わらせてやる。


 もちろん、返事はなかった。

ほかにもサッカー小説を投稿しています。

この小説とはかなり読み味が違う作品ですが、よろしければご一読ください。


この街に、プロサッカークラブを。

~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~


https://ncode.syosetu.com/n2172mu/

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