10回目 第2話 天才
中学三年生になった。
最後の人生は、今のところ驚くほど順調だ。
昨年は全国大会で優勝。
しかも、大会MVPまで受賞した。
横浜マリナーズのジュニアユースでも、俺は背番号十番を任されている。
監督からの信頼も厚い。
チームメイトとの連係もいい。
……うん。
順調だ。
怖いくらい順調だ。
これまで九回も人生をやり直してきたが、ここまでいいスタートを切れたことはない。
もちろん、油断はしていない。
何しろ、俺には人類の未来が懸かっている。
……。
…………。
いや、何度考えてもおかしいだろ、この設定。
俺が日本代表になれるかどうかで、人類が滅亡するんだぞ?
せめて世界中の人間に事情を説明して、応援くらいしてもらいたい。
いや、応援してくれるんだったら直接日本代表に選んでほしいな。
現実逃避はやめよう。
とにかく、俺は今日も、いつもどおり練習に励んでいた。
そんなある日。
監督から、新しい選手が入団すると聞かされた。
しかも、俺たちと同じ中学三年生らしい。
……ん?
この時期に?
ジュニアユースも最終学年だぞ。
ユース昇格時に入団は結構あるのだが今から入団するなんて、ずいぶん珍しいな。
何だろう。
ちょっと気になるな。
◇
数日後。
練習場に、一人の少年がやってきた。
背は俺と同じくらい。
少し細身で、穏やかな顔をしている。
緊張している様子はあるが、周囲を見回す表情はどこか楽しそうだった。
監督が俺たちを集める。
「今日から新しく入る神誠一郎だ。みんな、よろしく頼むぞ」
……。
…………。
神?
今、神って言った?
俺は思わず少年を見つめた。
いや、待て。
落ち着け。
神という名字は、別におかしくない。
世の中にはそういう名字の人もいる。
分かっている。
分かっているんだが。
……クソ神様。
まさか、何か仕込んできたんじゃないだろうな?
俺が疑いの目を向けていると、少年はにこりと笑った。
「神誠一郎です。ジンって呼んでください。よろしくお願いします」
うん、いい笑顔じゃないか。
普通の中学生だな。
いきなり人類滅亡とか言い出しそうな顔ではない。
そういうことにしよう。
こいつが実はあのクソ神様の刺客で人類を滅亡させる存在なんだとしても、俺には日本代表になる以外に道はない。
考えても無駄なものは考えない!
監督の説明によると、神はサッカーを始めてまだ間もないらしい。
ところが、速攻で地元のサッカー部から推薦され、
さらに横浜マリナーズのスカウトの目に留まり、入団することになったそうだ。
……。
…………。
いや、ちょっと待て。
サッカーを始めて間もない?
それでマリナーズのジュニアユースに入団?
しかも中学三年生から?
そんなことあるのか?
まあ、実際に入団してきたんだから、あるんだろう。
世の中、広いなあ。
……いや、俺も大概おかしな経歴だけど。
こっちは誰にも説明できないからな。
◇
練習が終わったあと。
神が、俺のところへやってきた。
「あの、ちょっといいですか?」
「ん? どうした?」
「ずっと、お話ししてみたかったんです」
……ん?
何だ?
俺のことを知っているのか?
「去年の全国大会、たまたま見に行ったんです」
「え?」
「決勝戦です。あの試合を見て、サッカーってすごく楽しそうだなって思って」
神は、嬉しそうに話し続けた。
「特に、あなたのプレーがすごく面白かったんです。自分でゴールも決めるし、パスを出すと味方がどんどん動いて。あんなふうにプレーできたら楽しそうだなって」
……。
…………。
おお。
何だ、この子。
めちゃくちゃいい子じゃないか。
俺のプレーを見て、サッカーを始めた?
しかも、それでマリナーズに入団してきた?
……いや、ちょっと待て。
時系列がおかしくないか?
「神、お前、サッカーを始めたのっていつだ?」
「去年の全国大会が終わってからです」
「……それまでは?」
「体育の授業くらいです」
「……マジで?」
「はい」
……。
…………。
何だ、それ。
俺が何回人生をやり直して、ここまで来たと思っているんだ?
いや、まだ分からない。
スカウトが身体能力を評価しただけかもしれない。
実際にサッカーをやらせたら、まだまだなのかもしれない。
そうだ。
そうに違いない。
「一緒にプレーできるの、ずっと楽しみにしてたんです」
神は、にこにこと笑っている。
……。
…………。
まあ、いいか。
素直に慕ってくれるのは嬉しい。
何より、過去九回の人生では出会わなかった相手だ。
正直、ちょっと新鮮だった。
「分からないことがあったら、何でも聞いてくれ」
「本当ですか?」
「ああ。遠慮するなよ」
「ありがとうございます!」
……うん。
いいやつだ。
名字はちょっと気になるけど。
◇
さて。
神が入団して、最初の練習。
俺は、少し驚いた。
いや、正確には、かなり驚いた。
まず、ボールの扱いが妙にうまい。
いや、うまいなんてもんじゃない。
トラップはボールが足元に吸いつくような感覚でピタッと止めている。
このレベルのトラップは小田さん以来だ。
ボールタッチも柔らかく、コーンの間を滑らかにスイスイ進んでいる。
シュートも、なかなか鋭い。
……おいおい。
本当にサッカーを始めて数か月なのか?
ただし、試合形式の練習になると、途端におかしくなった。
味方がボールを持っているのに、なぜか同じ場所に立っている。
相手の守備の裏に大きなスペースがあるのに、そこへ走らない。
逆に、味方がパスを出そうとした瞬間、わざわざ相手のディフェンダーの陰へ隠れてしまう。
……。
…………。
うん。
なるほど。
サッカー経験が浅いというのは、本当らしい。
ボールを扱う技術は高い。
でも、試合の中でどう動けばいいのかが分かっていない。
まあ、当然だ。
サッカーは、ボールを蹴るだけの競技じゃないからな。
練習後、俺は神を呼び止めた。
「神、ちょっといいか?」
「はい!」
「さっきの練習なんだけど、俺がボールを持ったとき、何であそこに立ってたんだ?」
「えっと……パスをもらおうと思って」
「でも、相手のディフェンダーが間にいたよな?」
「あ、そうですね」
「だから、少し横か前に動けばよかったんだ。そうすればパスコースができる」
「なるほど!」
神は、素直にうなずいた。
俺はボールを置き、実際に動きながら説明する。
「例えば、俺がここでボールを持つだろ?」
「はい」
「相手がこう寄せてきたら、お前はこっちに動く」
「はい」
「そうすると相手の守備が動く。そこで、さらに裏へ走るんだ」
「ああ! そういうことですか!」
……うん。
理解が早いな。
俺は続けた。
「あと、パスを受ける前に周りを見る癖をつけた方がいい」
「周り、ですか?」
「ああ。ボールが来てから考えていたら遅い。受ける前に、相手と味方がどこにいるか確認するんだ」
「なるほど……」
神は、真剣な表情で聞いている。
俺も、説明しながら少し楽しくなってきた。
考えてみれば、こうして自分のプレーを言葉にする機会は、あまりなかった。
俺にとっては、何度も人生を繰り返して身につけた感覚だ。
でも、誰かに教えようとすると、なぜそうするのかを改めて考える必要がある。
……あれ?
これ、俺にとっても結構いい練習じゃないか?
自分の判断を整理できる。
神も成長する。
……うん。
一石二鳥だな。
「また分からないことがあったら聞いてくれ」
「はい! ありがとうございます!」
神は嬉しそうに笑った。
……いい後輩ができたな。
いや、同い年だけど。
◇
それから、俺は神と一緒に練習することが増えた。
神は、とにかく質問が多かった。
「どうして、さっきはシュートを打たなかったんですか?」
「相手のキーパーが前に出てたからな。横に出した方が確実だった」
「じゃあ、キーパーが出てなかったら?」
「自分で打つ」
「なるほど!」
また別の日。
「どうして、今は前に走らなかったんですか?」
「相手のディフェンダーが俺を見てたからだよ。あそこで走ってもついてこられる」
「じゃあ、どうすればよかったんですか?」
「一度下がって、相手を引きつけてから裏へ走る」
「なるほど!」
……。
…………。
なるほど、が多いな。
まあ、理解してくれているならいいんだけど。
そして、次の練習。
神は、昨日教えた動きをあっさり成功させた。
……おお。
ちゃんと覚えてるじゃないか。
その次の日。
今度は、教えた動きを少し変えて使っていた。
相手のディフェンダーを引きつけ、逆方向へ走る。
そこへパスを出すと、見事に抜け出した。
……ん?
今の、俺が教えた動きとは少し違うぞ?
「神、今の動き、自分で考えたのか?」
「はい。こっちの方が空いてたので」
「……そうか」
……。
…………。
まあ、いい。
応用力があるのは、いいことだ。
むしろ、教えた甲斐がある。
俺は、そう思っていた。
このときは、まだ。
◇
一か月が過ぎた。
神の成長は、順調だった。
……いや。
順調という言葉では、少し足りない。
異常だった。
教えたことを、すぐに覚える。
覚えたことを、次の練習で使う。
そして、そこから自分なりの動きを作り出す。
しかも、ボールを扱う技術そのものも、どんどん上達していた。
最初は少しぎこちなかったドリブルが、いつの間にか滑らかになっている。
シュートの精度も上がっている。
ゲームの中でもちゃんと動けるようになっていた。
……。
…………。
おかしい。
いや、絶対におかしい。
俺がその動きを身につけるのに、どれだけ苦労したと思っているんだ?
何回人生をやり直したと思っているんだ?
いや、人生のやり直しは知ってる分けないか。
本当に知らないよね?
……いやいや。
落ち着け。
そういう才能ってだけだ。
俺がクソ神様にねだったのはこういう才能だったのだ。
天才というのは、存在する。
俺は、過去の人生で何度も見てきた。
だから、今さら驚くことじゃない。
……。
…………。
いや、驚くわ!!
こいつ、サッカーを始めてまだ一年も経ってないんだぞ!?
◇
夏になる頃には、神は試合にもコンスタントに出るようになっていた。
ポジションは、フォワードか攻撃的ミッドフィルダー。
ただし、攻撃的ミッドフィルダーといっても、俺とは役割が違う。
神は、試合全体を組み立てるのがあまり得意ではなかった。
味方をどう動かすか。
いつ攻撃のテンポを変えるか。
どこでボールを落ち着かせるか。
そういう部分では、まだまだ俺の方がはるかに上だ。
……よし。
そこは、安心していい。
いや、別に勝ち負けじゃないんだけど。
……ちょっとだけ安心した。
ところが。
ゴール前に入ると、神はまるで別人だった。
狭いスペースでも、簡単にボールを失わない。
ディフェンダーが足を出した瞬間、わずかな動きでかわす。
シュートコースがないように見えても、ほんの一瞬で隙間を作る。
そして。
決める。
とにかく、決める。
俺が絶妙なスルーパスを出す。
神が走り込む。
相手のディフェンダーが追いつく。
……あ、これは厳しいか。
そう思った瞬間。
神は、相手の足の間を通してシュートを打った。
ゴール。
……。
…………。
おい。
今、何した?
俺が見えていたシュートコースは、完全に消えていたはずだぞ?
何で、そこを通せるんだ?
試合後、神に聞いてみた。
「さっきのシュート、よくあそこを狙えたな」
「え? ああ、あれですか」
「ああ。相手の足が邪魔だっただろ?」
「そうですね。でも、ちょっと開いてたので」
……。
…………。
ちょっと?
ちょっと開いてた?
いや、確かに開いてはいた。
ほんの一瞬。
しかも、ボール一個分あるかないかの隙間だ。
そこを狙って打ったのか?
「何か、入りそうだなって思って」
……。
…………。
出たよ。
天才特有の説明になっていない説明。
俺が何年もかけて磨いた判断を、こいつは感覚でやっている。
……何だよ、それ。
ずるくない?
◇
秋。
神は、完全にチームの主力になっていた。
俺との連係も、日に日に良くなっていた。
俺がパスを出す。
神が走る。
俺が相手の動きを予測する。
神は、その予測のさらに先でボールを受ける。
最初は、俺が神に合わせていた。
ところが、いつの間にか。
俺の方が、神の動きに驚かされるようになっていた。
そして、ある日の紅白戦。
俺は、神と相手チームになった。
神が、ペナルティーエリアの手前でボールを受ける。
俺は、少し後ろからその動きを見ていた。
相手のディフェンダーが二人。
右のコースは消されている。
左には、もう一人のディフェンダー。
シュートコースもない。
……うん。
これは、無理だな。
一度ボールを戻すしかない。
俺なら、そうする。
ところが。
神は、右へ身体を傾けた。
ディフェンダーが反応する。
その瞬間、左足でボールをわずかに浮かせた。
……は?
ボールが、相手の伸ばした足の上を通る。
神は、そのまま二人の間を抜けた。
……いや、待て。
そこ、通れるのか!?
次の瞬間。
神は、ほとんど振りかぶらずにシュートを打った。
ボールは、ゴールの隅へ吸い込まれた。
……。
…………。
ゴール。
俺は、その場で立ち尽くした。
今のプレー。
何だ、あれ。
俺には、あの選択肢が見えていなかった。
いや。
見えていたとしても、選ばなかっただろう。
成功するとは思えなかったからだ。
でも、神は違う。
成功すると思ったから、やった。
そして、成功させた。
……。
…………。
ああ。
そうか。
こいつは。
本物だ。
◇
練習後。
神が、いつものように俺のところへやってきた。
「今日の最後のシュート、どうでした?」
……。
…………。
どうでした、って。
お前。
あれを見せられた俺の気持ちが分かるか?
「……すごかったよ」
「本当ですか?」
「ああ。正直、どうやったのか分からなかった」
神は、少し照れたように笑った。
「教えてもらったことを、試してみたんです」
「……俺が?」
「はい。相手が動いた瞬間がチャンスだって、前に言ってくれたじゃないですか」
……。
…………。
言った。
確かに言った。
でも。
そんなことまで教えた覚えはないぞ。
俺が教えたのは、相手の重心を見て動くことだ。
そこから、あんなプレーになるのか?
「やっぱり、教え方が上手ですね」
神は、嬉しそうに笑っている。
……。
…………。
いや。
違う。
俺の教え方が上手いんじゃない。
お前が、おかしいんだ。
……何だよ。
天才のくせに、性格までいいのかよ。
少しくらい嫌なやつでいてくれた方が、気持ちの整理がつくんだけどな。
◇
その夜。
俺は、自分の部屋でノートを開いた。
九回分の人生で積み重ねた記録。
そこには、俺が身につけてきた技術や経験が、びっしりと書き込まれている。
パス。
トラップ。
ドリブル。
シュート。
身体の使い方。
相手の動きの予測。
周囲の状況把握。
判断力。
その一つ一つに、何年もの時間をかけてきた。
何度も失敗した。
何度も怪我をした。
何度も、五歳からやり直した。
そうして、ようやくここまで来た。
……。
…………。
九回だぞ。
九回も人生をやり直したんだぞ。
それなのに。
神誠一郎は、たった一年で。
少なくとも、ゴール前での技術と決定力に関しては、俺を追い越してしまった。
……。
…………。
いやあ。
参ったな。
これは、さすがに。
……ちょっと、悔しい。
いや、ちょっとじゃない。
かなり悔しい。
こっちは、人類の未来まで背負っているんだぞ?
その俺が、サッカーを始めて一年の同級生に追い越されるって。
何の冗談だよ。
……。
…………。
ああ、そうか。
こういうのが、本物の天才なんだな。
俺は、これまでの人生でも多くの優秀な選手を見てきた。
中邑俊輔。
小田伸二。
松田大輔。
ほかにも、数え切れないほどの選手たちがいた。
その中でも、神の才能は異常だった。
しかも、こいつは俺の過去九回の人生にはいなかった。
……いや。
正確には、サッカーをしていなかったのかもしれない。
俺が全国大会でMVPを取ったから。
俺のプレーを見たから。
神は、サッカーを始めた。
……。
…………。
何だ、それ。
俺が頑張った結果、自分を追い越す天才が生まれたってことか?
……勘弁してくれよ。
クソ神様。
最後の人生で、何てものを用意してくれたんだ。
……。
…………。
いや、違うな。
神様が用意したかどうかなんて、分からない。
そもそも、あいつは何も説明しない。
神という名字だって、ただの偶然だろう。
……たぶん。
俺は、ノートを閉じた。
そして、天井を見上げた。
……さて。
どうする?
◇
しばらく考えて、俺は一つのことを思い出した。
九回目の人生。
アテネオリンピック。
あのとき、俺は小田伸二と一緒にプレーした。
小田は、俺にはない才能を持っていた。
柔らかいトラップ。
正確なパス。
狭い場所でも失わない技術。
何より、ボールを扱う姿が本当に楽しそうだった。
俺は、そんな小田と組んでプレーするのが好きだった。
俺が相手の動きを予測し、パスを出す。
小田がそれを受け、さらに攻撃を発展させる。
小田が相手を引きつければ、俺が空いたスペースを使う。
互いの良さを生かすことで、俺たちは強くなれた。
……そうだ。
別に、俺が一番上手い必要なんてない。
俺には、俺の武器がある。
神には、神の武器がある。
試合全体を見て、攻撃を組み立てる。
相手の動きを予測し、味方を生かす。
それなら、俺の方が上だ。
そして、ゴール前で相手を抜き、決定的な仕事をする。
それなら、神の方が上だ。
……。
…………。
何だ。
最高の組み合わせじゃないか。
俺が、最高のパスを出す。
神が、それをゴールにする。
神が相手を引きつければ、俺にもチャンスが生まれる。
二人で組めば、もっと強くなれる。
……そうだよ。
何を落ち込んでいたんだ、俺は。
九回分の努力が、消えたわけじゃない。
神がどれだけ成長しようと、俺の技術が下手になるわけじゃない。
むしろ、あいつと一緒にプレーすることで、俺だって新しいことを学べる。
……よし。
決めた。
もっと、神と一緒に練習しよう。
もっと、あいつのプレーを理解しよう。
そして、二人で日本代表を目指せばいい。
……。
…………。
うん。
何だか、急に楽しみになってきたぞ。
◇
それから、俺たちはさらに連係を磨いた。
俺がボールを持つ。
神が走る。
相手のディフェンダーが神を警戒する。
そこで、俺は別の味方へパスを出す。
相手の守備が動く。
その瞬間、神がゴール前へ飛び込む。
俺は、戻ってきたボールをワンタッチで神へ送った。
神は、相手のディフェンダーを一人かわす。
もう一人が寄せてくる。
……あ、今度は厳しいか?
そう思った瞬間。
神は、身体をひねりながらシュートを打った。
ゴール!
……。
…………。
いや、決めるのかよ!!
今の体勢から!?
もう、何でもありだな!
試合後、神が笑顔で駆け寄ってきた。
「やっぱり、一緒にプレーすると楽しいですね!」
「ああ。俺もだよ」
「パスがすごく受けやすいんです。何で僕が欲しいところが分かるんですか?」
「そりゃ、お前」
俺は、胸を張った。
「何年サッカーをやってると思ってるんだ」
「あ、そうか幼稚園からやってるんですもんね、もう十年の大先輩だ」
……その程度じゃないんだが、まぁいいか。
◇
冬が近づく頃には、俺たち二人の連係はチームの大きな武器になっていた。
神は、ゴール前で圧倒的な存在感を見せる。
俺は、その神を生かしながら攻撃を組み立てる。
もちろん、俺自身も得点を狙う。
神に守備が集中すれば、俺がシュートを打つ。
俺に相手が寄ってくれば、神が裏へ抜ける。
どちらか一人を止めても、もう一人がいる。
……うん。
強い。
これは、強いぞ。
監督も、俺たちの連係を高く評価していた。
チームメイトたちも、俺たちを信頼してくれている。
そして何より。
神と一緒にプレーするのは、本当に楽しかった。
あいつは、俺の予想を超える動きをする。
だから、俺もさらに考える。
どうすれば、あいつをもっと生かせるか。
どうすれば、俺自身ももっと成長できるか。
気がつけば、以前よりもサッカーのことを考える時間が増えていた。
……いや。
もともと、人生の大半をサッカーのことばかり考えているんだけどな。
これ以上増やしてどうするんだ、という気もする。
……まあ、いいか。
楽しいんだから。
◇
ある日の練習後。
神が、俺に話しかけてきた。
「来年も、一緒にプレーできるといいですね」
……来年。
そうか。
もうすぐ、ユース昇格の時期だ。
俺は、神を見た。
サッカーを始めて、まだ一年ほど。
それなのに、すでにチームの主力。
ゴール前での能力は、同年代では飛び抜けている。
……まあ、こいつは間違いなく昇格するだろう。
そして、俺も。
昨年は全国大会で優勝し、MVPを受賞した。
今年も、チームの中心として結果を残している。
攻撃の組み立てなら、神よりも俺の方が優れている。
得点力だって、十分にある。
……うん。
問題ない。
俺たち二人がいれば、ユースでも活躍できるはずだ。
「大丈夫だろ。俺たちなら」
「本当ですか?」
「ああ。ユースでも一緒にやろうぜ」
神は、嬉しそうに笑った。
「はい!」
……。
…………。
そして、いずれはプロで。
その先は、日本代表で。
俺が攻撃を組み立て、神がゴールを決める。
そんな未来を想像した。
……いいじゃないか。
最高だ。
九回分の人生をかけて、ようやくたどり着いた実力。
そして、十回目の人生で初めて出会った天才。
この二つが組み合わされば、きっと日本代表に届く。
いや。
届かせてみせる。
俺は、隣で楽しそうに笑う神を見た。
……よし。
これからも、よろしく頼むぞ。
神誠一郎。
お前となら、もっと上へ行ける。
俺は、そう信じていた。
ほかにもサッカー小説を投稿しています。
この小説とはかなり読み味が違う作品ですが、よろしければご一読ください。
この街に、プロサッカークラブを。
~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~
https://ncode.syosetu.com/n2172mu/




