10回目 第3話 決意
中学三年生の冬。
俺は、人生最大級の衝撃を受けることになった。
……いや。
人生最大級というのは、少し大げさかもしれない。
何しろ、俺は九回も人生をやり直している。
プロになれなかったこともある。
大怪我をしたこともある。
日本代表にあと一歩まで迫りながら、届かなかったこともある。
だから、多少のことでは動じない。
……はずだった。
少なくとも、この日までは。
◇
横浜マリナーズのジュニアユースでは、ユースへの昇格選考が進んでいた。
俺たち中学三年生にとっては、これからのサッカー人生を左右する大事な時期だ。
もっとも、俺はそこまで心配していなかった。
去年は全国大会で優勝。
しかも、大会MVP。
今年も背番号十番として、チームの中心でプレーしてきた。
得点も取っている。
アシストもしている。
神誠一郎とのコンビだって、チームの大きな武器になっている。
……うん。
問題ないだろう。
これだけ結果を出して昇格できないなら、何をすればいいんだ?
いや、本当に。
俺は過去の人生でも何度かマリナーズのユースに所属している。
だから、練習環境も知っているし、指導方針もある程度分かっている。
あとは、神と一緒にユースへ上がり、さらに成長するだけだ。
そして、トップチームへ。
その先は、日本代表。
……よし。
順調だ。
十回目の人生は、本当に順調だぞ。
そんなことを考えていた俺は、監督に呼び出された。
「少し話がある」
「はい」
……お。
来たな。
ユース昇格の話だろう。
俺は、少しだけ胸を躍らせながら監督の後についていった。
◇
「結論から言うと、今回はユースへの昇格を見送ることになった」
……。
…………。
ん?
今、何て言った?
「……すみません。もう一度お願いします」
「残念だが、お前のユース昇格は見送りだ」
は?
いや、待て待て待て。
見送り?
誰が?
俺が?
……俺が!?
「……理由を聞いてもいいですか?」
我ながら、よく冷静に質問できたと思う。
固く握りしめた拳が、わなわなと震えている。
内心では、すでに大騒ぎだった。
監督は、少し言いにくそうに口を開いた。
「お前の実力は高く評価している。去年の全国大会での活躍も、今年のプレーも申し分ない」
……だろうな。
それはそうだろう。
「ただ、ユースの編成を考えると、同じポジションにはすでに有望な選手がいる」
……ん?
「それに、今年は神を昇格させることになった。あいつはまだ経験が浅いが、将来性は非常に高い」
いや。
神が昇格するのは分かる。
あいつは天才だ。
そこは何の文句もない。
でも、それと俺が昇格できないことに、何の関係がある?
「お前には、ほかの環境で成長する道もあると思っている」
はあ?
ほかの環境?
いやいやいや。
俺、全国大会MVPだぞ?
今年だってチームの中心だっただろ?
神とのコンビだって、あれだけ結果を出している。
それなのに、昇格なし?
ポジションの兼ね合い?
育成方針?
……知るか!!
こっちは人類の未来が懸かってるんだぞ!!
いや、そんな事情を知らないのは分かっている。
分かっているが、納得できるか!!
「……そうですか」
俺は、それだけ答えた。
監督は、申し訳なさそうな顔をしていた。
「ユースに昇格させないからといって、放り出すような真似はしないから安心してくれ。お前なら、どこの高校を希望しても特別待遇で入学できるだろう」
「……はぁ」
その言い訳じみた発言に、さらに腹が立った。
申し訳ないと思うなら、昇格させろよ!!
「行きたい高校があれば、今月中に連絡してくれ」
「……分かりました」
こいつが悪いんじゃない。
分かっている。
分かっているんだ。
だが。
横浜マリナーズ。
覚えておけよ。
お前らは今日から、俺のぶっ◯したいランキング第2位だ。
もちろん第1位は、あのクソ神様。
いや、待て。
今はマリナーズの方が腹立つぞ。
くそっ。
順位は保留だ!!
絶対に許さん!!
絶対に後悔させてやるからな!!!!
◇
練習場を出たあとも、怒りは収まらなかった。
何だよ。
何なんだよ。
俺は、このクラブで何度もプレーしてきた。
もちろん、それは俺だけの記憶だ。
クラブからすれば、俺はジュニアユースに所属する一人の中学生にすぎない。
そんなことは分かっている。
でも。
俺にとっては、何度も通った練習場だ。
何度も指導を受けたコーチたちだ。
何度も一緒にプレーした仲間たちだ。
その場所から、お前はいらないと言われた。
ああ。
腹が立つ。
九回も人生をやり直して、ようやくここまで来たんだぞ。
過去最高の実力を身につけたんだぞ。
それなのに。
また、ここで道が閉ざされるのか?
いや。
違う。
道が閉ざされたわけじゃない。
マリナーズに残れないだけだ。
ほかの道なら、いくらでもある。
……あるんだが。
それはそれとして。
絶対に許さんからな!!
大事なことなので二回言いました。
いや、というか何度でも言ってやる!!
ぜったいにゆるさんからな!!!
◇
俺の昇格見送りは、その日のうちにチーム内に知れ渡っていた。
だが、俺の怒髪天を衝く勢いの怒りに、みんな話しかけてこず、遠巻きにひそひそ話している。
薄情者め。
ただ一人、神を除いて。
「昇格なしって本当!?」
「ああ。本当だよ」
「おかしいよ! 何で……?」
神は、心底驚いた顔をしていた。
まあ、そうだろう。
俺だって、いまだに信じられない。
「僕、一緒にユースでプレーできると思ってた」
「俺もだよ」
「……」
神は、うつむいてしまった。
……おいおい。
そんな顔をするなよ。
お前が悪いわけじゃないんだから。
「僕もマリナーズを辞める。そして、一緒に高校に入るよ!」
うおっ、お前、そこまで俺のことを……。
でも、それは違う。
俺の事情にこいつが付き合う必要はない。
マリナーズへの復讐にはなるかもしれないが……。
「神」
「はい」
「お前がそんなことをする必要はないぞ」
「でも……」
「お前が昇格するのは当然だ。あれだけのプレーをしてるんだからな」
「それに、俺はサッカーを辞めるわけじゃない。日本代表を目指すことを諦めるつもりもない」
「……」
「これからはライバルだな。試合で会ったら手加減しないぞ」
「……!」
これは本心だった。
神の才能は、本物だ。
俺が知っている選手の中でも、間違いなく最高クラスだろう。
神は、少しだけ安心したようだった。
「また、一緒にプレーできるよね?」
「ああ。もちろんだ」
「約束ですよ」
「日本代表で一緒にプレーしよう」
「はい!」
神は、ようやく笑った。
……うん。
こいつは本当にいいやつだな。
できれば、これからも一緒にプレーしたかった。
でも。
そうはいかなくなった。
◇
さて。
怒ってばかりもいられない。
俺には、進路を決めるという大事な仕事が残っている。
監督の顔を見るのも嫌だったので、事務のお姉さんに聞いたら、本当にどこの高校でも行けるみたいだ。
俺に同情している雰囲気だったから、ちょっと嘘泣きしながら「離れても感謝しています。ありがとうございました」と言ったら、涙を流してくれた。ちょろい。
これで監督たちへの風当たりが強くなれば御の字だ。
しめしめ。
さて、高校だが、一応候補として考えていた学校がある。
マリナーズという最高の環境を手放すのだから、違う角度で成長できるところがいい。
もっと厳しい環境でも、戦える選手になるのだ。
俺が選んだのは、青森県にある全国屈指のサッカー強豪高校だった。
校名は青森田中高校。
雪国にある学校だ。
冬は、かなり雪が積もる。
練習環境も厳しい。
全国から優秀な選手が集まり、レギュラー争いも激しい。
走り込みやフィジカルトレーニングにも力を入れている。
もちろん、技術や戦術の指導も充実している。
何より、闘志むき出しでプレーする選手たちの印象が残っている。
……うん。
いいじゃないか。
今の俺に必要なものが、全部そろっている。
横浜から青森と、ちょっと遠いが全く問題ではない。
どうせ寮に入るしな。
親にも相談した。
当然、最初は驚かれたが、マリナーズのユースに昇格できなかったこと、青森田中高校を選んだ理由を話すと納得してくれた。
「マリナーズなんて倒してしまいなさい!」
「おう、任せておいて!」
楽で助かる。
まあ、今この家が裕福なのは、俺の未来知識のおかげだしな。
でも、こうやって見返りなく応援してくれるのはありがたい。
これまでの十回の人生でも、親には本当に世話になっている。
親のためにも、日本代表にならなくてはな。
◇
三月。
中学校の卒業式を終えた俺は、すぐに青森へ向かった。
ちなみに、青森に向かう前に、神以外のマリナーズのチームメイトの電話番号を拒否リストに入れた。
お前らは敵だ。
俺は、知らない土地で誰にも頼らずに強くなるのだ。
高校の入学式までは、まだ三週間ほどある。
だが、そんなものを待っている暇はない。
一日でも早く、新しい環境で練習を始めたかった。
寮に荷物を運び込み、先輩たちに挨拶をする。
同じ時期に入寮した新入生も、何人かいた。
聞けば、ジュニアユース出身者もいるらしい。
俺と同じようにユース昇格を逃したようだ。
……なるほど。
似たような境遇のやつが多いな。
まあ、全国屈指の強豪校だ。
そういう選手が集まるのも当然か。
そして翌日。
いよいよ、練習初日。
俺は、少し早めにグラウンドへ向かった。
……。
…………。
雪。
どこを見ても、雪。
……あれ?
サッカーの練習に来たんだよな、俺?
ここ、グラウンドで合ってるよね?
別の場所で練習するのかな?
さらに空から、ちらちらと雪が降ってきた。
俺は、思わず空を見上げた。
白い雪が、ふわり、ふわりと舞い降りてくる。
しばらく、その様子をぼんやりと眺めていた。
一人の先輩がやってきた。
「おう、新入生か?」
「はい! よろしくお願いします!」
「じゃあ、これ持って」
そう言って、先輩が差し出してきたもの。
スコップ。
……。
…………。
スコップ?
「……あの、これは?」
「雪かきだよ。グラウンド使えるようにしないとな」
なるほど。
雪かき。
うん。
分かる。
分かるんだけど。
……サッカーボールは?
◇
どうやら、この学校では、雪が積もったグラウンドを選手たち自身で整備するらしい。
もちろん、屋内で練習する日もある。
遠征や大会で、ほかの場所へ行くこともある。
だが、今日はグラウンドの雪をどかし、使える場所を広げる予定だという。
……なるほど。
そういうことか。
周囲では、同じ新入生たちがスコップを受け取っていた。
ただ、反応はさまざまだった。
「マジかよ……」
「こんなに雪あるの?」
「ブルドーザーはないの?」
「これ、いつ終わるんだ?」
「サッカーの練習に来たんだけどな……」
気持ちは分かる。
俺だって、最初は驚いた。
特に、ジュニアユース出身者たちは戸惑っているようだった。
これまで整備された練習場でプレーしてきた選手も多い。
俺も、その一人だ。
横浜マリナーズでは、こんなことをする必要はなかった。
……。
…………。
横浜マリナーズ。
……くそっ。
また思い出した。
絶対に許さん。
……いや、今はそれどころじゃない。
俺は、目の前の雪を見た。
これをどかせば、サッカーができる。
逆に言えば、どかさなければサッカーができない。
何だ。
簡単な話じゃないか。
雪をどかすだけで、サッカーができるんだろ?
だったら。
やるに決まってるじゃないか。
◇
俺は、スコップを握った。
そして、目の前の雪に突き立てる。
ざくっ。
……お。
結構、重いな。
雪って、こんなに重かったっけ?
いや、場所によるんだろうけど。
思っていたより、ずっと大変だ。
まあ、いい。
やることは変わらない。
ざくっ。
ざくっ。
ざくっ。
雪をすくい、運ぶ。
また、すくう。
運ぶ。
すくう。
運ぶ。
これ、結構いい運動になるな。
いや、もちろん、腰を痛めないように気をつけないといけない。
無茶な姿勢で持ち上げるのは危険だ。
そこは、過去の人生で学んでいる。
でも、身体を使う作業としては悪くない。
……よし。
効率よくやろう。
俺は、周囲を見渡した。
雪を運ぶ場所。
人の動き。
スコップを使っている選手の配置。
……うん。
少し、無駄が多いな。
「おーい、そっちの雪、こっちに集めた方が早くないか?」
近くにいた新入生が、俺を見た。
「え?」
「一人ずつ遠くまで運ぶより、ここに集めてからまとめて運んだ方がいいだろ」
「ああ……確かに」
「あと、あっちの二人。こっちを先に終わらせたら、通り道ができるぞ」
「……分かった」
俺は、また雪をかき始めた。
ざくっ。
ざくっ。
ざくっ。
よし。
いい感じだ。
◇
しばらくすると、周囲から妙な視線を感じるようになった。
「……なあ、あいつ何なんだ?」
「いや、あの全国MVPのやつだろ? 何でユースに上がってないんだ?」
「確かに、何であんなに本気なんだ?」
「雪かきだぞ? サッカーに関係ないのに」
聞こえてるぞ。
いや、雪かきだからだろ。
これが終わらないと練習できないんだから。
俺は、手を止めずに考えた。
これまでの人生。
サッカーができなくなったことは、何度もあった。
大怪我をしたとき。
身体を壊したとき。
思うようにプレーできなかったとき。
ピッチに立ちたくても、立てなかった。
ボールを蹴りたくても、蹴れなかった。
そんな時間を、何年も過ごしてきた。
それに比べれば。
雪をどかすだけでサッカーができるなんて。
……最高じゃないか。
何なら、全部どかしてやってもいい。
……いや。
さすがに全部は無理か。
広いし。
でも、できるところまではやる。
それだけだ。
俺は、またスコップを動かした。
◇
「おい」
突然、隣から声をかけられた。
顔を上げると、さっきまで不満そうにしていた新入生が立っていた。
「……何?」
「そっち、手伝うわ」
「おう、助かる」
「お前、よくそんなに頑張れるな」
「ん?」
「いや、雪かきだぞ?」
また、それか。
「雪をどかせば練習できるんだろ?」
「ああ」
「じゃあ、早く終わらせようぜ」
俺は、そう答えた。
相手は、少し驚いたような顔をした。
そして。
「……そうだな」
そう言って、隣で雪をかき始めた。
しばらくすると、もう一人が加わった。
さらに、もう一人。
気がつけば、最初は文句を言っていた新入生たちも、黙々とスコップを動かしていた。
「おい、こっち終わったぞ!」
「じゃあ、次はあっちだ!」
「そこ、二人で運んだ方が早い!」
「分かった!」
おお。
いいじゃないか。
何だか、チームっぽくなってきたぞ。
……いや。
まだサッカー、一回もやってないんだけどな。
◇
少し離れた場所で、その様子を見ている男たちがいた。
サッカー部の監督とコーチ陣だった。
監督は四十代くらいだろうか。
日焼けした顔に、鋭い目つき。
いかにも厳しそうな雰囲気だ。
俺は、まだ挨拶をした程度で、ほとんど話したことがない。
監督は、腕を組んだまま、こちらを見ていた。
「……あいつが、マリナーズから来たやつか」
隣にいたコーチがうなずく。
「はい。昨年度の全国大会MVPです。ユース昇格を逃して、うちに来ました」
「ふうん」
監督は、俺の方を見た。
俺は、相変わらず雪をかいていた。
周囲の選手に声をかけながら、手を止めない。
誰かが疲れて動きが鈍くなれば、別の作業を頼む。
雪を運ぶ場所が混雑すれば、順番を変える。
別に、特別なことをしているつもりはなかった。
ただ、早く練習したかっただけだ。
「……面白いな」
監督が、ぽつりと言った。
「何がですか?」
「いや。あいつ、周りをよく見てる」
監督は、少しだけ笑った。
「それに、雪かきに最初からあそこまで本気になるやつは、なかなかいない」
「確かに……」
「みんな最初は戸惑う。戸惑いながら、だんだん目つきがおかしくなる。なのに、あいつは最初から目つきがおかしい」
「技術が高いのは知ってるが……」
監督は、もう一度俺を見た。
「それだけじゃなさそうだな」
◇
結局、その日の雪かきは、予定よりも早く終わった。
もちろん、グラウンド全体を使えるようになったわけではない。
それでも、ボールを使った練習ができる場所は十分に確保できた。
……よし!
ようやくサッカーだ!
俺は、スコップを片づけながら、思わず笑ってしまった。
何だか、妙に達成感がある。
……いや。
サッカーの練習前に達成感を味わってどうするんだ。
まだ何も始まってないぞ。
そのあと、俺たちはボールを使った練習に参加した。
当然、周囲の選手たちはうまかった。
全国から集まってきた選手たちだ。
技術も高い。
身体も強い。
簡単にボールを失わない。
……うん。
いい環境だ。
こういう場所で、毎日競争できる。
それだけで、ここへ来た価値がある。
俺は、久しぶりに心からワクワクしていた。
◇
練習が終わったあと。
監督が、新入生たちを集めた。
「お前たち、ここへ何をしに来た?」
……ん?
いきなり何だ?
監督は、一人ずつ目標を聞いていった。
「全国大会で優勝したいです!」
「レギュラーを取りたいです!」
「プロになりたいです!」
……うん。
いい目標だ。
みんな、ちゃんと考えているな。
そして、俺の番になった。
「お前は?」
監督が、俺を見る。
何を目指すか、か。
そんなもの。
決まっている。
俺は、一歩前に出た。
「横浜マリナーズを倒します!」
周囲が、少しざわついた。
「……マリナーズ?」
「お前、そこから来たんじゃなかったっけ?」
……そうだよ。
そこから来たんだよ。
だからこそ、倒したいんだ。
俺は、続けた。
「神誠一郎を倒します!」
今度は、さらにざわついた。
「神って、あの神か?」
「マリナーズにいる天才だろ?」
「お前、知り合いなのか?」
……知り合いどころじゃない。
あいつには、俺がサッカーを教えたんだぞ。
いや。
教えた結果、追い越されたんだけどな。
……くそっ。
思い出したら、ちょっと悔しくなってきた。
でも。
それだけじゃない。
俺には、もっと大きな目標がある。
俺は、息を吸い込んだ。
そして、思い切り声を張り上げた。
「そして、日本代表になります!!」
……。
…………。
静まり返った。
……あれ?
何だ?
ちょっと言いすぎたか?
いや、でも。
俺にとっては、これ以上ないくらい真剣な目標だ。
日本代表になれなければ、人類が滅亡するんだからな。
やっぱり、何度考えてもおかしい。
クソ神様。
絶対に許さん。
そんなことを考えていると。
「……ははっ」
監督が、笑った。
……ん?
「面白い」
監督は、俺を見て、にやりと笑った。
「横浜マリナーズを倒して、神誠一郎を倒して、日本代表か」
「はい!」
「ずいぶん大きく出たな」
「本気です!」
「そうか」
監督は、しばらく俺を見つめていた。
そして。
「いいだろう。そこまで言うなら、やってみろ」
「はい!」
「ただし、ここは甘くないぞ」
「分かっています!」
「本当に分かってるかどうかは、これから見せてもらう」
なるほど。
いいじゃないか。
望むところだ。
俺は、監督の目をまっすぐ見返した。
すると、監督はまた少し笑った。
……何だ?
何か、妙に楽しそうだな。
まあ、いいか。
◇
その日の夜。
寮の部屋で、俺はノートを開いた。
十回目の人生。
最後の人生。
ここまで、順調だった。
全国大会優勝。
大会MVP。
神誠一郎との出会い。
最高のコンビ。
そして。
横浜マリナーズのユース昇格見送り。
……。
…………。
くそっ。
やっぱり腹が立つ。
何度考えても、納得できない。
俺は、ノートの端に大きく書いた。
『横浜マリナーズを倒す』
……よし。
その下に、もう一つ。
『神誠一郎を倒す』
……うん。
あいつには悪いけどな。
勝負になったら、遠慮はしない。
そして、最後に。
『日本代表になる』
俺は、その文字をしばらく見つめた。
結局、やることは変わらない。
マリナーズに残れなかった。
神とも離れることになった。
でも。
サッカーができなくなったわけじゃない。
新しいチームがある。
新しい仲間がいる。
新しい監督がいる。
そして、俺には九回分の経験がある。
……そうだ。
何も失っていない。
いや。
マリナーズへの信頼は、完全に失ったけどな。
あれは、もう戻らない。
絶対に。
まあ、いい。
いつか試合で当たったときに、思い知らせてやる。
お前らが昇格させなかった選手が、どれだけの選手なのか。
そのとき、後悔すればいい。
……ふふふ。
楽しみだな。
俺は、ノートを閉じた。
窓の外には、まだ雪が残っている。
明日も、雪かきがあるかもしれない。
よし。
だったら、明日も誰よりも早く終わらせてやる。
そして、誰よりも練習する。
もう、立ち止まっている暇はない。
俺は、布団に潜り込んだ。
横浜マリナーズ。
神誠一郎。
待ってろよ。
次に会うときは、絶対に負けない。
……そして。
クソ神様。
お前も、忘れてないからな。
ぶっ◯したいランキングの第1位は、今のところお前だ。
……いや。
マリナーズと同率一位でもいいかもしれない。
まあ、順位なんてどうでもいい。
全員、見返してやる。
俺の最後の人生は、まだ終わっていない。
むしろ。
ここからが、本番だ。
ほかにもサッカー小説を投稿しています。
この小説とはかなり読み味が違う作品ですが、よろしければご一読ください。
この街に、プロサッカークラブを。
~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~
https://ncode.syosetu.com/n2172mu/




