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10回ループするまでにサッカー日本代表にならないと人類滅亡ってそりゃないよ  作者: いとやん


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11/19

10回目 第3話 決意

 中学三年生の冬。


 俺は、人生最大級の衝撃を受けることになった。


 ……いや。


 人生最大級というのは、少し大げさかもしれない。


 何しろ、俺は九回も人生をやり直している。


 プロになれなかったこともある。


 大怪我をしたこともある。


 日本代表にあと一歩まで迫りながら、届かなかったこともある。


 だから、多少のことでは動じない。


 ……はずだった。


 少なくとも、この日までは。


     ◇


 横浜マリナーズのジュニアユースでは、ユースへの昇格選考が進んでいた。


 俺たち中学三年生にとっては、これからのサッカー人生を左右する大事な時期だ。


 もっとも、俺はそこまで心配していなかった。


 去年は全国大会で優勝。


 しかも、大会MVP。


 今年も背番号十番として、チームの中心でプレーしてきた。


 得点も取っている。


 アシストもしている。


 神誠一郎とのコンビだって、チームの大きな武器になっている。


 ……うん。


 問題ないだろう。


 これだけ結果を出して昇格できないなら、何をすればいいんだ?


 いや、本当に。


 俺は過去の人生でも何度かマリナーズのユースに所属している。


 だから、練習環境も知っているし、指導方針もある程度分かっている。


 あとは、神と一緒にユースへ上がり、さらに成長するだけだ。


 そして、トップチームへ。


 その先は、日本代表。


 ……よし。


 順調だ。


 十回目の人生は、本当に順調だぞ。


 そんなことを考えていた俺は、監督に呼び出された。


「少し話がある」


「はい」


 ……お。


 来たな。


 ユース昇格の話だろう。


 俺は、少しだけ胸を躍らせながら監督の後についていった。


     ◇


「結論から言うと、今回はユースへの昇格を見送ることになった」


 ……。


 …………。


 ん?


 今、何て言った?


「……すみません。もう一度お願いします」


「残念だが、お前のユース昇格は見送りだ」


 は?


 いや、待て待て待て。


 見送り?


 誰が?


 俺が?


 ……俺が!?


「……理由を聞いてもいいですか?」


 我ながら、よく冷静に質問できたと思う。


 固く握りしめた拳が、わなわなと震えている。


 内心では、すでに大騒ぎだった。


 監督は、少し言いにくそうに口を開いた。


「お前の実力は高く評価している。去年の全国大会での活躍も、今年のプレーも申し分ない」


 ……だろうな。


 それはそうだろう。


「ただ、ユースの編成を考えると、同じポジションにはすでに有望な選手がいる」


 ……ん?


「それに、今年は神を昇格させることになった。あいつはまだ経験が浅いが、将来性は非常に高い」


 いや。


 神が昇格するのは分かる。


 あいつは天才だ。


 そこは何の文句もない。


 でも、それと俺が昇格できないことに、何の関係がある?


「お前には、ほかの環境で成長する道もあると思っている」


 はあ?


 ほかの環境?


 いやいやいや。


 俺、全国大会MVPだぞ?


 今年だってチームの中心だっただろ?


 神とのコンビだって、あれだけ結果を出している。


 それなのに、昇格なし?


 ポジションの兼ね合い?


 育成方針?


 ……知るか!!


 こっちは人類の未来が懸かってるんだぞ!!


 いや、そんな事情を知らないのは分かっている。


 分かっているが、納得できるか!!


「……そうですか」


 俺は、それだけ答えた。


 監督は、申し訳なさそうな顔をしていた。


「ユースに昇格させないからといって、放り出すような真似はしないから安心してくれ。お前なら、どこの高校を希望しても特別待遇で入学できるだろう」


「……はぁ」


 その言い訳じみた発言に、さらに腹が立った。


 申し訳ないと思うなら、昇格させろよ!!


「行きたい高校があれば、今月中に連絡してくれ」


「……分かりました」


 こいつが悪いんじゃない。


 分かっている。


 分かっているんだ。


 だが。


 横浜マリナーズ。


 覚えておけよ。


 お前らは今日から、俺のぶっ◯したいランキング第2位だ。


 もちろん第1位は、あのクソ神様。


 いや、待て。


 今はマリナーズの方が腹立つぞ。


 くそっ。


 順位は保留だ!!


 絶対に許さん!!


 絶対に後悔させてやるからな!!!!


     ◇


 練習場を出たあとも、怒りは収まらなかった。


 何だよ。


 何なんだよ。


 俺は、このクラブで何度もプレーしてきた。


 もちろん、それは俺だけの記憶だ。


 クラブからすれば、俺はジュニアユースに所属する一人の中学生にすぎない。


 そんなことは分かっている。


 でも。


 俺にとっては、何度も通った練習場だ。


 何度も指導を受けたコーチたちだ。


 何度も一緒にプレーした仲間たちだ。


 その場所から、お前はいらないと言われた。


 ああ。


 腹が立つ。


 九回も人生をやり直して、ようやくここまで来たんだぞ。


 過去最高の実力を身につけたんだぞ。


 それなのに。


 また、ここで道が閉ざされるのか?


 いや。


 違う。


 道が閉ざされたわけじゃない。


 マリナーズに残れないだけだ。


 ほかの道なら、いくらでもある。


 ……あるんだが。


 それはそれとして。


 絶対に許さんからな!!


 大事なことなので二回言いました。


 いや、というか何度でも言ってやる!!


 ぜったいにゆるさんからな!!!


     ◇


 俺の昇格見送りは、その日のうちにチーム内に知れ渡っていた。


 だが、俺の怒髪天を衝く勢いの怒りに、みんな話しかけてこず、遠巻きにひそひそ話している。


 薄情者め。


 ただ一人、神を除いて。


「昇格なしって本当!?」


「ああ。本当だよ」


「おかしいよ! 何で……?」


 神は、心底驚いた顔をしていた。


 まあ、そうだろう。


 俺だって、いまだに信じられない。


「僕、一緒にユースでプレーできると思ってた」


「俺もだよ」


「……」


 神は、うつむいてしまった。


 ……おいおい。


 そんな顔をするなよ。


 お前が悪いわけじゃないんだから。


「僕もマリナーズを辞める。そして、一緒に高校に入るよ!」


 うおっ、お前、そこまで俺のことを……。


 でも、それは違う。


 俺の事情にこいつが付き合う必要はない。


 マリナーズへの復讐にはなるかもしれないが……。


「神」


「はい」


「お前がそんなことをする必要はないぞ」


「でも……」


「お前が昇格するのは当然だ。あれだけのプレーをしてるんだからな」


「それに、俺はサッカーを辞めるわけじゃない。日本代表を目指すことを諦めるつもりもない」


「……」


「これからはライバルだな。試合で会ったら手加減しないぞ」


「……!」


 これは本心だった。


 神の才能は、本物だ。


 俺が知っている選手の中でも、間違いなく最高クラスだろう。


 神は、少しだけ安心したようだった。


「また、一緒にプレーできるよね?」


「ああ。もちろんだ」


「約束ですよ」


「日本代表で一緒にプレーしよう」


「はい!」


 神は、ようやく笑った。


 ……うん。


 こいつは本当にいいやつだな。


 できれば、これからも一緒にプレーしたかった。


 でも。


 そうはいかなくなった。


     ◇


 さて。


 怒ってばかりもいられない。


 俺には、進路を決めるという大事な仕事が残っている。


 監督の顔を見るのも嫌だったので、事務のお姉さんに聞いたら、本当にどこの高校でも行けるみたいだ。


 俺に同情している雰囲気だったから、ちょっと嘘泣きしながら「離れても感謝しています。ありがとうございました」と言ったら、涙を流してくれた。ちょろい。


 これで監督たちへの風当たりが強くなれば御の字だ。


 しめしめ。


 さて、高校だが、一応候補として考えていた学校がある。


 マリナーズという最高の環境を手放すのだから、違う角度で成長できるところがいい。


 もっと厳しい環境でも、戦える選手になるのだ。


 俺が選んだのは、青森県にある全国屈指のサッカー強豪高校だった。


 校名は青森田中高校。


 雪国にある学校だ。


 冬は、かなり雪が積もる。


 練習環境も厳しい。


 全国から優秀な選手が集まり、レギュラー争いも激しい。


 走り込みやフィジカルトレーニングにも力を入れている。


 もちろん、技術や戦術の指導も充実している。


 何より、闘志むき出しでプレーする選手たちの印象が残っている。


 ……うん。


 いいじゃないか。


 今の俺に必要なものが、全部そろっている。


 横浜から青森と、ちょっと遠いが全く問題ではない。


 どうせ寮に入るしな。


 親にも相談した。


 当然、最初は驚かれたが、マリナーズのユースに昇格できなかったこと、青森田中高校を選んだ理由を話すと納得してくれた。


「マリナーズなんて倒してしまいなさい!」


「おう、任せておいて!」


 楽で助かる。


 まあ、今この家が裕福なのは、俺の未来知識のおかげだしな。


 でも、こうやって見返りなく応援してくれるのはありがたい。


 これまでの十回の人生でも、親には本当に世話になっている。


 親のためにも、日本代表にならなくてはな。


     ◇


 三月。


 中学校の卒業式を終えた俺は、すぐに青森へ向かった。


 ちなみに、青森に向かう前に、神以外のマリナーズのチームメイトの電話番号を拒否リストに入れた。


 お前らは敵だ。


 俺は、知らない土地で誰にも頼らずに強くなるのだ。


 高校の入学式までは、まだ三週間ほどある。


 だが、そんなものを待っている暇はない。


 一日でも早く、新しい環境で練習を始めたかった。


 寮に荷物を運び込み、先輩たちに挨拶をする。


 同じ時期に入寮した新入生も、何人かいた。


 聞けば、ジュニアユース出身者もいるらしい。


 俺と同じようにユース昇格を逃したようだ。


 ……なるほど。


 似たような境遇のやつが多いな。


 まあ、全国屈指の強豪校だ。


 そういう選手が集まるのも当然か。


 そして翌日。


 いよいよ、練習初日。


 俺は、少し早めにグラウンドへ向かった。


 ……。


 …………。


 雪。


 どこを見ても、雪。


 ……あれ?


 サッカーの練習に来たんだよな、俺?


 ここ、グラウンドで合ってるよね?


 別の場所で練習するのかな?


 さらに空から、ちらちらと雪が降ってきた。


 俺は、思わず空を見上げた。


 白い雪が、ふわり、ふわりと舞い降りてくる。


 しばらく、その様子をぼんやりと眺めていた。


 一人の先輩がやってきた。


「おう、新入生か?」


「はい! よろしくお願いします!」


「じゃあ、これ持って」


 そう言って、先輩が差し出してきたもの。


 スコップ。


 ……。


 …………。


 スコップ?


「……あの、これは?」


「雪かきだよ。グラウンド使えるようにしないとな」


 なるほど。


 雪かき。


 うん。


 分かる。


 分かるんだけど。


 ……サッカーボールは?


     ◇


 どうやら、この学校では、雪が積もったグラウンドを選手たち自身で整備するらしい。


 もちろん、屋内で練習する日もある。


 遠征や大会で、ほかの場所へ行くこともある。


 だが、今日はグラウンドの雪をどかし、使える場所を広げる予定だという。


 ……なるほど。


 そういうことか。


 周囲では、同じ新入生たちがスコップを受け取っていた。


 ただ、反応はさまざまだった。


「マジかよ……」


「こんなに雪あるの?」


「ブルドーザーはないの?」


「これ、いつ終わるんだ?」


「サッカーの練習に来たんだけどな……」


 気持ちは分かる。


 俺だって、最初は驚いた。


 特に、ジュニアユース出身者たちは戸惑っているようだった。


 これまで整備された練習場でプレーしてきた選手も多い。


 俺も、その一人だ。


 横浜マリナーズでは、こんなことをする必要はなかった。


 ……。


 …………。


 横浜マリナーズ。


 ……くそっ。


 また思い出した。


 絶対に許さん。


 ……いや、今はそれどころじゃない。


 俺は、目の前の雪を見た。


 これをどかせば、サッカーができる。


 逆に言えば、どかさなければサッカーができない。


 何だ。


 簡単な話じゃないか。


 雪をどかすだけで、サッカーができるんだろ?


 だったら。


 やるに決まってるじゃないか。


     ◇


 俺は、スコップを握った。


 そして、目の前の雪に突き立てる。


 ざくっ。


 ……お。


 結構、重いな。


 雪って、こんなに重かったっけ?


 いや、場所によるんだろうけど。


 思っていたより、ずっと大変だ。


 まあ、いい。


 やることは変わらない。


 ざくっ。


 ざくっ。


 ざくっ。


 雪をすくい、運ぶ。


 また、すくう。


 運ぶ。


 すくう。


 運ぶ。


 これ、結構いい運動になるな。


 いや、もちろん、腰を痛めないように気をつけないといけない。


 無茶な姿勢で持ち上げるのは危険だ。


 そこは、過去の人生で学んでいる。


 でも、身体を使う作業としては悪くない。


 ……よし。


 効率よくやろう。


 俺は、周囲を見渡した。


 雪を運ぶ場所。


 人の動き。


 スコップを使っている選手の配置。


 ……うん。


 少し、無駄が多いな。


「おーい、そっちの雪、こっちに集めた方が早くないか?」


 近くにいた新入生が、俺を見た。


「え?」


「一人ずつ遠くまで運ぶより、ここに集めてからまとめて運んだ方がいいだろ」


「ああ……確かに」


「あと、あっちの二人。こっちを先に終わらせたら、通り道ができるぞ」


「……分かった」


 俺は、また雪をかき始めた。


 ざくっ。


 ざくっ。


 ざくっ。


 よし。


 いい感じだ。


     ◇


 しばらくすると、周囲から妙な視線を感じるようになった。


「……なあ、あいつ何なんだ?」


「いや、あの全国MVPのやつだろ? 何でユースに上がってないんだ?」


「確かに、何であんなに本気なんだ?」


「雪かきだぞ? サッカーに関係ないのに」


 聞こえてるぞ。


 いや、雪かきだからだろ。


 これが終わらないと練習できないんだから。


 俺は、手を止めずに考えた。


 これまでの人生。


 サッカーができなくなったことは、何度もあった。


 大怪我をしたとき。


 身体を壊したとき。


 思うようにプレーできなかったとき。


 ピッチに立ちたくても、立てなかった。


 ボールを蹴りたくても、蹴れなかった。


 そんな時間を、何年も過ごしてきた。


 それに比べれば。


 雪をどかすだけでサッカーができるなんて。


 ……最高じゃないか。


 何なら、全部どかしてやってもいい。


 ……いや。


 さすがに全部は無理か。


 広いし。


 でも、できるところまではやる。


 それだけだ。


 俺は、またスコップを動かした。


     ◇


「おい」


 突然、隣から声をかけられた。


 顔を上げると、さっきまで不満そうにしていた新入生が立っていた。


「……何?」


「そっち、手伝うわ」


「おう、助かる」


「お前、よくそんなに頑張れるな」


「ん?」


「いや、雪かきだぞ?」


 また、それか。


「雪をどかせば練習できるんだろ?」


「ああ」


「じゃあ、早く終わらせようぜ」


 俺は、そう答えた。


 相手は、少し驚いたような顔をした。


 そして。


「……そうだな」


 そう言って、隣で雪をかき始めた。


 しばらくすると、もう一人が加わった。


 さらに、もう一人。


 気がつけば、最初は文句を言っていた新入生たちも、黙々とスコップを動かしていた。


「おい、こっち終わったぞ!」


「じゃあ、次はあっちだ!」


「そこ、二人で運んだ方が早い!」


「分かった!」


 おお。


 いいじゃないか。


 何だか、チームっぽくなってきたぞ。


 ……いや。


 まだサッカー、一回もやってないんだけどな。


     ◇


 少し離れた場所で、その様子を見ている男たちがいた。


 サッカー部の監督とコーチ陣だった。


 監督は四十代くらいだろうか。


 日焼けした顔に、鋭い目つき。


 いかにも厳しそうな雰囲気だ。


 俺は、まだ挨拶をした程度で、ほとんど話したことがない。


 監督は、腕を組んだまま、こちらを見ていた。


「……あいつが、マリナーズから来たやつか」


 隣にいたコーチがうなずく。


「はい。昨年度の全国大会MVPです。ユース昇格を逃して、うちに来ました」


「ふうん」


 監督は、俺の方を見た。


 俺は、相変わらず雪をかいていた。


 周囲の選手に声をかけながら、手を止めない。


 誰かが疲れて動きが鈍くなれば、別の作業を頼む。


 雪を運ぶ場所が混雑すれば、順番を変える。


 別に、特別なことをしているつもりはなかった。


 ただ、早く練習したかっただけだ。


「……面白いな」


 監督が、ぽつりと言った。


「何がですか?」


「いや。あいつ、周りをよく見てる」


 監督は、少しだけ笑った。


「それに、雪かきに最初からあそこまで本気になるやつは、なかなかいない」


「確かに……」


「みんな最初は戸惑う。戸惑いながら、だんだん目つきがおかしくなる。なのに、あいつは最初から目つきがおかしい」


「技術が高いのは知ってるが……」


 監督は、もう一度俺を見た。


「それだけじゃなさそうだな」


     ◇


 結局、その日の雪かきは、予定よりも早く終わった。


 もちろん、グラウンド全体を使えるようになったわけではない。


 それでも、ボールを使った練習ができる場所は十分に確保できた。


 ……よし!


 ようやくサッカーだ!


 俺は、スコップを片づけながら、思わず笑ってしまった。


 何だか、妙に達成感がある。


 ……いや。


 サッカーの練習前に達成感を味わってどうするんだ。


 まだ何も始まってないぞ。


 そのあと、俺たちはボールを使った練習に参加した。


 当然、周囲の選手たちはうまかった。


 全国から集まってきた選手たちだ。


 技術も高い。


 身体も強い。


 簡単にボールを失わない。


 ……うん。


 いい環境だ。


 こういう場所で、毎日競争できる。


 それだけで、ここへ来た価値がある。


 俺は、久しぶりに心からワクワクしていた。


     ◇


 練習が終わったあと。


 監督が、新入生たちを集めた。


「お前たち、ここへ何をしに来た?」


 ……ん?


 いきなり何だ?


 監督は、一人ずつ目標を聞いていった。


「全国大会で優勝したいです!」


「レギュラーを取りたいです!」


「プロになりたいです!」


 ……うん。


 いい目標だ。


 みんな、ちゃんと考えているな。


 そして、俺の番になった。


「お前は?」


 監督が、俺を見る。


 何を目指すか、か。


 そんなもの。


 決まっている。


 俺は、一歩前に出た。


「横浜マリナーズを倒します!」


 周囲が、少しざわついた。


「……マリナーズ?」


「お前、そこから来たんじゃなかったっけ?」


 ……そうだよ。


 そこから来たんだよ。


 だからこそ、倒したいんだ。


 俺は、続けた。


「神誠一郎を倒します!」


 今度は、さらにざわついた。


「神って、あの神か?」


「マリナーズにいる天才だろ?」


「お前、知り合いなのか?」


 ……知り合いどころじゃない。


 あいつには、俺がサッカーを教えたんだぞ。


 いや。


 教えた結果、追い越されたんだけどな。


 ……くそっ。


 思い出したら、ちょっと悔しくなってきた。


 でも。


 それだけじゃない。


 俺には、もっと大きな目標がある。


 俺は、息を吸い込んだ。


 そして、思い切り声を張り上げた。


「そして、日本代表になります!!」


 ……。


 …………。


 静まり返った。


 ……あれ?


 何だ?


 ちょっと言いすぎたか?


 いや、でも。


 俺にとっては、これ以上ないくらい真剣な目標だ。


 日本代表になれなければ、人類が滅亡するんだからな。


 やっぱり、何度考えてもおかしい。


 クソ神様。


 絶対に許さん。


 そんなことを考えていると。


「……ははっ」


 監督が、笑った。


 ……ん?


「面白い」


 監督は、俺を見て、にやりと笑った。


「横浜マリナーズを倒して、神誠一郎を倒して、日本代表か」


「はい!」


「ずいぶん大きく出たな」


「本気です!」


「そうか」


 監督は、しばらく俺を見つめていた。


 そして。


「いいだろう。そこまで言うなら、やってみろ」


「はい!」


「ただし、ここは甘くないぞ」


「分かっています!」


「本当に分かってるかどうかは、これから見せてもらう」


 なるほど。


 いいじゃないか。


 望むところだ。


 俺は、監督の目をまっすぐ見返した。


 すると、監督はまた少し笑った。


 ……何だ?


 何か、妙に楽しそうだな。


 まあ、いいか。


     ◇


 その日の夜。


 寮の部屋で、俺はノートを開いた。


 十回目の人生。


 最後の人生。


 ここまで、順調だった。


 全国大会優勝。


 大会MVP。


 神誠一郎との出会い。


 最高のコンビ。


 そして。


 横浜マリナーズのユース昇格見送り。


 ……。


 …………。


 くそっ。


 やっぱり腹が立つ。


 何度考えても、納得できない。


 俺は、ノートの端に大きく書いた。


『横浜マリナーズを倒す』


 ……よし。


 その下に、もう一つ。


『神誠一郎を倒す』


 ……うん。


 あいつには悪いけどな。


 勝負になったら、遠慮はしない。


 そして、最後に。


『日本代表になる』


 俺は、その文字をしばらく見つめた。


 結局、やることは変わらない。


 マリナーズに残れなかった。


 神とも離れることになった。


 でも。


 サッカーができなくなったわけじゃない。


 新しいチームがある。


 新しい仲間がいる。


 新しい監督がいる。


 そして、俺には九回分の経験がある。


 ……そうだ。


 何も失っていない。


 いや。


 マリナーズへの信頼は、完全に失ったけどな。


 あれは、もう戻らない。


 絶対に。


 まあ、いい。


 いつか試合で当たったときに、思い知らせてやる。


 お前らが昇格させなかった選手が、どれだけの選手なのか。


 そのとき、後悔すればいい。


 ……ふふふ。


 楽しみだな。


 俺は、ノートを閉じた。


 窓の外には、まだ雪が残っている。


 明日も、雪かきがあるかもしれない。


 よし。


 だったら、明日も誰よりも早く終わらせてやる。


 そして、誰よりも練習する。


 もう、立ち止まっている暇はない。


 俺は、布団に潜り込んだ。


 横浜マリナーズ。


 神誠一郎。


 待ってろよ。


 次に会うときは、絶対に負けない。


 ……そして。


 クソ神様。


 お前も、忘れてないからな。


 ぶっ◯したいランキングの第1位は、今のところお前だ。


 ……いや。


 マリナーズと同率一位でもいいかもしれない。


 まあ、順位なんてどうでもいい。


 全員、見返してやる。


 俺の最後の人生は、まだ終わっていない。


 むしろ。


 ここからが、本番だ。

ほかにもサッカー小説を投稿しています。

この小説とはかなり読み味が違う作品ですが、よろしければご一読ください。


この街に、プロサッカークラブを。

~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~


https://ncode.syosetu.com/n2172mu/

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