10回目 第4話 不合格
青森田中高校に入学して、一か月が経った。
……うん。
なかなかいい環境だ。
練習は厳しい。
走り込みも多い。
筋力トレーニングも充実している。
何より、周囲の選手たちのレベルが高い。
全国から集まった選手たちだけあって、簡単にはボールを失わないし、球際の強さもある。
これまで所属してきた横浜マリナーズとは、また違った良さがあった。
……。
横浜マリナーズ。
……くそっ。
思い出したら腹が立ってきた。
絶対に許さん。
……いや。
今はそんなことを考えている場合じゃない。
俺には、やるべきことがある。
この高校で成長し、マリナーズを倒す。
そして、日本代表になる。
目標は明確だ。
そのためにも、まずはこのチームで結果を残さなければならない。
……もっとも。
結果なら、すでに残しているんだけどな。
◇
俺は、入学直後から攻撃的MFとして試合に出場していた。
最初は新入生同士の練習試合。
それから二年生を交えた紅白戦。
最近では、三年生が出場する練習試合にも呼ばれるようになっている。
もちろん、最初からすべてがうまくいったわけではない。
この高校のサッカーは、マリナーズとは少し違う。
守備の切り替えが速く、球際も激しい。
ボールを持った選手に対して、相手が一気に寄せてくる。
少しでも判断が遅れれば、すぐに囲まれてしまう。
マリナーズの方が上手いのは間違いない。
ただ強いのはこっちだ。
だが、俺にはこの程度では障害にはならない。
「右! 右に出せ!」
味方の声が聞こえる。
だが、俺は右を見ながら左へパスを出した。
相手の守備が右へ動く。
その瞬間、左サイドの味方がフリーになる。
「おおっ!」
そこからクロス。
ゴール前へ走り込んだ先輩が、頭で合わせた。
ゴール。
「ナイスパス!」
「お前、よく見えてるな!」
「ありがとうございます!」
……ふふふ。
当然だ。
こっちは九回も人生をやり直しているんだぞ。
中学生相手どころか、プロ相手にだって何年もプレーしてきた。
高校生の守備くらい、見えていなくてどうする。
……いや。
油断は禁物だ。
身体は、まだ高校一年生。
経験があるからといって、何でもできるわけじゃない。
そこは、十分に分かっている。
だからこそ。
頭を使う。
味方を使う。
そして、試合を支配する。
それが俺のサッカーだ。
◇
そんなわけで、俺は順調に結果を残していた。
先日の練習試合では、二得点三アシスト。
我ながら、なかなかの出来だったと思う。
いや。
なかなかどころじゃない。
普通に大活躍だろ。
試合後、先輩たちからも褒められた。
「お前、本当に一年生か?」
「パスのタイミングがうますぎるだろ」
「次も頼むぞ!」
……うんうん。
いいね。
こういうの。
努力が認められるというのは、何度経験しても嬉しいものだ。
ところが。
このチームには、一人だけ妙な人物がいた。
監督である。
「監督! 今日の試合、どうでしたか?」
俺は、練習試合が終わったあと、監督に声をかけた。
「……まあ、悪くない」
え?
それだけ?
「ありがとうございます!」
とりあえず、元気よく返事をする。
監督は、もう次の選手に声をかけていた。
「お前、今日の守備は良かったぞ」
「ありがとうございます!」
「その調子で続けろ」
あれ?
普通に褒めてる。
ほかの選手は褒めてるよね?
俺は?
二得点三アシストなんですけど?
……。
…………。
まあ、いい。
きっと期待されているんだろう。
そういうことにしておこう。
◇
しかし。
その後も、状況は変わらなかった。
俺が得点を決めても。
「……悪くない」
絶妙なスルーパスで決定機を作っても。
「……まあまあだな」
相手の守備を完全に崩しても。
「次も頑張れ」
何だ?
何なんだ?
俺、何かしたっけ?
いや、別に怒られているわけじゃない。
試合には普通に出してもらっている。
プレーについて細かい指示も受ける。
練習でも、しっかり見てもらっている。
ただ。
褒められない。
全然、褒められない。
まさか。
ツンデレか?
……いやいやいや。
四十過ぎのおっさんのツンデレとか、誰に需要があるんだよ!!
そんなことを考えながら、監督の方を見る。
監督は、いつものように腕を組んでいた。
そして、じっと俺を見ている。
何だろう。
何かを考えているようにも見える。
まあ、いいか。
試合には出られている。
結果も出ている。
それなら、何も問題はない。
……うん。
たぶん。
◇
そんなある日。
次の練習試合は関西であると発表された。
相手は、九州や関西、北陸などの強豪高校。
年に一度関西に強豪校が集まって合同で練習試合をするのだ。
プレ全国大会のようなレベルが高く強度が高い練習試合だ。
ちなみに青森からバス移動だ。
……痔にならないように気をつけよう。
その九州の強豪校には、ある選手が所属していた。
松田大輔。
高校二年生。
おお。
松田か。
懐かしい名前だな。
いや、懐かしいというのも変な話だ。
この人生では、まだほとんど関わっていない。
でも。
俺にとって、松田大輔という男は特別な存在だった。
一回目の人生。
俺は、高校サッカーで活躍していた。
自分には才能があると思っていた。
プロにもなれると信じていた。
だが。
松田と対戦したとき、その自信を粉々にされた。
速い。
強い。
うまい。
そして、何より。
サッカーが分かっている。
俺が何をしようとしているのか、先回りして潰してくる。
逆に、こちらが何をしても、簡単に突破される。
……あれは、本当に衝撃だった。
その後の人生でも、松田とは何度も対戦した。
プロになってからも。
年代別代表の活動でも。
時には味方として。
時には敵として。
何度も、何度も。
だから、よく知っている。
松田大輔という選手が、どれほど厄介なのか。
……ふふふ。
面白い。
今の俺なら、どこまで通用するだろうな。
攻撃的MFとして、真正面から勝負してやる。
そして、あいつを驚かせてやろう。
そんなことを考えていた。
……このときまでは。
◇
試合の前日。
宿舎で荷物を片付けていると監督に呼び止められた。
「おい、ちょっと来い」
「はい!」
……お。
何だろう。
明日の試合の話かな?
もしかして。
ようやく褒めてくれるのか?
……いや。
期待するのはやめておこう。
どうせ、また「悪くない」とか言われるだけだ。
「明日の試合、お前を先発で使う」
「はい!」
……うん。
当然だな。
今の俺の調子なら、先発で使わない理由がない。
監督は、続けた。
「ポジションはセンターバックだ」
……。
…………。
ん?
センターバック?
誰が?
「……すみません。もう一度お願いします」
「センターバックだ」
は?
いやいやいや。
待て待て待て。
俺、攻撃的MFですよ?
背番号十番の選手ですよ?
全国大会MVPですよ?
今だって、攻撃的MFとして結果を出してますよ?
……。
…………。
監督。
選手名簿、間違えてません?
「あの……センターバックですか?」
「そうだ」
「俺が?」
「そうだ」
「センターバックに怪我人出てましたっけ?」
「いや、出てない」
「……何でですか?」
「必要だからだ」
……。
「言っておくが次の試合だけじゃない。俺が監督のうちはお前をセンターバックで使う」
え、ってことはコンバート?
ちゃんと説明しろや!!
「でも、俺、センターバックなんてほとんどやったことないですよ?」
「知ってる」
「何で事前に練習させないんですか?」
「突然言った時のお前の対応が見たいからだ」
はぁ!?
コイツ何言ってるんだ!?
某ランキングを急上昇しつつあるがこらえて質問する。
「攻撃的MFとしては、結構うまくやれていると思うんですけど……」
「知ってる」
知ってるなら、何でだよ!!
監督は、俺の顔をじっと見ていた。
そして、突然言った。
「松田大輔を止めろ」
……。
…………。
はい?
「明日の試合、お前が松田を止めるんだ」
「……俺が、ですか?」
「そうだ」
……いや。
まあ、確かに。
松田のプレーはよく知っている。
知っているどころじゃない。
九回分の人生で、嫌というほど見てきた。
でも。
それを監督が知っているわけがない。
何で俺なんだ?
すると、監督はさらに続けた。
「もし松田を止められなければ、向こう一年、お前を試合には出さない」
はあああああ!?
いや、待て!!
一年!?
一年間!?
俺、まだ高校一年生なんですけど!?
ここで一年試合に出られなかったら、貴重な時間が丸ごと消えるじゃないか!!
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「何だ?」
「それ、いくら何でも厳しすぎませんか!?
意味分かんないんですけど!」
「嫌なら断ってもいいぞ」
いや。
断ったらどうなるんだよ。
絶対、ろくなことにならないだろ。
監督は、腕を組んだまま俺を見ている。
……くそっ。
何なんだ、このおっさん。
普段は全然褒めてくれないし。
突然センターバックをやれと言い出すし。
挙げ句の果てに、一年間試合に出さないだと?
でも。
松田を止めればいいんだろ?
だったら。
やってやるよ。
「……分かりました」
「ほう」
「逆に言うと松田を止めれば試合に出られるんですよね?」
「ああ」
「絶対に止めます」
監督は、少しだけ笑った。
「期待してるぞ」
……。
あれ?
今、期待してるって言った?
……いや。
それよりも。
何でセンターバックなんだよ!!
いや、ツッコミはこれ以上にしておこう。
今日中にセンターバックでどうやって松田を止めるか、失点しないのか考えなければ……
もっと早く言えよな!!
◇
試合当日。
俺は、センターバックとしてピッチに立っていた。
違和感がすごい。
いつもなら、もっと前にいる。
相手の守備ラインと中盤の間でボールを受ける。
そこから、味方を動かし、攻撃を組み立てる。
それが俺の仕事だ。
なのに。
今日は、ゴールキーパーがすぐ後ろにいる。
……近いな。
いや、当たり前なんだけど。
そして、前方には相手の攻撃陣。
その中心にいるのが、松田大輔だった。
おお。
本当にいる。
凄い久しぶりだ。
この人生でも一回くらい対戦していた気がする。
そんなことを考えていると、松田がこちらに気がついて話しかけてきた。
「あれ?お前ってセンターバックだっけ?」
「いろいろありまして……」
「何だかよく分からないけど、手加減しないぜ」
「こちらこそ。
今日始めてのセンターバックですが、松田さんを止めますのでよろしくです」
お、ちょっとイラっとした顔をしていたぞ。
成功成功、少しでもミスする確率をあげるのだ。
◇
試合が始まった。
序盤から、相手は松田を中心に攻撃を仕掛けてきた。
松田は、前線で身体を張りながらボールを受ける。
そこから味方へ落とし、自分はすぐに次のスペースへ動く。
……うん。
相変わらず、うまいな。
高校二年生とは思えない。
身体も強い。
判断も速い。
そして、何より。
無駄な動きが少ない。
だが。
俺は、その動きを知っている。
相手の中盤がボールを持つ。
松田が、少しだけ右へ流れた。
……来る。
次は、縦だ。
俺は、半歩だけ位置を変えた。
その瞬間。
松田へ縦パスが入る。
……ほらな。
俺は、松田がボールを受ける前に身体を寄せた。
簡単には前を向かせない。
松田は、いったんボールを戻した。
……よし。
まずは一本。
悪くない。
◇
その後も、松田は何度も動き直した。
右へ。
左へ。
時には中盤まで下がり。
時には、守備ラインの裏を狙う。
だが。
俺には、ある程度分かっていた。
松田がどんなときに裏へ抜けるのか。
どんなときに足元で受けたがるのか。
どちらの足でボールを持ちたがるのか。
そして。
何をされたら嫌がるのか。
……ふふふ。
何回お前と対戦してきたと思ってるんだ。
こっちは、お前のプレーを九回分の人生で見てきたんだぞ。
……いや。
もちろん、今の松田と、将来の松田では違うところもある。
だから、すべてが分かるわけではない。
それでも。
癖は、そう簡単には変わらない。
「右、絞れ!」
俺は、隣のセンターバックに声をかけた。
「分かった!」
「サイドバック、裏を気にしろ!」
「おう!」
松田が動く。
俺も動く。
味方も動かす。
あれ?
何だか、これ。
結構、面白いな。
攻撃的MFのときとは、見える景色が違う。
前線から見るのと、後方から見るのでは、選手の配置がまるで違って見える。
相手の攻撃が、どこから始まるのか。
どこにスペースができるのか。
味方の誰が、どこを守るべきなのか。
……うん。
意外と、見える。
いや。
見えるどころか。
かなり、よく見える。
まあ、今はそれどころじゃない。
まずは松田だ。
絶対に止める。
◇
前半の終盤。
松田が、ついに強引な突破を仕掛けてきた。
中盤からの縦パス。
松田は、俺を背負った状態でボールを受ける。
……来たな。
俺は、身体を寄せた。
だが。
松田は、想像以上の強さで踏ん張った。
……っ!
強い!
こいつ、こんなに身体が強かったか!?
いや。
知っていた。
知っていたはずだ。
でも。
今の俺の身体では、簡単には止められない。
松田が、身体を反転させようとする。
……まずい。
ここで前を向かれたら、一気にゴールへ向かわれる。
俺は、無理にボールを奪いに行かなかった。
半歩下がる。
そして、松田の進む方向を限定する。
「カバー!」
隣のセンターバックが寄せてきた。
松田は、シュートを打とうとした。
だが、角度がない。
結局、シュートはゴールの外へ外れた。
……ふう。
危なかった。
やっぱり、松田は松田だな。
簡単には止まらない。
でも。
止められないわけじゃない。
◇
後半。
松田は、さらに積極的に仕掛けてきた。
何度も身体をぶつけてくる。
何度も裏へ走る。
何度もボールを要求する。
……くそっ。
しつこいな。
いや。
知ってるけど。
こいつ、本当に諦めないんだよな。
だが、俺も負けない。
味方に指示を出す。
相手のパスコースを消す。
松田に前を向かせない。
ボールを奪ったら、まずは安全な味方へつなぐ。
そして、また守備の位置へ戻る。
正直、かなり疲れる。
攻撃的MFとは、疲れ方が違う。
常に相手の動きを気にしていなければならない。
一瞬でも集中を切らせば、ゴールに直結する。
……なるほど。
センターバックって、大変なんだな。
今さらながら、実感した。
でも。
面白い。
相手の攻撃を読んで、先回りする。
味方を動かして、危険な場所を消す。
そして、相手の狙いを潰す。
うん。
悪くない。
悪くないぞ。
試合終了間際、競り合いのこぼれ球が良いところにいた松田に渡る。
完全に一対一だ。味方も周りにいない。
俺が抜かれたら高確率で点を取られてしまうだろう。
正直一対一の純粋なディフェンス能力にはあんまり自信がない。
何しろ急造センターバックだしな!
それでも一回だけ止める術はある!
松田のフェイントにバランスを崩した俺は松田のユニフォームを引っ張って止めた。
当然ファール、イエローカードのおまけ付き。
だが点を取られるよりはよっぽど良い。
すまん、松田。
どうしても止めなければならないんだ。
フリーキックに関しては外れてくれることを祈るしかないが……
俺の祈りの力を見せてやるぜ!
◇
試合終了。
松田の終了間際のフリーキックも不発で結果は、一対〇。
青森田中高校の勝利だった。
そして。
松田大輔は、無得点。
決定的なチャンスも、あのフリーキックくらいだった。
……よし!
やったぞ!!
俺は、思わず拳を握った。
いやあ。
大変だった。
本当に大変だった。
でも、止めた。
あの松田大輔を、止めたんだ。
しかも、ほとんど経験のないセンターバックで。
これは、さすがに褒められるだろ。
いや。
褒められない方がおかしい。
監督だって、認めざるを得ないはずだ。
俺は、少し期待しながらベンチへ戻った。
◇
「お疲れ」
監督が、俺に声をかけた。
「はい!」
「松田を抑えたのは褒めてやる。
あのイエローはいただけないが、何としてでも抑えるという執念は良かった」
おおっ!!
褒められた!!
初めてだ!!
ついに!!
このおっさん、ちゃんと褒めることもできたんだな!!
……いや。
失礼だな、俺。
でも、本当に嬉しい。
ツンデレのデレにやられちゃったかな?
「ありがとうございます!」
俺は、満面の笑みで答えた。
ところが。
監督は、続けた。
「だが、これでは不合格だ」
ん?
……。
…………。
は?
「……すみません。もう一度お願いします」
「不合格だ」
はああああああ!?
いや、待て待て待て!!
松田を止めろって言ったよね!?
止めたよね!?
失点してないよね!?
勝ったよね!?
何が不合格なの!?
「……あの、松田は止めましたよね?」
「ああ。そこは評価している」
「じゃあ、何が駄目だったんですか?」
監督は、しばらく俺を見つめていた。
そして、言った。
「何のために、お前をセンターバックで使ったのか考えろ」
何のために?
……いや。
松田を止めるためだろ?
そう言ったじゃないか。
俺は、困惑した。
「……松田を止めるためじゃないんですか?」
「それだけなら、お前である必要はない」
は?
いやいやいや。
ちょっと待て。
だったら、何で俺なんだよ!!
監督は、さらに続けた。
「ただ、松田を止めた以上、一年間試合に出さないという話はなしだ」
おお。
そこは守ってくれるんだな。
よかった。
本当によかった。
「だが、今日のセンターバックとしてのプレーは不合格だ」
また言った!!
何回言うんだよ!!
「答えが分かるまで、考えてみろ」
監督は、それだけ言って去っていった。
……。
何なんだ。
何なんだよ、このおっさん!!
最初から最後まで、意味が分からん!!
青森田中高校。
お前もか!!
何なんだ、俺のサッカー人生は!!
どこへ行っても、監督に妙な課題を出される呪いでもかかってるのか!?
クソ神様!!
これ、お前の仕業じゃないだろうな!?
◇
その日の夜。
俺は、寮の部屋でノートを開いた。
……。
…………。
分からん。
全然、分からん。
松田を止めた。
失点も防いだ。
試合にも勝った。
それなのに、不合格。
……。
何なんだ?
監督は、俺に何を求めている?
俺は、今日の試合を思い返した。
松田の動き。
パスコース。
味方の位置。
守備ラインの調整。
……うん。
悪くなかった。
むしろ、初めてのセンターバックとしては、かなりよくできたと思う。
じゃあ、何が足りなかった?
俺は、ノートをめくった。
そこには、九回の人生で積み重ねてきた記録が並んでいる。
パス。
シュート。
トラップ。
視野。
判断力。
相手の動きを読む方法。
味方を動かす方法。
試合を組み立てる方法。
俺は、ずっと攻撃的MFとして日本代表を目指してきた。
だから、攻撃的MFとして必要な能力を磨いてきた。
それは、間違っていない。
実際、今の俺は過去最高の攻撃的MFだと思う。
でも。
今日、俺はセンターバックとして試合に出た。
そして、松田を止めることばかり考えていた。
あれ?
そういえば。
今日の俺は、ボールを奪ったあと、何をしていた?
……。
近くの味方へパスを出していた。
安全なところへ。
それから、すぐに守備位置へ戻っていた。
いや。
それ自体は、間違っていない。
センターバックとしては、普通のプレーだ。
でも。
監督は、俺に普通のセンターバックをやらせたかったのか?
どうして、わざわざ俺を使った?
俺には、ほかにもできることがある。
九回の人生をかけて磨いてきた能力がある。
俺は、ノートに視線を落とした。
パス。
視野。
判断力。
試合を組み立てる能力。
まさか。
俺は、しばらくその文字を見つめていた。
監督の言葉が、頭の中で繰り返される。
『何のために、お前をセンターバックで使ったのか考えろ』
いや。
まさかな。
俺は、ノートを閉じた。
そして、天井を見上げた。
九回の人生で、一度も考えたことのない可能性。
それが、今。
目の前にあるのかもしれない。
だとしたら。
あの監督。
最初から、そこまで考えていたのか?
……。
いやいやいや。
そんなわけないだろ。
あのおっさん、ただのツンデレだぞ?
……本当に、そうか?
ほかにもサッカー小説を投稿しています。
この小説とはかなり読み味が違う作品ですが、よろしければご一読ください。
この街に、プロサッカークラブを。
~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~
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