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10回ループするまでにサッカー日本代表にならないと人類滅亡ってそりゃないよ  作者: いとやん


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12/19

10回目 第4話 不合格

 青森田中高校に入学して、一か月が経った。


 ……うん。


 なかなかいい環境だ。


 練習は厳しい。


 走り込みも多い。


 筋力トレーニングも充実している。


 何より、周囲の選手たちのレベルが高い。


 全国から集まった選手たちだけあって、簡単にはボールを失わないし、球際の強さもある。


 これまで所属してきた横浜マリナーズとは、また違った良さがあった。


 ……。


 横浜マリナーズ。


 ……くそっ。


 思い出したら腹が立ってきた。


 絶対に許さん。


 ……いや。


 今はそんなことを考えている場合じゃない。


 俺には、やるべきことがある。


 この高校で成長し、マリナーズを倒す。


 そして、日本代表になる。


 目標は明確だ。


 そのためにも、まずはこのチームで結果を残さなければならない。


 ……もっとも。


 結果なら、すでに残しているんだけどな。


     ◇


 俺は、入学直後から攻撃的MFとして試合に出場していた。


 最初は新入生同士の練習試合。


 それから二年生を交えた紅白戦。


 最近では、三年生が出場する練習試合にも呼ばれるようになっている。


 もちろん、最初からすべてがうまくいったわけではない。


 この高校のサッカーは、マリナーズとは少し違う。


 守備の切り替えが速く、球際も激しい。


 ボールを持った選手に対して、相手が一気に寄せてくる。


 少しでも判断が遅れれば、すぐに囲まれてしまう。


 マリナーズの方が上手いのは間違いない。

 ただ強いのはこっちだ。


 だが、俺にはこの程度では障害にはならない。


「右! 右に出せ!」


 味方の声が聞こえる。


 だが、俺は右を見ながら左へパスを出した。


 相手の守備が右へ動く。


 その瞬間、左サイドの味方がフリーになる。


「おおっ!」


 そこからクロス。


 ゴール前へ走り込んだ先輩が、頭で合わせた。


 ゴール。


「ナイスパス!」


「お前、よく見えてるな!」


「ありがとうございます!」


 ……ふふふ。


 当然だ。


 こっちは九回も人生をやり直しているんだぞ。


 中学生相手どころか、プロ相手にだって何年もプレーしてきた。


 高校生の守備くらい、見えていなくてどうする。


 ……いや。


 油断は禁物だ。


 身体は、まだ高校一年生。


 経験があるからといって、何でもできるわけじゃない。


 そこは、十分に分かっている。


 だからこそ。


 頭を使う。


 味方を使う。


 そして、試合を支配する。


 それが俺のサッカーだ。


     ◇


 そんなわけで、俺は順調に結果を残していた。


 先日の練習試合では、二得点三アシスト。


 我ながら、なかなかの出来だったと思う。


 いや。


 なかなかどころじゃない。


 普通に大活躍だろ。


 試合後、先輩たちからも褒められた。


「お前、本当に一年生か?」


「パスのタイミングがうますぎるだろ」


「次も頼むぞ!」


 ……うんうん。


 いいね。


 こういうの。


 努力が認められるというのは、何度経験しても嬉しいものだ。


 ところが。


 このチームには、一人だけ妙な人物がいた。


 監督である。


「監督! 今日の試合、どうでしたか?」


 俺は、練習試合が終わったあと、監督に声をかけた。


「……まあ、悪くない」


 え?


 それだけ?


「ありがとうございます!」


 とりあえず、元気よく返事をする。


 監督は、もう次の選手に声をかけていた。


「お前、今日の守備は良かったぞ」


「ありがとうございます!」


「その調子で続けろ」


 あれ?


 普通に褒めてる。


 ほかの選手は褒めてるよね?


 俺は?


 二得点三アシストなんですけど?


 ……。


 …………。


 まあ、いい。


 きっと期待されているんだろう。


 そういうことにしておこう。


     ◇


 しかし。


 その後も、状況は変わらなかった。


 俺が得点を決めても。


「……悪くない」


 絶妙なスルーパスで決定機を作っても。


「……まあまあだな」


 相手の守備を完全に崩しても。


「次も頑張れ」


 何だ?


 何なんだ?


 俺、何かしたっけ?


 いや、別に怒られているわけじゃない。


 試合には普通に出してもらっている。


 プレーについて細かい指示も受ける。


 練習でも、しっかり見てもらっている。


 ただ。


 褒められない。


 全然、褒められない。


 まさか。


 ツンデレか?


 ……いやいやいや。


 四十過ぎのおっさんのツンデレとか、誰に需要があるんだよ!!


 そんなことを考えながら、監督の方を見る。


 監督は、いつものように腕を組んでいた。


 そして、じっと俺を見ている。


 何だろう。


 何かを考えているようにも見える。


 まあ、いいか。


 試合には出られている。


 結果も出ている。


 それなら、何も問題はない。


 ……うん。


 たぶん。


     ◇


 そんなある日。


 次の練習試合は関西であると発表された。


 相手は、九州や関西、北陸などの強豪高校。

 年に一度関西に強豪校が集まって合同で練習試合をするのだ。

 プレ全国大会のようなレベルが高く強度が高い練習試合だ。


 ちなみに青森からバス移動だ。


 ……痔にならないように気をつけよう。


 その九州の強豪校には、ある選手が所属していた。


 松田大輔。


 高校二年生。


 おお。


 松田か。


 懐かしい名前だな。


 いや、懐かしいというのも変な話だ。


 この人生では、まだほとんど関わっていない。


 でも。


 俺にとって、松田大輔という男は特別な存在だった。


 一回目の人生。


 俺は、高校サッカーで活躍していた。


 自分には才能があると思っていた。


 プロにもなれると信じていた。


 だが。


 松田と対戦したとき、その自信を粉々にされた。


 速い。


 強い。


 うまい。


 そして、何より。


 サッカーが分かっている。


 俺が何をしようとしているのか、先回りして潰してくる。


 逆に、こちらが何をしても、簡単に突破される。


 ……あれは、本当に衝撃だった。


 その後の人生でも、松田とは何度も対戦した。


 プロになってからも。


 年代別代表の活動でも。


 時には味方として。


 時には敵として。


 何度も、何度も。


 だから、よく知っている。


 松田大輔という選手が、どれほど厄介なのか。


 ……ふふふ。


 面白い。


 今の俺なら、どこまで通用するだろうな。


 攻撃的MFとして、真正面から勝負してやる。


 そして、あいつを驚かせてやろう。


 そんなことを考えていた。


 ……このときまでは。


     ◇


 試合の前日。


 宿舎で荷物を片付けていると監督に呼び止められた。


「おい、ちょっと来い」


「はい!」


 ……お。


 何だろう。


 明日の試合の話かな?


 もしかして。


 ようやく褒めてくれるのか?


 ……いや。


 期待するのはやめておこう。


 どうせ、また「悪くない」とか言われるだけだ。


「明日の試合、お前を先発で使う」


「はい!」


 ……うん。


 当然だな。


 今の俺の調子なら、先発で使わない理由がない。


 監督は、続けた。


「ポジションはセンターバックだ」


 ……。


 …………。


 ん?


 センターバック?


 誰が?


「……すみません。もう一度お願いします」


「センターバックだ」


 は?


 いやいやいや。


 待て待て待て。


 俺、攻撃的MFですよ?


 背番号十番の選手ですよ?


 全国大会MVPですよ?


 今だって、攻撃的MFとして結果を出してますよ?


 ……。


 …………。


 監督。


 選手名簿、間違えてません?


「あの……センターバックですか?」


「そうだ」


「俺が?」


「そうだ」


「センターバックに怪我人出てましたっけ?」


「いや、出てない」


「……何でですか?」


「必要だからだ」


 ……。


「言っておくが次の試合だけじゃない。俺が監督のうちはお前をセンターバックで使う」


 え、ってことはコンバート?


 ちゃんと説明しろや!!


「でも、俺、センターバックなんてほとんどやったことないですよ?」


「知ってる」


「何で事前に練習させないんですか?」


「突然言った時のお前の対応が見たいからだ」


 はぁ!?


 コイツ何言ってるんだ!?


 某ランキングを急上昇しつつあるがこらえて質問する。


「攻撃的MFとしては、結構うまくやれていると思うんですけど……」


「知ってる」


 知ってるなら、何でだよ!!


 監督は、俺の顔をじっと見ていた。


 そして、突然言った。


「松田大輔を止めろ」


 ……。


 …………。


 はい?


「明日の試合、お前が松田を止めるんだ」


「……俺が、ですか?」


「そうだ」


 ……いや。


 まあ、確かに。


 松田のプレーはよく知っている。


 知っているどころじゃない。


 九回分の人生で、嫌というほど見てきた。


 でも。


 それを監督が知っているわけがない。


 何で俺なんだ?


 すると、監督はさらに続けた。


「もし松田を止められなければ、向こう一年、お前を試合には出さない」


 はあああああ!?


 いや、待て!!


 一年!?


 一年間!?


 俺、まだ高校一年生なんですけど!?


 ここで一年試合に出られなかったら、貴重な時間が丸ごと消えるじゃないか!!


「ちょ、ちょっと待ってください!」


「何だ?」


「それ、いくら何でも厳しすぎませんか!?

 意味分かんないんですけど!」


「嫌なら断ってもいいぞ」


 いや。


 断ったらどうなるんだよ。


 絶対、ろくなことにならないだろ。


 監督は、腕を組んだまま俺を見ている。


 ……くそっ。


 何なんだ、このおっさん。


 普段は全然褒めてくれないし。


 突然センターバックをやれと言い出すし。


 挙げ句の果てに、一年間試合に出さないだと?


 でも。


 松田を止めればいいんだろ?


 だったら。


 やってやるよ。


「……分かりました」


「ほう」


「逆に言うと松田を止めれば試合に出られるんですよね?」


「ああ」


「絶対に止めます」


 監督は、少しだけ笑った。


「期待してるぞ」


 ……。


 あれ?


 今、期待してるって言った?


 ……いや。


 それよりも。


 何でセンターバックなんだよ!!


 いや、ツッコミはこれ以上にしておこう。


 今日中にセンターバックでどうやって松田を止めるか、失点しないのか考えなければ……


 もっと早く言えよな!!


     ◇


 試合当日。


 俺は、センターバックとしてピッチに立っていた。


 違和感がすごい。


 いつもなら、もっと前にいる。


 相手の守備ラインと中盤の間でボールを受ける。


 そこから、味方を動かし、攻撃を組み立てる。


 それが俺の仕事だ。


 なのに。


 今日は、ゴールキーパーがすぐ後ろにいる。


 ……近いな。


 いや、当たり前なんだけど。


 そして、前方には相手の攻撃陣。


 その中心にいるのが、松田大輔だった。


 おお。


 本当にいる。


 凄い久しぶりだ。


 この人生でも一回くらい対戦していた気がする。


 そんなことを考えていると、松田がこちらに気がついて話しかけてきた。


「あれ?お前ってセンターバックだっけ?」


「いろいろありまして……」


「何だかよく分からないけど、手加減しないぜ」


「こちらこそ。

今日始めてのセンターバックですが、松田さんを止めますのでよろしくです」


 お、ちょっとイラっとした顔をしていたぞ。


 成功成功、少しでもミスする確率をあげるのだ。


     ◇


 試合が始まった。


 序盤から、相手は松田を中心に攻撃を仕掛けてきた。


 松田は、前線で身体を張りながらボールを受ける。


 そこから味方へ落とし、自分はすぐに次のスペースへ動く。


 ……うん。


 相変わらず、うまいな。


 高校二年生とは思えない。


 身体も強い。


 判断も速い。


 そして、何より。


 無駄な動きが少ない。


 だが。


 俺は、その動きを知っている。


 相手の中盤がボールを持つ。


 松田が、少しだけ右へ流れた。


 ……来る。


 次は、縦だ。


 俺は、半歩だけ位置を変えた。


 その瞬間。


 松田へ縦パスが入る。


 ……ほらな。


 俺は、松田がボールを受ける前に身体を寄せた。


 簡単には前を向かせない。


 松田は、いったんボールを戻した。


 ……よし。


 まずは一本。


 悪くない。


     ◇


 その後も、松田は何度も動き直した。


 右へ。


 左へ。


 時には中盤まで下がり。


 時には、守備ラインの裏を狙う。


 だが。


 俺には、ある程度分かっていた。


 松田がどんなときに裏へ抜けるのか。


 どんなときに足元で受けたがるのか。


 どちらの足でボールを持ちたがるのか。


 そして。


 何をされたら嫌がるのか。


 ……ふふふ。


 何回お前と対戦してきたと思ってるんだ。


 こっちは、お前のプレーを九回分の人生で見てきたんだぞ。


 ……いや。


 もちろん、今の松田と、将来の松田では違うところもある。


 だから、すべてが分かるわけではない。


 それでも。


 癖は、そう簡単には変わらない。


「右、絞れ!」


 俺は、隣のセンターバックに声をかけた。


「分かった!」


「サイドバック、裏を気にしろ!」


「おう!」


 松田が動く。


 俺も動く。


 味方も動かす。


 あれ?


 何だか、これ。


 結構、面白いな。


 攻撃的MFのときとは、見える景色が違う。


 前線から見るのと、後方から見るのでは、選手の配置がまるで違って見える。


 相手の攻撃が、どこから始まるのか。


 どこにスペースができるのか。


 味方の誰が、どこを守るべきなのか。


 ……うん。


 意外と、見える。


 いや。


 見えるどころか。


 かなり、よく見える。


 まあ、今はそれどころじゃない。


 まずは松田だ。


 絶対に止める。


     ◇


 前半の終盤。


 松田が、ついに強引な突破を仕掛けてきた。


 中盤からの縦パス。


 松田は、俺を背負った状態でボールを受ける。


 ……来たな。


 俺は、身体を寄せた。


 だが。


 松田は、想像以上の強さで踏ん張った。


 ……っ!


 強い!


 こいつ、こんなに身体が強かったか!?


 いや。


 知っていた。


 知っていたはずだ。


 でも。


 今の俺の身体では、簡単には止められない。


 松田が、身体を反転させようとする。


 ……まずい。


 ここで前を向かれたら、一気にゴールへ向かわれる。


 俺は、無理にボールを奪いに行かなかった。


 半歩下がる。


 そして、松田の進む方向を限定する。


「カバー!」


 隣のセンターバックが寄せてきた。


 松田は、シュートを打とうとした。


 だが、角度がない。


 結局、シュートはゴールの外へ外れた。


 ……ふう。


 危なかった。


 やっぱり、松田は松田だな。


 簡単には止まらない。


 でも。


 止められないわけじゃない。


     ◇


 後半。


 松田は、さらに積極的に仕掛けてきた。


 何度も身体をぶつけてくる。


 何度も裏へ走る。


 何度もボールを要求する。


 ……くそっ。


 しつこいな。


 いや。


 知ってるけど。


 こいつ、本当に諦めないんだよな。


 だが、俺も負けない。


 味方に指示を出す。


 相手のパスコースを消す。


 松田に前を向かせない。


 ボールを奪ったら、まずは安全な味方へつなぐ。


 そして、また守備の位置へ戻る。


 正直、かなり疲れる。


 攻撃的MFとは、疲れ方が違う。


 常に相手の動きを気にしていなければならない。


 一瞬でも集中を切らせば、ゴールに直結する。


 ……なるほど。


 センターバックって、大変なんだな。


 今さらながら、実感した。


 でも。


 面白い。


 相手の攻撃を読んで、先回りする。


 味方を動かして、危険な場所を消す。


 そして、相手の狙いを潰す。


 うん。


 悪くない。


 悪くないぞ。


 試合終了間際、競り合いのこぼれ球が良いところにいた松田に渡る。


 完全に一対一だ。味方も周りにいない。


 俺が抜かれたら高確率で点を取られてしまうだろう。


 正直一対一の純粋なディフェンス能力にはあんまり自信がない。

 何しろ急造センターバックだしな!


 それでも一回だけ止める術はある!


 松田のフェイントにバランスを崩した俺は松田のユニフォームを引っ張って止めた。


 当然ファール、イエローカードのおまけ付き。


 だが点を取られるよりはよっぽど良い。

 

 すまん、松田。


 どうしても止めなければならないんだ。


 フリーキックに関しては外れてくれることを祈るしかないが……


 俺の祈りの力を見せてやるぜ!



     ◇


 試合終了。


 松田の終了間際のフリーキックも不発で結果は、一対〇。


 青森田中高校の勝利だった。


 そして。


 松田大輔は、無得点。


 決定的なチャンスも、あのフリーキックくらいだった。


 ……よし!


 やったぞ!!


 俺は、思わず拳を握った。


 いやあ。


 大変だった。


 本当に大変だった。


 でも、止めた。


 あの松田大輔を、止めたんだ。


 しかも、ほとんど経験のないセンターバックで。


 これは、さすがに褒められるだろ。


 いや。


 褒められない方がおかしい。


 監督だって、認めざるを得ないはずだ。


 俺は、少し期待しながらベンチへ戻った。


     ◇


「お疲れ」


 監督が、俺に声をかけた。


「はい!」


「松田を抑えたのは褒めてやる。

あのイエローはいただけないが、何としてでも抑えるという執念は良かった」


 おおっ!!


 褒められた!!


 初めてだ!!


 ついに!!


 このおっさん、ちゃんと褒めることもできたんだな!!


 ……いや。


 失礼だな、俺。


 でも、本当に嬉しい。


 ツンデレのデレにやられちゃったかな?


「ありがとうございます!」


 俺は、満面の笑みで答えた。


 ところが。


 監督は、続けた。


「だが、これでは不合格だ」


 ん?


 ……。


 …………。


 は?


「……すみません。もう一度お願いします」


「不合格だ」


 はああああああ!?


 いや、待て待て待て!!


 松田を止めろって言ったよね!?


 止めたよね!?


 失点してないよね!?


 勝ったよね!?


 何が不合格なの!?


「……あの、松田は止めましたよね?」


「ああ。そこは評価している」


「じゃあ、何が駄目だったんですか?」


 監督は、しばらく俺を見つめていた。


 そして、言った。


「何のために、お前をセンターバックで使ったのか考えろ」


 何のために?


 ……いや。


 松田を止めるためだろ?


 そう言ったじゃないか。


 俺は、困惑した。


「……松田を止めるためじゃないんですか?」


「それだけなら、お前である必要はない」


 は?


 いやいやいや。


 ちょっと待て。


 だったら、何で俺なんだよ!!


 監督は、さらに続けた。


「ただ、松田を止めた以上、一年間試合に出さないという話はなしだ」


 おお。


 そこは守ってくれるんだな。


 よかった。


 本当によかった。


「だが、今日のセンターバックとしてのプレーは不合格だ」


 また言った!!


 何回言うんだよ!!


「答えが分かるまで、考えてみろ」


 監督は、それだけ言って去っていった。


 ……。


 何なんだ。


 何なんだよ、このおっさん!!


 最初から最後まで、意味が分からん!!


 青森田中高校。


 お前もか!!


 何なんだ、俺のサッカー人生は!!


 どこへ行っても、監督に妙な課題を出される呪いでもかかってるのか!?


 クソ神様!!


 これ、お前の仕業じゃないだろうな!?


     ◇


 その日の夜。


 俺は、寮の部屋でノートを開いた。


 ……。


 …………。


 分からん。


 全然、分からん。


 松田を止めた。


 失点も防いだ。


 試合にも勝った。


 それなのに、不合格。


 ……。


 何なんだ?


 監督は、俺に何を求めている?


 俺は、今日の試合を思い返した。


 松田の動き。


 パスコース。


 味方の位置。


 守備ラインの調整。


 ……うん。


 悪くなかった。


 むしろ、初めてのセンターバックとしては、かなりよくできたと思う。


 じゃあ、何が足りなかった?


 俺は、ノートをめくった。


 そこには、九回の人生で積み重ねてきた記録が並んでいる。


 パス。


 シュート。


 トラップ。


 視野。


 判断力。


 相手の動きを読む方法。


 味方を動かす方法。


 試合を組み立てる方法。


 俺は、ずっと攻撃的MFとして日本代表を目指してきた。


 だから、攻撃的MFとして必要な能力を磨いてきた。


 それは、間違っていない。


 実際、今の俺は過去最高の攻撃的MFだと思う。


 でも。


 今日、俺はセンターバックとして試合に出た。


 そして、松田を止めることばかり考えていた。


 あれ?


 そういえば。


 今日の俺は、ボールを奪ったあと、何をしていた?


 ……。


 近くの味方へパスを出していた。


 安全なところへ。


 それから、すぐに守備位置へ戻っていた。


 いや。


 それ自体は、間違っていない。


 センターバックとしては、普通のプレーだ。


 でも。


 監督は、俺に普通のセンターバックをやらせたかったのか?


 どうして、わざわざ俺を使った?


 俺には、ほかにもできることがある。


 九回の人生をかけて磨いてきた能力がある。


 俺は、ノートに視線を落とした。


 パス。


 視野。


 判断力。


 試合を組み立てる能力。


 まさか。


 俺は、しばらくその文字を見つめていた。


 監督の言葉が、頭の中で繰り返される。


『何のために、お前をセンターバックで使ったのか考えろ』


 いや。


 まさかな。


 俺は、ノートを閉じた。


 そして、天井を見上げた。


 九回の人生で、一度も考えたことのない可能性。


 それが、今。


 目の前にあるのかもしれない。


 だとしたら。


 あの監督。


 最初から、そこまで考えていたのか?


 ……。


 いやいやいや。


 そんなわけないだろ。


 あのおっさん、ただのツンデレだぞ?


 ……本当に、そうか?

ほかにもサッカー小説を投稿しています。

この小説とはかなり読み味が違う作品ですが、よろしければご一読ください。


この街に、プロサッカークラブを。

~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~


https://ncode.syosetu.com/n2172mu/

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― 新着の感想 ―
CBにコンバートしても同じアテネ世代には闘莉王が居て、この頃はまだ宮本ボンバーが現役というか全盛期のはずだしで代表は茨の道というね。 まぁ、黄金の中盤全盛期のOMFよりは芽がありそうではある。
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