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10回ループするまでにサッカー日本代表にならないと人類滅亡ってそりゃないよ  作者: いとやん


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13/19

10回目 第5話 最後尾の司令塔

 ……分からん。


 いや。


 分かりそうな気はする。


 でも、分からん。


 昨日の夜から、ずっとこの調子だ。


 松田大輔を止めた。


 試合にも勝った。


 それなのに、監督からは不合格。


 しかも、理由は自分で考えろときた。


 あのおっさん。


 絶対、性格悪いだろ。


 いや、別に嫌いじゃないけどな。


 指導は的確だし、選手のこともよく見ている。


 ただ。


 もう少し言葉を尽くしてくれてもいいんじゃないか?


 こっちは人生が懸かってるんだぞ。


 ……正確には、人類の未来も懸かってるんだけど。


 まあ、それは監督には関係ないか。


     ◇


 翌朝。


 俺は、宿舎の食堂で朝食を食べながら、昨日の試合を思い返していた。


 松田の動きは、ほぼ予想どおりだった。


 何度か危ない場面もあったが、味方と連携して抑えることができた。


 最後はユニフォームを引っ張って止めたけどな。


 あれは仕方ない。


 あそこで抜かれたら、ほぼ確実に失点していた。


 イエローカード一枚で済んだなら安いものだ。


 ……いや。


 サッカー選手としては、あまり褒められたプレーじゃないけど。


 それでも、松田を止めたことには変わりない。


 じゃあ、何が足りなかった?


 昨日の夜、ノートを見ながら考えたことが頭をよぎる。


 パス。


 視野。


 判断力。


 試合を組み立てる能力。


 そうだよな。


 俺は、九回の人生でずっと攻撃的MFをやってきた。


 パスの精度を上げた。


 視野を広げた。


 相手の動きを読む能力を磨いた。


 味方を動かして、攻撃を組み立てる方法を研究した。


 それこそ、嫌になるほど。


 なのに昨日はどうだった?


 松田を止めることばかり考えて、ボールを奪ったあとは近くの味方へ預けるだけだった。


 待てよ。


 別に、センターバックが攻撃を組み立てちゃいけないなんて決まりはないよな?


 むしろ。


 後ろからなら、相手の守備の配置がよく見える。


 前線の動きも見える。


 味方の位置も分かる。


 あれ?


 ひょっとして。


 俺が九回の人生で磨いてきた能力。


 センターバックでも使えるんじゃないか?


 いや。


 それどころか。


 センターバックだからこそ、生かせる部分もある?


 ……まさか。


 あのおっさん。


 そこまで考えていたのか?


 俺は、食べかけのご飯を口に運んだ。


 そして、箸を置いた。


 よし。


 聞いてみよう。


 考えても分からないなら、本人に聞けばいい。


 ……昨日は「自分で考えろ」って言われたけど。


 一晩考えたんだから、もういいだろ。


     ◇


「監督!」


 朝食後、俺は監督を見つけて声をかけた。


「何だ?」


「昨日の不合格の理由なんですけど」


「ほう」


 監督は、いつものように腕を組んだ。


 そのポーズ、好きだな。


 ラーメン屋の店主か、お前は。


 腕、疲れないのか?


「俺をセンターバックにしたのは、後ろから攻撃を組み立てさせるためですか?」


 監督は、しばらく黙っていた。


 そして、少しだけ笑った。


「半分正解だ」


 半分!?


 いやいやいや。


 そこは正解でいいだろ!!


 九回の人生で磨いてきた能力を別のポジションで生かすという、なかなか画期的な発想なんですけど!?


 それで五十点!?


 採点厳しすぎない!?


「……残りの半分は何ですか?」


「お前、最初に雪かきしたときのことを覚えてるか?」


 雪かき?


 そりゃもちろん、今はもう雪はないが、三月は毎日のように雪かきをしていたもんだ。

 

 雪かきならもう日本代表クラスだと自負している。


「覚えてますけど……」


「お前、途中から周りの選手に指示を出してただろ」


「……はい」


「誰がどこを片付けるか。どうすれば早く終わるか。全体を見ながら動かしてたな」


 ああ。


 そういえば、そんなこともしたな。


 だって、あのままじゃ効率が悪かったんだよ。


 みんな適当に雪を運んでいたし。


 雪を捨てる場所もバラバラだったし。


 あれ?


 何で監督がそんなこと覚えてるんだ?


「昨日の試合もそうだ」


 監督は続けた。


「初めてのセンターバックだったくせに、隣の選手やサイドバックに指示を出してたな」


「……まあ、松田を止めるためには必要だったので」


「そうだ。必要だと思ったら、自然に周りを動かせる」


 あれ?


 これ、褒められてる?


 褒められてるよね?


 何だよ。


 普通に褒められるじゃないか。


 昨日までのツンは何だったんだ。


「お前は、周りの選手を使うのがうまい」


「ありがとうございます!」


「だが、攻撃的MFだと、自分の周りのプレー、つまり攻撃だけに意識が向きやすい」


 まあ、確かに。

 

 守備は基本守備陣に任せて攻撃することが仕事だもんな。


「センターバックなら、もっと広い範囲を見られる」


 監督は、俺を見た。


「守備の配置も、攻撃の始まりも、全部だ」


 ……。


「お前には、最後尾からチーム全体を動かしてほしい」


 ……。


 …………。


 おお。


 なるほど。


 つまり。


 俺をセンターバックにしたのは、守備がうまいからじゃない。


 パスがうまいからだけでもない。


 俺が周囲を動かして、試合を組み立てられるから。


 それを、もっと広い範囲でやらせたいということか。


 いや、待てぃ。


 それなら、最初からそう説明してくれればよかったんじゃないか?


 何で松田を止めろとか、止められなければ一年間試合に出さないとか言い出したんだ?


「……監督」


「何だ?」


「それなら、最初から説明してくれてもよかったんじゃないですか?」


「説明したら、お前はそのとおりにプレーしただろ」


「……はい?」


「俺は、お前が何も知らない状態で、どこまでできるか見たかったんだ」


 なるほど。


 そういうことか。


 確かに、最初から「周りを動かせ」と言われていたら、俺はその役割を意識してプレーしていただろう。


 でも昨日は、松田を止めることしか考えていなかった。


 それでも、自然に味方へ指示を出していた。


 つまり。


 監督は、俺の本来の能力を確かめたかったわけか。


 いや、待てぃ!


 それは分かった。


 分かったけど。


 一年間試合に出さないって脅す必要はあったか!?


 あれ、絶対いらなかっただろ!!


「まあ、そういうことだ」


 監督は、あっさり話を終わらせようとした。


 おい。


 逃げるな。


 まだ聞きたいことが山ほどあるぞ。


「監督!」


「何だ?」


「俺、センターバックとしてやっていけると思いますか?」


 監督は、少しだけ考えた。


「分からん」


「分からんのかい!!」


 あ、声に出して言っちゃった。


 監督に睨まれる。


「だが、可能性はある」


 監督は続けた。


「お前が攻撃的MFとして優秀なのは知っている。だが、センターバックとしての能力は、まだほとんどない」


 まあ、そうだよな。

 

 だってやったことないもん。


 昨日も最後は松田をファウルで止めたし。


「守備は一から覚えろ。特に一対一と空中戦だ」


「はい!」


「そのうえで、お前の得意なことをやれ」


 得意なこと、か。


 九回の人生で磨いてきた能力。


 それを、センターバックで生かす。


 面白い。


 面白いじゃないか。


「分かりました!」


 俺は、頭を下げた。


「ありがとうございます!」


 監督は、軽くうなずいた。


「今日もセンターバックで使うからな」


「はい!」


 俺、まだセンターバックの練習、まともにしてない。

 

 でもそんな俺でもやれることはある。


 味方を動かし、守備をする。


 そして同じように味方を動かし最後尾から攻撃を組み立てる。


 今日の試合もやってやるぜ!


     ◇


 試合が始まった。


 序盤、相手は積極的に前からプレスをかけてきた。


 こちらのセンターバックやボランチに対して、複数の選手が寄せてくる。


 ……うん。


 いいね。


 分かりやすい。


 相手が前に出てくるということは、その後ろにスペースができる。


 もちろん、簡単に使わせてくれるわけじゃない。


 でも。


 俺には、見えている。


「キーパー! こっち!」


 俺は、ゴールキーパーからボールを受けた。


 相手のFWが寄せてくる。


 ……来たな。


 俺は、右を見る。


 相手のFWも、右へのパスを警戒した。


 その瞬間。


 俺は、左足でボールを少し動かした。


 相手のFWが、一歩だけ反応する。


 ……よし。


 これで、中央へのパスコースが開いた。


 俺は、ボランチへ縦パスを通した。


「ナイス!」


 ボランチが前を向く。


 そこからサイドへ展開。


 相手の守備が横へ動く。


 いい感じだ。


 攻撃的MFのときと、やっていることは似ている。


 ただし。


 見える景色が違う。


 相手がどこへ寄せてくるのか。


 どこにスペースができるのか。


 前線の味方が、いつ走り出すのか。


 かなり、よく見える。


 いや。


 これは、思っていた以上だ。


     ◇


 前半二十分。


 相手の攻撃を防ぎ、俺の足元にボールが転がってきた。

 

 ボールをトラップする前に首を振り、周囲を確認する。


 いいところに来たな。


 相手の中盤が、かなり高い位置まで出ている。


 右サイドバックも、攻撃参加していた。


 その背後には、大きなスペースがある。


 そして。


 こちらのFWが、走り出そうとしていた。


 俺は、迷わず右足を振り抜いた。


 長いパス。


 ボールは、相手の守備ラインの背後へ正確に飛んでいく。


 ……よし。


 少しだけ右に曲がる。


 ちょうど、FWが走り込む位置だ。


「おおっ!」


 ベンチがざわめく。


 味方のFWが、相手DFの裏へ抜け出した。


 そのままゴールへ向かう。


 キーパーと一対一。


 ……決めろ!


 FWが、右足を振り抜いた。


 ゴール。


「よっしゃあああ!!」


 味方が歓声を上げた。


 俺も、思わず拳を握る。


 できた!


 いや。


 パスを出すこと自体は、何度もやってきた。


 こういうロングパスだって、九回の人生で散々練習している。


 でも。


 最後尾から、こんなふうにチャンスを作れるとは思わなかった。


 結構楽しいな。


 いや、かなり楽しい!!


 相手の攻撃を止めて、そのまま自分のパスで得点を生み出す。


 しかもパスコースは以前のポジションよりもはるかに多い。


 そこから最適なパスコースを選ぶのだ。


 センターバック、良いじゃないか!!


 そういえば令和の時代だとセンターバックにも組み立て能力が当たり前のように求められていたな。


 それの先駆けみたいなものか。


 ……令和、未来だけど何もかも懐かしい。


     ◇


 ……と。


 調子に乗ったのが、よくなかった。


 前半三十分。


 俺は、相手のパスをインターセプトした。


 前を見る。


 相手の中盤が、少し下がっている。


 俺は、ボールを前へ持ち出した。


 一人かわす。


 さらに前へ。


 ……よし。


 このまま中盤まで運んでやろう。


 そう思った瞬間。


 相手の選手が、横から飛び込んできた。


 ……っ!


 まずい!


 ボールを奪われた。


 俺が前に出たことで、後ろに大きなスペースができている。


 やばい。


 相手のFWが、そこへ走り込んだ。


 味方のセンターバックが、必死にカバーする。


 だが、間に合わない。


 ……くそっ!


 俺は、全力で戻った。


 相手がシュートを打つ。


 ゴールキーパーが、横っ飛びで弾いた。


 ボールは、ゴールの外へ。


 ……ふうううう。


 助かった。


 本当に助かった。


「おい!!」


 ベンチから、監督の怒鳴り声が飛んできた。


「お前が上がったあと、誰が後ろを守るんだ!!」


「はい!すみません!」


 ごもっともです。


 俺は相方のセンターバックとゴールキーパーにも謝罪する。


 こいつらいきなりセンターバック起用された俺のこと当たり前に受け入れてくれてる。

 

 こいつらと言ってしまったが先輩だ。

 

 ちゃんと感謝しないとな。

 

 ベンチには元センターバックのレギュラーだった先輩も俺を見ている。

 

 先輩たちのためにもセンターバックとして守備をちゃんとやらねば。


 しかし、センターバックの攻撃にはリスクがあるな。


 攻撃的MFのときなら、多少ボールを失っても、後ろに味方がいる。


 でも、センターバックは違う。


 自分のところで取られたら、そのまま失点につながる。


 なるほど。


 これは、気をつけないといけないな。


 ……いや。


 気をつけるどころじゃない。


 絶対にやっちゃいけないやつだ。


 ……。


 …………。


 危なかった。


 危うく、センターバック転向二試合目で戦犯になるところだった。


     ◇


 ハーフタイム。


 監督に、しっかり怒られた。


「お前、何を考えてた?」


「……すみません」


「ボールを運ぶのは構わん。だが、全体の状況を確認してからにしろ」


「はい」


「上がっていい時、上がったらダメな時をしっかり判断しろ」


「はい」


「お前が前へ出るなら、誰かがカバーしなきゃならんだろ」


「はい」


「それを考えずに突っ込むな」


「……はい」


 ……。


 …………。


 正論しか言わない。

 

 それでも以前よりもちゃんと監督が指導してくれている。

 

 これもちょっぴり嬉しいポイントだ。

 

 ツンデレにやられてしまったのかな、俺は。

 

 その後俺の代わりにベンチに下がっていた先輩センターバックからもセンターバックの動きについて教えてもらった。

 

 いいチームじゃないか。


 水を飲み、後半開始まで一息つく。


 ん、そういえば俺が出るときはカバーが必要って言ってたな。


 だったら。


 最初から、味方を動かしておけばいいんじゃないか?


 俺が前へ出る前に、ボランチを下げる。


 サイドバックの位置も調整する。


 相手がカウンターを仕掛けてきたとき、すぐに対応できるようにする。

 

 まぁ取られないのが第一なのだが、リスクを減らしておくのだ。


 ……。


 あれ?


 それって。


 まさに、監督が言っていたことじゃないか?


 周囲を動かす。


 チーム全体を動かす。


 なるほど。


 そういうことか。


 俺は、少しだけ笑った。


 よし。


 後半は、そこを意識してやってみよう。


     ◇


 後半。


 俺は、プレーの仕方を変えた。


 まず、守備ラインの位置を調整する。


「右、もう少し絞って!」


「おう!」


「ボランチ、少し下がって!」


「分かった!」


 相手の攻撃が始まる前に、危険な場所を消しておく。


 相手がボールを持つ。


 こちらの守備ラインが、少しずつ動く。


 うん。


 いい感じだ。


 相手のFWが、裏へ抜けようとする。


 だが、そこには味方のサイドバックがいる。


 パスコースがない。


 相手は、仕方なく横へパスを出した。


 ……よし。


 次は、左だな。


「左、寄せろ!」


 味方が動く。


 相手のパスが、少しずれた。


 そこへ、こちらのボランチが飛び込む。


 インターセプト。


 おお。


 いいね。


 こういうの。


 自分がボールを奪ったわけじゃない。


 でも、自分の指示で相手の攻撃を止められた。


 これ、なかなか気持ちいいな。


     ◇


 攻撃でも、同じだった。


 俺は、ボールを持つ前から味方の位置を確認する。


「右サイド、もっと開いて!」


「おう!」


「ボランチ、一度下がってこい!」


「分かった!」


 相手のFWが、俺に寄せてくる。


 ……よし。


 来たな。


 俺は、ボランチへ短いパスを出した。


 相手の中盤が、ボランチに寄せる。


 その瞬間。


「戻せ!」


 ボールが、俺のところへ戻ってくる。


 ほら。


 空いた。


 相手の中盤が前へ出たことで、その背後にスペースができている。


 俺は、そこへパスを通した。


 味方の攻撃的MFが、前を向く。


 そこから、右サイドへ展開。


 クロス。


 シュート。


 ……惜しい!


 ゴールにはならなかった。


 だが、完全に相手の守備を崩した。


 ……。


 …………。


 なるほど。


 こういうことか。


 俺が自分で前へ出なくても、味方を動かせば攻撃を組み立てられる。


 しかも。


 相手の攻撃を止める段階から、次の攻撃を考えられる。


 守備と攻撃が、つながっている。


 これまで、俺は攻撃的MFとして試合を組み立ててきた。


 もちろん、そのときも味方を動かしていた。


 でも。


 センターバックなら、もっと広い範囲を動かせる。


 守備ライン。


 中盤。


 前線。


 全部を見ながら、次のプレーを考えられる。


 何だ、これ。


 めちゃくちゃ面白いじゃないか!!


     ◇


 試合は、そのまま二対〇で終了した。


 俺は、後半も何度か危ない場面を作ってしまった。


 一対一で簡単に抜かれそうになったし。


 空中戦では、相手のFWに競り負けた。


 守備能力については、まだまだ課題だらけだ。


 まあ、仕方ない。


 昨日まで攻撃的MFだったんだから。


 これから練習すればいい。


 いや。


 練習しなければならない。


 何しろ、センターバックとして日本代表を目指すなら、守備が下手では話にならない。


 それにしても。


 センターバック、か。


 まさか、最後の人生でこんなことになるとはな。


     ◇


「おい」


 試合後、監督に呼ばれた。


「はい!」


「今日のプレーはどうだった?」


 また質問か。


 このおっさん、本当に自分で考えさせるのが好きだな。


 まあ、いい。


 今日は、ちゃんと答えられるぞ。


「味方を動かして守備、攻撃することは、ある程度できたと思います」


「ほう」


「でも、自分自身の守備はまだまだです。特に一対一と空中戦が駄目ですね」


 監督は、うなずいた。


「そうだな。お前の守備は、まだまだ下手くそだ」


 いや。


 もうちょっと言い方ない?


 自分でも分かってるけどさ。


 そんなにはっきり言わなくてもいいじゃないか。


「だが」


 監督は、続けた。


「今日のプレーは合格だ」


 おおっ!!


 合格!!


 やったぞ!!


 昨日は不合格。


 今日は合格。


 こうやって褒められるとうれしいな。


「ありがとうございます!」


 俺は、元気よく返事をした。


 すると、監督は続けた。


「ただし、センターバックとしては、まだスタートラインだぞ」


 はい。


 分かってます。


 ここで調子に乗ると、また怒られるんだろ?


「守備を一から鍛え直せ。特に一対一と空中戦だ」


「はい!」


「それができなければ、どれだけパスがうまくても使えない」


「はい!」


「それから、身体も作れ。今のままじゃ、上のカテゴリーでは通用しない」


「はい!」


「守備についてもお前の広い視野を活かせ。もっと早くから準備ができるはずだ」

 

「はい!」


 守備にも視野を活かすか、考えたことはなかった。


 ほかの指摘ももっともだ。


 九回の人生で、何度も思い知らされてきたことだ。


 技術だけでは、上には行けない。


 身体能力だけでも、上には行けない。


 どちらも必要なんだ。


 そして。


 センターバックには、今までとは別の能力が求められる。


 大変だな。


 でも。


 やってやろうじゃないか。


 俺には、もう後がないんだから。

 

 人類にも、な。


「ただお前には、普通のセンターバックになってほしいわけじゃない」


 監督は、俺を見た。


「守備も攻撃も、最後尾から動かせる選手になれ」


 最後尾から。


 守備も、攻撃も。


 チーム全体を動かす。


 ……。


 …………。


 なるほど。


 それが、監督の目指している俺の姿か。


 面白い。


 実に面白い。


「分かりました!」


 俺は、頭を下げた。


「絶対に、そうなってみせます!」


 監督は、少しだけ笑った。


「期待してるぞ」


 また言った。


 期待してる、か。


 何だよ。


 このおっさん。


 ちゃんと俺のこと、見てくれてたんじゃないか。


 いや。


 だったら、もっと早く褒めてくれよ!!


 やっぱりツンデレじゃねえか!!


     ◇


 その日の夜。


 俺は、寮の部屋でノートを開いた。


 九回の人生で積み重ねてきた記録。


 そこには、数え切れないほどの練習方法が書かれている。


 パス。


 シュート。


 トラップ。


 ドリブル。


 視野。


 判断力。


 身体の使い方。


 相手の動きを読む方法。


 味方を動かす方法。


 試合を組み立てる方法。


 ……。


 …………。


 九回の人生。


 俺は、ずっと攻撃的MFとして日本代表を目指してきた。


 俺は、ずっと思っていた。


 努力の質と量が足りなかったんだと。


 もっと練習すれば。


 もっと身体を鍛えれば。


 もっと技術を磨けば。


 いつか、届くはずだと。


 だから、九回の人生をかけて、同じポジションを極めようとしてきた。


 でも。


 ひょっとしたら。


 俺は、最初から間違えていたのかもしれない。


 ただ、努力が無駄だったわけじゃない。


 九回の人生で磨いてきた能力は、間違いなく今の俺の武器だ。


 それは、今日の試合で分かった。


 その武器を、どこで使うのか。


 それを活かす場所が分かった。


 俺は、ノートの新しいページを開いた。


 そして、ペンを握った。


 大きく、文字を書く。


『センターバック』


 ……。


 …………。


 うん。


 何だか、まだ違和感があるな。


 ずっと攻撃的MFだったからなあ。


 十番を背負って、攻撃を組み立てる。


 それが、俺のサッカーだった。


 でも。


 これからは、違う。


 最後尾から、チーム全体を動かす。


 守備を組み立てる。


 攻撃を組み立てる。


 試合を支配する。


 悪くない。


 いや。


 かなり、いい。


 俺は、ノートに新しい練習課題を書き加えた。


『一対一の守備』


『空中戦』


『守備ラインの統率』


『フィジカル強化』


『後方からの攻撃の組み立て』


『攻撃参加時のリスク管理』


『視野を守備に活かす』


 うわ。


 やること、多いな。


 いや、多すぎるだろ。


 九回の人生で、これだけ練習してきたのに。


 まだ、こんなにやることがあるのか。


 でも。


 不思議と、嫌な気分じゃなかった。


 むしろ、わくわくしている。


 九回の人生で、一度も本格的に目指さなかったポジション。


 そこに、自分の新しい可能性がある。

 

 伸びしろだらけだ。


 九回も失敗した。


 そして、これが十回目。


 最後の人生だ。


 次はない。


 失敗したら、人類は滅亡する。


 いや。


 改めて考えると、本当に理不尽だな。


 何で俺一人に人類の未来を背負わせるんだよ。


 クソ神様。


 お前、絶対に許さんからな。


 ……。


 でも。


 だからこそ。


 使えるものは、全部使う。


 九回分の経験も。


 今の身体も。


 青森田中高校の環境も。


 そして。


 あのツンデレ監督の指導も。


 全部、使ってやる。


 センターバック、か。


 まさか、十回目の人生でこんな道が見つかるとはな。


 俺は、ノートを閉じた。


 そして、天井を見上げた。


 日本代表。


 A代表。


 九回の人生で、どうしても届かなかった場所。


 そこへ行くための、新しい道。


 よし。


 決めた。


 俺は、センターバックになる。


 ただのセンターバックじゃない。


 最後尾から、試合を支配するセンターバックだ。



 待ってろよ、日本代表。


 今度こそ、絶対に選ばれてやる。


 そして。


 人類の未来を守ってやる。



ほかにもサッカー小説を投稿しています。

この小説とはかなり読み味が違う作品ですが、よろしければご一読ください。


この街に、プロサッカークラブを。

~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~


https://ncode.syosetu.com/n2172mu/

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ビルドアップ型CBとか時代の先取りしてますね。 アテネで最後尾からビルドアップができる人間がいれば小野伸二が中盤の底まで下がってくる機会が減ってより前目でプレイできるし、その点を評価されれば黄金の中盤…
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