10回目 第5話 最後尾の司令塔
……分からん。
いや。
分かりそうな気はする。
でも、分からん。
昨日の夜から、ずっとこの調子だ。
松田大輔を止めた。
試合にも勝った。
それなのに、監督からは不合格。
しかも、理由は自分で考えろときた。
あのおっさん。
絶対、性格悪いだろ。
いや、別に嫌いじゃないけどな。
指導は的確だし、選手のこともよく見ている。
ただ。
もう少し言葉を尽くしてくれてもいいんじゃないか?
こっちは人生が懸かってるんだぞ。
……正確には、人類の未来も懸かってるんだけど。
まあ、それは監督には関係ないか。
◇
翌朝。
俺は、宿舎の食堂で朝食を食べながら、昨日の試合を思い返していた。
松田の動きは、ほぼ予想どおりだった。
何度か危ない場面もあったが、味方と連携して抑えることができた。
最後はユニフォームを引っ張って止めたけどな。
あれは仕方ない。
あそこで抜かれたら、ほぼ確実に失点していた。
イエローカード一枚で済んだなら安いものだ。
……いや。
サッカー選手としては、あまり褒められたプレーじゃないけど。
それでも、松田を止めたことには変わりない。
じゃあ、何が足りなかった?
昨日の夜、ノートを見ながら考えたことが頭をよぎる。
パス。
視野。
判断力。
試合を組み立てる能力。
そうだよな。
俺は、九回の人生でずっと攻撃的MFをやってきた。
パスの精度を上げた。
視野を広げた。
相手の動きを読む能力を磨いた。
味方を動かして、攻撃を組み立てる方法を研究した。
それこそ、嫌になるほど。
なのに昨日はどうだった?
松田を止めることばかり考えて、ボールを奪ったあとは近くの味方へ預けるだけだった。
待てよ。
別に、センターバックが攻撃を組み立てちゃいけないなんて決まりはないよな?
むしろ。
後ろからなら、相手の守備の配置がよく見える。
前線の動きも見える。
味方の位置も分かる。
あれ?
ひょっとして。
俺が九回の人生で磨いてきた能力。
センターバックでも使えるんじゃないか?
いや。
それどころか。
センターバックだからこそ、生かせる部分もある?
……まさか。
あのおっさん。
そこまで考えていたのか?
俺は、食べかけのご飯を口に運んだ。
そして、箸を置いた。
よし。
聞いてみよう。
考えても分からないなら、本人に聞けばいい。
……昨日は「自分で考えろ」って言われたけど。
一晩考えたんだから、もういいだろ。
◇
「監督!」
朝食後、俺は監督を見つけて声をかけた。
「何だ?」
「昨日の不合格の理由なんですけど」
「ほう」
監督は、いつものように腕を組んだ。
そのポーズ、好きだな。
ラーメン屋の店主か、お前は。
腕、疲れないのか?
「俺をセンターバックにしたのは、後ろから攻撃を組み立てさせるためですか?」
監督は、しばらく黙っていた。
そして、少しだけ笑った。
「半分正解だ」
半分!?
いやいやいや。
そこは正解でいいだろ!!
九回の人生で磨いてきた能力を別のポジションで生かすという、なかなか画期的な発想なんですけど!?
それで五十点!?
採点厳しすぎない!?
「……残りの半分は何ですか?」
「お前、最初に雪かきしたときのことを覚えてるか?」
雪かき?
そりゃもちろん、今はもう雪はないが、三月は毎日のように雪かきをしていたもんだ。
雪かきならもう日本代表クラスだと自負している。
「覚えてますけど……」
「お前、途中から周りの選手に指示を出してただろ」
「……はい」
「誰がどこを片付けるか。どうすれば早く終わるか。全体を見ながら動かしてたな」
ああ。
そういえば、そんなこともしたな。
だって、あのままじゃ効率が悪かったんだよ。
みんな適当に雪を運んでいたし。
雪を捨てる場所もバラバラだったし。
あれ?
何で監督がそんなこと覚えてるんだ?
「昨日の試合もそうだ」
監督は続けた。
「初めてのセンターバックだったくせに、隣の選手やサイドバックに指示を出してたな」
「……まあ、松田を止めるためには必要だったので」
「そうだ。必要だと思ったら、自然に周りを動かせる」
あれ?
これ、褒められてる?
褒められてるよね?
何だよ。
普通に褒められるじゃないか。
昨日までのツンは何だったんだ。
「お前は、周りの選手を使うのがうまい」
「ありがとうございます!」
「だが、攻撃的MFだと、自分の周りのプレー、つまり攻撃だけに意識が向きやすい」
まあ、確かに。
守備は基本守備陣に任せて攻撃することが仕事だもんな。
「センターバックなら、もっと広い範囲を見られる」
監督は、俺を見た。
「守備の配置も、攻撃の始まりも、全部だ」
……。
「お前には、最後尾からチーム全体を動かしてほしい」
……。
…………。
おお。
なるほど。
つまり。
俺をセンターバックにしたのは、守備がうまいからじゃない。
パスがうまいからだけでもない。
俺が周囲を動かして、試合を組み立てられるから。
それを、もっと広い範囲でやらせたいということか。
いや、待てぃ。
それなら、最初からそう説明してくれればよかったんじゃないか?
何で松田を止めろとか、止められなければ一年間試合に出さないとか言い出したんだ?
「……監督」
「何だ?」
「それなら、最初から説明してくれてもよかったんじゃないですか?」
「説明したら、お前はそのとおりにプレーしただろ」
「……はい?」
「俺は、お前が何も知らない状態で、どこまでできるか見たかったんだ」
なるほど。
そういうことか。
確かに、最初から「周りを動かせ」と言われていたら、俺はその役割を意識してプレーしていただろう。
でも昨日は、松田を止めることしか考えていなかった。
それでも、自然に味方へ指示を出していた。
つまり。
監督は、俺の本来の能力を確かめたかったわけか。
いや、待てぃ!
それは分かった。
分かったけど。
一年間試合に出さないって脅す必要はあったか!?
あれ、絶対いらなかっただろ!!
「まあ、そういうことだ」
監督は、あっさり話を終わらせようとした。
おい。
逃げるな。
まだ聞きたいことが山ほどあるぞ。
「監督!」
「何だ?」
「俺、センターバックとしてやっていけると思いますか?」
監督は、少しだけ考えた。
「分からん」
「分からんのかい!!」
あ、声に出して言っちゃった。
監督に睨まれる。
「だが、可能性はある」
監督は続けた。
「お前が攻撃的MFとして優秀なのは知っている。だが、センターバックとしての能力は、まだほとんどない」
まあ、そうだよな。
だってやったことないもん。
昨日も最後は松田をファウルで止めたし。
「守備は一から覚えろ。特に一対一と空中戦だ」
「はい!」
「そのうえで、お前の得意なことをやれ」
得意なこと、か。
九回の人生で磨いてきた能力。
それを、センターバックで生かす。
面白い。
面白いじゃないか。
「分かりました!」
俺は、頭を下げた。
「ありがとうございます!」
監督は、軽くうなずいた。
「今日もセンターバックで使うからな」
「はい!」
俺、まだセンターバックの練習、まともにしてない。
でもそんな俺でもやれることはある。
味方を動かし、守備をする。
そして同じように味方を動かし最後尾から攻撃を組み立てる。
今日の試合もやってやるぜ!
◇
試合が始まった。
序盤、相手は積極的に前からプレスをかけてきた。
こちらのセンターバックやボランチに対して、複数の選手が寄せてくる。
……うん。
いいね。
分かりやすい。
相手が前に出てくるということは、その後ろにスペースができる。
もちろん、簡単に使わせてくれるわけじゃない。
でも。
俺には、見えている。
「キーパー! こっち!」
俺は、ゴールキーパーからボールを受けた。
相手のFWが寄せてくる。
……来たな。
俺は、右を見る。
相手のFWも、右へのパスを警戒した。
その瞬間。
俺は、左足でボールを少し動かした。
相手のFWが、一歩だけ反応する。
……よし。
これで、中央へのパスコースが開いた。
俺は、ボランチへ縦パスを通した。
「ナイス!」
ボランチが前を向く。
そこからサイドへ展開。
相手の守備が横へ動く。
いい感じだ。
攻撃的MFのときと、やっていることは似ている。
ただし。
見える景色が違う。
相手がどこへ寄せてくるのか。
どこにスペースができるのか。
前線の味方が、いつ走り出すのか。
かなり、よく見える。
いや。
これは、思っていた以上だ。
◇
前半二十分。
相手の攻撃を防ぎ、俺の足元にボールが転がってきた。
ボールをトラップする前に首を振り、周囲を確認する。
いいところに来たな。
相手の中盤が、かなり高い位置まで出ている。
右サイドバックも、攻撃参加していた。
その背後には、大きなスペースがある。
そして。
こちらのFWが、走り出そうとしていた。
俺は、迷わず右足を振り抜いた。
長いパス。
ボールは、相手の守備ラインの背後へ正確に飛んでいく。
……よし。
少しだけ右に曲がる。
ちょうど、FWが走り込む位置だ。
「おおっ!」
ベンチがざわめく。
味方のFWが、相手DFの裏へ抜け出した。
そのままゴールへ向かう。
キーパーと一対一。
……決めろ!
FWが、右足を振り抜いた。
ゴール。
「よっしゃあああ!!」
味方が歓声を上げた。
俺も、思わず拳を握る。
できた!
いや。
パスを出すこと自体は、何度もやってきた。
こういうロングパスだって、九回の人生で散々練習している。
でも。
最後尾から、こんなふうにチャンスを作れるとは思わなかった。
結構楽しいな。
いや、かなり楽しい!!
相手の攻撃を止めて、そのまま自分のパスで得点を生み出す。
しかもパスコースは以前のポジションよりもはるかに多い。
そこから最適なパスコースを選ぶのだ。
センターバック、良いじゃないか!!
そういえば令和の時代だとセンターバックにも組み立て能力が当たり前のように求められていたな。
それの先駆けみたいなものか。
……令和、未来だけど何もかも懐かしい。
◇
……と。
調子に乗ったのが、よくなかった。
前半三十分。
俺は、相手のパスをインターセプトした。
前を見る。
相手の中盤が、少し下がっている。
俺は、ボールを前へ持ち出した。
一人かわす。
さらに前へ。
……よし。
このまま中盤まで運んでやろう。
そう思った瞬間。
相手の選手が、横から飛び込んできた。
……っ!
まずい!
ボールを奪われた。
俺が前に出たことで、後ろに大きなスペースができている。
やばい。
相手のFWが、そこへ走り込んだ。
味方のセンターバックが、必死にカバーする。
だが、間に合わない。
……くそっ!
俺は、全力で戻った。
相手がシュートを打つ。
ゴールキーパーが、横っ飛びで弾いた。
ボールは、ゴールの外へ。
……ふうううう。
助かった。
本当に助かった。
「おい!!」
ベンチから、監督の怒鳴り声が飛んできた。
「お前が上がったあと、誰が後ろを守るんだ!!」
「はい!すみません!」
ごもっともです。
俺は相方のセンターバックとゴールキーパーにも謝罪する。
こいつらいきなりセンターバック起用された俺のこと当たり前に受け入れてくれてる。
こいつらと言ってしまったが先輩だ。
ちゃんと感謝しないとな。
ベンチには元センターバックのレギュラーだった先輩も俺を見ている。
先輩たちのためにもセンターバックとして守備をちゃんとやらねば。
しかし、センターバックの攻撃にはリスクがあるな。
攻撃的MFのときなら、多少ボールを失っても、後ろに味方がいる。
でも、センターバックは違う。
自分のところで取られたら、そのまま失点につながる。
なるほど。
これは、気をつけないといけないな。
……いや。
気をつけるどころじゃない。
絶対にやっちゃいけないやつだ。
……。
…………。
危なかった。
危うく、センターバック転向二試合目で戦犯になるところだった。
◇
ハーフタイム。
監督に、しっかり怒られた。
「お前、何を考えてた?」
「……すみません」
「ボールを運ぶのは構わん。だが、全体の状況を確認してからにしろ」
「はい」
「上がっていい時、上がったらダメな時をしっかり判断しろ」
「はい」
「お前が前へ出るなら、誰かがカバーしなきゃならんだろ」
「はい」
「それを考えずに突っ込むな」
「……はい」
……。
…………。
正論しか言わない。
それでも以前よりもちゃんと監督が指導してくれている。
これもちょっぴり嬉しいポイントだ。
ツンデレにやられてしまったのかな、俺は。
その後俺の代わりにベンチに下がっていた先輩センターバックからもセンターバックの動きについて教えてもらった。
いいチームじゃないか。
水を飲み、後半開始まで一息つく。
ん、そういえば俺が出るときはカバーが必要って言ってたな。
だったら。
最初から、味方を動かしておけばいいんじゃないか?
俺が前へ出る前に、ボランチを下げる。
サイドバックの位置も調整する。
相手がカウンターを仕掛けてきたとき、すぐに対応できるようにする。
まぁ取られないのが第一なのだが、リスクを減らしておくのだ。
……。
あれ?
それって。
まさに、監督が言っていたことじゃないか?
周囲を動かす。
チーム全体を動かす。
なるほど。
そういうことか。
俺は、少しだけ笑った。
よし。
後半は、そこを意識してやってみよう。
◇
後半。
俺は、プレーの仕方を変えた。
まず、守備ラインの位置を調整する。
「右、もう少し絞って!」
「おう!」
「ボランチ、少し下がって!」
「分かった!」
相手の攻撃が始まる前に、危険な場所を消しておく。
相手がボールを持つ。
こちらの守備ラインが、少しずつ動く。
うん。
いい感じだ。
相手のFWが、裏へ抜けようとする。
だが、そこには味方のサイドバックがいる。
パスコースがない。
相手は、仕方なく横へパスを出した。
……よし。
次は、左だな。
「左、寄せろ!」
味方が動く。
相手のパスが、少しずれた。
そこへ、こちらのボランチが飛び込む。
インターセプト。
おお。
いいね。
こういうの。
自分がボールを奪ったわけじゃない。
でも、自分の指示で相手の攻撃を止められた。
これ、なかなか気持ちいいな。
◇
攻撃でも、同じだった。
俺は、ボールを持つ前から味方の位置を確認する。
「右サイド、もっと開いて!」
「おう!」
「ボランチ、一度下がってこい!」
「分かった!」
相手のFWが、俺に寄せてくる。
……よし。
来たな。
俺は、ボランチへ短いパスを出した。
相手の中盤が、ボランチに寄せる。
その瞬間。
「戻せ!」
ボールが、俺のところへ戻ってくる。
ほら。
空いた。
相手の中盤が前へ出たことで、その背後にスペースができている。
俺は、そこへパスを通した。
味方の攻撃的MFが、前を向く。
そこから、右サイドへ展開。
クロス。
シュート。
……惜しい!
ゴールにはならなかった。
だが、完全に相手の守備を崩した。
……。
…………。
なるほど。
こういうことか。
俺が自分で前へ出なくても、味方を動かせば攻撃を組み立てられる。
しかも。
相手の攻撃を止める段階から、次の攻撃を考えられる。
守備と攻撃が、つながっている。
これまで、俺は攻撃的MFとして試合を組み立ててきた。
もちろん、そのときも味方を動かしていた。
でも。
センターバックなら、もっと広い範囲を動かせる。
守備ライン。
中盤。
前線。
全部を見ながら、次のプレーを考えられる。
何だ、これ。
めちゃくちゃ面白いじゃないか!!
◇
試合は、そのまま二対〇で終了した。
俺は、後半も何度か危ない場面を作ってしまった。
一対一で簡単に抜かれそうになったし。
空中戦では、相手のFWに競り負けた。
守備能力については、まだまだ課題だらけだ。
まあ、仕方ない。
昨日まで攻撃的MFだったんだから。
これから練習すればいい。
いや。
練習しなければならない。
何しろ、センターバックとして日本代表を目指すなら、守備が下手では話にならない。
それにしても。
センターバック、か。
まさか、最後の人生でこんなことになるとはな。
◇
「おい」
試合後、監督に呼ばれた。
「はい!」
「今日のプレーはどうだった?」
また質問か。
このおっさん、本当に自分で考えさせるのが好きだな。
まあ、いい。
今日は、ちゃんと答えられるぞ。
「味方を動かして守備、攻撃することは、ある程度できたと思います」
「ほう」
「でも、自分自身の守備はまだまだです。特に一対一と空中戦が駄目ですね」
監督は、うなずいた。
「そうだな。お前の守備は、まだまだ下手くそだ」
いや。
もうちょっと言い方ない?
自分でも分かってるけどさ。
そんなにはっきり言わなくてもいいじゃないか。
「だが」
監督は、続けた。
「今日のプレーは合格だ」
おおっ!!
合格!!
やったぞ!!
昨日は不合格。
今日は合格。
こうやって褒められるとうれしいな。
「ありがとうございます!」
俺は、元気よく返事をした。
すると、監督は続けた。
「ただし、センターバックとしては、まだスタートラインだぞ」
はい。
分かってます。
ここで調子に乗ると、また怒られるんだろ?
「守備を一から鍛え直せ。特に一対一と空中戦だ」
「はい!」
「それができなければ、どれだけパスがうまくても使えない」
「はい!」
「それから、身体も作れ。今のままじゃ、上のカテゴリーでは通用しない」
「はい!」
「守備についてもお前の広い視野を活かせ。もっと早くから準備ができるはずだ」
「はい!」
守備にも視野を活かすか、考えたことはなかった。
ほかの指摘ももっともだ。
九回の人生で、何度も思い知らされてきたことだ。
技術だけでは、上には行けない。
身体能力だけでも、上には行けない。
どちらも必要なんだ。
そして。
センターバックには、今までとは別の能力が求められる。
大変だな。
でも。
やってやろうじゃないか。
俺には、もう後がないんだから。
人類にも、な。
「ただお前には、普通のセンターバックになってほしいわけじゃない」
監督は、俺を見た。
「守備も攻撃も、最後尾から動かせる選手になれ」
最後尾から。
守備も、攻撃も。
チーム全体を動かす。
……。
…………。
なるほど。
それが、監督の目指している俺の姿か。
面白い。
実に面白い。
「分かりました!」
俺は、頭を下げた。
「絶対に、そうなってみせます!」
監督は、少しだけ笑った。
「期待してるぞ」
また言った。
期待してる、か。
何だよ。
このおっさん。
ちゃんと俺のこと、見てくれてたんじゃないか。
いや。
だったら、もっと早く褒めてくれよ!!
やっぱりツンデレじゃねえか!!
◇
その日の夜。
俺は、寮の部屋でノートを開いた。
九回の人生で積み重ねてきた記録。
そこには、数え切れないほどの練習方法が書かれている。
パス。
シュート。
トラップ。
ドリブル。
視野。
判断力。
身体の使い方。
相手の動きを読む方法。
味方を動かす方法。
試合を組み立てる方法。
……。
…………。
九回の人生。
俺は、ずっと攻撃的MFとして日本代表を目指してきた。
俺は、ずっと思っていた。
努力の質と量が足りなかったんだと。
もっと練習すれば。
もっと身体を鍛えれば。
もっと技術を磨けば。
いつか、届くはずだと。
だから、九回の人生をかけて、同じポジションを極めようとしてきた。
でも。
ひょっとしたら。
俺は、最初から間違えていたのかもしれない。
ただ、努力が無駄だったわけじゃない。
九回の人生で磨いてきた能力は、間違いなく今の俺の武器だ。
それは、今日の試合で分かった。
その武器を、どこで使うのか。
それを活かす場所が分かった。
俺は、ノートの新しいページを開いた。
そして、ペンを握った。
大きく、文字を書く。
『センターバック』
……。
…………。
うん。
何だか、まだ違和感があるな。
ずっと攻撃的MFだったからなあ。
十番を背負って、攻撃を組み立てる。
それが、俺のサッカーだった。
でも。
これからは、違う。
最後尾から、チーム全体を動かす。
守備を組み立てる。
攻撃を組み立てる。
試合を支配する。
悪くない。
いや。
かなり、いい。
俺は、ノートに新しい練習課題を書き加えた。
『一対一の守備』
『空中戦』
『守備ラインの統率』
『フィジカル強化』
『後方からの攻撃の組み立て』
『攻撃参加時のリスク管理』
『視野を守備に活かす』
うわ。
やること、多いな。
いや、多すぎるだろ。
九回の人生で、これだけ練習してきたのに。
まだ、こんなにやることがあるのか。
でも。
不思議と、嫌な気分じゃなかった。
むしろ、わくわくしている。
九回の人生で、一度も本格的に目指さなかったポジション。
そこに、自分の新しい可能性がある。
伸びしろだらけだ。
九回も失敗した。
そして、これが十回目。
最後の人生だ。
次はない。
失敗したら、人類は滅亡する。
いや。
改めて考えると、本当に理不尽だな。
何で俺一人に人類の未来を背負わせるんだよ。
クソ神様。
お前、絶対に許さんからな。
……。
でも。
だからこそ。
使えるものは、全部使う。
九回分の経験も。
今の身体も。
青森田中高校の環境も。
そして。
あのツンデレ監督の指導も。
全部、使ってやる。
センターバック、か。
まさか、十回目の人生でこんな道が見つかるとはな。
俺は、ノートを閉じた。
そして、天井を見上げた。
日本代表。
A代表。
九回の人生で、どうしても届かなかった場所。
そこへ行くための、新しい道。
よし。
決めた。
俺は、センターバックになる。
ただのセンターバックじゃない。
最後尾から、試合を支配するセンターバックだ。
待ってろよ、日本代表。
今度こそ、絶対に選ばれてやる。
そして。
人類の未来を守ってやる。
ほかにもサッカー小説を投稿しています。
この小説とはかなり読み味が違う作品ですが、よろしければご一読ください。
この街に、プロサッカークラブを。
~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~
https://ncode.syosetu.com/n2172mu/




