5回目
五回目の人生が始まった。
はい、いつもの五歳です。
もう、この天井を見るのも五回目か。
実家なのに、何だか久しぶりに帰省したような気分だ。
……いや、帰省どころか人生そのものが帰ってきてるんだけどな。
さて。
今回の目標は明確だ。
プロで活躍する。
四回目で、ようやくプロ契約を勝ち取った。
だが、二部のクラブでも通用せず、二十三歳で契約満了。
プロになるだけでは駄目だった。
プロの中で、生き残らなければならない。
そのために必要なのは、武器だ。
試合の流れを読む力。
味方を生かすパス。
そして、プロの試合速度に対応できる基礎技術。
今回は、この三つを徹底的に鍛える。
もちろん、身体づくりも手を抜かない。
三回目で学んだ知識と、四回目で得た経験。
全部、使ってやる。
……いやあ。
五回目ともなると、さすがに蓄積したものが多いな。
これだけの経験があれば、普通は名選手になれそうなものだが。
現実は、なかなか厳しい。
◇
今回も、育成環境はこれまでと同じだ。
実家の経済状況を改善し、必要な指導を受ける。
そして、横浜マリナーズのジュニアユースに入団した。
ただし、練習内容は大きく変えた。
これまでは、身体能力や個人技術を伸ばすことに重点を置いていた。
今回は、それに加えて、常に周囲を見ることを意識した。
ボールを受ける前に、味方と相手の位置を確認する。
どこにスペースができそうか。
誰が、どこへ走り出しそうか。
そして、そこへ正確にパスを出す。
最初は、なかなかうまくいかなかった。
見えていても、パスがずれる。
パスが正確でも、タイミングが遅い。
タイミングが合っても、相手に読まれる。
……難しいな、おい。
でも、これまでとは違う。
何を伸ばせばいいのか、はっきりしている。
それだけで、練習の意味が変わってきた。
◇
そんなある日、ふと気づいたことがあった。
……あれ?
この日の天気、前回も同じじゃなかったか?
ノートを確認してみる。
一回目から四回目までの練習記録。
日付と天候、気温。
記録が残っている日を比べると、すべて一致していた。
……マジか。
天気も気温も、毎回同じなのかよ!
つまり、俺は未来の天気を知っていることになる。
猛暑の日は練習強度を抑え、涼しい日に負荷を高める。
雨の日を見越して、練習内容を調整する。
長期的なトレーニング計画を立てるうえでは、かなり便利だ。
……いや、待て。
これ、五回目にして初めて気づいたのか?
もっと早く気がつけよ、俺のバカ〜!
まあ、いい。
ようやく手に入れた、ちょっとしたループの恩恵だ。
ありがたく使わせてもらおう。
……できれば、もう少し派手な特典が欲しかったけどな。
◇
ジュニアユースからユースへ。
今回も、順調に昇格した。
だが、プレーの内容は四回目までとは違っていた。
自分で無理に突破しなくても、味方を動かせる。
一本のパスで、攻撃の流れを変えられる。
もちろん、すべてがうまくいくわけではない。
それでも、以前より明らかにプレーの幅が広がっていた。
年代別日本代表にも選ばれた。
そして、ユース卒業を前に、プロ契約の話が届いた。
……よし!
今回は、最初からプロになれそうだ。
しかも、前回より評価が高い。
とはいえ、横浜マリナーズのトップチームに昇格できるほどではなかった。
……うーん。
やっぱり、壁は高いな。
何しろ同じポジションにはあの中邑俊輔がいるしな。
まあ、いい。
今度こそ、プロで結果を出せばいいんだ。
俺は、二部のクラブと二度目のプロ契約を結んだ。
今回は期待しておいてくれ。
◇
プロ一年目。
当然ながら、簡単には試合に出られなかった。
……はい、知ってます。
前回、嫌というほど経験しました。
だが、今回は準備が違う。
プロの選手がどれだけ速く寄せてくるのか。
どれだけ判断する時間が短いのか。
それを知ったうえで、練習を積んできた。
だから、以前ほど慌てなくなった。
ボールを受ける前に、次のプレーを考えておく。
相手が寄せてくる前に、パスを出す。
無理に突破せず、味方を使う。
そうしたプレーが、少しずつ評価され始めた。
最初は、試合終盤の途中出場。
次に、カップ戦での先発。
そして、リーグ戦でも出場機会が増えていった。
プロ二年目。
俺は、ついにレギュラーの座をつかんだ。
……やった。
やったぞ!
今度こそ、本当にプロで通用した!
前回は、ベンチに座っている時間の方が長かった。
それが今回は、試合開始からピッチに立っている。
しかも、ちゃんと戦力として期待されている。
……いやあ。
先発メンバーの発表に自分の名前があるって、こんなに嬉しいものなんだな。
百年近くサッカー人生を繰り返して、ようやくここまで来た。
長い。
長すぎる。
普通なら、とっくに引退して指導者になって墓場に入っている年数だぞ!
でも、嬉しかった。
自分の積み重ねてきたものが、初めてプロの世界で形になったのだから。
◇
それから数年。
俺は、二部クラブのレギュラーとしてプレーを続けた。
出場試合数も増え、アシストも記録した。
チームの中では、それなりに頼られる存在になったと思う。
……うん。
悪くない。
いや、かなりいい。
少なくとも、四回目の俺が見たら泣いて喜ぶだろう。
だが、問題があった。
日本代表が、まったく近づいてこない。
当然だ。
二部でレギュラーになっただけで、日本代表に選ばれるほど甘い世界ではない。
一部のクラブからも、なかなか声がかからなかった。
俺のパスは、確かに武器になり始めていた。
だが、相手の守備が整っていると、思うようにチャンスを作れない。
味方が動いてくれなければ、出しどころがない。
相手にパスコースを消されると、攻撃を前に進められない。
そして、強い相手ほど、その対応が速かった。
……結局、まだ足りないんだな。
プロで生き残れるようにはなった。
でも、日本代表に選ばれる選手にはなれていない。
その差は、どこにあるんだろう。
◇
俺は、これまで以上に試合映像を見るようになった。
自分の試合だけではない。
一部の試合。
日本代表の試合。
海外のトップ選手のプレー。
特に、中盤で試合を組み立てる選手たちを重点的に見た。
……何で、そこにパスを出せるんだ?
俺には、まだ見えていない場所へ、平然とボールを送っている。
しかも、相手が寄せてくる前に。
最初は、パスの技術が違うのだと思った。
だが、何度も映像を見返しているうちに、別のことに気づいた。
上手い選手は、ボールを受ける前から何度も周囲を見ている。
首を振って、相手の位置を確認している。
そして、相手が動く前から、次の展開を予測している。
……ああ。
そういうことか。
俺は、ボールを受ける前に周囲を見るよう意識していた。
でも、それだけじゃ足りない。
一度見ただけでは、相手も味方も動いてしまう。
状況は、常に変わる。
その変化を把握し続けなければならない。
さらに、相手が次にどう動くかまで予測する必要がある。
そして、迷わず判断する。
……なるほど。
パスがうまいだけじゃ、駄目なのか。
そのパスを出すための情報を、誰よりも早く集めて、処理する。
それが必要なんだ。
俺は、ノートに新しい課題を書き込んだ。
周囲の状況把握。
相手の動きの予測。
判断速度。
次は、この三つだ。
◇
そして、五回目の三十歳が近づいてきた。
今回の人生では、最後までプロとしてプレーを続けることができた。
日本代表には届かなかった。
だが、初めてプロの世界に居場所を作れた人生だった。
俺は、ノートを開いた。
【ノートの最終記録】
挑戦回数:五回目
最終到達点:二部クラブのレギュラー選手。
プロ入り:達成。
日本代表A代表:未達成。
主な敗因:パスを武器として一定の成果を上げたものの、強い相手に対して安定してチャンスを作ることができなかった。状況把握と判断速度に課題。
今回の成果:プロでレギュラーに定着。試合の流れを読む力とパス能力が向上。ループごとに天候と気温が一致することを発見し、練習計画に活用。
次回の方針:周囲の状況把握、相手の動きの予測、判断速度を重点的に強化する。
残り挑戦回数:五回。
……。
…………。
五回目、終了。
ついに半分か。
ここまで来るのに、どれだけ時間がかかったんだろう。
まあ、数えるのはやめておこう。
悲しくなるだけだ。
それでも、少しずつ前には進んでいる。
一回目は、プロにすらなれなかった。
二回目も、駄目だった。
三回目は、怪我で終了。
四回目で、ようやくプロ入り。
そして五回目で、プロのレギュラー。
……うん。
ちゃんと成長してるじゃないか、俺。
あとは、日本代表まで登り詰めるだけだ。
……その「あとは」が、とんでもなく遠いんだけどな。
俺は、ノートを閉じた。
次は六回目。
今度こそ、もっと上へ行く。
そう決意したところで、視界が白く染まり始めた。
……さて、クソ神様。
折り返し地点まで来ましたよ。
そろそろ、クリア特典の一つくらい用意してくれてもいいんじゃないですかね?
もちろん、返事はなかった。
ほかにもサッカー小説を投稿しています。
この小説とはかなり読み味が違う作品ですが、よろしければご一読ください。
この街に、プロサッカークラブを。
~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~
https://ncode.syosetu.com/n2172mu/




