2回目
目を覚ますと、五歳だった。
目を覚ました瞬間ファンファーレが鳴り響き、「一回目で努力した内容に応じて能力値にボーナスが付きます」とアナウンスされ、俺の無双が始まる……なんてことは無く普通に始まった。
……うん。
知ってた。
いや、実際に戻ると、一回目の世界はどうなったんだ?世界ごと舞い戻っているのかな?
気にしてもしょうがない。
とりあえず、ノートを開いてみる。
一回目の人生で書いた記録は、全部残っていた。
よし、クソ神様だが嘘はついてないみたいだ。
これなら、次も戦える。
ちなみに、試しにボールを蹴ってみたところ、見事にへなちょこなキックが飛んでいった。
……二十五年分の練習成果は?
まあ、身体が五歳に戻っているんだから、当然か。
知識と経験は残っていても、筋肉も技術も最初から。
人生の引き継ぎ要素、もうちょっと何とかならなかったんですかね、神様。
次回からは強くてニューゲームを実装宜しくです。
◇
二回目の人生では、まず環境を整えることにした。
前回の反省から、幼い頃から高いレベルで練習する必要があると考えたのだ。
そのために必要なのは、金。
世の中ゼニなんや!
まあ、いろいろあって実家の経済状況は大幅に改善した。改善と言うか大金持ちだ。
親に信用してもらったり結構大変だったが、今では俺の言うことはほぼ信じてもらえるようになった。
未来の知識って、こういうときは本当に便利だな。
おかげで個人レッスンを受けることもできたし、遠征にも不自由しなくなった。
そして、小学校を卒業する頃。
俺は、横浜にあるプロクラブのジュニアユースのセレクションを受けた。
横浜マリナーズ。
プロでも有名な強豪クラブだ。
このクラブを選んだ理由は、単純だった。
前回の人生で調べたところ、ここから何人もの日本代表選手が育っていたからだ。
将来プロになる選手たちと、子供の頃から一緒に練習できる。
同じクラブには石河直宏や、田井中隼磨、坂本大輔など後に日本代表にも選出された選手もいる。
これ以上ない環境だろう。
そして、無事に合格。
俺の二回目の挑戦が、本格的に始まった。
◇
ジュニアユースに入って、最初に感じたのはレベルの高さだった。
いや、分かってはいたんだ。
分かっていたけど、やっぱりすごい。
周りには、将来プロになる選手が普通にいる。
足が速い。
ボールテクニックがすごい。
判断が速い。
そして、何より負けず嫌い。
練習から全員が本気だった。
キミたち、本当に人生一回目だろうね?
一回目の人生では、高校生になって初めて味わった感覚。
それ以上の感覚を、中学生の頃から毎日経験できる。
……これだよ、これ。
俺が求めていたのは、こういう環境だ。
もちろん、簡単に無双できるわけではなかった。
だが、俺には一回目の人生で得た経験がある。
何を練習すべきか。
どこを改善すべきか。
自分の弱点は何か。
それを理解しているだけでも、ずいぶん違った。
練習についていくだけで精いっぱいだった時期を乗り越え、少しずつ試合に出る機会も増えていった。
そして、三年間の努力が実を結ぶ。
俺は、ユースへの昇格を勝ち取った。
よし!
一回目の人生より、確実に前進している。
◇
ユースに上がってからも、厳しい競争は続いた。
特に印象に残っているのが、一学年上の先輩だった。
石河直宏。
とにかく速い。
ドリブルで仕掛けたかと思えば、一気に相手を置き去りにする。
分かっていても、実際に目の前で見るとすごい。スピードに関しては今までで一番かもしれない。
それだけじゃない。
同学年の後にプロになる選手たちも当然ユースには昇格していた。
俺は、そんな連中と毎日競い合った。
負けて、考えて、練習して。
また負けて、また考えて。
その繰り返しだった。
そして、ついに。
年代別日本代表の候補に名前が挙がった。
さらに、代表の合宿にも呼ばれ、試合にも出場することができた。
……日本代表。
アンダー世代とはいえ、日本代表だ。
あの神様から言われた条件は、三十歳までにA代表に選ばれること。
だから、これではまだ達成にならない。
だが。
一回目の人生では、候補にすら入れなかった場所だ。
俺は、確実に前へ進んでいる。
……今度こそ、いけるんじゃないか?
そんな期待が、胸の中で大きくなっていった。
◇
だが、現実は甘くなかった。
ユース三年生。
トップチームへの昇格が決まる時期になった。
同じチームで練習してきた仲間たちの中から、プロ契約を勝ち取る選手が現れ始めた。
俺も、当然そこを目指していた。
年代別代表にも選ばれた。
試合でも結果を残した。
一回目とは比べものにならないほど、成長したはずだ。
しかし、俺はプロ契約を勝ち取ることは出来なかった。
……え?
何で?
コーチに詰め寄った。
今まで逆らうことなくお利口さんにしていた俺の鬼気迫る迫力にコーチもタジタジで答えてくれた。
これも人類のためだ、許せ。
……
……なるほど。
技術も、身体能力も、判断力も。
俺は一定のレベルには達しているとのことだ。
だが、突出した武器がなかった。
石河先輩のようなスピードもない。
他の選手のような決定力もない。
チームの中で役割は果たせても、プロの世界で勝負できる強みが見えない。
……また、それか。
一回目の人生でも言われたことだ。
環境を変えた。
練習方法も変えた。
前よりずっと高いレベルに到達した。
それでも、最後に立ちはだかったのは同じ壁だった。
俺は、プロになれなかった。
◇
その後、大学へ進学してサッカーを続けた。
プロ入りの可能性を完全に捨てたわけではない。
だが、結局チャンスは訪れなかった……
今回の人生で分かったことは、大きい。
高いレベルの環境に身を置くことは、間違いなく正しかった。
実際、一回目よりずっと上まで行けた。
だが、それだけでは足りない。
周囲と同じように練習しているだけでは、周囲と同じくらいの選手にしかなれない。
だが、自分だけの武器についてはまだ明確な答えを持っていなかった。
こればっかりは自分で見つけるしかないんだろう。
答えは分からないが質の高い練習と、圧倒的な練習量の中で見つけるしかない。
また、身体づくりについても、今回は前回よりも身長が低くなった。スピードについてはやや速くなったが……
おそらく早くから筋トレをしすぎたのが原因だろう。
サッカーは身長が全てではないが高い方が有利な局面もあることは確かだ。
身体づくりについても今まで以上に厳密になる必要がある。ただ身体づくりについては完全な正解が何か分からない。
ここはトライアンドエラーで繰り返して最適解を導くしかないだろう。
何回もトライできる利点を活かすのだ。
次こそは、プロになる。
俺は、そう決めた。
◇
そして、二回目の三十歳が近づいてきた。
例のノートを開く。
今回も、ずいぶん書き込んだ。
一回目と合わせれば、五十年近いサッカー人生だ。
……いや、長いな。
まだ二回目だぞ?
五十年やってる割には精神的にはまるで成長していない気がする。いや、確実にクソ神様のせいでストレス耐性は付いている気がするが。
あと八回もあるのか。
俺は、新しいページに最後の記録を書き込んだ。
【ノートの最終記録】
挑戦回数:二回目
最終到達点:プロクラブのユース所属。年代別日本代表に選出。
プロ入り:失敗。
日本代表A代表:未達成。
主な敗因:高いレベルの育成環境で成長したものの、プロで通用する突出した武器を身につけられなかった。
身体づくりも改善の余地あり。
次回の方針:育成環境は維持。練習量とトレーニング強度をさらに高め、個人能力を徹底的に伸ばす。
残り挑戦回数:八回。
……。
…………。
二回やって、まだプロにもなれていない。
しかも、次はさらに練習するつもりだ。
俺、何回ボールを蹴ればいいんだろうな。
まあ、いい。
今度こそ。
次こそは。
そう考えたところで、視界が白く染まり始めた。
……ああ、またか。
俺は目を閉じた。
三回目の人生では、絶対にプロになってやる。
そう誓いながら、二回目の人生を終えた。
ほかにもサッカー小説を投稿しています。
この小説とはかなり読み味が違う作品ですが、よろしければご一読ください。
この街に、プロサッカークラブを。
~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~
https://ncode.syosetu.com/n2172mu/




