10回目 第10話 夢の舞台へ
高円宮杯で横浜マリナーズU18を破った俺たちは、その勢いのまま冬の全国高校サッカー選手権も制した。
インターハイ。
高円宮杯。
そして、全国高校サッカー選手権。
高校三冠。
青森田中高校は、高校年代の頂点に立った。
いやあ、強かったな、俺たち。
もちろん、俺がいたからというのも大きいだろう。
……うん。
少しくらい自慢してもいいじゃないか。
何しろ三冠だぞ、三冠。
高校サッカー生活の最後を飾るには、これ以上ない結果だ。
選手権の決勝戦が終わったあと、俺たちは監督のところへ向かった。
「監督! 三冠ですよ、三冠!」
「見りゃ分かる」
「いやあ、素晴らしいですね!」
「浮かれるな。まだお前らのサッカー人生は続くんだぞ」
……おい。
最後くらい、素直に褒めてくれてもいいんじゃないか?
「もう卒業なんですから、少しくらい優しくしてくださいよ」
「十分優しくしてるだろうが」
どこがだよ。
思わず口に出しそうになったが、やめておいた。
最後の最後に怒鳴られるのも、何だか悔しい。
すると、監督が俺の肩を叩いた。
「お前をセンターバックにして、正解だったな」
俺は、思わず監督を見た。
……なんだよ。
今さら、そんなこと言うのかよ。
「最初は、何考えてるんだって思いましたけどね」
「知ってる」
「知ってたんですか?」
「顔に書いてあったからな」
監督は、少しだけ笑った。
「だが、お前はよくやった。胸を張って卒業しろ」
……まったく。
最後の最後で、そんなことを言うなよ。
俺は、少しだけ顔をそらした。
「ありがとうございました!」
頭を下げる。
この三年間。
本当に、いろいろあった。
センターバックへの転向。
慣れない守備の練習。
身体づくり。
仲間との衝突。
勝利と敗北。
だが、今なら言える。
青森田中へ来て、本当によかった。
◇
高校卒業を控えたある日。
俺のもとに、一通の知らせが届いた。
U-18日本代表への招集。
……おお。
ついに来たか。
高校年代でこれだけ活躍したんだから、呼ばれても不思議じゃない。
とはいえ、やっぱり嬉しいものだ。
何しろ、日本代表だ。
年代別とはいえ、日の丸を背負って戦える。
俺は、さっそく代表合宿へ向かった。
そして、合宿所に到着すると。
「おーい!!」
聞き覚えのある声がした。
振り向くまでもない。
神だ。
神誠一郎が、満面の笑みでこちらへ走ってきた。
「また一緒にサッカーできるね!」
「そうだな」
「嬉しいなあ!」
……まったく。
相変わらず、こいつは素直だ。
「いや、俺としてはA代表で再会する方がかっこよかったんだがな」
「えー、何で?」
「何でって……ほら、あの約束を果たした感じがするだろ?」
「でも、僕は早く一緒にやりたかったよ!」
神は、何の迷いもなくそう言った。
……おいおい。
そんなこと言われたら、こっちも嬉しくなるじゃないか。
「まあ、俺もだ」
「だよね!」
「おう、次のワールドユースでは優勝するぞ!」
「やろう!」
俺たちは笑った。
青森田中とマリナーズ。
高校年代では敵同士だった。
だが、今は同じユニフォームを着ている。
不思議なものだ。
ついこの間まで、あれだけ必死に止めようとしていた神が、今度は味方になる。
……いやあ。
これは楽だな。
あいつを止めなくていいんだから。
むしろ、俺が神へパスを出せばいい。
何て素晴らしいんだ。
日本代表、最高じゃないか。
◇
さて。
高校を卒業する俺には、もう一つ大きな問題があった。
進路だ。
ありがたいことに、多くのクラブからオファーが届いていた。
高校三冠を達成したチームのセンターバック。
しかも、U-18日本代表。
まあ、当然と言えば当然だろう。
……うん。
少しくらい調子に乗らせてくれ。
何しろ、九回の人生でこんなに注目されたことはなかったんだから。
オファーの中には、Jリーグの有力クラブもあった。
そして。
横浜マリナーズ。
……ほう。
マリナーズさんですか。
俺をU18に昇格させなかった、あのマリナーズさんですか。
今度はトップチームへ来てほしいと。
いやあ。
実にありがたい話だ。
もちろん。
丁重に中指を立てて、お断りした。
……心の中でな。
さすがに本当にやったら、いろいろ問題になる。
俺だって、そこまで子供じゃない。
本当は「ざまぁ~~~~! ねぇ、今どんな気持ち? どんな気持ち?」くらいは煽ってみたいがグッと我慢だ。
そんな中。
一つのオファーが、俺の目を引いた。
オランダの名門クラブ。
国内リーグでも上位を争い、ヨーロッパの舞台でも戦う強豪だ。
しかも、驚いたことに。
あの小田さんも、同じタイミングでそのクラブへ移籍するという。
小田さん。
過去の人生では一緒にオリンピックでプレイしたあの選手だ。
あの人と、また同じチームでプレーできる。
正直、それだけでも心が動いた。
だが、海外移籍には当然リスクがある。
言葉も違う。
文化も違う。
日本で通用したプレーが、海外でも通用するとは限らない。
まして、俺はまだ十八歳。
身体も、これからさらに鍛えなければならない。
国内で経験を積んでから海外へ行くという選択肢もある。
その方が、確実かもしれない。
……確実。
俺は、その言葉を頭の中で繰り返した。
九回の人生。
俺は何度も選択してきた。
成功しそうな道。
失敗しにくい道。
周囲から勧められた道。
もちろん、それが間違いだったわけじゃない。
だが。
その結果、俺は一度もA代表へ届かなかった。
十回目。
最後の人生。
同じことを繰り返している場合じゃない。
俺は、オランダ行きを決めた。
どうせ挑戦するなら、思い切りやってやろうじゃないか。
◇
オランダへ渡った俺を待っていたのは、想像以上に厳しい毎日だった。
まず、言葉が分からない。
いや、正確には少しは分かる。
九回の人生で、英語くらいはそれなりに勉強してきた。
だが、オランダ語は別だ。
監督が何か叫んでいる。
コーチも何か叫んでいる。
チームメイトも何か叫んでいる。
……おい。
誰か通訳してくれ。
しかも、選手たちは大きい。
速い。
強い。
高校時代は、それなりに身体を鍛えたつもりだった。
だが、こっちではまだまだだ。
競り合いで吹き飛ばされることもある。
パスを出そうとした瞬間に、相手が詰めてくることもある。
九回の人生で培った経験があっても、身体がついてこなければどうしようもない。
悔しい。
だが。
面白い。
俺の知らないサッカーが、まだこんなにある。
そう思うと、自然と笑みがこぼれた。
そんな俺を助けてくれたのが、小田さんだった。
「大丈夫か?」
「いやあ、なかなか厳しいですね」
「そりゃそうだろ。俺も同じだよ」
小田さんは笑った。
「でも、お前と同じチームでやれるのは嬉しいな」
「え、俺のこと知ってたんですか?」
「そりゃ俺たちの世代でも有名だよ、お前と神は」
「ありがとうございます!
俺も同じチームで嬉しいです!」
これは本音だ。
まさか、小田さんと同じクラブでプレーする日が来るとは。
人生、何が起こるか分からない。
……まあ、俺の場合、人生を十回もやっているんだけどな。
それでも、こんな経験は初めてだ。
小田さんのパスは、本当に素晴らしかった。
ボールを受ける前から、次の展開が見えている。
相手の逆を取るタイミング。
味方を走らせるパス。
狭い場所でも慌てない技術。
見ているだけで勉強になる。
俺も負けていられない。
守備で信頼を勝ち取り、少しずつ出場機会を増やしていった。
最初は途中出場。
やがて、先発。
そして、気がつけば。
俺は、オランダの名門クラブでレギュラー争いをする選手になっていた。
まだまだ、満足はしていない。
だが、確実に前へ進んでいる。
◇
その年。
俺たちは、ワールドユースの舞台に立った。
世界中から集まった、同世代の強豪たち。
日本代表には、神もいる。
そして、俺もいる。
九回の人生で何度も見てきた大会。
だが、今回は違った。
俺は、ピッチの中にいる。
しかも、チームの中心として。
神との連携は、思っていた以上にうまくいった。
俺が後方からボールを運ぶ。
神が相手の守備の隙間へ走る。
そこへパスを出す。
神が受ける。
そして、相手を抜く。
……うん。
やっぱり、こいつは味方にすると最高だな。
敵に回したときの苦労が、嘘みたいだ。
神は次々とゴールを決めた。
俺も守備の中心として、相手の攻撃を食い止めた。
日本は勝ち進んだ。
グループリーグを突破。
決勝トーナメントでも強豪を撃破。
そして。
決勝戦。
世界の頂点を懸けた試合。
俺たちは、最後まで戦った。
だが、届かなかった。
準優勝。
かつての黄金世代に並ぶ、世界二位。
世界中が日本代表の健闘を称えてくれた。
だが、俺は悔しかった。
神も、悔しそうだった。
「あと少しだったね」
「ああ」
「次は勝ちたいな」
「そうだな」
俺は、神の肩を叩いた。
「次は、もっと大きな舞台で勝とうぜ」
神は笑った。
「もちろん!」
世界二位。
十分に誇れる結果だ。
だが。
世界には、まだ俺たちより強い選手がいる。
それが分かっただけでも、大きな収穫だった。
◇
それから、三年。
俺はオランダでプレーを続けた。
最初は苦労した守備も、少しずつ通用するようになった。
身体も強くなった。
判断の速さも磨かれた。
小田さんとは、何度も同じピッチに立った。
あの人から学んだことは、本当に多い。
そして、二〇〇四年。
アテネオリンピック。
俺は、四度目のアテネ五輪を迎えた。
……いや。
普通の人間なら、一生に一度しかない大会なんだけどな。
俺にとっては、四度目だ。
過去三回。
俺は、この大会で思うような結果を残せなかった。
だが、今回は違う。
神がいる。
そして。
オーバーエイジ枠で、小田さんも加わった。
小田さん。
神。
俺。
何だ、このメンバー。
ちょっと豪華すぎないか?
しかも、三人ともお互いのプレーをよく知っている。
小田さんとは、オランダで一緒にプレーしている。
神とは、中学時代からの付き合いだ。
これで連携が取れない方がおかしい。
もちろん、オリンピックは簡単な大会じゃなかった。
世界の強豪が相手だ。
苦しい試合もあった。
先制される試合もあった。
神が徹底的にマークされることもあった。
俺が相手の大型FWに苦しめられることもあった。
だが、俺たちは勝ち進んだ。
小田さんが中盤で試合を組み立てる。
俺が後方から攻撃を支える。
そして、神がゴールを奪う。
日本は、ついに準決勝まで進出した。
しかし。
そこで敗れた。
決勝には届かなかった。
悔しかった。
本当に悔しかった。
だが、まだ試合は残っている。
三位決定戦。
勝てば、銅メダル。
俺たちは、全力で戦った。
小田さんが、素晴らしいパスを通す。
神が、相手DFの背後へ走る。
ゴール。
そして、俺たちは最後まで守り切った。
試合終了。
日本、勝利。
銅メダル。
メキシコオリンピック以来の、快挙だった。
俺は、ピッチに座り込んだ。
疲れた。
本当に疲れた。
だが。
嬉しかった。
神が駆け寄ってくる。
「やったね!」
「ああ!」
小田さんも笑顔で近づいてきた。
「お前ら、よくやったな!」
「小田さんこそ!」
三人で抱き合った。
首にかけられた銅メダルは、ずっしりと重かった。
俺は、その重みを確かめながら思った。
九回の人生では、見られなかった景色だ。
今回は、確実に何かが違う。
俺は、少しずつ。
あの場所へ近づいている。
◇
二〇〇五年。
ドイツワールドカップの予選が続いていた。
日本代表は、苦戦していた。
思うように得点が奪えない。
守備も安定しない。
格下と見られていた相手にも、苦しい試合を強いられる。
日本中で、代表の戦い方について議論が起きていた。
監督のジエゴも、頭を悩ませていたらしい。
そんな中。
日本代表のメンバー発表が近づいていた。
俺は、オランダのクラブで練習を終えたところだった。
ロッカールームへ戻ると、スタッフに声をかけられた。
「おめでとう」
……ん?
何が?
俺は首をかしげた。
すると、スタッフが笑いながら言った。
「日本代表だよ。君が選ばれたんだ」
……は?
俺は、その場で固まった。
日本代表?
俺が?
A代表?
スタッフは、さらに続けた。
「神誠一郎も選ばれているそうだよ」
神も。
俺も。
日本代表に。
……。
……本当に?
俺は、何も言えなかった。
九回の人生。
俺は、ずっとこの場所を目指してきた。
小学生の頃から。
中学生になっても。
高校生になっても。
プロになってからも。
何度も、何度も。
日本代表に入りたかった。
日の丸を背負って、世界と戦いたかった。
だが、届かなかった。
あと少しのところまで行ったこともある。
まったく相手にされなかったこともある。
怪我をしたこともある。
調子を落としたこともある。
チームで結果を残しても、代表には呼ばれなかった。
何度も、悔しい思いをした。
そして、三十歳を迎えた。
また、届かなかった。
また、やり直し。
そんな人生を、九回も繰り返した。
だが。
今。
十回目の人生で。
ようやく。
俺は、日本代表に選ばれた。
……ああ。
そうか。
やっと。
やっと、ここまで来たんだ。
気づけば、涙が頬を伝っていた。
スタッフが驚いた顔をしている。
「大丈夫か?」
俺は、何とかうなずいた。
「……大丈夫です」
だが、涙は止まらなかった。
何度拭いても、次から次へとあふれてくる。
おいおい。
何だよ、これ。
俺は、こんなに泣く男だったか?
いや。
無理もないだろ。
何しろ。
二百年以上だぞ。
俺は、二百年以上、この瞬間を待っていたんだ。
◇
その日の午後。
所属クラブで、俺の日本代表初選出と小田さんの選出に関する記者会見が開かれることになった。
通常は選ばれたくらいでこんなのやらないのだが、注目度が高いということで緊急で開かれることになった。
日本からも、記者が詰めかけていた。
クラブとしても、注目している選手が選ばれたことを喜んでいるようだ。
会見場には、カメラが並んでいた。
小田さんも先に席に着き、記者たちも今か今かと待っている。
あとは、俺が登場するだけ。
だが。
開始予定時刻になっても、俺は出ていけなかった。
「すみませんね、彼、今号泣してて出てこれないんです」
後から聞いたのだが、小田さんがフォローしてくれたそうだ。
会場に笑いが起こったそうだ。
「日本人はクールなのかと思ったけど、情熱的な選手もいるんだね!」
と一人のオランダ人記者が言い、会場はさらに笑いが起こったそうだ。
十分経過するとしびれを切らしたクラブスタッフが俺を迎えに来た。
そのスタッフに引きずられるようにして会見場に入った。
クッソオランダ人め、体がでかいんだよ…
ただ泣いているのを隠すためにフードを深くかぶってうつ向いている。
そのせいか
「まるで犯人みたいだね」
と誰かが言ってさらに会場は笑いに包まれた。
くっそ覚えてろ…
気合で着席する、その際フードがとられる。
目が真っ赤に充血し、涙が頬を伝い、鼻水まで垂らしている俺の姿を見てさらにみんな爆笑する。
さらにこの瞬間を逃すまいとパシャパシャシャッターを切られている。
やめちくり~~~~
……くそ。
何て格好悪いんだ。
もっと、かっこよく登場するつもりだったのに。
こうサッカーボールの風船が割れると深紅のスーツを着た俺が出てくるみたいな。
でもみんなの笑い声で俺も笑えてきた。
泣き笑いだ。
ようやく泣き止んだのでクラブの広報担当者が、会見の開始を告げた。
最初の質問は、日本人記者からだった。
「日本代表への初選出、おめでとうございます。今のお気持ちを聞かせてください」
……来た。
当然の質問だ。
何度も想定していた。
嬉しいです。
光栄です。
チームのために頑張ります。
そんな答えを、頭の中では用意していた。
だが。
俺は、口を開いた。
「……本当に」
そこで、言葉が詰まった。
駄目だ。
また、来る。
「……本当に、長かったんです」
涙が、頬を伝った。
記者たちが、驚いた顔をしている。
そりゃそうだろう。
まだ二十代前半の選手が、日本代表に初選出されただけで、こんなに泣いているんだから。
普通なら、嬉し涙を少し流すくらいだ。
だが、俺は違う。
俺にとっては。
九回の人生。
二百年以上。
ずっと追い続けてきた夢なんだ。
「……何度も」
俺は、何とか言葉を続けた。
「何度も、諦めそうになりました」
会見場が、静まり返る。
「でも……諦めなくて、本当によかったです」
もう駄目だった。
涙が、止まらない。
俺は、ハンカチで顔を拭いた。
……おい。
誰か、助けてくれ。
このままだと、会見にならないぞ。
だが、記者たちは真剣な表情で待ってくれていた。
俺は、何度も深呼吸した。
そして、ようやく顔を上げた。
「日本代表に選んでいただいた以上、全力で頑張ります!」
「日本のために……」
「そして、人類のために……」
……ん?
あれ?
今、俺、何て言った?
だが、もう止まらなかった。
「死ぬ気で頑張ります!!」
会見場が、一瞬静かになった。
そして、記者の一人が首をかしげた。
「……人類のため、ですか?」
……しまった。
余計なことを言った。
いや、嘘じゃない。
俺にとっては、文字どおり人類のためなんだ。
だが、そんな事情を説明できるわけがない。
「え、ええ……まあ、その……」
俺は、必死に言葉を探した。
「世界中の人に勇気を与えられるようなプレーをしたい、という意味らしいです」
と小田さんがフォローしてくれた。
ありがてぇ
かなり大きな発言になってしまったが何とかごまかせたか?
記者たちは、うなずいている。
どうやら、納得してくれたらしい。
よかった。
本当に、よかった。
俺は、ようやく少し落ち着いた。
だが。
次の質問で、また涙が出た。
その次の質問でも、涙が出た。
小田さんはそのたびに笑いながらフォローしてくれた。
ほんと、この人ありがたいでぇ。
結局。
俺は、会見の間に何度も泣いた。
……もう、好きにしてくれ。
◇
この記者会見は、後に大きな話題となった。
日本代表初選出の若手選手が、会見に十分遅刻。
理由は、号泣しすぎて控室から出られなかったため。
会見中も、何度も涙を流す。
さらに。
『人類のために死ぬ気で頑張る』
という、何とも壮大なコメントまで飛び出した。
日本のスポーツニュースでも取り上げられた。
オランダの新聞や海外のニュースにも載った。
チームメイトたちには、散々からかわれた。
「人類のために頑張るんだって?」
「……おう、任せておけ。
人類の命運は俺にかかっているんだ」
と本当なのだがギャグのように返す。
「いやあ、頼もしいなあ。
ついでに祖国の内戦を何とかしてくれよ」
「ごめん、それは大統領とかに言って!」
小田さんも大笑いしていた。
そして、神からも連絡が来た。
「会見、見たよ!」
「……ああ」
「すごく泣いてたね!」
「言うな」
「でも、嬉しかったんだね」
「……まあな」
電話の向こうで、神が笑った。
「僕も嬉しいよ!」
俺は、思わず黙った。
神は、続けた。
「やっと、一緒にA代表でプレーできるね!」
……ああ。
そうだな。
ようやくだ。
俺たちは、あの約束を果たしたんだ。
「そうだな」
俺は、笑った。
「今度は、同じユニフォームで世界と戦おうぜ」
「もちろん!」
神の声は、いつもどおり明るかった。
俺は、電話を切ったあと、しばらく窓の外を眺めていた。
オランダの空は、どこまでも青かった。
九回の人生。
何度挑戦しても、届かなかった場所。
そこへ。
十回目の人生で、ようやくたどり着いた。
もちろん、これで終わりじゃない。
日本代表に選ばれただけだ。
まだ、試合には出ていない。
ワールドカップにも出ていない。
世界には、俺より優れた選手がいくらでもいる。
やるべきことは、山ほどある。
だが。
今だけは。
少しくらい、喜んでもいいだろう。
俺は、窓に映った自分の顔を見た。
目は、まだ少し赤かった。
……まったく。
何て顔だよ。
俺は、苦笑した。
そして、もう一度つぶやいた。
「やっと、ここまで来たな」
十回目の人生。
俺は、ようやく夢の舞台に立とうとしていた。
これにて本編完了です。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
明日のエピローグで完結です。
ほかにもサッカー小説を投稿しています。
この小説とはかなり読み味が違う作品ですが、よろしければご一読ください。
この街に、プロサッカークラブを。
~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~
https://ncode.syosetu.com/n2172mu/




